空と彼女
駅へと歩きながら、僕は携帯を開いた。
何枚も、何枚も保存されている空の写真。
季節とともに変わりゆくいくつもの空が、次々と現れる。
笹倉……。
携帯の画面に映った空の上で、雫がはねた。
それは僕の涙だった。
立ち止まり、袖で涙をこする。
ふと空を見上げると、そこには雲ひとつない空がどこまでも広がっている。
その空は、僕の悲しみまで吸い込んでしまいそうに見えた。
啓太も、同じ空を見ているのだろうか。
空を背に、窓辺に座るひとりの少女の姿が浮かぶ。
窓から吹き込む風に揺れる髪、白い横顔と首筋、細い肩。
ゆっくりとこちらを振り返る。風に吹かれる髪を片手で押さえ、驚いた顔で僕を見る。
――別れ際、彼女は僕に向かって微笑んだ。
まるで可憐な花がほころぶような笑顔だった。
『ありがとう』
耳に彼女の声が甦る。
僕は携帯を空にかざした。
シャッター音がして、今見ていた空が携帯の画面の中におさまる。
彼女の姿は写らない。
けれどここには彼女がいつも見上げていた空がある。
いつも僕の頭上にあった空と、ひと続きの空。
僕はこの空を忘れない。そう思った。




