第12話「実習室の説明もしよう」
第12話「実習室の説明もしよう」
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特別実習室。そこは一部の特異な授業で使うために様々な設備が整っている上、防護結界も学園の周囲に貼られているものより数段かたいものが張られている場所で、有事の際には学生を避難させる場所でもある。
そのため、室と名がついておきながら面積は体育館並みだ。
その体育館がいくつものブースに分けられて使われている。オタクの部類だったボクにはこれくらいしか思いつくものはないけど、想像してもらうならコミックマーケットだとか、同人誌の即売会だ。
ボクらがやって来たのはその数ある中の「火砲実験科」という、担任のアマギ先生が受け持っているブースだ。
火砲の名から分かる人も多いと思うけれどここは文字通り大砲について研究、実験を繰り返している。とはいえ、火薬を使うわけではない。爆発の魔導を主に使って飛ばされる金属の大きな弾――もちろんこれも魔導で生成され、中にはさらに特定の時限式の魔術を刻み込まれているものまである――は迫力満点だ。威力にも凄まじいものがあり、大昔の文献には一発の火砲が戦争を他国の滅亡により終結させた、みたいなものまであったくらいだ。
それだけ破壊力のある火砲を試すためにここの一部は「超圧力吸収壁」という、王国の技術を結集して造られた特殊な建材で囲まれている。そこへ向かって火砲を撃ち込むわけだ。おまけに吸収壁にはあたった攻撃の威力を数値化して返してくれる魔術が施されているので、その魔術が自動発動できないような、つまり周囲の魔力を全て根こそぎ使う魔術でも唱えない限りは自分の放った攻撃がどれだけ強いのかがしっかり比較しやすい形で返されるので、学生の間では密かに一撃の威力が競われている。おかげでこのブースは他のブースに比べて使用頻度が四倍は違うらしい。困ったものだ。
……とは言いつつもボクだってここに来たのはレールガンの威力を試すついでに現トップの記録を引きずり降ろしてお金を稼ぐためなんだけれども。
そう、ここで現在一位の記録を誇る先輩が相当な自信家で「俺の記録を抜けたら金貨五枚でもくれてやるよ」なんて発言をしたらしく、高威力ランカー達の間ではかなり燃えている話題だ。
その話にボクも乗っかり、こうしてレールガンを撃ちに来たこの手には「記録結晶」という名のビデオカメラがしっかりと握られている。
金貨五枚、日本円になおすなら五万円だ。学生にとっては大金である。そんな金をぽいと賭けに使える先輩はいったいどんな人物なんだという疑問が湧かないでもないけれど、そのお金はボクがもらう。
ちょっぴり邪な決意をかためてボクは吸収壁で囲まれた空間へと向きなおる。
中ポートに少しづつ圧力をかけ、金属の柱を生み出していく。それと並行して、使い慣れたポートにも魔力を流し込んで弾を形成していく。両方とも少しでも威力を上げるため電気抵抗の低い銀で作っていく。この極短時間なら硫化して電気抵抗が上がる心配もない。
やがて出来上がったのはボクの身長を超えるほどの長さをもった純銀のレール。しっかりと弾を挟んでいるのを確認したボクはまず心を落ち着ける。
すって、はいて。
すって、はいて。
すって、力を込めて。
放つ。一息に。
ボクの身体から一度に出せるだけの魔力が全て電気へと変わって駆け抜けていく。
いくら抵抗が低いといってもゼロじゃない。
馬鹿みたいに眩い閃光を撒き散らして表面を溶かしながら飛んだその先は――。
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暫くして目を開けたボクに映り込んできたのは先輩の数値のおよそ二十倍、実験用の火砲すらも超えた記録と、弾が中ほどまで埋まった吸収壁だった。