同窓会
梅雨が明けた。
送られてくる写真には、濃く、深い色をした空が多くなった。
そして前期試験をなんとか終えた僕は、お盆を前にして実家に帰省した。
僕と同じように大学進学で地元を離れた連中が一斉に帰ってくるこの時期に、中学の同窓会が行われることになっているのだ。
僕は決意していた。
この同窓会で、メールの送り主を捜し出すことを。
メールが途絶えたあのとき、一度はアドレスを知っている人全員にメールを送ろうとしたものの、その直後に待望のメールが届いたことによって結局行動には移さなかった。
その後、本人に訊こうにも、なかなかふんぎりがつかなかった。
空の写真が送られてくるようにはなったものの、依然そのメールに言葉が添えられることはなかったからだ。
そんな僕にとって、この同窓会は願ってもないチャンスだった。
なんとしても送り主を捜しだしたいと、そう思っていた。
相手がわかれば、僕たちをつなぐものはメールという細い糸だけではなくなる。
僕は意気揚揚と同窓会場に乗り込んだ。
開始時間までにはまだ間があったが、既に会場内にはいくつかのグループが出来上がっていた。僕もかつての悪友達につかまり、話に花を咲かせた。
どうやら出席率が高いようで、続々と人が集まってくる。
僕は会話の切れ目を狙って、ズボンの尻ポケットから携帯を取り出し、例のメールアドレスを表示させた。
見慣れたアドレス。
送り主がこの会場のどこかにいるのだろうか。
「あのさ……」
「お待たせいたしました。それでは、矢吹中学校第六十五期卒業生の同窓会を始めようと思います」
僕の声は、マイクを通した声に掻き消されてしまった。
仕方がないので、ひとまず携帯をたたみ、声のするほうへと目を向ける。
一組の男女が、前方中央に置かれたマイクの前に立っていた。
男はサッカー部のエースだった村田だ。
昔は短く刈っていた髪を少し伸ばし、軽く染めている。
服装にも気を使っているのかあか抜けて見える。が、人好きのする笑顔は変わっておらず、彼の爽やかさは今も顕在だった。
一方、女のほうは可愛い顔をしているのだが、誰だったか思い出せない。
すっときれいな弓なりの眉と、大きな目。ほんのりと桃色に染まった頬と、艶やかな唇。髪は落ち着いた茶色で、ゆるくウェーブがかかっている。
僕は瞬きを繰り返した。記憶の中には、こんな顔の子はいなかった。
同窓会の案内状を思い出す。幹事は誰だと書いてあった?
村田。そう、村田と……。
「河合⁉」
僕は思わず声をあげていた。幸い、会場内が賑やかなおかげで人目をひくことはなかったが、一緒にいた連中には気づかれた。
「安心しろ、俺もびびった。女はすげえなあ。でもま、悪い方に変わるんじゃねえんだから、いいよな。いやあ、お見事、お見事」
隣の奴が僕の肩をぽんと叩く。
本当に見事だった。
昔はショートカットで、ソフトボール部員という部活柄か年がら年中日に焼けていたあの河合が、これほどまでに変わるとは。
僕は自分の格好を改めて見た。
服装もさることながら、顔も昔とはほとんどかわっていないはずだ。
まわりから浮かない程度には気をつけてはいる。
けれど積極的に髪型や服装を変えたいとは思わないし、そのための努力もしていないのだから当然のことではあるのだけれど。
この差はなんなのだろうか、と僕は深く嘆息した。




