大森林の攻防 襲撃
今回は戦闘が多めです。あと、視点が変わります。
戦闘シーンはわかりづらいかも知れませんがご了承ください。
ピートくんが居るおかげか、中層の敵が一定距離から近づいてこなくなってしまった。流石にそれは問題だが、移動を優先するためにこのままで、という事になった。ただ、ピートくんには戦闘に参加しないでもらうことになったけど。
「それはそうですよ。鑑定してみればレベル40オーバーの魔怪蟲、この森の深層にいるクラスの中位魔獣の上位クラスか、上位魔獣の下位クラスの魔獣です。脅威度や危険度で言えば脅威度はC+で災害クラス。おまけに称号を持っているようですし、この中層ではまず間違いなく最強の魔獣です。ムカデ型の魔獣センチピートの正統進化であるギガス・センチピートは、センチピート、ビッグ・センチピート、ジャイアント・センチピート、そしてギガス・センチピートと三段階の進化種です。人族的にいえば、3度の職業ランクアップ、種族進化相当のレベルです。」
私たちよく勝てたな……運が良かった。まあ、弱点属性があったり、特殊な条件を満たした遭遇だったから勝てたんだけどね。最も条件がなんだったのかわかってないけど。
「クラスチェンジ3回って……β時代でもクラスチェンジは一回しかなかったし、そのクラスチェンジは第三の街でしかできないっていうのに……」
ねねねね!がブツブツ何か言ってるが、まあ、こればっかりはそういうイベントだったとしか言えない。
っと。
「えっと、1匹だけこっちに来てるね。蜂だね。」
「わかった。でもまあ、1匹なら正直問題にならないんだが……」
「あ、じゃあ、わたしに譲ってくれないかな?レベル上げにちょうどいいし。」
「オーケー、エンチャントとかこまめに使ってたら苦戦もなくなるだろ。」
「ありがとう!」
そう言って自身に幾つものエンチャントをかけ、呪文を詠唱するブレアさん。
今回の戦闘で初めて知ったけど、呪文をしっかりと「詠唱」すると、魔法の効果が上がるらしい。前衛職は発動だけだから詠唱しないらしい。しっかりと説明を読んでなかった……
もちろん、《アンデット・クリエイト》もしっかり呪文があった。なんでも設定で変えれるらしく、デフォルト設定は名称詠唱となっているらしい。これは街についたら詠唱ありにしとこう。
ちなみにこひこひは名称詠唱で行くそうだ。鞭もあるし回復補助はポーション類だから短い時間で手数を増やす方針らしい。それでいいのか後衛。
え、お前は後衛じゃ無いのになんで詠唱するんだ?ハハハ私は見ての通りの後衛職だよ。
そんなことを考えてるうちにエンチャントで攻撃力が上がったブレアさんは2発で蜂を撃破する。蜂は解体せず放置してるとピートくんが処理してくれるので敵も寄ってこない。ピートくん流石です。
「ピギュウゥゥ!」
さて、この中層だけど、歪な形をしているらしく、ここは中層でも表層に限りなく近く、飛び出した一部らしい。歪んだ円状の層が五つあり、それぞれ、最深層、深層、中層深部、中層表部、表層と分かれている。私たちのレベルだと中層深部ですら無理とのこと。どんだけレベルが高いんだよ……
「各階層にはボスがいて、縄張りを持っているんですが、表層と中層は何種類もの群れがあり、ボスの種類はかなり多いのです。私たちの行くルートは表層に住む魔獣の群れ……フレイム・ウルフの縄張りのすぐ外をかすめるので、ごく稀に戦闘になることがありますが、基本は中層に狩りに出ているので遭遇することは滅多にありません。」
「じゃあ、深層からは違うんですか?」
「深層は群れではなく個の強さが問われる場で、確認されたボスクラスの魔獣は6体いて、その6体が深層の半分を縄張りとして、お互いに牽制し合いながら暮らしているそうです。」
つまり、深層は6体の魔獣に実質支配されていると。
「じゃあ、最深層はどうなんですか?」
「最深層に行き、帰ってきた人物が過去にひとりとして存在しておらず、実際はもっと奥があるのでは、や、伝説の存在がいるのでは、などと言われていますね。ちなみに、エンシェントトレントは深層クラスの魔物ですが、おそらく6体の魔獣には敵わないでしょう。それくらい、強い魔獣たちがいます。」
まじか、あのお化け木たちでも深層の雑魚扱いなのか……
「まあ、これはあくまでこの森の森林部に対する評価で、幾つもある森に対して不釣り合いな場所や植生、外から見た広さよりもはるかに広い内部など、実際に調べられている場はかなり少ないので、本当は何百という階層に分かれていてもおかしくはないんですがね。」
スケールが違いすぎてなんとも言えないね……しかし、最深層はともかく、深層の6体の魔獣はいずれ仕留めてみたいな。まあ、まずは街に行くことが先だけど。
三十分ほど歩けば、中層を抜けて表層に戻ったらしい。教えられた木を見れば目印なのか、赤い布が巻いてある。本来なら入ってきた時にもこの目印の説明をするらしいが、忘れていたらしい。
「いやはや、面目ないですよ。これは案内料金を安くしないといけませんね。」
とアイロスさんが言うが、装備の回復とかしてもらってるし普通に支払うことに決まってるんだけど。
「さて、残りもあと僅かですが、移動優先、ということですので、念のため少し大きく回り込むように移動しましょう。狼の群れを避けていく方がモンスターに遭遇する確率は上がりますが、ピートくんがいるので大丈夫でしょう。」
「ギュイィ!」
任せろ!と言わんばかりに頭を出すピートくん。頼りにしてるよー
「そういえば、アイロスさんは案内が終わったらどうするんです?」
「私は、集落の連中と合流して帰ります。1組に1人ですから、人が少なすぎる時もありますが、そういう時は冒険者の皆さんに依頼をしたり、数日待つこともありますね。ここしばらくは人が増えたこともあって合流の方が早いでしょうが。」
「なるほど、それじゃあ、街についたらお別れかぁ」
「そうですね。集落に来てくださればおもてなしさせて頂きますよ?」
「そうだね。何も会えなくなるわけじゃないしね。その時はお土産持っていきますね!」
「ふふ、楽しみにしていますよ。」
表層に出たということもあり、かなり気が抜けてしまっているが、《生命感知》にも反応はないし、特に問題もないだろう。と私も気を抜いていた。
その時
「死ね」
確かに聞こえた、誰かの声。その声の一瞬後に、いきなりアイロスさんの背後に現れた人影。手には小振りのナイフが握られている。
まずい、とか、やばい、とか、そんなことを言う前に、思う前に、体が動いていた。
ナイフが振り下ろされる直前、アイロスさんの護衛をしている私はかなり近くにいたこともあり、一気に割って入った。
ざぐ、ズブリ
嫌な音がすぐ耳元でする。
首元が熱い。
体が動かないし、短剣がその柄の先まで肉にめり込んでるのが視界の端に映る。
でもまだHPは残ってる。
目の前の人物が驚いてるのがわかる。
なんか動きづらい。痺れているのだろう。麻痺かな?まあ、動かないと言っても完全じゃない。
「させないよ。」
驚愕でか、固まってしまった襲撃者に痺れる腕を伸ばし、服を掴み、逃がさないようにする。《握力強化》あってよかった。
「とりあえず、お前は終わりだよ。」
後ろから誰かが叫ぶ声が聞こえる。
駆け寄る足音が聞こえる。
剣の煌めきが、槍の唸りが、鞭のしなりが、魔法の詠唱が、感じられる。
「っ!くそ、はな「離すわけ無いじゃん。」うぉぉぉ!!」
剣が私の肩越しに相手の首元を、槍が体のすぐ横を通り相手の腹を、鞭が私ごと相手の頭を、光球が相手の顔めがけ飛んでいく。
「ギュアアアアアアアア!」
ピートくんも異常を察知したらしく、地面から飛び出し、相手の足を咬み切る。
ナイスだよピートくん。
その場面を見終えて。
目の前が真っ黒になった。
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はい、死に戻りです。初めての死に戻りってこんな感じなんだね。意識が一瞬途切れたよ。
「……ここは……あー、えっと」
「これはこれは、確かコカゲ様、でしたかな?」
「え、あ、はい、って、プテルさん?」
てことはゲデルの神殿?
「はい、どうやら神殿の登録をお忘れになっていたようで。」
「……あ、そうだった!」
各神殿の登録をしておかないとリスポーン地点は出身領の神殿に固定されるんだった。
「しかし、その様子ですと……死に戻り、でしたか?とにかく、ただならぬご様子ですが……」
「はい、ちょっと暗殺されまして。」
正確には庇ったから暗殺された訳では無いけど。
「なっ!?だ、大丈夫なのですか!?」
「え、ええっと、そういう加護があるんですよ。多分……」
「な、なるほど、異界の旅人たちにはそういう加護があると聞きましたね……しかし、だからと言って暗殺とは穏やかではありませんな……」
「今頃は仲間が仇をとってくれてるはずですよ。」
というかあれで逃げられてたら私死にぞんだから困る。
「……神殿に仕える身としては、仇討ち、というのもして欲しくないことではありますが、そうも言っていられませんからね……」
「まあ、殺すか、捕まえるかはここからじゃなんとも言えませんからね……とと、そろそろ仲間に連絡を入れないと……また転移、お願いしてもらってもいいですか?」
「もちろんですとも。我らゲデルの同胞に幸運のあらんことを。無理はなさらないように。」
「はい、ありがとうございます。」
深くお辞儀をして、スタトルの街へと転移する。
……
「……ふぅ。」
そそくさと神殿をあとにし、フレンドコールをかける。
「あ、もしもs『大丈夫かコカゲ!』……大丈夫だよ。それよりも、そっちはどうなった?アイロスさんは無事?」
『ああ無事だ!ついでに敵はボコボコにして捉えてある。あと一応所持品とか確認しとけ。多分奪われてるアイテムとかあるから。後、ゲーム内時間で三時間はデスペナがあるから下手に動くなよ!』
あ、デスペナの事もすっかり忘れてた。
デスペナルティは、経験値の一部ロスト、三時間のステータスのランダムに低下、所持金の一部ロストである。結構重い。
さらに今回はプレイヤーかNPCかわからないけど、キルされたことによって一部アイテムや所持金を持っていかれているはずだ。それに死霊たちの素材とかも壊れてる場合があるからね……
言われて慌てて確認する。経験値はわからないけど、所持金は2万ほど、アイテムは劣化mpポーションに薬草系、それとランクの低い素材がそこそこ無くなってる。ピートくん素材は減ってないね。
ステータスに関しては筋力、器用、速力、反応速度、集中力が四割減、生命力に至っては六割も減っている。これはかなり痛い。
このことを伝えると、襲撃者に出させているのか、かなり荒い口調でさっさとしろ、みたいな言葉が聞こえてくる。
間違ってコロコロしたりしないよね?
『とりあえず手持ち全部奪ったから後で分配しよう。で、だ。迎えに行きたいんだが、流石にデスペナもあるし、こっちも街にまだついてないし、何よりこいつに関しての情報がないからな……アイロスさんが狙われた理由とかも聞き出さなきゃだし。』
「んー、とりあえずそっちでやれそうならそっちでやっといて。私はデスペナの間適当にうろちょろしておくよ。靴作ってもらうの忘れてたりもしたし、装備の耐久値とかも見てもらうよ。」
『そうか……わかった、あ、でも、お前がいないと拠点が作れないからな、どっちにしろ今日は無理だけど、明日あたりには一気に移動するぞ。』
「わかったよ、それじゃあ集落まではどうにかするよ。ダメだった時も連絡するね。とりあえずはディレスさんとこに行ったりして今日は時間潰すね。」
『ん、わかった。それまではこいつから色々聞き出すよ。』
通信が切れる。
よかった、アイロスさんが無事で。しかしなんでアイロスさんを狙ったんだろう?実は重要なNPCだったとか?まあ、そのへんはプロにお任せしますか。
まずはディレスさんとこ行って靴作ってもらおう。
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【sideねねねね!】
油断した。
安全圏に戻ったことと、ピートくんが居ることもあって、かなり気が緩んでた。
アイロスさんを狙った理由はわからないけど、護衛としてついていたコカゲが、唯一反応して攻撃を体を張って防いだ。
その瞬間は見てないけど、音と、仕事をしなかった《気配察知》で、攻撃された後にようやく気がついた。こひこひもブレアも気づかなかったし、先頭を歩いていたコーデリアが気づくなんてのはまあ無理だ。
斥候失格だな、私。
毒が塗ってあったのか、コカゲはほとんど動かない。おそらく一撃の威力も高かったんだろう。十秒ももってなかったはずだ。
でも、コカゲの執念というか、とにかく、動かない体で襲ってきたやつを抑えていたお陰で逆に捉えることが出来た。
かなりレベルが高いらしく、首元を斬りつけたがとっさに肩で受けられ、ダメージはほとんど入らなかった。
コーデリアの槍とこひこひの鞭がヒットしたお陰でどうにか抑え込めた。ブレアのサポートもあったし負けはしないだろうとも思った。
まあ、そんなことがなくても、主人の危機にピートくんが、気づいて襲ってきたやつの脚を喰いちぎってくれたから、襲撃者は逃げることなんてできなかったが。
だけどコカゲが死んだ瞬間ピートくんも消えてしまった。本当にギリギリだったな。
「アイロスさん、無事か!?」
一瞬遅れて思い出し、アイロスさんを見る。コカゲが体を張って守ったんだ。しっかり守らないと。
「わ、私は、大丈夫です、が……」
ひどく取り乱してる。コカゲがさっきまでいた場所をじっと見てる。
「大丈夫だ、コカゲはプレイヤー……異界の旅人だ。完全に死にはしない。まだ生きてる。」
「そ、そうなのですか!よ、よかった……」
深く、深く息を吐いて胸をなでおろしている。とにかく、怪我一つ無いようでよかった。
「こひこひはそいつしっかり縛って逃がすな、コーデリアは周囲警戒。ブレアは念のためそいつを回復してくれ。最低限でいい。
「ん、わかった。」
「は、はい……」
「わ、わかったよ。《ヒール》……」
取り敢えずこれで死んだりはしないはず。逃げることも出来ないだろう。まあ、片足がないからなな。まず無理だろう。
「……くそ、しくじった……」
見たところプレイヤーじゃないな。NPCだな。《鑑定》で見ても名前すら見えない。相当レベルが高いな。
「アイロスさんはコーデリアの側に。私はコカゲに連絡を取る。」
「そう、ですね。ですが、それなら移動しながらがいいでしょう。私が警戒と先導に回ります。ですのでその男を、動かすためにコーデリアさんがいた方がいいかと。」
「……そうだな。よし、ブレアとアイロスさんが前、コーデリアとこひこひでそいつを頼む。すぐ済ませる。」
「はい!」
「……わかりました。」
「ん、ほら、立ちなさい。」
「くそ……ぐ、うぐ、離せっ!」
「そうはいかない。絶対に逃がさない。」
こひこひの暗黒面が出てるしまずこいつは逃げられないな。下手なことすれば死ぬよりもきついだろうな。
とにかく、私はコカゲに連絡だ。
『あ、もしもs「大丈夫かコカゲ!」……大丈夫だよ。それよりも、そっちはどうなった?アイロスさんは無事?』
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【side???】
「なっ!……まさか、やられるとは……」
結構強いやつっぽかったし、しょうがないか?むしろ、被害が1人で済んだ方を評価すべきか?
こっそりついてきて、こっそり覗いてたわけだけど、遠目で見てた私でも気づかなかった。相当隠密系のレベルが高いな。あの襲ってきたやつ。
「まあ多分、アイツがリーダーなんだろうからそれも当然かな?」
「余裕だな小娘。」
「あア、スマンスマン、少々気がそれていたヨ。ソレデ、何のようカナ?」
「何の用、じゃねーよ。いきなり目の前に現れて、ここは通さない、とか言ってたのはお前の方だろうが。」
そう言えばそうだった。
いやだって、明らかに今から襲いに行きますよって雰囲気だったからね。つい、ね。
「いヤ、失礼した。呼び止めたのハ単純だ。キミ達を捕らえるつもりなんだヨ。盗賊団の諸君。」
「ほう……ふざけた仮面のメスガキかと思えば……賞金稼ぎかなんかか?」
「まア、ソンナトコロだと思ってくれ。」
グローブの握り具合を確認しつつ、敵に向き直る。数は7人、規模は大きくないけど練度は高いね。厄介そうだ。
「えらく自信ありげだが、流石に一人では舐めすぎじゃないか?」
副リーダ的なポジションなんだろうけど、ちょっと頭悪いのかな?リーダーかもしくは一番出来るであろうやつはまだ戻ってきてないのに、すごく偉そうだ。
私たちが受けたのはここ、オリドシヘトス大森林に巣食う盗賊団の捕縛、または壊滅というクエストで、難易度でいえば1度目のクラスチェンジをしたプレイヤーが複数いるパーティが推奨されるレベル。冒険者ランクでいえばD位は必要だ。はっきり言って攻略組の中でもトップ陣を集めないといけないレベルだ。
まあ、私はクラスチェンジは済ませてるし、職業もちゃんと更新してる。
もう1人に至っては攻略トップとタメが張れる実力があるしね。
「ハァ……私がいつ、一人で来たと言った?」
「……やはり仲間がいるか!お仲間と挟撃でもしようってか?」
「イヤ……今回はまア、ワタシ一人でやるんだけどネ。」
これ試験だし。まあ、危なくなったら助けてくれるらしいから安心だけど。
「……やっぱり舐めてるじゃねーか!くそ、テメエらやるぞ!」
「おう」
「……」
返事をして武器を構えたやつと、杖や本を手に持つやつでわかれたな。
剣2、斧1、槍1、杖2、本1か……これに加えてさっきやられてた斥候が1、杖か本かはわからないけどどれかが回復と見ていいか。本命は長杖のやつ、次点で本。
リーダー格は斧、か。典型的な前衛、それもパワーアタッカー。一番厄介そうなのは……槍持ちだな。他と比べても隙が少ない。
多分斥候と槍持ちが最初で、扱い易い斧持ちをリーダー格にして操ってるんだろう。いざとなったら見捨てられるように。
次に厄介なのは後衛組。私は遠距離攻撃があんまり無いからな、チマチマやられると面倒だ。
「でりゃああ!《パワースラッシュ》!」
剣持ちの弱い方が切り込んでくるが……粗末すぎるな。囮か?
右足をさげ、半身になって剣を避ければそのまま右手を剣持ちの顎に添え、左腕で肘を押し上げ、顎を撃ち抜く。
ガチンッ!と歯がかち合う音とともにごぎりと鈍い音を立ててひっくり返る剣持ち。
それを見届ける間もなくすぐ横から横薙ぎに剣を振るう二人目の剣持ち。さらに後方では詠唱を始めている3人の後衛組。斧持ちは倒れた剣持ちに向かって罵声をとばしている。その脇から槍持ちが音もなく迫ってきているのがちらっと見える。
「二人目……」
横薙ぎの剣を手甲で受け流し、たたむ腕をそのままに肘を肩に押し当てる。そのまま足の間に足を差し込み、たたんだ腕を伸ばし相手の首に腕を押し付け、肩を掴む。
「ぐ、何を!」
叫ぶ剣持ちの体をそのまま押し込みながら、フリーな左腕で鳩尾あたりに貫手を放つ。
「ごふっ!」
肩を掴んでいる為離れることも出来ない剣持ちをそのまま盾代わりに挟むように立ち回る。
呪文の詠唱が終わったのか、火球と、それから少し遅れて火の矢が飛んでくる。
……回復は本の方、と。
「ぐわあああ!」
「なっ!」
剣持ちの背に命中する魔法に動揺する後衛組、本持ちが回復魔法を最初に倒れた剣持ちにかけているのが視界の端に映る。
「ぐ、く、ソがぁ!」
「黙レ。」
キレ気味に叫んでくる剣持ちを蹴り飛ばし、挙げた足の反動を利用しその場から飛び下がる。
ヒュオッ
「ちっ!」
槍持ちが鋭い突きを放ってくる。かなりやるな。
「ダが甘い。」
槍持ちの相手をバカ正直にやっても魔法のいい的だ。相手の突きに合わせて槍のすぐ横を抜けていく。
「行かせるかよ!」
「ぬっ!」
突き出した槍を手放し、裏拳の要領で殴りかかってくる。
「くっ、潔いいネ!」
徒手スキルを持っているのか結構出来る。
でもメインウェポンが無いからか一撃一撃の威力は弱い!
「っ!ちぃっ!」
とっさにその場から転がるように離れればすぐ側を熱い何かが通り過ぎていくのを感じる。
「ヤッパリ魔法は厄介だな。」
「はぁっ!」
っと、もう槍拾って攻めてくるか!やっぱりこいつかなり出来るな。
「《水手》!」
防御スキルで槍を往なすが、反撃に出る前には魔法が飛んできており防戦一方になってしまう。
「おいおい、あんなに自信満々に1人で、とか言ってたくせに苦戦してるじゃねーか。」
ニヤニヤと下品に笑いながら斧持ちが言う。
「お前はまだ攻撃すらシテナイ臆病者だがナ。」
「こ、コンのガキャァ!」
顔を真っ赤にして何事かを喚いているが気にしない。あの雑魚はすぐやれる。
「やるな、小娘!」
「ソッチこそ!」
槍を短く持ち直した槍持ちは棒術のようなコンパクトな突きや払いも織り交ぜ、手数を増やしてきた。
「……想像以上に、面倒、だ!」
相手は突きの際に腕を伸ばしきらないようにしており、腕を引き戻す行為を腕を曲げ、払いに繋げて隙を極力なくしてくる。
対するこちらは手甲に特製のグローブがあるとは言え徒手空拳。リーチに差がありすぎる。
「くっ……」
「どうした、さっきの威勢はどこに行った!」
強い払いをもろに防御させられバランスを崩してしまう。
「しまっ」
「そこぉっ!」
「ぐぅぅっ……!」
完璧なタイミングで利き腕の右腕を貫かれてしまう。さらに槍を手放したかと思えば、その槍を蹴りあげ、さらにダメージを与えてくる。
「ぎっ、ぐ、がああっ」
利き腕を潰されてしまったが、槍はこちら側に転がっている。せめてこいつだけでも倒さないと……
「イヤー!お見事です、試験はこれで合格ですよ!」
「……そう、か。」
不意に、場違いなお気楽な声が聞こえてくる。声の主に気を取られた槍持の注意がこちらから外れる。
「隙ありだ。」
「な、しまっ」
一瞬で背後を取り、首に左腕を回して締め上げる。徒手のスキルは私の方が上らしく、しばらくもがいていた槍持ちも、次第に力が抜けていき、完全に気を失う。
「いやはや、お見事ですね。あ、これ、回復ポーションと止血剤です。傷口にどうぞ。」
と言って差し出される布と薬。ありがたく受け取り治療する。
「……アレで合格でイイノカ?」
「はい、もちろんですよ。今回は数の差も有りましたからねー。私的には剣2人を倒し、槍を抑えた時点で合格をあげるつもりでしたし。」
「……ナラ、もっと早く合格と言ってくれればヨカッタのに……」
仮面を外し、汗を拭いつつ相手を睨む。
「イヤー、かなり集中されていましたからね。それにあのタイミングで気が散っていれば危なかったと思ったので、こっそりとほかの方々を無力化しておりました。」
「……まあ、確かにそうだな……」
傷の具合を見つつ右腕を動かして、問題ないことを確認する。
「よし、戦闘には支障はないな。」
「そうですか、それでは、この方達を運び出す手伝いをお願いしていいですか?」
「もちろんだ。というか、連れていかないと報酬がもらえない。」
準備がいいことに、大きめの檻が乗った馬車まで用意されており、そこに詰め込み、あとは馬車で第三の街、サーデスへと向かうだけだ。
「ひいふう……おや?もう一人はどこでしょう?」
「ああ、それなら、他のパーティーに仕掛けて返り討ちにあってた。多分今から行けば、馬車なら追いつくよ。」
「では、事情を話して合流しましょうか。報酬の分配がどうなるか気になりますが、まあ、相談して決めましょうか。」
「ああ、それでいいよ。さて、チャッチャと済ませようか。」
誤字脱字等ございましたら感想でのご報告をお願い致します。
また、感想、質問がありましたらどんどん書いてください。遅れることもあるかもですが、基本的にすべてに返事、応答させて頂きます。




