団体戦本線一戦目 VSネメア・ザ・アックス
遅くなってすいません!
さて、今は闘技大会三日目の朝です。
結局昨日は個人戦Dブロックまで行かず、先輩方の出番はありませんでした。
そして今日は、団体戦の本戦です!楽しみでもあり、ちょっと怖くもある、そんな気分です。
まずは本戦で組み分けが発表されるそうです。私たちは何番目でしょうか?場合によっては午前中は暇になるかもですね。
「おはよ〜はやいね〜」
「おはようございます、こい先輩、先輩も充分早いですよ?」
「んむ〜まだ眠い〜」
ふわぁっと大きくあくびをしながらもたれかかってくる先輩。先輩身長があるから覆いかぶさるようになっちゃって、若干怖いというか、威圧感があるんですよね。肌の色と下半身の触手も相まって。
「大丈夫ですか?」
あと目の前で揺れているものもすごいです。何でこんなに大きいんですか。喧嘩売ってるんですか。
「んむぅ〜だめ〜」
「まったく、しょうがないですねー……」
先輩に肩を貸して座れる場所を探します。幸い、まだ時間もありますし、仮眠でもしてもらいましょう。あ、丁度いいところにベンチが……っとと?
「くぅ……くぅー……」
先客さんですね……なんかとんでもない大きさのハンマーを抱きかかえてる小柄な女性がいます。
うーむ……困りました
「ん……すぅ……」
「え……先輩……?」
「……すぅ……」
なんということでしょう。まさか先輩まで寝てしまうとは。しかも私に、立ったまま凭れてです。
「仕方ないですね……」
起こしてしまうのも偲びないのでこのままにしておきましょう。
「くぅ……」「すぅ……」
「……」
なんでしょう、この……別に眠くはないのですが、流石にそばで立てられる寝息というのは、少しのんびりさせられると言いますか……試合に向けた緊張感とかが霧散してしまいますね。
「んんぅ……」
っとと、先輩が身じろぎした拍子に倒れそうに……って!?
「ちょ、先輩!触手、触手が!」
あろうことか、先輩の下半身の触手が絡みついて倒れまいとしてきます。というかすごい力ですね!
「んぅー……」
「んぅーじゃないです!わわ!ちょ、抱きつかないで……!」
抱き枕に抱きつくような感じで顔を抱きすくめられ、さらに触手でがっちり絡み取られ、満足に動くことも出来ずにベンチにもたれかかってしまいます。
「こ、こんな所誰かに……っ!?」
ふと、体をよじり、ベンチがわにへと顔を向けたら
「……じー」
「あ、えっあっ」
ベンチで寝ていた女の子がぱっちり目を開けてこちらを凝視していました。ついでに口でもじーっと言っています。
「……お、おっ、おはよう、ございます……?」
「……おはよぅ……ござ、ふあぁ……す……」
口を両手で抑えながらあくびを我慢している少女、かわいいですね……じゃなくて!
「先輩!見てます、見られてますから!」
「ぅー、あと五時間……」
「五分……ちょっと待ってください五時間!?」
必死になって体を揺さぶって起こそうとしますが、それが逆効果なのかより強く抱きしめられてしまいます。
「むぐっ!せ、せんふぁい!」
「……キマシタワー」
「ひがいまふよ!?」
とんでもないこと言いますねこの少女!私はノーマルです!
「ぐぅ……」
あー、これ完全に寝る体勢ですよ!?ブレアさん、ブレアさんは何処に……!
「くすくす……面白い」
くっ、このちびっ子、他人事だと笑っています……!というか、いくら朝早いと言っても、そろそろ人が来てもおかしくはないんですよ!
「……キマシじゃない?」
「もひろんでふ!」
「ふぅん……助ける?」
そりゃできれば助けて欲しいですけど!
「……えい」
「へ?」
すごく軽い調子、そう、ティッシュをつまんで、一枚とるような、そんな気軽い動き。
たったそれだけで、触手に絡め取られてしまっている私ごと持ち上げられてしまいます。
「む……案外強い……えい、えい」
「ふぐぉっ!」
ぶん、ぶん、っと、木の枝でも振るような調子で振り回されてしまいます。
流石にそんな勢いで振られては、先輩も目が覚めたようで、拘束が緩み、そして
「きゃうっ!」
「あ……ごめんなさい」
「いたた……あ、いえ、ええっと、ありがとうございます?」
「どーいたしまして。あ、これ、どうする?まだ眠そう」
「えっ……あー……もう、そのベンチに寝かせておいてください……私は疲れました……」
「ん、ほい」
大柄な先輩を片手でベンチに寝かし、ぴょんっとベンチから降り立った少女。傍らにはとても、そう、少女より、下手をすれば私より大きなハンマーを立てかけ、ググっと伸びをしています。
「んむ、ちょっと眠い。でも、仮眠できた。んー、まだ時間ある……素振りでもしとこ」
「あ、あの、本当にありがとうございました」
「いいよ。朝からいいもの見れた」
あ、ちょっとキモい笑顔です。具体的にはこい先輩を見る時の男性教師の笑顔です。ちょっと引いてしまいます。
「んむ、そだ、名前」
「はい?」
「とーる」
「えっと……あ、自己紹介ですね。私はコーデリアです。よろしくお願いします」
「よろしく、おねーちゃん」
お、おねーちゃん……とっても、いいですね。
「じゃ、行くね、また後でね」
「あ、はい、では」
なんだか、ぴょこぴょこという擬音の似合う感じの子ですね。
ん……?また後で……?
「おはよう、早いなー」
「あ、先輩、おはようございます」
「あれ、こひもいんの?って寝てるし……ったく……」
「あはは……」
それから一時間、軽く先輩と動きの確認をしながら、合間合間にホーネットさんとブレアさんが来て、合流したので会場へと向かいます。
「なん試合目かねー?最悪今日は暇だぞ」
「そうだねー、でも、ゆっくり観戦もしたいし、それもいいんじゃないかな?」
「うちはちゃちゃっと済ませて金稼ぎたいわ……金、金が足らんのや……」
「お前はいい加減、諦めるなとは言わんから口に出すのをやめろ……」
「やかてー」
「あー、ハイハイ、わかったからうざい、絡むな」
「いけずー」「いけず〜」
「こひはいい加減目ぇ覚ませ!」
「あいたぁっ」
なんてやってるうちに会場へ。本戦が始まるということで、心無しか観客の数が多いように感じます。
『あー、あー、てすてsうわなんだ君は!?ぐはぁっ!』
『あ、あー、んんっ!イヤー!どうも皆様!長らくお待たせいたしました!只今より闘技大会三日目、午前の部本戦の、トーナメント表の結果を発表したいと思いまーす!』
『いつもどーり司会はボク!クートと!』
『バンワースだ』
『はい、二人でやっていきたいと思いまーす!』
何やら悲鳴が聞こえた気もしますが気の所為みたいです。
『そしてなんとなんと!本戦、ということで、今日から解説役として特別なゲストをご招待してるよ!ささ、おふたりさん自己紹介をどうぞ!』
『イヤー、どうも、皆様初めましての方もお知り合いの方も、おはようございます!私、ジャーナリストの淀屋橋、と申します!今回はこのような席にご招待いただきありがとうございます!』
「……いやなにやってんのアイツ」
「ヨドヤバシ……?確か、ブレアさんを紹介してくださった方でしたよね。」
「う、うん。多分だけど、プレイヤーとしてじゃなくて、今日は現実《あっち》の仕事なんじゃないかな?」
「あっちの?」
「さっきも言ってたとおり、淀屋橋さんって、記者をやってて。ゲームの広報とかのお手伝いをしてるんだって。」
なるほど、そういう関係ですか
『それにもう一人!この方です!』
『みんなー!元気にしてるかーい?みんなの歌姫、アルトだよー!大会に出てるみんなも、応援のみんなも盛り上がって行こうね!』
ウォオーアルトチャーン!
『おぉ、すっごい元気な声が極一部から届いてるね!はい、というわけで!今回、本戦からは特別ゲストが混じった解説実況も行っていきたいと思いまーす!』
『今回のゲストはメディアでも活躍をしている二人に来てもらった。』
『淀屋橋くんはイケメンジャーナリストでメディアに顔出ししてからは有名に、アルトちゃんは言わずもがな、このゲーム、grand life onlineの主題歌を歌ってくれて、なおかつプレイもしてくれてるよ!それに二人共現在ゲーム内最高レベル!いやー嬉しいね!』
『こちらこそ、先程も言いましたようにお呼びいただき感謝です!大会参加こそ出来ていませんが、今日はしっかりと解説実況の方頑張らせていただきます!』
『アルトも頑張っちゃうよー!』
なるほど、つまりメディアによる広報戦略と、実質最高レベルのふたりに今回は自重してもらった、ということでしょうか。
「どーりで大会参加者にいないわけだ。アルトの方は知らんけど。っていうか誰だアルトって」
「最近人気上昇中のアイドルですよ。声優もやってたりと、結構有名ですよ?」
「知らん、興味無い。」
「ねねはそうだろうね〜。でも、いいなぁ〜わたしアルトちゃんのファンなんだ〜、サインもらえないかな?」
「さすがに無理とちゃうか?しかし、淀屋橋のやつ、あんな面白そうなことに……」
面白そうって……素人に実況解説って難易度高いのでは……
『さてっと、紹介はこんなところで、進行を進めていくよ!と言っても、予選の結果からトーナメントの割り振りをしたからその組み合わせを発表するだけなんだけどね!と、いうわけで!ここはみんなのアイドルアルトちゃんに発表してもらおうかな!』
『おぉ!?早速出番かな?読むよ読む読む読むよー!』
『気合十分だね!それじゃあこれを読み上げてね!』
『はーい!ええっとなになに……クートくん大好き!ってなにこれー!』
『あ、間違えたこっちこっち』
『全くもう……えー、それでは、トーナメントの組み合わせを発表しまーす!』
私たちはどのくらいで試合が回ってきますかね?第一試合とかは正直嫌ですね。
『第一試合、深緑の群狼対メネア・ザ・アックス!』
「……」
まさかのです。まあ決まってしまったものはしょうがないですけど……
『えー、ここで淀屋橋さん解説を!だそうですよ?』
『ふむ、チームの簡単な説明くらいしかできませんね。まずは深緑の群狼ですが、ワンパーティ分のメンバーが揃った少数チームです。βテスター上位でもあるメンバー二名を抱える未知数のチームでもあり、今回参加しているメンバーは盾、前衛、遊撃、後衛支援、回復、とバランスがかなりいいチームだと思います!』
『ふむふむなるほど!では対するメネア・ザ・アックスはどうでしょう?』
『そうですね、物理火力に特化したチームですね。大斧、ハンマー、メイス、大剣と、大きく威力の高い武器が目立つチームです。単純な火力であれば今大会でもトップクラスだと思われます!なお、ギルド設立も考えているらしくメンバーは十名ほど集まっているそうです!』
『おー、ロマン溢れた感じですね!さて、解説ありがとうございました!』
ふむ、火力が高い、となれば私の出番ですね。今回は盾を優先した立ち回りが重要になりそうです。
『……ですね!』
『ありがとうございました!いやーお二人共なれててこっちが色々言わなくてもいいから楽できちゃったよ!』
『そうだな』
『んではそろそろ第一試合を始めちゃおうと思うよ!参加チームは準備してね!』
最初の試合ということで緊張しますね。でも、せっかく本戦まできたんです。どうせなら優勝したいです。
先輩方も気合十分なご様子、とっても楽しみです。
「コーデリアを前に置くのはいつも通りだけど、今回はこひも前に出て、四人が前衛でやる。ブレアの負担が増えるけど、頑張ってくれ」
「う、うん!頑張る!」
「コーデリアは防御主体、こひとワタシで手数勝負、ホーネットは一撃叩けば離れてのヒットアンドアウェーで。食らえば負け、くらいに攻撃力が高いぞ相手」
「そないやばいん?」
「全身鎧が1発でとけてた」
「……そら、やばいなぁ」
一撃でとけるって……つまり、一回の攻撃でHP全損ってことですか?化け物ですか?
『えー、それでは第一試合!深緑の群狼対メネア・ザ・アックス!両チーム前に!』
解説席からクートくんの声が響きます。
淀屋橋さんが言っていたように、とっても大きな武器を持った人が5人……しかも1人は今朝にあったあの少女です。改めて見るとマンガのような武器と使い手の比率をしてます。ほとんど小柄な彼女が持つと頭二つ分くらい差がありますよ。
大斧を持った人が二人。1人はライオンさんで、もう一人は猫っぽい女性です。もしかしたらどっちもライオンなのかもです。
神官服の人はトゲトゲした球体のついたメイスと呼ばれるハンマーを、大柄な男性が身の丈と変わらない、幅広の大剣を肩に担いでいます。
『準備が出来たようですね!それでは試合、開始!』
合図とともに先輩方が走り出します。速度でねね先輩が勝っているのでこい先輩が出遅れて見えますが、間合いはむしろこい先輩の方が広いんです。
「《鞭術・首打ち》!」
急所を狙った一撃が飛びます。
「ふん!当たるかよ!」
ターゲットのライオン男さんは大きく避けることで鞭から逃れます。が
「《スラッシュ》!」
「がう!?はえぇな!」
「お前がおせーんだよ!」
一気に間合いを詰めた先輩が超近距離でアーツを繰り出し、短剣を振り、絶対に離れないと言わんばかりに接近戦を仕掛けます。
「く、ぐ、くそ!近すぎだ!」
「下手に離れると1発でやられそうだからな!おら!」
「レオ、援護いるかい!?」
「そっちは好きにやれ!って、前見ろ前!」
「しま!?く!」
「余所見はあかんなぁ?そら《掌波》!」
「がはぁ!?」
ホーネットさんが気を取られているネコ女さんに一撃を、さらにアーツも当ててすぐさま空へと退避します。
そして私は
「おねーちゃん。こー、こ、こ、ええっと」
「コーデリア、ですよ。今朝ぶりですね、トールちゃん」
「そう、コーデリアおねーちゃん。まさか対戦相手とは」
「私も驚きです。」
はい、トールちゃんと対峙しています。まずは挨拶をしてくれました。嬉しいです。でも名前は覚えてもらえてなかったようです。ちょっと残念です。
「ん、じゃ、早速」
ブォッ、と軽く振っただけなのにとても重い音がします。
「はい、行きますよ!」
盾を構え、ジリジリと距離を詰めます。
「おねーちゃん。」
「はい、なんでしょう?」
「防御力不足」
「へっ?」
グォン
先程の、軽い振りとは違い、全力らしい、上からの振り下ろし。
何故か、とてもゆっくりに感じられて
ハンマーの打撃部分がまず、盾にあたり、そして
気づけば視界が暗転していました。
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sidブレア
「え、あ?」
一撃、たった一回の攻撃で、メンバーの中でもいちばんの防御力を持ってたコーデリアちゃんがやられちゃった。
回復魔法をかける暇もなくやられちゃったら意味が無いよ。
「うっそやろ……」
ホーネットさんも驚いて思わず攻撃が止まっています。
ねねさんとこいさんの2人は攻撃をしてるけど、向こうは3人無傷で、こっちは開始してすぐにひとりやられちゃった。
「ん、ぼーっとしてたらダメだよ?」
「あかん!この……!」
「うーん、空を飛ばれちゃうと届かない……リッキー」
「おう、お前はあっちの手伝いに行ってくれ」
「あっ!」
「わるいが試合だからな」
「ぐぅ、きゃあ!?」
思わず、コーデリアちゃんを倒した女の子を目で追ってしまう。そんな隙を逃してくれるわけもなく、大きな剣で弾かれてしまう。
「回復はさせん」
「おらぁ!」
「ぬ……邪魔だな。ぬぉりゃ!」
「うぉ!?がはっ!」
「ふん……見た目通りか。防御は低いなら俺でも十分だ」
ダメだ、ホーネットさんがやられちゃう!
「ひ、《ヒール》!」
「げほっ、ぐ、さんきゅ!」
「ちっ、回復したか……だがまぁ」
ゴォォ!と、大きな剣が燃え上がる。
「俺の魔剣なら回復ごと焼き尽くす!」
「こなくそがぁ!」
特攻するホーネットさん。だけど……
「弱点かどうかは知らんが……無意味だ!」
ボォォオッ!と勢いよく燃え上がる炎がホーネットさんを包み、そのまま剣を振れば、ホーネットさんを焼き切り、さらに炎が私を包む。
「あああっ!ぐ、あぁ!」
熱い、痛い
回復、しないと……
「ひ……」
そしてそのまま私の視界が真っ暗になった。
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【saidねねねね!】
くっそ、ようやく1人やったってのに、気づけば残りふたり。相手は4人。これきついなんてもんじゃないぞ!
「こひ!大丈夫か!?」
「ん〜無理かな〜」
くそ!こひが無理なら私だって無理だっての!
「隙有りだぞおらぁ!」
「く、しまった!」
「ダメだよ!《サンドウォール》!」
「むだぁ!」
「へ、きゃあ!?」
くっそ、マジかよ!?壁ごとこひが切られた!?
「ちっ……くしょぉ!」
距離を
そう思って振り返ったら
「ごめんね」
一瞬で視界が暗転した
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「く……くそ、あー、まじかぁ!なんもできなかったぞ!」
「だね〜……あれは予想外だった」
私達は負けた。5人中3人が一撃をもらい死亡判定。残る2人もほぼ一方的にやられ、惨敗。
「くっそ、せめて武器がいつものやったらもうちょっと行けたのに!」
悔しそうに地面を叩き、顎をガチガチ鳴らすホーネット。こえぇよ。
「うぅ……何も出来なかったよ……」
泣きそうになって地面にのの字書いてるブレア。
「……」
そして黙りっぱなしのコーデリア。
みんな初めてのイベントってだけあって相当悔しいっぽい。
私も悔しいし。
こうして、私たちの団体戦本戦は幕を閉じた
今月中にイベント回を終わらせたいと思っています。




