午後の部 コーデリアVSドレッド VSヨルク
個人戦です。
さて、午前中の団体戦が終われば、午後からの個人戦です!
今日はAブロックの残りの試合とBブロックの試合ですので、私の番が回ってくるはずです。
相手はあのドレッドとかいうβテスターの人です。お姉ちゃんを攻撃した許せない相手です。
「むぅ……なんでしょう……今すぐにでも戦いたいような……」
いけないいけない……少々冷静さを欠いてしまいました。
しかし相手は一応とはいえβテスター、装備もいいものでしたし、侮るのは良くないですね。
とと、そんなことより今はこっちです。
「すいません、コーデリアですが」
……
ドタドタドタ
バァン!
「ヤァ!イラッシャイマセ!待ってたヨ!」
「あ、はい、宜しくお願いします。」
「コーデリアはcoolだネ!まァ、そこが君の魅力サ!オット、玄関先でじゃ失礼だネ!入って入って!」
「はい、お邪魔します。」
えー、このテンションの高い人は、私やねね先輩の武器を作ってくれた鍛冶師のMASAMUNEさんです。
JAPANに憧れるアメリカ人で、念願叶って日本に来たという、所謂フジヤマゲイシャハラキリを信じちゃった勘違い系の人です。
特に有名な刀匠である正宗に憧れ、リアルで刀を作っちゃったような本気で刀が好きな気のいいお兄さんです。
まあその後逮捕されそうになったそうですけど。
で、このゲームでは鍛冶師をやって自分好みの武具を作って売っている、というわけです。
自分で装備して戦わないんですか?と聞いてみたところ
「だって、芸術品で得体の知れないものを切るなんて出来っこないでしょ?」
と何言ってんだこいつといった顔で見られてしまいました。
……何言ってんだろうこの人。
そして、今回の闘技大会の個人戦にも参加しているライバルの一人でもあります。
で、今はその大会用の装備なんですが……
「なぜ"伊達政宗"なんでしょうか……」
そう、某婆娑羅な方々のアニメに出てきたあの独眼竜の格好をしているのです。
……イケメンで似合ってるのが腹立つ要素です。
で、そんなMASAMUNEさんのところに来た理由は、装備の耐久値回復の為です。
私でも回復できるのですが、盾の耐久値が減りすぎていて、鍜治のレベルが足りず、成功と失敗を繰り返してしまったので、できる人に頼もうということでここに来ました。
ついでにホーネットさんはなんとか頼みに行くと言って件のガントレット製作者のところへ行きました。
頑張って欲しいところです。
「それじゃあ早速直しちゃおうか!盾を出して。あ、ついでにアップグレードもしちゃう?」
アップグレードですか……いくらかによるところですね……
「うーん、あまり手持ちに余裕が無いので今回はパスします。」
「おや、そうかい?それは残念だ。まあ、修理はすぐに終わるからネ!」
そう言ってリペアをかけて盾を直していくMASAMUNEさん。みるみる耐久値が回復していきます。
ついでに剣と槍の修理もしてもらい、お礼を言って今度はカーティスさんの露店へと向かいます。
お、あれがカーティスさんの露店ですね。相変わらず表に鎧があってわかりやすいです。
「ん?お!嬢ちゃんじゃないか、どうしたんだい?」
「こんにちはカーティスさん。鎧の耐久値の回復をお願いしたくて」
「お、いいぞー!貸してみな。」
既に脱いでいた鎧をアイテムボックスから取り出してカーティスさんへと渡します。
「ふむ、ありゃ、結構削れてるねー。まあ、やりあったばっかりだもんな。よっと……ん、ほれ、これで大丈夫だよ。」
すごく早いです。MASAMUNEさんもですが、鍜治のレベル一体どれくらいなんでしょうか……
「ありがとうございます。これで個人戦も頑張れます。」
「そういや嬢ちゃんも出るのか、頑張りなよ!」
「私も、ということはカーティスさんも出るんですか?」
「おうよ、Fブロックでな。まぁ、相手が悪いから流石に勝てそうにないけどな。なんせ今戦闘技能系のレベル軒並み低いからな!鍛冶にばっかりかかり過ぎたぜ。」
「まあ、鍛冶師をやられているなら当然ではないでしょうか」
「いや、武器の方のMASAMUNEは戦闘のレベルもかなりのもんだからねぇ。あいつに負けるのは癪なんだよねぇ。」
「はあ、なるほど……?」
まあ、何かしらの因縁があるんでしょう。
「ま、こんな話はいいか、それより嬢ちゃん、鎧の改造とかはいいのかい?」
「いえ、手持ちが心許ないので……」
「そりゃ残念だねぇ。ま、今度は強化においでよ。素材持ち込みも受付解禁してるからね!」
素材持ち込み……なるほど、そうすれば代金も多少は浮くはずですね……ギルドにはいくつかそういう強化に向いた素材の情報も売っていましたよね?いや、そう言えば淀屋橋さんって、確か……
っと、そろそろ時間が
「はい、その時はぜひお願いします!それではそろそろ時間なので失礼しますね。」
「おう、頑張りなよ!」
カーティスさんの応援を受けて会場へと駆けていきます。
ふむ、残りのAブロックは……2組ですか。一時間かそこらで順番が回ってきそうですね。
ドレッド……βテスターさん、覚悟しててくださいね。
露店で買ったケーキやお菓子を頬張りつつ、順番を待ちます。
あ、このケーキ美味しい。また買いに行きましょう。
っと、いよいよですね。最後のAブロックの試合が終わりました。
代表者は……飛翔する蟹?変わったお名前ですね。
会場に降りて、盾を持ち、動きを確認します。
と、そんなことをしていれば降りてきました。
「ふん、てめえら全員ぶっ倒してやるぜ!」
「お久しぶりですね。ああでも先日も会いましたね。通報しましたが問題ありませんでした?」
「この……!肩掴んだくらいでセクハラとか言いやがって!これだから女はよ。まあいい、所詮雑魚は雑魚だ。俺の大剣でその盾ごとぶった斬ってやるぜ」
「その女を襲って返り討ちにあったくせによく言いますね。まあいいでしょう。私も姉を切られた恨みがあります。少々荒っぽくなるかもですが、ご理解の程を」
『両者準備はいいですね?では構えて!』
腰だめに盾を構え、盾の内側に体を隠し、そして剣を盾の取っ手に引っ掛けておきます。
対するテスターさん、大剣を肩に担いでニヤニヤしながらこっちを見てます。
……
「嘗められてますね」
なんでしょう。腹が立ちますね。
『それでは試合、始め!』
合図とともに走ってくるテスターさん。思ったより速いです。
「死ねやあああ!《ブレイクスラッシュ》!」
「そこです!《スタン・バッシュ》!」
「はっ?ぐべっ!?」
アーツの溜めのすきを狙い、盾を大きく突き出し、相手を昏倒させる《スタン・バッシュ》を繰り出します。
盾のアーツはカウンター系統が多く、それ故に、始動がかなり速いのが特徴です。
その結果が、この状況。
アーツが完成する前に決まるスタン攻撃でテスターさんは気絶。あるいは昏倒しました。
ここですかさず盾に隠しておいた剣を両手で持ち、上段から一気に斬り下ろします。
「でやああああああああ!」
アーツも何も無い、ただの斬り下ろし。それでも無防備な相手ならば十分ダメージを与えられます!
ザグッ
「っっっっ!?ぎぃああああ!?」
ダメージと衝撃によって気絶から解放されたテスターさん。しかし気が動転しているのか、武器を落としてしまいます。
いけませんね……こんなチャンス、もらってしまったら……
やるしかないじゃないですか。
相手が体勢を立て直す前に一気に間合いを詰め、剣を横から一気に振り抜きます。
遠心力の乗った切っ先がテスターさんの顔面を捉え、目元を深く抉ります。
「ぎっがっ!?」
不意に視界を奪われ、その上かなりの激痛。顔を押さえてよろめくテスターさん。
これで最後です。
剣を投擲し、槍を構え、そして
「いぃぃぃいいやあああああああ!!」
全力で踏み込み、槍でちょうどいい高さにある首を貫きます。
ぐしゃっと言う音と、何かが砕けるのを槍越しに感じ、ずるりと槍を抜き去れば、テスターさんがその場で光となって消えていきます。
『勝負あり!勝者、コーデリア!』
……勝った。
勝ちました。
終わってみると、すっごくあっけないです。というか、え、弱くないですか?
こんなものですか?
……なんか、腑に落ちません……
「おめでと〜」
「おめでとさん」
「おめでとうだよー」
「お疲れやなぁ」
「はい、ありがとうございます。お姉ちゃんの仇を取れました!」
「いや死んじゃいないから仇とはちょっと違うと思う。」
そういえばそうでした。やっぱり冷静じゃなかったんでしょうね。
「ま、消化試合は置いておいて」
あ、やっぱり先輩方から見てもあの試合……というより、βテスターさんは取るに足らない相手みたいですね。
「次の相手厄介だぞ。ヨルクだ。」
「え、もう決まったんですか!?」
「コーデリアとほとんど同じくらいじゃなかったか?」
「でも、相手はあのテスターほど弱くはなかったはずなんだけどね〜」
「相性かね?ヨルクは格闘でインファイトだからな。格闘は間合い詰められたら剣や魔法じゃ対処しづらいからなぁ」
「格闘、ですか……」
私の苦手なタイプですね。剣で対抗するか、槍で寄せ付けないか……
「格闘は防御無視の技があったりするから気をつけろよ。」
「はい、気をつけます。今回は、そうですね……槍で行きたいと思います。」
「ま、そこら辺は自分のスタイルで頑張れ。しっかし魔法が使えないから格闘か、極端だな。」
「え、魔法が使えないんですか?」
「ん〜とね〜、ヨルクっちは、機人族って言ってね、魔法が使えない代わりに、身体ステータスがかなり高くって、レベルアップとは別に、パーツを使って強化ができる種族なの〜」
「大概は剣や槍、あとはハンマーとか、重量武器に行く奴が多いな。あとは遠距離攻撃。機械だからか精密射撃が得意なんだ。」
「へぇ、あらためて、いろんな種族がいるんだね」
「まぁな。隠し種族や進化先も考えたら千や二千くらい種族があってもおかしくないんじゃないか?」
「そうですね……しかし、強化パーツですか……魔法が無い分、遠距離を警戒しなくていいのはありがたいでしょうか……」
それなら槍でなんとかなりそうですし。
それからしばらくして、試合の順番が回ってきました。やっぱりかなり回転率早いですね。この調子で六日間持つんでしょうか?
まあ、とりあえずは試合です。
「ふム、宜しくタノム。」
「あ、こちらこそ、よろしくお願いします。」
お互い会場に着くやいなやぺこっと頭を下げます。
ヨルクさんって、無表情……というか、仮面のせいで表情が読めなくて、声も平坦で何を考えてるか分からないせいでちょっと怖いんですよね……
「お互い、全力でヤリアオウ。」
「はい、こちらも、勝つ気で行かせてもらいます!」
互いに構えを取ります。
こちらは槍を構えているのに対し、ヨルクさんは手を真っ直ぐに伸ばし直立しています。そこからゆっくりと右足を前に出し、左手をまっすぐ前へと伸ばします。
なんか独特な構えですね。
『両者準備はいいですね?……それでは試合、始め!』
始まりと同時にかけだします。が、ヨルクさんは動く気配を見せません。
「ならば先手はいただきますよ!《ピアッシング》!」
高速で突きを放つアーツを使い、一気に間合いを詰め、同時に攻撃も仕掛けます。
「ハッ!」
「きゃっ!?」
突き出された高速の槍を、あろう事か素手で弾かれ、体が左に流れます。
「しまっ」
「テヤッ!」
そのまま一歩踏み込んだヨルクさんの左の手が顔めがけ突き出されます。
「あぶなっ!」
流れた勢いのまま転がって距離を取り、槍を構え直します。
「……」
ヨルクさんは、今度は右手を前に出した格好で静止してます。
カウンターが主体、なんでしょうか?かなり厄介なんですけど……というか、武器を素手で弾かれるとは思っていませんでした。
「それなら……!」
剣を抜き、投げつけます。
「っ!くっ!」
流石に投擲物はカウンターできないのか、思わずといった様子で避けるヨルクさん。
「そこです!」
一気に走り槍を突き出します。
「チィ!」
動作の途中ではカウンターは使えないのか避けに徹して間合いを詰めさせないヨルクさん。でも、私には魔法があるんですよ!
「《ファイヤーボール》!」
「クソっ!《闘掌破》!」
「なんと!」
槍でも見た、魔法を破壊するアーツですか!ファイヤーボールがかき消されてしまいました!
「私まだ使えないんですけどね、そういう技……!《ファイア・バレット》《アクア・バレット》《ウィンド・カッター》!」
三属性での連続魔法攻撃です!これなら……
「あアモウ……うざったい!」
「へっ?」
魔法がヨルクさんにあたるか、といったところで、何事かを呟くヨルクさん。
「《フォース・シールド》!」
「ま、まさか!どういうことですか!?」
「まァ、イロイロ、ワケありってヤツだヨ」
魔法が使えないはずのヨルクさんの前に無色の、ガラスみたいな壁ができて、魔法を防いでしまいました。一体どういう……
「流石にプレイヤーアイテニハ隠しながらじゃキツいね。さて……」
先程までとは違う、両の手を前に突き出した、映画で見かける、中国拳法?とかの構えっぽいです。
「第2ラウンドと行きましょうか」
「っ!?く、わわっ!」
気づいた時には目の前にヨルクさんの手刀が迫っており、とっさに避けるも、肩に掠ります。
ず……ぶしゃっ!
「うそ!?」
掠っただけだというのに、鎧の肩紐が切れ、胴鎧が剥がれかけてしまいます。
「オット、ゴメンね。壊す気じゃナカッタンダけど。」
急いで鎧を脱ぎますが、それでもスピードでは負けています。
「つぇい!」
大きく横薙ぎに槍を振るっても避けられ、振り終わりにはかなり距離を詰められてしまいます。
というか、瞬間移動かなにかかと思うくらいには速いです!これも魔法かスキルですか!?
「うーん、槍の扱いがナッテナイ。スポーツ経験があるっぽいけど、もうちょっと練習した方がイイよ」
「それはっ、わざわざ!ありがとう、ございます!」
手刀突きを避けて、避けて、避けて。
時折こちらも槍を振るうも、綺麗によけられてしまう。
手が出ないとはまさにこのことですね。こんな事なら剣を投げずに手元で使うべきでした。
「まあでも、強いとは思うよ?レベル差が大きいかな?」
なるほど、確かにレベルの差は有るでしょう。先程の魔法攻撃を防いだアーツにせよ、魔法にせよ、私の使うものよりは上位のものでしょう。
ステータスもおそらくかなり上。鎧が掠って壊れるということは、直撃していれば即死でしたでしょうし。おそらくは相当手加減されている、あるいは制限があるんでしょう。
「さてと……」
「でも」
「ん?」
「そう簡単には負けられません!《咆哮》ウォオオオオオオオオ!」
「っ!」
「隙ありいいいいいいい!」
槍を引き戻し、一気に突き出す。
「ぐっ、ごぼっ!」
焦りすぎて手元が狂ったか、あるいは麻痺したにも関わらず避けようとしたのか、中心は捉えきれず、脇腹を深く抉るにとどまってしまう。
「ははっ!お見事!」
そう叫んだヨルクさんは、傷を気にする様子もなく、すぐに体勢を整え、そして
「《五本貫手》!」
顔面へと手刀が迫り、そして
ぞぶ
ここで、視界と意識がぶつりと途切れました。
「うぅ、負けました……」
「どんまいどんまい。いやぁ、あれはやばい。躊躇なく目ん玉狙うとかあいつ正気じゃねーわ。」
「うぅ……想像するだけで顔が痛いよ……」
「あれはウチもキモが冷えたなぁ……」
「怖かったね〜、よしよし」
只今絶賛慰められております。
最後、顔に、というか、目を狙った急所攻撃で一撃で倒されてしまい、負けたと気づいた時には次の試合が始まっていました。
悔しい、という感情よりも先に、目に違和感を覚えてしまい、薄ら寒い気分を味わっていました。
今ではそんな感覚はないですが、これ、痛覚設定いじる前だったらどうなっていたんでしょうか……ゾッとしないです。
「ま、個人戦はこれでコーデリアはリタイアか、うーん、なかなかに厳しいねぇ。わかってはいたけど。」
「せやなぁ。ウチらも潰し合いになるかもやし、ままならんなぁ。」
「まあ、団体戦もあるからねぇ。そっちに今は集中かな?」
「そう、ですね。団体戦に向けて集中しないとですね。まあ、団体本戦まではまだ時間ありますし、少し落ち着いて観戦か、屋台巡りでもしてきます。」
「あ、じゃあ、わたしもご一緒していいかな?」
「はい、いいですよ、それじゃあ行きましょうか?」
「うん!」
「おう、行ってらっしゃい」
「いってらー」
先輩達に見送られながら露店へ向かいます。
……次の機会があるならば
絶対に、絶対に勝ちます!




