ポポの場合
今回は長いです。
長男のハシルンが生まれてちょうどまる二年が来ようとしていた12月の半ばのことです。
引っ越しなの?というくらいの大量の荷物を持って、娘のノンビリーが里帰りをしてきました。
今回はハシルンのお守りが必要なため、出産予定日の半月以上前から実家に帰ってくることにしたようです。
ばあばのラクーは、ハシルンが生まれた頃からたまに腹痛がありました。でもその頃は更年期に入りかけていて、今までとは違う生理不順も重なり、一か月のうち五分の四ぐらいの期間が酷い腹痛を抱えている状態でした。
(;´Д`)
ハシルンの出産後、1か月半ほど実家で産後を過ごしていたノンビリーたちが帰って行ったので、ラクーはやれやれと疲れた身体を横たえたのです。
しかし夕方になって今回のこの痛みは普段の生理痛の痛みではないということに気づきました。
ベッドから立ち上がれないほどの強烈な腹痛にみまわれたのです。
子宮内膜症が盲腸に入り込んだ盲腸炎でした。
盲腸の手術をした後、退院の前日に下血がありました。(詳しくは拙作「義母の植えた球根」に書いています)
ここから長い大腸がんとのお付き合いが始まります。
長女のノンビリーが二人目の出産準備の里帰りをしてきた頃には、大腸がん手術後の酷い状態はほぼ落ち着き、今まで通りの生活に戻ってきていました。
しかし一応ラクーはがん患者なのです。
大事なことなのでもう一回言っておきます。ラクーはがん患者だよーーーーーっ!
しかしのんびり屋のノンビリーは、いつもの生活に戻ったラクーはもう病人じゃないと思っているようでした。センセーに至っては、「お義母さんは変わらないから、あの診断は間違いだったんじゃないの?」と言っていました。(笑)
・・・がん患者なんだけどなぁ。
ただラクー本人もその時には自分が病気だということを忘れていたのでしょう。
初孫の可愛い可愛いハシルンと一緒に生活できるのが嬉しくて、保母さん時代を思い起こしながら全力でハシルンと遊んでいました。
すると・・・身体は正直ですね。疲れて寝込んでしまったのです。
ハシルンがいつも元気なばあばの変わり果てた姿にショックを受けた顔をしたのを見て、ばあばも始めから飛ばし過ぎたことを反省しました。
そして周りの家族もそれからは気を使って協力してくれるようになったのです。
その年の年末年始を大家族で賑やかに過ごし、赤ちゃんの予定日が来ても出産の気配はありません。
これはノンビリーのことですから想定内です。
しかしこの時、想定外の事が起こっていたのです。
お正月に、結婚して初めて二人で山陰へ里帰りをしていたムコーと次女のネムルーの新婚夫婦に問題発生です。
山陰の実家に行ったところ、ムコーのお母さんが熱を出して寝込まれていたそうです。それが後から判明したのですがインフルエンザでした。(;^ω^)
家に帰って来たネムルーは見事にインフルエンザに罹り、出産フォロー人員としては戦力外となってしまいました。
この時はまだ同居ではなく近くのアパートに住んでいたので、隔離の面では心配はなかったのです。しかし孫のハシルンが二人に懐いていたのでラクーにとっては痛い出来事でした。
そして追い打ちをかけるようにセンセーが学校でインフルエンザに罹ったのです。学級閉鎖から学校閉鎖に向かう職場環境だったようです。
・・・それは無理ないわ。
しかし週末ごとに、ハシルンとノンビリーのお守りを変わってくれていた人がいなくなったのです。ダンナーとラクーは緊張が続く状況で、息抜きも出来なくなりました。
二人で悲壮な決意を固めたのです。「死して屍拾うものなし」Σ( ̄ロ ̄lll)
なんとか自分たちは健康なままでいて、出産フォローをしなければなりませんっ。
12月の半ばからの禁酒状態が一か月になろうとしていました。
1月13日、ハシルンからはひいおばあちゃんになるララの命日の日のことです。
無事な出産を祈念して、ラクーとノンビリーはハシルンを連れてお墓にお参りしました。
その日の夜中、いえ翌日1月14日になったばかりの3時頃に、ぐっすり寝ていたラクーたちをノンビリーが起こしにやって来ました。
「お母さん~、なんか陣痛がきてるみたい。」
ラクーとダンナーは飛び起きました。
「え、いつからそんな状態になったの?!」
「たぶん夜の11時を過ぎた頃かなぁ。」
「まあ!早く言えばいいのにっ!」
「んー、まだ大丈夫みたいだったからぁ。」
本当にのんびりした娘です。
「ハシルンは寝てるから、このまま病院へ行くよ。起きてきたらお願いねー。」
ハシルンのことも考えて、ラクーが家にいて待機することになり、ダンナーがノンビリーを連れて病院へ行きました。
しかし二人が出かけてすぐに、ハシルンが目をこすりながら起きてきました。
お母さんが隣にいなかったので、何かおかしいと思ったのでしょう。ばあばんの部屋に来てじっと立ち尽くしているのです。
ラクーも寝ていなかったのですぐにハシルンに気が付きました。
「ハシルン、お母さんは赤ちゃんが産まれるから病院へ行ったからね。帰って来るまでばあばんとじいじと一緒に待っていようね。」
そう言って抱きしめましたが、不安そうな様子が変わりません。こういうのって虫の知らせと言うか、家族の中の緊張感を小さくても感じ取るんでしょうね。
「ばあばと一緒に寝る?」と言っても、「やだっ!」と拒絶して自分たちが泊まっていた部屋へ入ってドアを閉めてしまうのです。いくら言っても開けてくれません。
これにはショックを受けました。
「ハシルンはばあばんが大好きねぇ、お母さんより好きなんじゃないの?」
とノンビリーが焼きもちを焼くくらいラクーに懐いていたのです。
ハシルンは閉めたドアのすぐそばに立っている気配がします。
真っ暗な部屋の中で2歳になったばかりの子が、何かを受け入れたくなくて独りぼっちで立っている、と思うとラクーは泣きそうになりました。
しかし独りで置いておくわけにはいきません。
この時ほど子ども部屋の間取りを半オープンな感じに設計しておいて良かったと思ったことはありません。
ノンビリーは双子の妹たちが以前使っていた大きい方の部屋で生活していたのですが、この部屋へはノンビリーの元の部屋からも入れるようになっているのです。
ハシルンに怪我をさせてはいけないので、ラクーは違うドアから入ってハシルンの所へ行きました。
「ハシルン、お母さんは買い物に行った時みたいに、必ず帰って来るから。三回だけばあばとネンネしてたらもうお母さんは帰って来るよ。心配しなくてもいいからね。」
言葉を尽くして説明すると、ハシルンはやっと事情を呑み込んでくれました。
そこでハシルンとばあばは、ネムルーが嫁に行く時に置いていったシングルベッドに一緒に寝ることになりました。
ハシルンがもう一度眠り、ラクーもうとうとし始めていた時に、自宅の電話が鳴る音がしました。
ダンナーです。
「ノンビリーは部屋に落ち着いたから。待機も分娩も両方できる部屋らしいからこっちが落ち着かん。お母さんと変わった方がいいから一旦帰るわ。会社の仕事のこともあるし。」
どうやら娘がうんうん唸っていたり、助産婦さんに診察を受けているのをそばで見るのは、嫌なようです。仕方がないじいじですね。
「会社?!いくらなんでも今日は休んでよっ!ハシルンもいるし両方の面倒を私に一人で見ろというわけ?!」
「・・・・わかった。休む。」
本当に社畜なんだからっ。もう定年を過ぎてるんですけどね。(^_^;)
ダンナーはラクーの実家の80歳を過ぎたパパンとママンに手伝ってもらえばいいと思っていたようです。
なんて奴。何歳まで親のすねをかじるつもりなのでしょう。自分の娘のことなのにこの人任せ感、信じられません。
プリプリしていたラクーは、それでもハシルンとダンナーのために朝食を作ることにしました。
ちょっと早かったですが、こんな気分ではもう眠れないと思ったのです。
しばらくするとまた電話が鳴ります。
「もしもし?」
「お母さん~、ノンビリーだよ~。」
「どうしたの? あんた、陣痛は大丈夫?」
「んー、もう産まれたよー。」
「へっ?!・・・産まれたって、赤ちゃんが?!」
「うん。二人目だから早かったみたい。」
・・・・・・・・・・・・・。
早かったって、早すぎでしょう!!
ダンナーはまだ病院から帰ってきていません。もう少し我慢して病院にいたら、出産に間に合ったのに。
その後、家に帰って来たダンナーに赤ちゃんが産まれたことを伝えたら、間が抜けた顔をして驚いていました。安産だから良かったとはいえ、家族が誰もいない病院で独りで子どもを産むなんて不憫な子です。
本当に男って、頼りになりません。
病院はインフルエンザの院内感染を恐れて、風邪の症状のある人や兄弟などの子どものお見舞いを完全シャットアウトしていました。
ラクーとダンナーはハシルンを車に乗せて、駐車場で代わりバンコに守りをしながら、出産後のノンビリーとポポに会いに行きました。
ラクーがポポを始めて抱っこした時、ポポの顔を見ると高校生のお姉さん?がこちらをじっと見ていました。
「なんか顔がもう出来上がってるよね。看護士さんが『しっかりした顔の子だねぇ。』って感心してた。」
ノンビリーがそう言う通り、さっき生まれたはずなのに、もう大人の美人なお姉さんの顔になっているのです。
ポポはその後、ムコーやネッタ叔父さんたちに「うちの堀北真希ちゃん」と言われるようになるのです。
その美人なポポの気の強い性格は、どうみても亡くなったひいおばあちゃんのララに似ています。
出産の前日に一周忌のお墓参りに行ったので、取り憑かれたんでしょうかね? (笑)
そんな経緯もあって、じいじはポポにメロメロなのでした。
ノンビリーは二人目の経産婦で問題もないことから、三泊四日で退院してきました。病院へ迎えに行ってくれたのは、大阪から仕事を休んで駆けつけてきたヨムリンとインフルエンザが完全に治ったネムルーの双子のおばちゃんズです。
それから二日して、やっとぎりぎりインフルエンザの治ったセンセーがマスクをしてやって来ました。
今回、メールの写真だけを眺めてすっかり蚊帳の外だったお父さん。
久しぶりの家族との対面です。
その晩は曾孫のお祝いに駆け付けたパパンやママンも一緒に、皆で賑やかに「お七夜」のお祝いをしましたよ。
ラクー一家は家族が増えてもっと幸せになりました。
終わり良ければ総て良しですね。