闘技大会 戦槍の騎士団VS食材発掘同好会
イベント難しいです……特に主人公が戦ってるわけでもない戦闘シーンが……なんでこんなイベントを……
「とりあえずは……今日は試合見学だな。」
「え、訓練とかしなくていいんですか?試合は明日ですし、簡単に狩りにでも行ってレベル上げを……」
「それも考えたんだけど。制限時間とか、1時間になってはいるけど、一時間ずーっと戦いっぱなしってのは少ないと思う。大概は試合時間全部を使うことはないだろう。」
「あ、なるほど。」
「それに、午後の個人戦に関してはトーナメントの割り振りもまだだ。狩りに行ってる間に発表されて、間に合わず不戦敗、なんてこともあり得る。」
「む、そういえばまだ発表されてませんでしたね……」
「だから今日は大人しく試合を見ておく。そんで、どんな感じか見ておくんだ。見るだけでも参考になるしな。」
「はい!」
「ほな、早速席取りに行こか?」
「そうだね、座れなくて立ち見は辛いもんね。」
「選手席とかあるかもね〜」
「どうだろうな?まあ、あった方が楽ではあるよな。」
そんな他愛もないお喋りをしていると、現実の時間で一時五分前になったのか、マイクのスイッチが入れられる。
『あー、あ、よしよし。えー、只今旅人の皆様の世界にて12時55分となりました!参加者となっていながらもこの場にいない方はこの時点で失格となります!』
周りを見る限り、誰かを呼んでたりなどは見受けられないので遅刻者はいないのでしょう。いいことなんですが、減ってくれればな、と少し期待していたので本当に少しだけ残念です。
『さあ、残すところ数分で闘技大会は開始されます!なお、サーバーを切り替えてからは時間が一度切り替わります!ゲーム時間で午前八時からのスタートです。そこから一時間ごと、休憩、準備込みで6時間を午前の部、そこから一時間の休憩をとって、午後3時から9時までの6時間を午後の部とします!まあ、だいたい5試合ずつできるようなイメージです!』
ふむ、ワンブロック分の試合回数を意識している……といったところでしょうか?早いところはレベル差によっては瞬殺、などもありえるかも知れませんね。
『おっと、ここで時間です!それではサーバーを切り替えます!5!4!3!2!1!』
一瞬、浮遊感のようなものを感じ、いつの間にか閉じていた目を開く。
「……特に変わったところはなさそうですが……?」
「いや、太陽の位置が変わってる。まあそれだけなんだけどね。」
『さあ、それじゃあ試合に参加しない皆は退いたどいたぁ!試合するパーティは五分の間に準備を済ませちゃって!カツカツだからチャチャッと行こう!まずはAブロックとBブロックの試合だよ!参加パーティは案内の人の誘導に従ってね!』
早速私達は席を取りに行きます。最も、参加者用の選手席があるのでそんなに問題はありませんが。
さて、この席だと、Bブロックが近いです。Bブロックは音子先輩曰く、「そんなに有名な奴はいない。できればAが見たかった。」
だそうです。
正直そういう知り合いはいないので全くわからないです。先輩2人はそういうのに詳しいので色々教えていただきながらの観戦となるでしょう。
「すごい熱気だね!なんだかもう今から緊張してきたよ!」
「はい、すごいですね……うぅ、圧がすごいです……」
「くかぁー……」
「寝てる!?」
ホーネットさんは既に寝ていました。いやいや、こんな中で寝れるって……
「お、始まるぞ。」
音子先輩の声に意識を闘技場の方へと向けます。
右手側のパーティは前衛が2人に、後衛が3人。プレイヤーでは初めて見ますが、弓を持った方がいます。
もう片方は少々偏りが見えますね。前衛と思われる人が4人、後衛一人を守るような形で陣形を組んでます。回復係なんでしょうかね?
試合結果としましては4人の厚い壁を超えることが出来ず攻めあぐねていた右手側のパーティの1人がじれたのか、深く攻め入りすぎて倒されてしまってからは一気に崩れてしまいました。
最後に残った後衛の方が降参宣言をして終わりです。時間は35分と、先輩が予想していたように時間いっぱいでは終わりませんでした。
「うーん、普通だなぁ……」
「普通だねぇ〜……」
普通、らしいです。実際、特にここが、というような場面はなかったように感じました。まあ、槍を使ってる人もいなかったため分からなかったというのもありますが。
次の試合も、その次の試合も特にすごいと感じることもうまいと感じる試合もありませんでした。
どの試合も一時間まるまる使うことはなく、かなりサクサク進んでいるように感じます。
実際、Bブロックの試合は既に七試合も終わっています。まだ十二時にもなってないのにすごいペースです。これなら、私たちの試合も早いこと回ってくるかもです。
「ん、ちょっと適当に食い物買ってくるわ。何かいる?」
「なんでもいいよ〜」
「あ、わたしも、なんでもいいよ!飲み物もほしい、かな?」
「あ、じゃあ私もついて行きます。」
「助かる。」
先輩と二人で連れ立って闘技場周辺で展開されている露天や屋台をめぐって色々な食べ物を買い漁っていきます。
しかしとんでもない活気ですね。プレイヤーなのかこの街の住人なのか区別がつかないほどですね。
「プレイヤーも増えて人が多い……酔いそう……」
「大丈夫ですか?お荷物お持ちしますよ?」
「いや、そんだけ持ってもらってるのにこれ以上持ってもらうの悪いし……というか買いすぎたなこれ。」
「アハハ……」
私たちの腕の中にはいっぱいのお菓子や串焼きなど、屋台で売ってあるようなものから謎肉系まで、本当に大量に買ってしまいました。これがお祭りの雰囲気というやつです。
決して可愛いと言われて気を許した訳ではありません。
席に戻ってくると、試合も佳境な様子で、お互い2人ほど脱落者が出ているようです。
そんな試合をチラ見しつつみんなで買ってきたものを食べていきます。
うーん、串焼き美味しいです。
「正直うちらで勝てると思う?」
「んー、二勝は固い。ディアブルフォートレスが厳しすぎるな。」
「そういえば言っていましたが、ディアブルフォートレスって、そんなに強いんですか?」
「強いな。β時代の最高防御力、ビヨンデッタってプレイヤーの作ろうとしてるギルド名だな。メンバーは今は知らないけど、このイベントに参加してるなら三人以上はいると思う。」
「最高防御力、ですか……」
「ああ、だけど防御力だけじゃない。物理よりのステータスで、防御力の自信があるゆえの捨て身の攻撃が目立つパワーアタッカーだ。」
「パワーアタッカーなんですね。てっきり防御を重視してカウンターや、他の方のサポートをするのかと。」
「びよっちは、超脳筋だからね〜。悪魔なのに魔法じゃなくて気功術なんかをとってたからね〜」
「うわぁ……脳筋エルフに近しいものを感じるよ……」
最高防御に加えてパワーアタッカーと言える攻撃力……防御……守りきれますかね……
しばし試合をそっちのけで脳内でスキルや動きをシミュレーションしていると、先輩から肩を叩かれました。
顔を上げると会場の方を指さして
「Bブロックが終わった。Dブロックが始まるから準備して。」
「あ、はい!」
色々不安ですが……ここまでくれば、あとはなるようになれ、です。
さて、Dブロックの第一試合ですが、戦槍の騎士団と食材発掘同好会からです。うーん、一槍使いとしては騎士団の戦い方が気になりますね。
「行くぞお前達!槍こそ最強だと知らしめるぞ!」
「うぉー!」「おおおおお!」「ふん!」「……」
騎士団のみなさんはやる気十分ですね。リーダーさんは大きなオーソドックスな槍、2人は短槍、1人はいわゆるランス、でしょうか?円錐状の大きな槍を突き出していますね。最後の1人は槍を突き立てて腕を組んでいます。
対する食材発掘同好会は武器は思い思いのモノみたいです。特徴的なのは、ナイフとフォークをかたどった双剣でしょうか?
うーん、見てる限りじゃ騎士団の皆さんが強そうなんですけど……どうなんですかね?
おあ、審判が出てきて確認してます。いよいよ開始ですね!
「さあ、みんな。」
お、同好会のリーダーさんがなにか準備してますね。
「料理の時間だよ!」
「「「「うぉおおおお!!!」」」」
「《フレイム・ピーラー》!」
「「《フレイム・ケージ》!!」」
「《スプラッシュ・ボム》!」
「《カッティング・エッジ》!」
「ぐぉおお!?」
「何!くそ!囲まれ……ぐああ!」
「いきなり魔法だと……!ちぃ!全員怯むな!」
「し、しかしこれは……!ぬぅっ!」
「ええい、むっ!甘いわ!でぇぇい!」
ぶぅぉおおん!ガギィッ!
「く、重い……!」
「短剣程度で受け止められると思うなよぉ!」
おぉぉ!凄いです!さっきのBブロックの人たちには申し訳ありませんが……レベルが違います!
まず先制で魔法を放った同好会の皆さんですが、素人目に見て、タイミングが完璧です。大技で視界を奪い、その影で同規模の拘束魔法。そして範囲外にいる相手に牽制の魔法を放ち、1番の実力者の隙をついてのアーツ。かなり場馴れしている様子です。
対する騎士団の皆さんですが、不意をつかれたこともあり、そこそこのダメージを受けた人が二名ほどいましたが、残りのメンバーはダメージを受けず捌ききっています。リーダーさんに至ってはアーツを通常攻撃で受けきってしまいました。一体どれだけの技量なのでしょうか?
あっと、あの腕組みしてた槍使いさんが一気に間合いを詰めて一人を取りに行きました。とにかく動きが鋭いです!
「あいつやるな……リーダーの方はそこそこ知ってたけど……隠し玉かな?」
音子先輩も知らない人らしいです。かなりの実力者なのは素人目にもわかります。下手をするとリーダー……騎士団なので団長さん?より上かも知れません。
「くっ、こいつ、早い!」
ターゲットにされた長剣使いさんはなんとか受けようとしますが全然動きについてこれず既にクリーンヒットを何度かもらっています。これはもう無理では……と思っていた時。
「《フロントバスター》!」
大きな斧を持った女性が腕組さんの横から思い切り振り下ろします。かなりの威力なのか地面がひび割れてます。
ただ、腕組さんは完璧なタイミングで距離をとっていますが。
あ、炎の檻が消えました。これで拘束されてた人たちが動き出しますね。
短槍の2人組はペアなのか同じタイミングで走り出して炎の檻を発動した二人組に突っ込んでいきます。
「うぉおお!《デュアルスパイク》!」
「《フレイム・ウォール》!きゃっ!」
「効かんわ!」
「でぇああ!《スパイラル・ランス》!」
「くっフレイム……ぐあぁっ!」
「遅い遅い!遅いぞ!」
魔法メインの構成なのか炎の檻を放ったペアが接近されると押されています。やっぱり魔法職は近接は苦手なんでしょうか?
……うちの後衛は掴みかかるし鞭打ってるんですけどね……
あ、団長さんが水魔法を放ったであろう斧使いのお姉さんに一気に詰めてます。さっきの短剣使いさんが見えないところを見るに、もう倒してしまったのでしょう。やっぱり強いです。
「ぐぅ!強いねあんた!」
「そっちこそ、俺の一撃を受け止めるとはやるなぁ!」
「余裕ぶっこくんじゃないよ!」
うーん、斧使いのお姉さんも決して弱くはないんでしょうけど……団長さんの方がやはり上手という印象ですね。
そういえば同好会のリーダーさんは……あ!今ちょうど円錐状の槍を持ってた人を倒していました。ナイフとフォークの双剣で流れるように切り裂いているのが少しだけ見えました。
「うーん、私より早いなあれ……」
なんとスピード重視の音子先輩よりも早いそうです。私たちのメンバーでは対処できないんじゃないでしょうか。不安になります。
と、気づけば短槍のペアが後衛ふたりを圧倒し、決めに行ってますね。
「これで!」
「止めだ!」
「「《スパイラル・スピアー》!!」」
「きゃああ!」
「ぐぅ―――あぁ!?」
同時に放たれた槍のスキルで後衛ふたりが貫かれ、光となっていきます。
「よっしゃあ!」
「槍こそ最強!」
「いやいや、気が緩み過ぎじゃない?」
「「なっ!?」」
「《ツイン・ファング・エッジ》」
「ぐ、な、なぁ!?」
「この、うぉおお!」
「当たんないよーだ!《カッティング・エッジ》!」
「くそがァー!」
「チクショー!」
同時に双剣で切り裂き、反撃を完璧にかわし、さらに狭い範囲のアーツでふたりを斬り捨てると言うなかなかに難易度の高いことをやってのけるリーダーさん。
同時に二人とか凄すぎじゃないでしょうか?
「うーん、不利だね……コート、ってああもう瀕死じゃん!回復する暇もない!」
腕組さんが長剣使いさんを長い間合いとその鋭い速度でもって危なげもなく倒してしまいました。これで騎士団、同好会共に2人ずつになりました。
最も斧使いのお姉さんは既に瀕死ですが。必死に攻撃を加えるも槍の間合いに四苦八苦しているようです。
「ちっ、セーリャ、ポーション!きゃ!」
「……速いな。……!」
「邪魔しないでよ!《ファイア・アロー》!」
「……ちっ!」
腕組さんが不意をつくもリーダーさんはさらっと避けてます。そのせいで味方にポーションを渡せませんでしたが。おまけに魔術で反撃もしてます。
そうこうしてるうちに斧使いのお姉さんが団長さんの槍に貫かれてしまいました。これで2対1となりました。
「うーん、こりゃきっついなぁ。」
「余裕じゃないか!俺の槍の前にはそんなチンケな武器は意味をなさんぞ!」
「……行くぞ」
「はぁ……嘗めんなよ?」
腕組さんがやはりスピードのある鋭い突きを放ちます。が、薄皮一枚程度ギリギリに避けて腕組さんの懐に飛び込んでしまいます。とてつもない反射神経です!
「な――――――」
「残り……一人!《ラピッド・ピアース》!」
「ぐぅっ……それは、槍の……」
「あちゃ、バレちゃったかー。ま、関係ないけどね。」
まさに一瞬の攻防でした!一瞬のうちに間合いを詰めた上にかなり速い突きで一瞬で急所を貫いてしまいました!
腕組さんもかなりの腕前だったはずですが、そこはやはりパーティのリーダーだったという訳です。
「リックを一瞬か……あいつ下手すりゃ俺より強いんだがな……」
「さーて、どっちにしろやばいのが残ったなぁ。やれるかな?」
「そう簡単にはやられんぞ?」
「こっちこそ!んじゃ先制で!《ダッシュ》!」
「直線的では槍の餌食だぞ!《ヘヴィ・ドライブ》!」
お互いが直線的な加速を見せます。かたや単純な速度を、かたや槍を前に出し貫く速度を。
ギャリィィッ!
甲高い金属音が鳴り響きます。
ぶつかる瞬間にスキルを切ったのか本当にギリギリで短剣を添えて受け流し、そのまますべらせた短剣で斬りかかっていくリーダーさん。
「……ワタシにゃできないな……なんて言うむちゃくちゃな……」
「うーん、わたしが短剣使ってたとしてもできないね〜」
先輩方もできないと言います。私も絶対に出来ません。
「甘いな。俺は見ての通り……金属鎧だぞ?」
ガギッという音とともにリーダーさんの体が止まります。
「ちっ、かったい……」
「ちなみに、俺は槍を自在に使いこなすぞ。こんな風にな!」
「うわっと!」
槍を引き戻す際に穂先を自身の方に向けて突き出します。さらに槍を短く持って近距離での突きも繰り出しています。
たまらず避けるリーダーさん。
ですがそれは悪手です。
「《アース・ドリル・ランス》!」
「げ!しm――――――」
『勝者、戦槍の騎士団!』
決着は団長さんの大技で決まりましたね……あれ、絶対に私じゃ防げないです。それくらいの威力です。
戦闘が終われば倒された皆さんも出てき、最後の挨拶をしています。
……とてもすごい試合でした。お互い接戦で、色々参考になりました。
「いよいよ、私たちの番、ですね。」
ボソリと呟いた言葉にみんなが頷きます。
「行くぞみんな。」
音子先輩の言葉に立ち上がり、会場へ向かいます。
………………………………………………………………ホーネットさんを忘れるところでした!起きてください!
もう、締まらないですね!
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