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『間抜けなロージー』から『幸せなロージー』へ

作者: 星乃 夜一

ロージーこと、アリシング伯爵家長女、ローズマリー・アリシングは今までの事を考える。

呪いを受ける前、受けた後に変わった自分、そして周りの事を。


ルーベンスとの縁談を断わった日。

ローズマリーはエミリー達ーー呪いを受けた後も変わらずローズマリーの側にいようとしてくれた友人達に謝り、今後も仲良くしてくれると嬉しい言葉をもらった。


家に帰ったローズマリーは父から呼び出された。

当然怒られると思ったが、父は予想に反してローズマリーに謝った。


父は、母が亡くなった後、ローズマリー達姉妹にどう接していいか分からなかったと言った。


母が亡くなったのは五年前、ローズマリーとマーガレットが十一歳の時だ。

母はある日突然亡くなった。


父は嘆き、マーガレットは泣き喚き、ローズマリーも悲しみに沈んだ。

家からは笑顔が消え、誰もが緩慢に動いていた。

ローズマリーはそれではいけないと、自分を奮い立たせた。

亡き母に顔向けできるよう、きちんと生きていかなければ。


ローズマリーはマーガレットを泣き止ませた。

なかなか泣き止まないマーガレットを叱って、無理やり悲しみの沼から引き抜いた。

それがローズマリーとマーガレットの間に出来た最初の溝だったのかもしれない。


父は仲が悪くなっていくローズマリーとマーガレットに声をかけられなかったという。

ローズマリーが気を張っているのも分かるし、マーガレットが反発する気持ちも分かる。

けれど、年頃の娘をどう扱っていけばいいのか分からない。

妻がいなくなってしまった事を嘆き、ローズマリーはしっかりとしているから大丈夫だと、マーガレットもいつか分かってくれるだろうと、見て見ぬ振りをしてしまった。

それを今はとても後悔しているという。


ローズマリーとマーガレット、一人一人からきちんと話を聞けばよかった。

妻がいなくなってしまった不幸を嘆くより、今二人がいてくれる事の幸せを噛み締め、それを守る努力をすればよかったと。


父はマーガレットと話をしたらしい。

マーガレットにも今まで放っておいた事を謝り、ローズマリーがマーガレットをフォローしてきた事などを話した。


マーガレットとはあれ以来あまり話をしていない。

呪いを受けた当初は、ローズマリーが転んだりすると笑っていたが、段々と目を逸らすようになった。

何も言わず、見なかった振りをする。

ローズマリーと顔を合わせると、顔を歪め、逃げて行ってしまう。

最近のマーガレットは食事も部屋で取っていて、ローズマリーと全く顔を合わせようともしない。


父の話ではマーガレットはローズマリーに呪いをかけた事を反省しているらしい。

魔女の元にも行って、呪いをどうしても解いて欲しいと懇願したという。

しかし呪いを解く方法はないと突っぱねられたという。


父はマーガレットはローズマリーに謝りたいが、まだ顔を合わせる勇気が湧かないのだという。

もう少し待ってやってくれないか、と伺うように父に問われれば頷くしかないが、ローズマリーの胸にはモヤモヤとしたものがわだかまっていた。





モヤモヤとした気持ちは何とか振り切り、朝、学園へと向かった。


学園の前には送りの馬車がひしめき合う。

なので、ロージーは手前で馬車を降り、道の端を歩いていた。

そうしている生徒は沢山おり、途中で会ったエミリーと話をしながら歩く。

とーー

ローズマリーの横、馬車と馬車の間から急に人が出て来た。

驚いたローズマリーは転びそうになるが、出て来た人に支えられて、転ばずに済んだ。


「悪い、大丈夫か」


ローズマリーを支えた男子は一学年上の、生徒会の仲間のフレッドだ。

彼は支えた相手がローズマリーだと分かると、眉間に皺を寄せた。

フレッドが、なんだこいつなら助けなければ良かったと思ったのは分かっている。

けれどローズマリーはそれに気付かぬ振りをした。


「大丈夫です。支えてくださってありがとうございます」


ローズマリーが礼を言うと、フレッドは目を丸くした。

フレッドは驚愕の表情のまま、動かないので、ローズマリーは再度声をかけた。


「もう大丈夫ですから、手を放してください」

「どうした、ローズマリー」


フレッドは手を離さずに困惑の声を上げる。


「この間は手を振り払って、『余計な事をするな、さっさと放せ』と言ったのに」


フレッドの指摘にローズマリーは顔を赤くした。

昨日までのローズマリーは、転んだ時に誰かが親切に手を貸してくれても、それに応える余裕はなかった。

転んだ事が恥ずかして、そんな自分が嫌で仕方がなくて、手を貸そうとしてくれた人に酷い対応をした。


ローズマリーは赤い顔でフレッドを睨んだ。

そんな事を大きな声で言わないでと思ったが、自分に非があるのは分かっているので、何とか言葉を飲み込んだ。


「あの・・、あの時はすみませんでした。

手を貸してくれようとしてたのに酷い事を言って。

反省しています。

遅くなりましたけど・・・、あの時はありがとうございました」


つっかえつつも、ローズマリーが精一杯謝辞と礼を言うと、フレッドは口をあんぐりと開けて、ローズマリーを見つめた。


「どうした、ローズマリー。何か悪い物でも食べたか!?」


反射的に「失礼な事を言わないでください!」と口をついて出そうになったが、それも飲み込む。


「いえ、食べていません」

「信じられない、本当にローズマリーか? よく似た他人じゃないのか?」


ローズマリーはむっと顔を顰める。

しかし、反論を我慢していると、袖をちょいちょいと引っ張られた。エミリーだ。


「ロージー、少しぐらい言い返してもいいと思うわ。ちょっと失礼よ」

「そう、じゃあ」


ローズマリーはフレッドに向き直ると、顎を上げ、口を開いた。


「先輩、私はローズマリー・アシリングです。

女性が謝っているのに、悪い物を食べたとか、他人じゃないかなんて言うのはとても失礼な事です。

紳士であるなら訂正し、あなたこそ謝ってください」


言い放つと、エミリーにまた袖を引っ張られた。


「ロージー、今のはちょっと言い方がきついと思うわ」

「え、やっぱり。

どうしよう、もう言ってしまったわ」

「大丈夫よ、ロージー。

落ち着いて、また向き合って。失敗しても次があるわ」

「分かったわ、エミリー」


二人で言い合っていると、フレッドはぶはっと息を吐いた。

腹を抱えて笑い出す。


「なんだ、君ら。漫才か?

どうした、ローズマリー。君らしくない」


言いながらもフレッドは大笑いを続ける。

学園へと向かう道なので、大勢の生徒がローズマリー達を見ている。


ローズマリーは恥ずかしくて、顔を顰める。


「先輩、こんな所で大笑いをしないでください! 恥ずかしいでしょう」

「わ、悪い。あまりにも君が可愛らしくなってしまったので、我慢出来なかった」

「かっ・・」


ローズマリーは今まで以上に顔を赤らめた。


「からかわないでください! エミリー行きましょう」


早足で歩く二人の後ろから笑い声が追いかける。

ローズマリーはそれを無視してずんずん歩いた。




ローズマリーは学園につくと、ある場所へ向かった。

それはローズマリーが呪いを受けるまで毎朝向かっていた場所。

中庭にあるテラスには七人の男女がいた。

今は離れてしまったローズマリーの友人達だ。


ローズマリーが近付くと彼らは一様に嫌そうな顔をした。

ローズマリーは彼らの少し手前で立ち止まると、彼らの中の、栗色の髪の大柄な男子に声をかけた。


「ベン。少し、いいかしら」

「何だよ」


冷たい声。他の六人からも刺すような視線を受けながらローズマリーはベンに頭を下げた。


「この間は転びそうになった所を支えてくれたのに、酷い事を言ってごめんなさい。

あなたに対して言った事を取り消します。反省しているわ」


ローズマリーは呪いを受けた後、よく転びそうになったし、実際にも転んだ。

その度に内心では荒れ狂いながらも、何でもない振りをして誤魔化した。


彼らといる時も幾度も転びそうになり、気を付けていたのに、ある日転んだ。

ベンに手を差し伸べられ、「気を付けろよ、最近注意散漫だぞ」と注意された時、ローズマリーは激高し、その手を振り払った。


『余計な事をしないで、あなたに言われたくない!』


ローズマリーは普段だったら決して口にしない、不満や彼の欠点を口にした。

怒ったのは彼だけではなかった。

最近ローズマリーはピリピリしていて、話し方がキツくなっていた。

その事にも我慢の限界が来ていたのだろう。

友人の一人のジョアンナも、ローズマリーに対しての日頃からの不満ーーローズマリーが一人で決めてしまう事や人の意見を切り捨ててしまう所、他人に意見を押し付けてしまう所や、人のペースを考えない所を上げた。

ジョアンナと大喧嘩になり、友人達はジョアンナに味方した。

友人達とローズマリーは仲違いをし、離れてしまった。


ローズマリーは人々が自分から離れていくのは、呪いの所為だと思った。

呪いの所為でこんな事になる。

呪いの所為で上手くいかない。

呪いの所為で、皆が離れていく。


でもそうではなかった。

皆が離れたのは普段のローズマリーの所為だ。

呪いを受ける前から皆はローズマリーに不満があった。

呪いはそれを浮き彫りにした。


それに気付いたローズマリーは彼らに謝ろうと思った。

許してくれなくても、自分の中の一区切りとして、きちんとしたかった。


「ジョアンナもごめんなさい。

あなたの言う事は正しいわ。

私は今まで人の気持ちをあまり考えてなかった。

あなたも、皆も不快な気持ちにさせたと思う。

ごめんなさい」


ローズマリーは頭を下げる。

けれど、誰も何も言わない。

皆の顔には困惑が浮かんでいた。

すぐに元に戻れると思っていない。

これからも友人には戻れないかもしれない。

それでも謝って少し気が落ち着いたローズマリーは笑顔を浮かべた。

更に困惑した彼らを置いて、教室へと向かった。




ローズマリーは生徒会の仕事をする時、特に傲慢だったと自分を振り返る。

人に仕事を頼む時、事細かに指示をして、何日までに仕上げて、と威圧的に渡していた。

結果が気に入らないと不満を漏らし、自分がいいように直してしまう。

人に預けられないと仕事を抱え込み、家に帰ってからも書類を睨んでいた。


呪いを受けるまでは何とかなっていた。

けれど、呪いを受けてからは。

慎重に整えた書類をうっかり落としてしまえば、全て拾ってまた整え直し。

訂正を許されない書類の一字を間違えて書き直し。

それらに時間を取られて、見直さなければならない書類を見直す時間が取れず。

提出書類の枚数を確認する時間がなくて出し忘れたりした。


人に頼めば済む事を人を信じず渡さない。

それに、出来ないからお願いするなんて、ローズマリーのプライドが許せなくて言えなかった。


けれど今は、今まで抱えていた過剰分を人にお願いするようになった。

指示をする時も意見を聞いて、話し合ってから進める。

自分の意に沿わない出来の時はなぜそうなったか聞く。

聞いてみれば、ローズマリーより彼らの意見の方が適切である事もあったし、より良いものが出来る事もあった。

書類を見直す時間が出来、せわしなく書いていた書類も慎重に書くようになった。


呪いを受けた当初、どれだけ失敗したか。

焦るあまりに上手くいかず、何回もやり直し、夜中まで書類や勉強に追われていた。

睡眠時間が少なくなれば、更に注意散漫になり悪循環だ。


今は失敗はぐんと少なくなり、いい仕事が出来ている。

一緒に仕事をしている人との関係も良くなり、教師の信頼も少しは取り戻せたと思う。

何より、自分の気持ちがとても楽になった。

呪いを受ける前、いつもイライラと仕事をしていたのが嘘みたいだ。





ある日、家に帰ると、ルーベンスがいた。

前に会った時のように、自信に満ち溢れていた余裕あるルーベンスではなかった。

ルーベンスは向かいに座ったローズマリーを伺うようにチラチラと見ている。


「ルーベンス、ご用は何? 縁談はお断りしたけれど、それについて何かあったの?」


この間久しぶりにあった従兄妹は、昔とは全く違っていて知らない人のようだったが、今のルーベンスは昔のルーベンスのようだ。


『泣き虫、弱虫ルース』


そう呼ばれていた彼。

気が弱くて、体も小さく女の子のようだったルーベンス。

本が好きで、ローズマリーの家の図書館でよく本を読んでいた。

難しい本を読んでいたので、「ルースはいつか、偉くて立派な人になるのね」と言ったら、「絶対立派な人になる!」と言っていた。

多分、七歳ぐらいの時の話だ。


ルーベンスはぐしゃっと顔を歪ませた。

父からしばらく家に来ないようにと言われていたが、我慢出来なくて来てしまったと言った後、


「ロージー、僕はどうすればいいんだろう?」


途方に暮れた顔で言った。

どうすればと言われても何の話か分からない。

ローズマリーは首を傾げる。


「何の話?」

「僕は、ロージーにつり合う人になるように頑張ってきた。

勉強を頑張って、体が大きくなってきてからは剣にも力を入れて。

コマン国への留学もちょうどいいと思った。

初めは田舎者と散々馬鹿にされたけど、コマン語を流暢に話せるようになってからは順調で、向こうに編入して飛び級して学校を卒業した。

だけど、ロージーの目には僕はまだ駄目なんだ。

これから父の後を継ぐまでは外交などに携わっていくつもりだけど、ロージーが思う立派な人と外れていたら教えて欲しいんだ。

他に何をすればいいのか教えて欲しい」


ルーベンスの告白にローズマリーは目が点になった。


「何の話?」


再び聞くと、ルーベンスは真面目な顔で答えた。


「どうしたら、僕はロージーに認めてもらえる?」

「・・・・難しい質問ね」


ローズマリーは問いを受け、問い通りに、どうしたらルーベンスを認められるようになるか考えた。

コマン国にいたのなら、国内の社交界に人脈が少ないに違いない。

そこをこれから努力すれば、もっとーー。

と、考えてしまって首を振る。

何を現実逃避しているのか。今はそういう話ではない。


「なぜ私があなたを認めなくてはならないの?」

「ロージーは僕が立派な人になったら僕と結婚してくれると言った」

「・・・・・・言ってないわよね」


全く覚えがないことだ。

そんな事を自分が言うはずがない。


「ロージーはそう言ったよ。

覚えてない? 図書室で僕が本を読んでいた時に、将来立派な人になったら結婚してくれるって言ったんだ」


全く、本当に覚えがない。

ルーベンスは立派な人になるね、とは言ったと思う。

けれど、立派な人になったら結婚するなんて、言っただろうか。


「本当に私はそう言ったの?」

「言った」


即答されて頭を抱えそうになる。

しかし、子供の時の約束など無効だろう。


「ルーベンス、私はその約束を覚えていないわ。ごめんなさい」


謝るとルーベンスは悲しそうな顔をした。

ローズマリーは続ける。


「ルーベンス、あなたの話は聞いているわ。

優秀な成績でコマン国の学園を卒業したって。

あなたのコマン語を聞いても、立ち居振る舞いを見ても、とても立派な人になったと思うわ。

頑張ったのね。私の為にと言うのなら、とても嬉しいわ、ありがとう」

「じゃあ」


ルーベンスは目を輝かせる。

ローズマリーは首を振った。


「でも、ごめんなさい。結婚は出来ないわ。

それはあなたの所為ではないの。私があなたにつり合わないの」


ローズマリーは今の自分の状況を話した。

魔女の呪いを受けた事は不名誉な事だ。

だからローズマリーはその事を人に話していないし、マーガレットも流石に口にしていない。

けれど、ローズマリーの様子から、呪いの事は皆、薄々気付いているだろう。

だからどうこうするという事ではないが、ルーベンスの様な前途洋々な人物の伴侶に、自分が相応しいとは思えない。


しかし、話を聞いた後もルーベンスの意志は変わらなかった。

自分がローズマリーが認める立派な人になったのなら、今すぐ婚約、結婚と突っ走るルーベンスを宥め、その日は何とか家に帰した。




その夜、ローズマリーは廊下に立っていたマーガレットに出くわした。

マーガレットは最近学園にも行かずにどこかに出かけていた。

父は、マーガレットは色々な魔女を訪ねているのだと言っていた。

何とかローズマリーの呪いを解こうと奔走しているのだと。


今日のマーガレットは逃げずにそこにいる。

何度も口を開き、何かを言おうとして言えずに苦しんでいる。

ローズマリーは二歩近寄り、声をかけた。


「久しぶりね、マギー」


母が亡くなる前まで呼んでいた愛称で呼ぶと、マーガレットは目から涙を溢れさせた。


「ろ、ロージー・・」


涙声でローズマリーの名を呼ぶ。

返事をすると、マーガレットはその場にガバリと頭を下げた。


「ロージー、ごめんなさい。本当にごめんなさい!

私は本当に馬鹿な事をしたわ、ごめんなさい!」


マーガレットに近づくと、マーガレットはびくりと肩を震わせた。

おそるおそる顔を上げたマーガレットは涙でぐちゃぐちゃだ。

ローズマリーは持っていたハンカチをマーガレットに渡した。


「マギー、私もごめんなさい。

私、あなたを自分のペースに巻き込んでいたわ。

私、今回の事で色々と考えたの。

あなたはあなただわ。私じゃない。

それなのに私の考えを押し付けてた」

「ロージー!」


マーガレットはローズマリーに抱きついた。ローズマリーもその体を抱き返す。


「ロージー、悪いのは私なの!

勝手に劣等感を抱いて。

ロージーが私の為に注意してくれてたのに、全く聞こうとしなかった。

ごめんなさい!」

「いいのよ、マギー。

私はもう口うるさく言わないわ。

何かあったら二人で話し合いましょう。

よく話をして、お互いに納得できる様にしましょう」


マーガレットはうんうんと顔を動かした。

ローズマリーはマーガレットの体をぎゅっと抱き締めた。



マーガレットは色々な魔女を訪ねたが、誰も呪いを解く方法を教えてくれなかった。

魔女にはそれぞれのやり方があり、他の魔女の呪いにはあまり手を出したくないらしい。

そこでマーガレットは呪いを頼んだ魔女の元に足繁く通った。

それでやっと教えてもらったのはーー


呪いを解く方法はない。けれど呪いを消す方法はある。

それはローズマリーが今の自分を受け入れる事。

今の自分を好きになる事。


「難しいわね」


ローズマリーはマーガレットの話を聞いて呟いた。

今の自分を受け入れる。今の自分を好きになる。


呪いを受けた当初よりは今の自分を受け入れている。

思い返してみれば、最近は、前より転ぶ回数がだいぶ減っていた。


でも完全に受け入れられるかといったら、好きになれるかといったら難しいと思う。

自分の事は好きだし嫌いだ。

気持ちは日によって傾く。

失敗をすれば落ち込み、やはり呪いが憎くなる。

完全に受け入れられる事はないと思う。

という事は、呪いが消える事もない。


その事実に落ち込んだ。

けれども前の様に絶望的な気分になる事はない。


今は上手くやれている。

これからも上手くやって行こう。

注意をして、無理をしないで。

自分に出来る事をやって行こう。



それからローズマリーは今までの通り、勉強に、生徒会活動にと頑張った。

マーガレットはローズマリーが転びそうになれば支え、忘れ物をしそうになったら声をかけた。


だがその役割は、早々に他の人間に引き継がれた。


学園を卒業したローズマリーはルーベンスと結婚した。

側を離れたがらない夫を何とか引き剥がす日々だったが、ローズマリーが懐妊してからはますますルーベンスは離れなくなった。


万が一にもローズマリーが転んだりしないように、使用人は常に三人体制で張り付き、たまに躓いても、誰かが支えてくれる。

ルーベンスが家にいる時は、ルーベンスが付きっきりだ。


やがて元気な男の子が産まれると、ルーベンスは感動のあまり号泣をした。

昔はしくしくと女々しく泣いていたので、随分男らしくなって、とローズマリーは場違いな感想を漏らしたのだった。


その後も女の子、男の子、男の子、女の子と子宝に恵まれたローズマリーはとても幸せだった。

夫も子供達もとても愛おしい。

それを取り巻く周りの優しい人々も、とても愛おしい。

そしてーー

そう思える自分も、とても愛おしいと思うのだった。



おしまい。



お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作中世界の魔女は社会的にどの位置にいるんですかね。貴族とはいえマーガレットみたいな阿呆の小娘が繋ぎつけられる程度の、割とそこら辺にいる存在なのかな。 呪いは消すものじゃなくて返すものじゃな…
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