表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

2.再会とはなんの前触れもなくやってくるものだ


さてさて。

図書館で出会ったあの美形のお兄さん、あの日以来見かけていない。無事に本を借りられて弟さんに渡せてたら良いんだけど。洋書の本棚をちらりと見ても、やはりその影はなかった。思わずホッと力が抜ける。何故かって? あの人を見る度にトーマの事を思い出してしまうから。似ていない、はずだ。それなのに。


「すみません」

「はい?」

「この本を返却したいんだが」


声をかけられて、ハッと顔を上げれば二冊の本を差し出す男の子。男の人? まだ学生か? にしても随分なこれもまた美……。


「ん?」

「二冊返却ですね」


それを受け取り返却処理をして、いいですよーと言うがその学生(仮)はいまだに動かない。

学生(仮)は私の顔をじろじろ見ては、首を傾げている。どうした、なにがあった。私もつられて首を傾げると、学生(仮)がハッとしたような顔をして。


「仕事、何時に終わります?」

「はい?」

「貴女と話がしたい」


ゆうにゆっくり三秒は時間が経っただろう。あれ、この人なに言ってんだと所謂ジト目で彼を見やれば、待ってるから、と一言残し図書館を出て行った。待ってるからって、何処でだ。しかも何故待たれなければならない。ふと返却された二冊の本の題名を見れば、この間、私があの美形に教えた青春小説の題名だった。


待っているとは言われたが、仕事が終わるのはそれから三時間後なわけで。さすがにそりゃあ待ってないでしょと思わざる得ない。だって、私は彼の名前も知らないし、あっちも私の知り合いではないだろう。可能性としては、あの美形お兄さんの弟の可能性が高い。あの二冊の本、私が教えたものだった。偶然にしては出来すぎている。


しかし、何故、私を待つだなんて言ったんだろう。本の感想でも言いにきた? いや、それならあの場で一言二言言えば良いだけだし。ならば何用なのだろう。ただでさえ、あの美形お兄さんは、色んな事を思い出すから考えたくないのに。

私は職場を出ると誰もいない事を確認してため息をついた。やっぱり待ってないでしょ。一歩踏み出したその時。


「遅かったな」

「……えーと」


出た。どこから出たんだ。っていうか、やっぱり待ってた!?


「どうして、私を?」

「お前に会いに来た」

「えーと。本の感想ですか? なんだかわざわざすみません」

「なんの話だ?」

「あれ? 違いました?」


だったらこの人、何しに来たのだ。


「間違ってたらすみません。つい先日、貴方のお兄様らしき人が、高校生くらいが読むおすすめの本を私に尋ねて来たんです」

「……高校生」

「はい。それで私が本のご紹介を。貴方はえーと、美形なあの人の弟さんですか?」

「美形が俺の兄貴かわからないが、今日借りてた本は確かに兄貴から受け取った物だ」

「本、面白かったですか?」

「あぁ。俺はあの、ミステリーが混じってるヤツの方が面白かった」


私と趣味が同じと見た。この子は悪い子じゃない。そうだこの子、感想を言いに来たんじゃないと言っていたな。


「あの、私を訪ねて来た理由を聞いても良いでしょうか?」

「訪ねて来たわけじゃない。本を返しに来たんだ。そしたら、たまたまあんただったんだ」

「はぁ、つまりその、ナンパ?」

「なんっ、違う! そうじゃなくて!」


その子は顔を真っ赤にしてとても怒っていた。あちゃあ、怒らせてしまった。だって明確な理由を話さないから。自分がナンパに適した顔と性格だとは思ってないけどさ。

その子は、深く息を吐き出しその黒目がちな視線を私に向けた。


「お礼を言おうと思ったんだ。あと、あんたの話の男、聞いてる限りたぶん俺の兄貴だ。それについても礼を言う」

「やっぱりそうなのね」

「あと、懐かしくなったから」


彼はニコリともせずに真顔で言う。


「何年か前にあんたと公園で会ったことを思い出した。見た目、そんなに変わってないからおそらくそうだと思った」

「は、えーと」

「覚えてないか? かえる中央公園で会った。俺が高校生の時に」

「高校生……じゃなかったのね」

「なんだ?」

「なんでもないです。かえる中央公園? 何年か前?」


そんなの、あの苦い思い出しか蘇ってこない。でもこの顔、無表情、確かに。


「トーマだ。古波冬眞(こなみ とうま)。改めてよろしく」


まさかここに来て、こんな仕打ちが待っているとは思ってもいなかった。

トーマだ。あの日、四年前のあの日。無表情で会話をしていた。あのトーマだ。

何故だ。こんなはずじゃなかったのに。会いたいと思った日もあった。だけど、本当に再会したいとは望んでいなかった。だってどんな顔して会えばいいんだ。あんな事をしておいて。しかも何故そんな、なんでもなさそうな顔して私の前に立っているんだ。あの日の君の心を傷つけた女だぞ私は。



「人違いでは?」

「記憶力は悪くない方だと自負している。前に一度会ったら忘れない」

「そうですか。そうですね。でも、その。会ってお話する事も、そんなないですし。ーーさよなら!」


脱兎の如く逃げ出した。今なら草食動物の気持ちが分かる。とんでもない強者を目の前にしたら、弱者は逃げ出すしかないのよ。とほほ。


「待て!」

「きゃー! なんで追ってくるんですかー!」

「まだ話さなきゃならん事がある! 止まれ!」

「止まれと言われて止まる人はいません!」

「転ぶぞ!」

「転ばなっ!」


転ばないと言う言葉は呑み込まれた。なんでこんな所に段差。おかげで膝、絶対擦りむいてる。今日パンツスタイルで良かったけど、中で酷い事になってそう。


「言ったそばから、期待を裏切らない奴だ」

「期待をさせたいわけではありません」

「大丈夫か?」

「痛いですけど。大丈夫です」

「追いかけた事は悪かった。すまない、怖がらせるつもりはなかった」

「怖かったわけじゃないです。ただ」


気まずいだけなのだ。


「ただ?」

「いえいえ。あのでも本当に。お話したい事はわかりましたから。今度でも良いですか? 家帰って、傷も手当てしたいですし」

「そうか。それならうちに来ると良い」


うちくる? なんの誘いだ。うちって家か? 誰の。


「貴方の?」

「あぁ。兄貴も一緒に住んでるが、この時間ならまだ帰ってきてないかもしれない」

「それを私はどう受け取れば良いんですか」

「なんの話だ? あんたの家はここからどのくらいかかる?」

「えーと。ドアトゥドアで四十分くらい?」

「ならうちの方が近い。徒歩で行ける」


来い、と。半ば無理矢理、立たされて彼と彼のお兄さんの家にお邪魔する事となった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ