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7.相手の好きなものを知るのは大切な事である


私はトーマと連絡先を交換していた。というのも、この間、彗さんの事をトーマと話した時にまぁ、自然な流れで話してしまっただけなのだ。それで、こう、連絡先を交換すると、スマホには相手の個人情報が電話帳に登録されるわけで。


誕生日、今日じゃないか。え、今日お家に行くって約束しちゃったけどトーマは大丈夫? お家でなんかしたりとかしないのかな? あ、でもお友達と外でご飯食べに行くかもしれないものね。え、でもそうすると私がトーマの家訪ねたら出るの彗さんだよね? それ超気まずくない?


やばい、どうしたらいいんだ。このまま古波家に行って良いものか。

うんうん悩んだ末、私はトーマに連絡を入れる事にする。メッセージを送信しようかとも思ったけど、そわそわして待つのも嫌なので電話をかけた。


「もしもし」

「トーマくんですか?」

「あぁ。どうした?」

「あの、今日、トーマくんは家にいるんでしょうか?」

「そのつもりだ。こちらも、家でやらなきゃならない事があるから」

「ほっ。じゃあ私がそちらに行く時も、いますね?」

「そのつもりだ。なにかあったのか?」

「ううん。違います、じゃあまた後でね」



通話を終了させると、手に汗びっしょりだった。とりあえずは大丈夫。彗さんと二人になる事は避けられた。


トーマの誕生日か。

昔、勇気を振り絞って彼に好きな物はなにかと尋ねた事がある。トーマはパスタが好きだと言っていた。あと、チーズケーキ。ケーキの中でもチーズケーキが好きだと言っていた。

よし。駅のところにある洋菓子店、あそこでケーキを買って行く事にしよう。あそこのケーキは絶品だ。既にケーキが準備してあっても、そこはご愛嬌という事で。


彗さんはなにが好きだろうか。あの人、甘いものが嫌いじゃないだろうか。私はまだ、あの人の事を詳しくは知らない。

身長が高くて、顔が整っていて、弟大好きオーラ出てて、赤い車を持っていて、優しくて、酷い人。

そんな事しか知らない。








「なんかお手伝いする事ある?」

「いや。あとは煮込むだけだし。座っててくれ」


トーマと彗さんのマンションにて。もう二度と来ないと思っていたのに。マンションに来てみれば、出迎えてくれたのはトーマだった。彗さんはどうやらまだ仕事のようで、トーマが食事の準備をしていた。

お誕生日なのに、自分で食事の準備してるの? そう尋ねれば、今日の食事当番は俺だ、と。ぶれないトーマに安心した。


「それよりケーキ、ありがとう。買いに行こうか迷っていたんだ」

「どういたしまして。せっかくの誕生日だからね」


彼にはチーズケーキ、彗さんにはガトーショコラを買ってきた。チーズケーキはトーマが好きなはずだし、ガトーショコラは私のおすすめだ。濃厚なショコラの香りが実に紅茶に合うのだ。私の分も買おうか迷ったが、このお誕生日会に参加して良いかもわからなかったので、ケーキは二つ分にしておく。


「トーマは覚えてないかもしれないけど、昔、私にチーズケーキが好きって言ってたから。チーズケーキを買ってみたのです」

「そうだったか。覚えてなくて悪い」

「……いえいえ。彗さんの分もあるから食べてね」


やはり彼は覚えていなかった。けれどケーキを嫌がっている雰囲気はないのでホッとする。良かった、買ってきた事は間違いではなかったようだ。


「そうだ。もうすぐ兄貴が帰って来るんだけど、あんたがここにいる事は言ってないから」

「え!? なんで!」

「言ったら兄貴が逃げ出すかもしれないと思ったから。ああ見えて、あの男はヘタレだから」


そう言うトーマは呆れたようにため息をついた。待ってよ、私がここにいるの知らないって事は、最悪、話を聞いてもらえない可能性もあるのでは?

あんな態度をした私の話はもう聞きたくないと拒否される可能性があるのでは?

そう思うと気が重くなってきた。あぁ、どうすればーー。


「あー、良い匂い。冬眞、今日はなに? ミートソース?」

「あ」


言ったそばからご帰宅、お兄様。

ばっちり目が合って、彗さんが目を丸くしていた。


「こ、こんばんは」

「……こんばんは」


彗さんのお顔が、怖くて見れません。

なんでこんな重い空気に……。辛すぎて思わず目を逸らす。あれか、私が悪いのか? いや私が悪いんだけど! でも、とにかく気まずいんだよ!


「おかえり兄貴。さっそくだけど、火の番頼んだ。俺は飲み物買ってくるから。日向も俺が帰ってくるまで待っててくれ。あと今日はビーフシチューだから」


しっかりと今日の夕飯を主張して、トーマは部屋から出て行った。この気まずい空気のまま放置だと?どうすれば良いのさ。



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