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空メール  作者: 凪市有李
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迷惑メール

 僕が送ったメールは、いたずらメールと認知されてもおかしくない量に達しようとしていた。


 このままでは、このメールが原因で嫌われてしまう。

 本末転倒だ。

 いや、すでに迷惑メールとして設定されているのかもしれない。


 さすがの僕も、このままではまずいと思い始めていた。

 このころには、少しだけ考える余裕が生まれていたのだ。

 

 このままでは、犯罪者まっしぐらだ。


 僕は携帯のメールアドレスを何年も変更していない。

 最後に変更したのは、確か中学三年生のころだったはずだ。


 それ以来いたずらメールが届いた覚えはない。

 つまり、空の写真を送ってきた人物は僕の中学校・高校の知り合い、もしくは知り合いと関係のある人物に限られると考えていいだろう。

 ただし親しい人物のアドレスはもちろん登録済みで、変更したという連絡を受ければ更新するようにしているので、相手はそれほど親しくない人物だ。



 携帯のアドレスに登録済みの友人たちに片っ端からメールを送ってみようと決意した矢先、待ち望んでいたアドレスからのメールが届いた。


 僕は喜びと驚き、そして緊張と期待から心臓がばくばくと大きく鳴っているのを感じていた。


 新着メール一件。


 僕は恐る恐るそのメールを開いた。


 いつもと変わらない、空の写真が広がっていた。


 しかし写っているのは重苦しい灰色の空だった。

 今までに届いた写真も、晴れた空の写真ばかりではなかったけれど、このタイミングで送られてきた重苦しい色の空が、まるでなにかを暗示しているようで、心臓が重くなる。


 たまたま天気が悪かっただけで、深い意味はないんだ。


 そう、自分に言い聞かせた。

 

 メールに本文はなかった。写真だけ。まるで、最初のころに戻ったようだ。


『天気が悪そうだね。こっちも雨だよ』


 恐る恐る、それだけを送る。

 言いたいことは沢山あった。訊きたいことはそれ以上にあった。けれど、今はそのときじゃない。そう思った。


 怯えながら次のメールを待ち続けた。


 そして翌日、また空の写真だけが送られてきた。


 その次も、またその次も。


 まるで、ブランクなど存在しなかったかのように。僕が送った、迷惑メールじみた数々のメールなど存在しなかったかのように。


 メールは定期的に送られてくる。


 僕はメールのやり取りが復活したことを喜び、しかし添えられる言葉がなくなったことを悲しんだ。


 それでも、メールが届くだけいいじゃないか、と自分を納得させる。


 そして、そのままときは流れた。

 なんの変化もないままに。

 なにも訊けないままに。


 僕は、相手の機嫌を損ねて、またこのメールが途絶えてしまうことに怯えていたんだ。

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