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6.ケンカの理由とは明確には分からないものである


私はどうしてあの兄弟とは上手くいかないのだろうか。トーマ然り、彗さん然り。でも凄く嫌だったんだ。私が欲しい物を自分の彼女にあげるって? 舐めてるのか私にくれよ、そう思わざる得なかった。理由はどうであれ、嫌な気持ちになってしまったのだから。そして、そんな酷い顔は見せられないと、彼を避けてしまったのは仕方がないと思って頂きたい。


「で。なんでいるのよ」

「それはこちらの台詞だ」


もう決して会わないと思っていた。ずいぶんと早い再会だったな。いつも通り、いつもの時間にいつもの場所で。トーマがそこに立っていた。


「どうしたの? 図書館は閉館のお時間です」

「わかっている。俺はあんたに用事があって来ただけだ」

「だろうと思ったけど。なに? 話はこの間ので終わりかと思っていたけど」


私がそう返せば、無表情なその顔で首を傾げた。


「なにを怒っている? 不機嫌なだけか?」

「君はもう少し気遣いとデリカシーを学びなさい」


悪気がある言葉ではないが、今の私にとって少しでも棘が見える言葉はタブーだ。両手を挙げて降参のポーズをとる。


「はいはい。君の言う通り。不機嫌ですよー。でも気にしないで、そういう日もあるだけだから」

「兄貴の様子がおかしい理由と何か関係があるのか?」


どストレートで来た。いや落ち着け私。聞き間違いかもしれない。


「ごめんなさい。良く聞こえなかったのでもう一度」

「兄貴が最近不機嫌かつ様子がおかしいのは、あんたとなにかあったからなのか?」



すみません、まったく聞き間違いじゃなかった。しかし、何故お兄さんが不機嫌なんだ。たしかに、あの日の私は態度が良くなかった。あんな態度、お兄さんが嫌な思いをするに決まっている。だけど。



「詳しい事はわからないが、兄貴があんな風になるのは滅多にない事だ。だから、あんたが関係しているのだと思った」

「何故?」

「それは兄貴があんたを少なからず気に入っているからだ」

「は?」

「俺は詳しい事は知らない。だが、気に入っているのは確かだと思う。兄貴となにがあった?」


純粋に真っ直ぐとした視線に射抜かれた。嘘をついている目じゃない。だけど気に入っているとはなんだ? 私、そんな気に入られる事したかな。


「……大した事じゃないんだよ。本当に。ただ、お兄さんの彼女さんへの誕生日プレゼントを買うのに付き合ってただけ」

「彼女へのプレゼント?」

「うん。それで、私がちょっと……その、変な態度をしてしまっただけ」

「兄貴もなにかしたんだろう。あいつは優しいが、それ故に人を傷つける事もある。現に、今のあんたがそうだ」



この弟は。鋭く的確に痛い所を突いてくる。あぁ、そうだよ。傷ついたんだ。私が欲しい物を彼女の誕生日プレゼントにした事に。嬉しそうな顔を、その人に見せるのでしょう? その人を喜ばせたいとそう思っての事なのでしょう?


優しいが私にとってこれほど酷な事はなかった。あれ、でもどうして私、酷だなんて思っているんだろう。

つらいだなんて、痛いだなんて、嫌だなんて。



「心配しなくていい。それは恐らく俺の誕生日プレゼントだ」

「……はい?」

「兄貴の恋愛事情はわからないが、その誕生日プレゼントの件は俺への可能性が高い」

「な、なぜに」

「もうすぐ俺の誕生日だからだ」

「いやでも。彼女かもしれないじゃん」

「それを直接言われたのか?」


直接? 言われた、だろうか。


「直接は……言われてない」

「そうだろう」

「でも、君の誕生日プレゼントだとも言われてない!」

「あぁ。だから、兄貴に会って直接聞いてみて欲しい」


トーマは私にそう言った。まさかそれを言うためだけに私に会いに来てくれたのだろうか。そう思い至った所で、ふと思う。

あぁ、そうか。この子は優しい子だった。わざわざこれを言うために、今日ここで、私の事を待っていてくれたのだ。


「トーマ」

「なんだ?」

「ごめんね。ありがとう」


その感謝と謝罪には多大な意味が含まれていたのだが、トーマはきっとその事には気付いてくれていない。トーマはそのまま、あぁ、と一言頷いただけだった。


「次の土曜日の夜は空いてるか?」

「え? うん。空いてるけど」

「ならその日、うちに来て。十九時に。場所覚えてる?」

「覚えてるけど、なんで? なんか用事?」

「あぁ。じゃあまた次の土曜日に」



トーマと約束をして、今日はその場で別れた。

というか、ちょっと待って。家に行くという事は、お兄さんと会ってしまうという事ではないだろうか。これは暗に彗さんと会う約束を取り付けられたのではないだろうか。知らずに泥沼に嵌っているような、そんな感覚に陥りながら不思議と嫌な気分ではなかった。


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