第17話「近づく日」
「近づく日」
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ボクは別に不器用ではない。レールガンやコイルガンといった、それなりに高度で繊細な操作を要する魔法を扱えるほどには器用だと自分でも思っている。
ただ、器用さと芸術的感覚は違うだけだ。
決してボクが不器用なわけじゃない。
誰に向かっていっているのかもわからない弁解を頭の中で繰り広げながらボクはまだ梅雨の名残残る演習場で試験対策を講じていた。
そう、梅雨が明けしばらくすれば本格的な夏に入る。学校と夏の二つのワードから連想されるのはやっぱり夏休みだろう。けれども、夏休みの前には幾人もの学生を泣かせる白い悪魔が――そう、テストが迫っているのだ。
とはいえ、学園のテストは学期末にペーパーテストと魔導試験、そして学生大会があるといった形で、中間テストなんてものはないので日本と比べれば幾らか楽ではある。
今日はそのうち、魔導試験の対策をリンネやゲルドとしているところだ。
魔導試験は魔力の扱いにどれほど習熟しているか、どれほどの魔導を操れるのかといった点をみられる試験で、要は実技テストである。大きく三つの種目に分かれていてそれぞれ威力試験、精度試験、自由試験だ。
威力試験はそのまま、どれだけ大きな力を出すことができるかを競う。ボクがレールガンを撃ち込んだ吸収壁のさらに分厚いものに各々が一番威力のだせる魔法ないし魔術を放っていく。
これに関しては準禁術であろうとも使用が限定的に認められていて、学生が出せる最大火力を学園側が認識する役割も含まれている。
精度試験。どれだけ魔力を精細に操作できるかを競う。魔導を放って、指定の的に当てることが求められるのだけど、これが最も三種の中で難しいとされている。
なぜなら、的が小さかったり、遠くに配置されていたりと単純に狙いをつけるのがしんどい上に、一部の的は射線上に障害物が置かれているのでそれを避けるような弾を放たないといけない。
これは上級生になればなるほど試験がいやらしくなり点を落とす学生が指数関数的に増えるそうだ。
自由試験は先生に魔導を使ったパフォーマンスを披露する試験だ。チームプレイも許されていて、各々が得意とする魔導で最高の演技を魅せる。
過去の例を幾つか挙げると、ある先輩は大きな氷柱を出現させ、それに別の氷片を当てて削っていくことで即興の氷でできたオブジェを作ってみせたらしい。削り出していく最中も氷が吹き荒れ非常に派手で目を引くものだったそうだ。その前の先輩は空中に種を蒔いて、それを地面に落ちるまでに休息成長させて伸びる蔦を操り、自由に動かせる植物人形を創造した上でそれに剣を持たせ、騎士志望の学生と斬り結ばせたなんて話もある。ただ派手なエフェクトを散らすだけの魔法を演出として、ダンスを踊ったチームもあったらしい。
要するにこの試験は、前者二つの試験では見れない学生の『個性』を評価しようというものだ。
ボクたちは今、その自由試験で何のパフォーマンスをするかを話している。
「私はもう決まってるわ」
リンネが胸を張って言うので――哀しいかな、無いものはいくら張ろうとも無い――何をするのか聞くと、どうやらダンスを踊るらしい。彼女は爆裂系の華々しい魔法が得意で運動神経もいいからきっと綺麗な踊りになるだろう。
「ふーむ、吾輩はどうしようか」
ゲルドと並んで悩む。ボクはそこまで運動神経があるわけでもなければ、魔法も威力試験で一番輝くもので、使い回せば二度ネタになってしまう。
「……うむ、吾輩は金属の像を削り出そうか」
数十分した頃にどうやらゲルドは決まったらしい。そうだね、彼は芸術センスに優れているからね、うん。ちくしょうめ……。
ボクは何をしようか。うーん、悩むなぁ……。
結局その日は日が暮れた後とぼとぼと寮に戻ることになった。
刻一刻と試験の日は迫っている。