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空メール  作者: 凪市有李
2/11

変化

 高校三年生の秋。


 受験勉強は追いこみに入る時期だったけれど、そんな時期だからこそ、問題集を前にモノクロの世界に飲み込まれていた僕は、空の写真によって色鮮やかな世界に引き戻された。

 空の写真は僕に休息を与えてくれる存在だった。


 だから、僕はそのメールを受けとり続けた。

 そしてそれは三ヶ月ばかり続いた。


 僕は一方的にメールを受け取り続けることに飽きて、メールを送った。

 相手の素性は、あえて問わなかった。


『きれいな空だな』


 それだけだ。


 相変わらず、俺のメールに対する返事はなかった。

 今回は最初から期待していたわけではなかったので、別に落胆もしなかった。

 ただ、自分の気持ちを伝えたかっただけのだ。


 翌日、いつもの様にメールが届いた。ただし、いつもと違うことがあった。

 画面一面に広がる、雲ひとつない青空。

 そして、短い文章がひとつ。


『素敵でしょう?』


 僕は何度も読み返した。初めて添えられた言葉を、幾度も、幾度も眺めた。


 たった一言だったけれど、それは確かに僕へと送られた言葉だった。


「よっしゃ!」


 知らず、僕はこぶしを握りしめ、小さくガッツポーズをしていた。


『いつも楽しみにしてる』


 僕は即座に返事を送った。


 それから、送られてくる空の写真には短い言葉が添えられるようになり、メールが届く度に僕も短いメールを返すようになった。


 だが、相手から文章だけのメールが届くことはなく、僕が送ったメールの返事は常に空の写真に添えられて届いた。

 メールの届く頻度は変わらなかったので、メールのやりとりは一日に一度、長ければ一週間という間を開ける、ゆっくりとしたペースで続けられたのだった。


    ※※※


 秋から始まったメールは、冬を越し、春になっても続いていた。

 僕は高校を卒業して、なんとか三流どころの私立大学に入学した。


『いままでありがとう』


 そのメールは、あまりにも突然に送られてきた。予兆は全くなかった。


『どういうこと?』


 僕はそう返信したが、それ以上のことはしなかった。


 深い意味はないに違いない。きっとまたいつものようにメールが届くはずだと、そう楽観していた。


 僕は入学したばかりで、大学生活に慣れることに忙しかった。

 初めてのひとり暮らしに右往左往し、履修する講義を選ぶのに散々迷い、サークルの新歓コンパには誘われるままに参加し、学部内ではどうにか話の合いそうなグループのひとつに混ざることができた。

 

 ふと気がついたときには、メールが途絶えてから一週間が経過していた。

 今までに、一週間以上の間があいたことはただの一度もなかったのに。


 急に、僕の中で不安が頭をもたげ始めた。

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