はじまりの空
授業中に、制服のポケットの中で携帯が震えた。
それが、始まりだった。
退屈な授業の最中、マナーモードにしておいた携帯電話が着信を知らせた。
机の下で携帯を開くと、見知らぬアドレスからのメール着信だった。
今までに迷惑メールが一度も届いたことがないという過去をもつ僕は、誰か知り合いがアドレスを変えたのだろうかと考え、安易にそのメールを開いてしまった。
そして僕はその画面に目を奪われた。
青。
水色にほんの少し藍色を混ぜ合わせたような、そんな青色が画面いっぱいに広がっていた。
よく見れば、下の方にはうっすらと白い雲がかかっている。
空の写真だった。
綺麗だ、と僕は思った。
しばらくのあいだ、その写真に見入っていた。
ふと我に返り、窓の外の空に目をやったが、そこには携帯の画面に映る空とは似ても似つかない曇天があるだけだった。
視線を携帯に戻す。
タイトルなし。本文なし。
送られてきたのは、ただ空の写真一枚だけ。
誰だろう? 間違いメールだろうか。
少し悩んだ末に、僕は返信することなくそのまま放置することを選んだ。
それにしても、この写真の空は一体どこの空なのだろう。
今日撮られた写真なのだとしたら、ここから離れた場所の空に違いなかった。
※※※
その後も、同じアドレスからのメールが届いた。
多ければ一日に一回。
少なければ一週間に一回程度の割合で送られてきた。
三度目だっただろうか、僕は初めて返信をした。
『君は誰?』
その日、返信はなかった。
翌日には、何事もなかったかのようにまた空の写真が送られてきた。いつも通り、タイトルも本文もない。
多少なりとも返事を期待する気持ちはあったので、ショックだった。
けれどそのあとで、僕からのメールを読まなかったのかもしれないと思いなおす。それなら仕方がない。
さすがにもう一度訊く勇気はなく、それからはメールを受信するばかりの日々が続いた。
次第に、返信を求める気持ちは薄れていった。
相手が誰であっても、どうでもいいことだという気がし始めていたからだ。
メールが届くだけで、特に害があるわけでもない。
むしろいつしか僕は、そのメールが届くのを楽しみにするようになっていた。




