プロローグ
流行りにのっかった。後悔はしている……
grand life online
今流行りのVRMMOの最新作ソフトである。
徹底して課金システムを廃するため、異常なほどキャラクタークリエイトや初期設定にこだわり、種族や職業などを詰め込みまくった挙句、容量が異常なほど大きく、値段も一本五万円を超えるという後先考えてないとも取れるゲームである。
最初はやらかした感が強く、興味もほとんど持たれなかったが一度βテストが行われると一変、テスターが揃って良い評価をつけまくった。
曰く、グラフィックが今までのVRが落書きに見える
曰く、アンデットなんかのなりきりロールプレイなど、通常じゃ行えないプレイングが可能
曰く、設定が詳細すぎて指先から髪の先までが実在しているように感じる
等など、あまりにも現実に近い現実離れしたゲーム内容にβテスターが未公開情報をネットにあげたりしまくったお陰で一気に世間のゲーマー達の興味をかっさらっていった。
この私、影篠都子(かげしのみやこ)もその興味をかっさらわれたひとりである。
βテストこそ参加出来なかったが、友人2名がテスターをやっており、人1倍ゲームに、gloに興味を募らせていた。
テスターである友人2名は無条件でソフトを入手出来、なおかつテスター特典で引き継ぎが可能とのこと。そんなふたりに頼み込み、抽選を行ってもらい、家族にも抽選をしてもらった。
そしていよいよ、抽選結果が公開される日、家族揃い、そこに友人も含め、ネット公開される情報を目をさらにして確認していく。そして……
「そ、そう気を落とさないでよ、みやっち〜」
「そ、そうよ!一般公開が始まれば予約で手に入るかもしれないんだから!」
「そうだぞ都子、ゲームくらい、父さんが買ってやる、だから我慢しろ、な?」
「……」
「今日は美味しいものでも食べに行きましょ?ね?みやちゃん?」
「お、お姉ちゃん、わ、私のあげるから……」
「っ……ごめん……寝る……」
「「「「「……」」」」」
見事、抽選に当たっていた……妹が
「……うぅ……」
妹も私と同じで、gloをプレイしたくて仕方ないひとりだ。そんな妹に、自分は譲る、とまで言わせてしまった自分が情けない。
しょうがないとわかっていても、楽しみにしていた分余計に当たらなかったことがきつく、家族が当たったという事実が重くのしかかってくる。
「……プレイ、したかったなぁ……」
抽選公開は一般公開の10日前から始まる。
たかが10日、と思うかもうかもしれない。しかし、その10日で全然違うのだ。
第二陣よりも先にプレイ出来るというだけでなく、第一陣として、誰よりも先にゲームをする。ゲーマーにとって、これほど名誉なことは無い。
それだけ、このゲームに心が向いていたために、とてつもない悔しさとやるせなさが渦巻いている。
一時間ほどうじうじして、ちょっとだけ泣いたりして、疲れてしまったのかそのまま寝てしまったらしく、妹に出かけるよと声をかけられるまでぐっすりだった。
流石に目が覚めるともう吹っ切れて、一般公開から頑張ろう、と思えるようになっていた。
「お、お姉ちゃん……大丈夫?」
妹が不安げに、そして心配そうに声をかけてくる。務めて笑顔で
「もう大丈夫、さっきはごめんね?」
と答え、頭を撫でてあげる。
妹は安心したのか、気持ちよさげに顔をほころばせている。
「梢よりあとからのプレイになるけど、お姉ちゃん、一般公開から頑張るからね。」
「うん!その時は一緒に遊ぼうね!」
「ん、約束ね?先輩としてちゃんとお世話してね?」
と、しっかりと遊ぶ約束をしていく。
そうだよ、第二陣でも十分やっていける。あんなに魅力的なゲーム、いつから始めたって、面白いことには変わりないんだし!
気持ちも新たに、家族との食事に向かい、友人達にも謝罪の電話をして、その日の夜はぐっすりと寝た。
寝る前に、少しだけ悔しく思ってまたちょっと泣いたけど。
翌日、妹と連れ立って学校に向かう。途中、友人2名こと葉桜恋と風葉音子と出会う。
「おはよ〜みやっち〜」
「おっす、大丈夫か?」
「ん、大丈夫大丈夫、昨日はごめんね」
「梢ちゃんと仲直りできた〜?」
「ケンカしてたわけじゃ……まあ、大丈夫、かな。」
「よかったな梢、ねーちゃん機嫌良くなって。」
「はい!一般公開から一緒に遊んでくれる約束してくれました!それまで頑張ってゲームに慣れときます!」
「みやっちは第二陣から〜、頑張るって決めたんだ〜?」
「うん、ソフト手に入れるツテもないしね……まあ、あと二週間くらい待てるよ。」
「えらいぞ都子、そんな都子に飴ちゃんをやろう。」
こんな話をしながら、学校に着く。妹は学年が違うのでそこで別れ、友人たちと教室へ。
教室ではgloの話題もちらほらあり、若干悲しくなるも、その日は何事もなく終了。恋、音子と連れ立って教室を出て、gloの初期設定について話す。
「私は魔法職だな。風魔法とか使って空飛んでみたい!」
音子は魔法職希望、と。ふむふむ。
「わたしは〜、盾職か回復職がいいな〜。あー、でも〜、エルフとか選びたいし、回復かな〜?」
恋はエルフ希望なんだ。確かに似合ってるかも。
「2人はテスター時代はどんなキャラだったの?」
実際どういうキャラクリをしていたのか、そのへんを確認して決めたいと思っていたのでちょうどいい。
「わたしは〜、ヒューマンの盾職で、カウンタータイプの前衛だったよ〜。大盾でえいっ、て弾く感じの〜。」
「私はジャイアントで、職業は重剣士。スピード無い代わりにパワーとスタミナの2極キャラだったわ。まあ、初期で鍛冶もとってたから器用な重剣士っていう微妙な感じではあったけど。」
「二人共前衛だったんだ?他に誰かと組んでたの?」
「うん、1人だけ組んでたの〜。後衛で、魔法と弓の遠距離特化で、結構有名な人だったんだ〜。」
「近寄る前に戦闘終わらせてたりしてたなぁ。ほとんど固定砲台だったけど、弓を持ち替えるとと中近距離も意外とこなせてたな。まあ、攻撃特化だったから回復は恋任せだったけど。」
「盾職なのに回復?」
「えっとね〜、ウォールヒールって言ってね、盾の防御範囲内の味方を回復するスキルがあるの。防御力に比例して回復量が増減するの〜。」
「へぇ、色々あるんだね?」
こんな会話を続け、gloの情報を集めつつ、寄り道でアイスを食べたりして放課後を満喫していた。
そして、見つけてしまった。チェーン展開している大型スーパーの福引会だ。その福引会の1等……
1等 最新作ゲームソフト「grand life online」抽選引換券
の文字を。
三人で顔を見合わせ、福引内容を確認する。
「ちゃ、チャンスだよみやっち!こ、こんな機会ないよ!」
「そうだぞ都子、私らも協力するから、やろうぜ?」
「い、いいの?福引券、1500円以上の買い物でだよ……?」
申し訳なさげに二人を見るも、内心ではこのチャンスを逃したくないと思い、自分の財布の中身を計算していく。
ギリギリ2回……
二人に頼み、1回ずつやってもらう事に。スーパーで適当に買い物をし、券を手に入れ急いで会場へ。
まだある。ほっとしつつ、前に並ぶ5人のお客とガラガラを睨む。
1人目、参加賞
2人目、五等の夏野菜の詰め合わせ
3人目、参加賞
4人目、参加賞
5人目……
大きく鐘が鳴る。福引をしたおじいちゃんがびっくりしている。
「おめでとうございます!1等の最新作ゲームソフトの引換券です!」
目の前が真っ暗になるような錯覚にとらわれる。肩を落とし、泣かないよう唇をかんで、気持ちを落ち着かせる。大きくため息をつき、脱力する。
二人の友人が必死に慰めてくれている。でも、それすらも気にならなくなってしまっている。
いっそ清々しいほど何も考えず、ガラガラを二回回す。
どうせハズレだ。さっさとティッシュもらって帰ろう。
そう思い、参加賞に手を伸ばした時
「おお!おめでとうございます!出ました!特賞!豪華温泉旅行!3泊4日、ペアチケット!」
なんか当たったらしい、が、心底どうでもよかった。チケットとティッシュをもらい、離れて2人を待つ。
2人はティッシュをもってこっちに来た。チケット、二人にあげようかな?なんて考えていると、さっきのおじいちゃんもこっちに来ている。なんでだろう?
「みやっちみやっち!おじいちゃんがね、おじいちゃんがね!」
「落ち着け恋、えっとな。このおじいさんが、ゲームと温泉旅行、交換しないか、って言ってくれてな。」
……は?
い、今何と……
「嬢ちゃん、よかったら、このソフトの引換券と、温泉旅行、交換してくれんか?わしはゲームなんてせんからなぁ。」
「え、えっと……。い、いいんですか?お孫さんとかに……」
「孫はまだ小さいし、わしは久々に嫁さんと二人で旅行にでも、と思って参加しただけじゃからなあ。それに、このゲーム、欲しかったんじゃろう。ため息が聞こえてきよったからのう。」
う、聞かれてた。恥ずかしいんだけど……。
「え、あ、はい!こ、交換して頂けるのなら、ぜひ!」
「おお、そうかそうか!では、お願いするよ。」
そう言ってゲームの引換券を渡してくれるおじいさん。
慌てて受け取り、チケットを渡す。
何度も何度も、おじいちゃんが見えなくなるまで頭を下げる。少しの間ぼーっとしてたら2人からこれでもかというぐらい撫でられた。
二人にも頭を下げ、三人で急いで引換に向かう。
そしてついに
私はゲームを手に入れた!
誤字脱字等有りましたらご報告ください。