【文化祭1日目】俺が焼き鳥を焼く件について
今回は文化祭1日目の話です
今回の話は少し長めです
では、どうぞ
文化祭───普段はただ退屈な授業を受けるだけの俺達学生にとって年に1度盛り上がれる行事であり、人によってはそこから恋が始まったりする行事である。だが、文化祭を開催するまでの道のりは非常に困難だ。まず、出店と出し物を決めるという何とも面倒な作業がある。自己主張の激しいクラスでは男女で意見が割れ、朝のHRや帰りのHRでは決まらず、結局は期限ギリギリになってから決まったなんて事はよくある事だ。で、反対に自己主張をあまりしないクラスだと意見がなかなか出ずに決まらない。結果、期限ギリギリになるなんて事もよくある事だ。長々と話してしまったが、今日、俺の通う高校は文化祭であり、今日はその文化祭1日目。別に文化祭にこれと言った思い入れのない俺、藤堂遊は────────────
「なぁ、浩太」
「何だ?遊」
「俺達、何してんだろうな?」
「何って焼き鳥焼いてる。見れば解るだろ」
焼き鳥を焼いていた。そもそも、どうしてこうなったんだ?それはクラスの出店を何にするかを決めるところまで遡る
「文化祭の出し物を決めます!何か意見のある人はいますか?」
文化祭実行委員の男子生徒がクラスの連中に呼びかける。しかし、この時点では誰も手を挙げて発言しようとしなかった。高校生になって初めての文化祭。中学とは違い、みんな何をしていいかわからないと言った感じだ。
「文化祭の出し物って言われても何をしていいかわからないので去年何をやったかを教えてくださーい」
そう言ったのはクラスの中でもチャラ男に入る男、飯塚だ。見た目はチャラ男そのものなのに言ってることは的を射ている。もしかして高校デビューか?
「去年の出し物は具体的に出店は女装喫茶、メイドカフェ、執事喫茶等の喫茶店メインでした。で、演劇は……これはあまり言いたくありません」
去年の出店の例を出せ。飯塚はそう言った。で、返ってきた答えが女装喫茶、メイドカフェ、執事喫茶。どうして偏る?もっと他になかったのか?そして、演劇になった途端に口を閉ざした文化祭実行委員。心なしか顔が青いような気がするが、何があった?
「演劇はともかく、出店は完全に女子の趣味じゃないんですかー?」
これまた厳しい指摘をする飯塚。俺もそう思っていた。いや、メイドカフェは男子か
「女装喫茶と執事喫茶はそうですが、メイドカフェは男子の趣味です!!間違わないでください!!」
いやいや、否定するところはそこじゃないよね?もっと別にあるよね?
「………………」
この言葉を聞いた途端に黙り込んでしまった飯塚の顔は明らかにドン引きしている顔だった
「で、何か意見のある人はいませんか?」
飯塚を黙らせた文化祭実行委員の男子は再び意見を求めるが、去年の例を参考にしようとしても全くもって参考にならない。出てきた例が趣味全開のものじゃ参考にしようとも思わない
「はーい」
こういう事は『めんどくせー』で済ませる人種であろう飯塚が手を挙げた。何かいい案でもあるのか?
「はい、飯塚君」
誰も手を挙げず、この場では飯塚しか手を挙げてないから指名されるのは当たり前だが、飯塚よ、何かいい案でもあるのか?
「俺、ワイルドな男を目指してるんで焼き鳥屋をやりたいです!」
ワイルドな男と焼き鳥屋の因果関係が全くもって理解できない。ワイルド=炭火とかなのか?
「僕もワイルドな男を目指しています!いい意見ですね!とりあえず書いておきましょう!」
名も知らない文化祭実行委員の男子よ。ワイルドな男と焼き鳥屋の因果関係はどこにあるんだ?男子生徒が黒板に出た意見を書き、黒板に書かれた意見を文化祭実行委員の女子がノートにまとめる。まとめると言ってもただ書き写すだけ。で、当たり前だが女子から不満が出ないわけがなく
『髪に臭いが移るから却下!』
『アタシ等はワイルドな男目指してないからやりたくない!』
『汗かくの嫌!!』
などの不満が出た。全国の焼き鳥屋の店主さん達には失礼だが、焼き鳥屋の独特な臭いと言うのは炭火ほどではないが、付いたら簡単に取れるものじゃない。女子達の意見も解らんでもない。しかし、提案した飯塚はそれを簡単に黙らせる発言をしたのだ
「別に意見出してねー奴がとは言わねーけどよ。最近の男子は焼き鳥焼くくらいワイルドな女子を好むんだぜ?それに、この中に片思いしてる奴がいたら精一杯アピールできるチャンスだろーが!特に、接客とかで可愛いところを見せれば男なんてイチコロよ!」
飯塚が何を言っているか全くもって理解できないし、それで女子が納得するわけがない。この時の俺はそう思っていた。しかし──────────
「「「いいわね!焼き鳥屋!!」」」
納得してしまった。このクラスの女子連中は揃いも揃ってアホの子の集まりなのか?それはともかく、女子がアホの子の集まりだったとして、男子はどうなんだ?この中にはインドアだったり臭いを気にする奴だっているだろ?
「あー、ちなみに男子はこの機会に俺と一緒にワイルドな男を目指さないか?そうしたら女子にモテモテになるぜ?」
「「「いいな!焼き鳥屋!!」」」
このクラスの男子もアホが揃っていたようで、満場一致で俺達のクラスは焼き鳥屋に決定した。で、その後、文化祭実行委員の集まりで他の学年やクラスと被るんじゃないかと思っていたが、全くもって被らなかったので俺達のクラスはめでたく焼き鳥屋をする事が決定したのであった。
「俺達のクラスって飯塚1人に唆されるほどのアホしかいなかったんだな」
俺は焼き鳥を焼きながら自分のクラスにはアホしかいない事を心の底から嘆いた。異性関係になるとビックリするくらい単純な連中だ
「まぁ、教室で人目を憚らずに彼女とイチャイチャする敬って奴と早川って奴を見て自分も恋人が欲しい!って思っていたところに飯塚が追い打ちをかけた。飯塚の唆し方も上手いが、これに関しちゃ遊の責任も少しあるぞ」
最初に飛ばされた未来じゃ敬はチャラ男にジョブチェンジしており、早川は清楚系の女子になっていたし未来じゃ人前でイチャつく事なんてなかったからこの世界でも大丈夫だと思ってくっ付けた俺がバカだった
「言うな浩太。今死ぬほど後悔してるところだから」
俺が敬と早川をくっ付けなければこんな事にはならなかっただろう。くっ付ける時期を早まった。そんな後悔の念が俺を襲う。くっ付けるのなら高校卒業後にしとけばよかった
「俺は遊のお蔭で明美と付き合う事ができたから感謝してるが、敬と早川の事に関しちゃ時期を早めたなとしか言えないぞ?」
「言わないでくれ……」
俺と浩太はひたすら焼き鳥を焼きながら敬と早川の愚痴をこぼす。学校全体が文化祭一色で賑わっている中、俺と浩太は敬と早川の愚痴を話しながら焼き鳥を焼く。俺の高校初の文化祭はこれでいいのだろうか?
「っていうか、普段から料理をしている遊はともかく、どうして俺まで調理班なんだよ……」
「知るか。大体、焼き鳥を焼くだけなら誰だってできるだろうにどうして俺は調理班になってるのかすら謎なんだから」
焼き鳥を焼くのは誰だってできる。それを考えると別に俺じゃなくてもいい。だと言うのにどうして俺は調理班なんだ?焼き鳥だって串に刺さっているのをそのまま焼くだけだから特別な処理なんて必要ない。それに、塩コショウを振りかけるのだってタレをかけるのだって小学生でもできる事だ
「本当にどうしてこうなったんだろうな」
「本当にな……こういうのは言い出しっぺの飯塚が率先してやるべきだろ」
焼き鳥屋をやりたいと言い出した飯塚は看板プレートを持って宣伝に行ってしまった。残った男子は接客に回り、女子も同様に接客に行っている。で、そんな中、残ったのは俺と浩太と数名の男子と女子。女子は肉の解凍に、男子はそれを俺達の元へ届けに。という桃太郎よろしくな構図が出来上がってしまったわけなのだが……まぁ、いいか。接客より裏方の方が楽だし
「言い出しっぺがやらないのなんて今に始まった事じゃないだろ。俺としては面倒な接客よりも裏方で普段できない話をしてた方が楽っちゃ楽だ」
表じゃ熱血少年の浩太だが裏じゃ文学少年なコイツにとって接客なんて面倒な事この上ないようだ
「俺としては自分の家族や知り合いが来なければ接客でもいいと思っているが、まぁ、しんどさを考慮するなら裏方だな」
親父や母さんに見つかったら冷かされるのは目に見えてるし、それに、遊華達に見つかってみろ。何て言われるかなんて容易に想像がつく。きっと光のない目で浮気を疑われる。
「お前の場合は遊斗さん達に冷やかされるか遊華ちゃん達に浮気疑われて終わりだろ」
「その通りだが、そういうお前はどうなんだ?普段はウザったいくらい暑苦しい奴が実はモテるとか言いたいのか?あ?」
「…………………遊、言葉には気を付けろ。お前が今言った事はマジでシャレにならない」
焼き鳥を焼く手を止め、俺の肩をガッシリ掴んだ浩太の顔からは大量の汗が。これは長時間火の側にいた事による汗なのか、それとも、何かのトラウマを掘り返した汗なのかは定かではなかった。そんな時だった
「藤堂君、妹ちゃんとご両親が来てるけど。妹ちゃんのお友達と小山先輩達と一緒に」
クラスメイトの女子が遊華達が来ている事を知らせに来たのだった。遊華達には今日文化祭がある事は前もって伝えてあったが、出店の内容までは伝えていなかったのだが、俺が接客してないのを見てクラスメイトに頼んだ。こんなところだろう
「おう、すぐ行くわ。って事で浩太、悪いけど、ここ任せていいか?」
「ああ、逝ってこい」
何か“いく”の字が違っているような気がするのは気のせいだろうか?まぁ、何はともあれ浩太に任せていれば安心だ。そう思った俺は遊華達の元へと向かった
「あ、お兄ちゃん!こっちこっち!」
俺を見つけるや否や手を大きく振る遊華。そして、ニヤける親父と笑顔を浮かべる母さん。そして、これまた笑顔を浮かべている香月達。俺が聞いてた話じゃ遊華、親父、母さん、香月と美月、由紀と美優だと思っていたが、まさか葉月さん達まで来ているとは思わなかった。いや、香月と美月がいるからいてもおかしくはないんだけど。なんて考えながらも俺は遊華達の座っている席に向かう
「おう!来てたのか」
「当たり前でしょ!お兄ちゃんの学校の文化祭なんだから!」
「遊華さん?俺の通う学校であると同時に香月と美月の通う学校でもあるからね?」
「知ってるよ!ところで、お兄ちゃんのクラスは焼き鳥屋さんなんだね!」
「ああ。表の看板にそう書いてなかったか?」
一応、看板には焼き鳥屋というニュアンスの文字は入れてあったはずだ
「書いてあったけど、普段のお兄ちゃんからは想像ができなかったと言いますか……何と言いますか……」
遊華、言いたい事はよく解る。普段の俺は焼き鳥を焼くようなイメージじゃないもんな
「遊華の言いたい事はよく解るぞ。まぁ、なんだ……今度家で一から焼き鳥作ってみるか?」
「「「「「いいの!?」」」」」
「「「「その時は絶対呼んで!!」」」」
焼き鳥を一から作るとは言っても肉やネギを串に刺すくらいの簡単な事しかしない。が、何故かものすごい食いつきを見せる遊華達と親父達。こりゃ本当にやらないと怒るパターンだ。
「はいはい、やる時は言うからあんまり騒がないようにな」
俺はこの後、遊華達と少し話をし、交代の時間になったら連絡すると約束をしてから持ち場に戻った。そう言えば香月と美月のクラスじゃ何してるか聞いてなかったな
「遊、浩太、交代の時間だよ」
「あれ?もうそんな時間か……浩太、お前どうする?」
「俺はもちろん明美さんのクラスへ直行だ!!」
「だ、そうだ。俺は遊華達でも誘って適当にブラブラしてくるわ」
「うん、行ってらっしゃい」
浩太は交代の時間と知るや否や一目散に教室を出て明美さんのクラスに行ってしまった。で、俺は……自分のクラスの前で待ち構えていた遊華達と合流していた
「お兄ちゃん!やっと交代の時間になったね!」
「遊ちゃん!文化祭デートの時間だよ!」
「遊さん、エスコートよろしくお願いしますね」
「遊くん!チョコバナナ食べたい!」
「遊、たこ焼きも忘れないで」
遊華達と一緒に文化祭を回る事になったのだが、問題が1つある。それは……
「遊華達中学生組はいいとして、香月と美月はクラスの方を放っておいていいのか?」
香月と美月だ。この2人はクラスの方に顔を出さなくていいのか?
「わ、私と香月ちゃんはこの後の事もあるから出なくていいってクラスの子達に言われてるんだよ~」
「うん。だから、遊は気にせずに私達をエスコートすればいい」
この後の事が何かサッパリわからないが、本人達がそれでいいと言っているのならそれでいいか。
「了解。じゃあ、どこから行く?」
文化祭の出店と普通の店を比べるのは間違っている気がする。しかし、娯楽に関して言えば文化祭の出店よりもゲーセンの方が面白い。当たり前だが、規模が違う。が、それはほんの些細な事。彼女と文化祭でデートする事に意味がある。ゲーセンはいつでも行けるが、文化祭は年に1度きりなのだから
「はい!」
「はい、美優さん」
「チョコバナナ食べたい!」
俺はどこから行くって聞いたのに美優から返ってきた答えはチョコバナナ食いたい。これは校舎から出ろと。そういう解釈でいいのかな?
「美優は飲食か。他は?」
「はい」
「はい、香月」
「私はたこ焼きが食べたい」
だーかーら、俺はどこに行きたいかを聞いてるんだよ!食いたいものを聞いてるんじゃないの!まぁ、意見が出るだけマシだけどよ
「美優に続き香月も飲食ね。他は?」
遊華、美月、由紀のリクエストを聞いてみるも俺と一緒だったらどこでもいいと3人とも口を揃えて言ったので一先ず美優のリクエストから叶える事にした。その後は香月リクエストのたこ焼き。で、結局俺は自分のクラスに顔を出す以外では遊華達と文化祭デートを楽しみ、文化祭1日目を終えるのだった
今回は文化祭1日目の話でした
今日は平成最後という事で未来に関係しているこの作品を投稿させていただきました。新しい元号と関連しているのがこの作品しかなかったからなんですけど
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました