変化
高校三年生の秋。
受験勉強は追いこみに入る時期だったけれど、そんな時期だからこそ、問題集を前にモノクロの世界に飲み込まれていた僕は、空の写真によって色鮮やかな世界に引き戻された。
空の写真は僕に休息を与えてくれる存在だった。
だから、僕はそのメールを受けとり続けた。
そしてそれは三ヶ月ばかり続いた。
僕は一方的にメールを受け取り続けることに飽きて、メールを送った。
相手の素性は、あえて問わなかった。
『きれいな空だな』
それだけだ。
相変わらず、俺のメールに対する返事はなかった。
今回は最初から期待していたわけではなかったので、別に落胆もしなかった。
ただ、自分の気持ちを伝えたかっただけのだ。
翌日、いつもの様にメールが届いた。ただし、いつもと違うことがあった。
画面一面に広がる、雲ひとつない青空。
そして、短い文章がひとつ。
『素敵でしょう?』
僕は何度も読み返した。初めて添えられた言葉を、幾度も、幾度も眺めた。
たった一言だったけれど、それは確かに僕へと送られた言葉だった。
「よっしゃ!」
知らず、僕はこぶしを握りしめ、小さくガッツポーズをしていた。
『いつも楽しみにしてる』
僕は即座に返事を送った。
それから、送られてくる空の写真には短い言葉が添えられるようになり、メールが届く度に僕も短いメールを返すようになった。
だが、相手から文章だけのメールが届くことはなく、僕が送ったメールの返事は常に空の写真に添えられて届いた。
メールの届く頻度は変わらなかったので、メールのやりとりは一日に一度、長ければ一週間という間を開ける、ゆっくりとしたペースで続けられたのだった。
※※※
秋から始まったメールは、冬を越し、春になっても続いていた。
僕は高校を卒業して、なんとか三流どころの私立大学に入学した。
『いままでありがとう』
そのメールは、あまりにも突然に送られてきた。予兆は全くなかった。
『どういうこと?』
僕はそう返信したが、それ以上のことはしなかった。
深い意味はないに違いない。きっとまたいつものようにメールが届くはずだと、そう楽観していた。
僕は入学したばかりで、大学生活に慣れることに忙しかった。
初めてのひとり暮らしに右往左往し、履修する講義を選ぶのに散々迷い、サークルの新歓コンパには誘われるままに参加し、学部内ではどうにか話の合いそうなグループのひとつに混ざることができた。
ふと気がついたときには、メールが途絶えてから一週間が経過していた。
今までに、一週間以上の間があいたことはただの一度もなかったのに。
急に、僕の中で不安が頭をもたげ始めた。




