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3.森の中の休憩

 ある程度歩いたところで、野営することになった。

 単純に日が暮れてきたからだ。

 いくら魔法使いでも、夜の森を移動するのは危険だ。出来るだけ安全な場所で休んだ方がいい。

 野営自体も実習の予定にはあったので、僕達を置いていった連中も今頃似たような状況に置かれているだろう。

 

 シルヴィさんの先導で、僕達は白銀の森でもかなり古い場所に入っていた。

 周囲の木々は抱えきれないくらいの幹を持つ巨木になり、地面からうねるように根がつきだしている。

 どうやらシルヴィさんはここを野営の地点にと最初から目星をつけていたらしく、その辺の巨木を一つ一つ丁寧に見て回っていた


「あった。ちょっと待ってね」


 そんな言葉と共に、シルヴィさんは苔の生えたひときわ大きな木に手を触れた。


「シルヴィさん、何を……っ!」 


 見れば、シルヴィさんが手を触れた所から緑色の光が流れ出し、巨木全体が静かに光っていた。

 変化はそのすぐ後に起きた。

 巨木を中心に周囲の木々が動き出したのだ。まるで嵐のような葉と枝の擦れる音と、ぎりぎりというくぐもった轟音が響き渡る。

 しばらくすると、巨木の前に円形の地面が作り上げられていた。その場所を守るように周囲を巨木と根が囲っている。

 巨木に触れながら、シルヴィは優しく言った。


「ありがとう。私達を認めてくれて……」

「これが、魔女の魔法……?」

「違うわ。この樹はトレントの末裔なの。私はちょっとお願いしただけ。こんなの魔法の内にも入らない」


 嘘だ。こんなとんでもない現象、学園の授業じゃ教わったことが無い。

 やっぱり魔女は特別だ。何というか、根本的なところが違う。彼女の言う魔法とは、学問では習得できない、神秘的な何かだ。


「休まないの? ここの木々が私達を守ってくれるよ?」

「あ、休みましょう。野営の準備をしますね」


 学園の授業では何度か野営の実習がある。

 安全な結界の構築、見張りの順番の決め方。最初の授業では単純に野外に慣れておくのが目的だったりした。

 それらの経験もあって僕たちは手早く野営の準備が出来た。枯れ枝を拾って地面の上に火をおこし、手持ちの食料で簡単な夕食を作る。

 木の根を椅子代わりにして、焚き火を囲んで食事の時間だ。


「ごちそうさまでした。アイセス君、料理上手だね」


 食事を終えて、シルヴィさんはそう言った。

 料理を作ったの僕だ。保存食と調味料で作ったスープにパンなので別に褒められるようなものじゃないんだけれど。


「そうかな。故郷でたまにやるくらいだったけど。それに野営の料理に味なんて……」

「謙遜しないの。せっかく褒めたんだから、喜んでくれると嬉しいな」

「じゃあ、ここは素直に受け取っておきます」

「そうしときなさい」

「…………」


 いきなり話題が無くなってしまった。

 僕とシルヴィさんはこの授業以外での接点は殆どない。共通の話題なんて知らないし、変に踏み込んだことを聞くのも失礼な気がする。

 なにより、僕はあまり人と話すのが得意では無いのだ。

 焚き火を眺めるしかない。

 沈黙が気まずい。


「アイセス君、こんな時に女の子を楽しませる話題とかないの?」

「ちょっと持ち合わせが……」

「冗談よ。むしろ、君がこの状況でペラペラ喋り出したら驚くわ」

 

 苦笑しながら言うシルヴィさん。明らかに気を遣われている。ありがたいやら申しわけないやらだ。


「それは確かにそうかも。シルヴィさんは何か話題はないんですか?」

「そうねぇ。ちょうど君相手なら、あるといえばあるんだけど」

「なんです? せっかくだから話してくれると嬉しいですけど」

「そう? じゃ、ちょっと失礼して」


 いきなり立ち上がると、シルヴィさんが隣に座ってきた。

 それどころか、僕の顔面に向かって顔を近づけてきた。

 つまり、とてつもなく接近してきたのである。

 今はゆったりしたローブを着ているためわかりにくいが、シルヴィさんは小柄だけれど、非常に自己主張の強い体型をしている。近接戦闘などの授業では動きやすい格好をするのでその時に男子達の中で話題になったりした。

 そして今、シルヴィの急接近によって彼女の自己主張が密着していた。

 これは大変だ。


「キミからは、神秘の臭いがする」


 僕の目を覗き込みながらシルヴィさんは言った。

 その時、僕は気づいた。

 シルヴィさんの眼鏡の向こうの瞳がうっすら緑色を帯びていることに。


「シルヴィさん。目が……」

「そう、あなたと同じね。魔女だから色々と訳ありなの」


 一瞬だけ眼鏡を外して僕に瞳を見せてから、シルヴィさんは隣に座り直した。


「私のこの目はね。ある人から貰ったの。この目のおかげで、魔女としてやっていくだけの力を得ることができた」

「貰ったって……。でも、わざわざそんな」


 魔眼持ちは強い力を持つけれど、反面差別の対象にもなる。特殊というのは必ずしもいいことばかりじゃない。


「私には必要なことだったから。でも、アイセス君は違うのね」

「……僕のこの目は、生まれつきなんです。この目の正体は何なのか。この力で何をすればいいのか。その答えを知りたくて、学園に来ました」


 まあ、2年たってもわからないままですけど。


「そうだったの。ごめんなさい。私じゃその目の正体はわからないわ。強力な火の力を宿しているのは確かなんだけれど……」

「先生方もそう言ってました。在学中にわからなかったら、旅に出て魔女や賢者にでも会おうかなと思ってます」


 学園で先生に聞けばすぐにわかると思っていた魔眼の正体。それが以外とくせ者だとわかった時点で、僕は少し気長な計画を立て始めていた。


「……決めたわ」

「何をです?」

「アイセス君の目について調べてあげる。私、こう見えても魔女だから。物知りな知り合いは多いのよ」

「ほ、本当ですか! 是非お願いします」


 思ってもみない幸運だ。魔女の知り合いならかなり期待できる。


「そのためにも、ここを抜け出さないとね」

「はい。頑張りしょう」

「それとアイセス君。敬語はいいよ。私達、同級生でしょ」

「え、でも年齢……いてっ」


 いきなり杖で軽く叩かれた。


「乙女に年齢のことは聞かないの。とりわけ、魔女に年齢は禁句よ? 勉強になるでしょ」

「あ、すいません」


 くすくす笑いながら言うシルヴィさんだが、気配は笑っていなかった。怖い。


「だから敬語は……ま、いきなりは無理か」

「まあ、今後頑張ります」

「いいでしょう。しかし、本当にムカつくわよね。あいつら」


 どうやらこの話は終わりらしい。シルヴィさんは僕達を置いていった奴らのことを話し始めた。


「クメル達は何でああなんでしょうね。迷信に振り回されない良い貴族もいるんですけど」

「あいつらは迷信深い一族なんでしょ。全く、魔女や魔眼なんて珍しくないでしょうに」

「いや、どっちもこの学園内でも珍しいですけどね」

「そうかしら? ま、今までは面倒ごとは起こさない主義で通したけど、今回ので限界超えたわ。見つけたら殴る」

「な、殴るんですか?」


 いきなり魔女らしくない宣言をするなこの人。魔法で酷い目に遭わせるとかじゃなくて、直接的な行為とは。


「もちろん。拳でよ。こう見えて、体力には自信あるわ」

「そういえば、実技の授業も結構いい成績でしたね」


 授業風景を思い返す。シルヴィさんは魔法無しでも結構動けていた。今日だって森の中を歩いて疲れる様子すらない。魔女というのは意外とタフなんだろうか。


「それでね、殴った後にあいつの取り巻き共にも思い知らせてやろうと思うのよ」

「はは、まあ、気持ちはわかりますが、ほどほどに」


 その後、クメルにあったらどうしてやるかで(シルヴィさんが)盛り上がってから交代で眠った。

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