第6話 夜の楽しみ事
夜。
深夜。
日が落ちてから暫く時間が経った頃。
体感時刻は恐らく戌の刻頃。
リースから得た知識だと星の刻。
うん、分かりにくい。
22時頃だ。
お天道様が地平線に沈んだ時のお月様の位置から逆算。
尚、お月様は2つ浮かんでいた。
日が沈めば、この世界の人達は寝る。
灯り代がもったいないからだ。
発展した都市や貴族様の屋敷ならもう少し遅くまで起きている。
が、やはり現代人の俺の感覚からすれば、床に着くのはかなり早かった。
『(リース、もう寝たか?)』
返事がない。
どうやらただの屍の様だ。
お約束。
リースの寝付きは物凄く良い。
羨ましいぐらいに。
子供は寝る子。
しかし寝ても育たない。
なんと不憫な……。
ホロリ。
夜は俺の時間。
寝ているリースの身体を好き勝手に使える時間帯。
俺の天下到来。
しつこく迫ってきた娘を追い返すのに少し苦労したが、後悔はない。
モフモフは欲しいが、ニャンニャンはいらない。
というか、ちょっとウンザリ気味。
前世なら一も二も無く飛び付いたかもしれないが、リースがそれを全く望んでいない。
リースとは一心同体。
故に、俺もリースに幾分か引き摺られている。
やはり健全が一番だな。
宿を抜け出し、夜のカザスの村を歩いた。
人がいない。
静かだ。
冷たい空気が肌を差し、程良い緊張感を感じさせてくれる。
月明かりを頼りに村の入口に到着する。
入口にはナハトがいた。
村の中だから見張りは不要という事は無い。
モンスターはいついかなる時でも襲い掛かってくる。
備えは必要。
ナハトの隣にもこの村の夜番が2人いた。
彼等に気付かれない様に、村をグルッと囲っている柵沿いに進む。
程なくして抜け穴を発見。
何の為にあるかはご想像にお任せする。
ちなみに、昼の間に俺が作った訳では無い。
抜け穴は小さかったが、リースの体格だとまるで苦にはならなかった。
もう一度、ホロリ。
村を抜け出し、森の中へと入った。
理由は狩り。
レベル上げとも言う。
寝ているリースには悪いが、少し鍛えさせてもらう。
現在のステータスはこんな感じだ。
★名前 リース...(憑依:滝川一騎)
★種族 混沌の民 ★性別 男性
★職業 剥取士見習いLv1
★基礎ステータス
STR 2 VIT 2
AGI 4 DEX 4
INT 2 MND 2
CHR 29 LUK 1 (+1)
★所持スキル
鑑定(1) アニマルコマンド(10) 取得経験値増加(1) 異次元収納BOX(1) 自動剥取(1) 職業変更(1)new!
★所持法術
★所持職業一覧
ロードLv7 動物使い見習いLv8 剥取士見習いLv1
少し表示を整理してみた。
無駄に長い名前はいらない。
リースの身体を乗っ取った状態では、職業はロードで固定されたままだった。
俺単体だと自由に変えられるのにだ。
リースの職業は変更出来なかった。
ボーナスポイントも振れない。
それだと何かと面白くない。
故に、憑依していない時に【職業変更】を取ってみた。
少し賭けの部分があったが、無事成功。
若干、ステータスが下がったが問題なし。
ちなみに、ミケはお留守番。
今夜は剥取士見習いのレベルを上げてみる。
★モスキートナイト
森に入ると、早速モンスターが現れた。
蚊だ。
後ろにナイトという紛らわしい名前がついているが、別に騎士ではない。
夜のナイト。
しかし大きい。
注射針の様な細長い口には絶対にお世話になりたくない。
あんなもので血を吸われたらと思うとぞっとする。
血を採られるのは美人の看護婦さんとヴァンパイアだけで十分。
いや、後者にもお世話になりたくないが。
刺される前に注射針を叩き割り、返す刃で胴を斬り裂いた。
瞬間、ドパッと返り血が。
どうやら食事後だったらしい。
気持ち悪い。
何て不運な……。
アイテムも何も手に入らなかった。
レベルアップも無し。
雑魚確定。
★モスキートナイト
★モスキートナイト
すぐにまたモンスターが現れた。
今度は二匹同時。
挟み込まれる前に突撃。
一匹を撫で斬りにしながら駆け抜ける。
[リースがレベルアップしました!]
★名前 リース...(憑依:滝川一騎)
★種族 混沌の民 ★性別 男性
★職業 剥取士見習いLv2(1アップ!)
★基礎ステータス
STR 2 VIT 2
AGI 4 DEX 4
INT 2 MND 2
CHR 30(1アップ!) LUK 1 (+1)
★所持スキル
鑑定(1) アニマルコマンド(10) 取得経験値増加(1) 異次元収納BOX(1) 自動剥取(1) 職業変更(1)
★所持法術
★所持職業一覧
ロードLv7 動物使い見習いLv8 剥取士見習いLv2
刹那、レベルアップのログが流れた。
が、今は無視。
すぐに反転し、バックステップ。
ぶ~ん、という聞き慣れた嫌な羽音を鳴らしながら、残る一匹が旋回する。
その間に俺の方も構える。
正眼の構え。
レイピアを振り上げ、タイミングを合わせて振り降ろす。
一刀両断……とは流石にいかなかったが、無事モスキートナイトを倒した。
★フォレストクロウ
息つく暇もなく、次のモンスターが現れた。
漆黒のフォルム。
夜闇の中、そいつは上空から襲い掛かってきた。
もちろん、容赦なく斬り捨てた。
剣の性能が良すぎるのだろう。
こいつも一撃。
[カズキは森鴉の羽根を手に入れた!]
フォレストクロウが消えると、今度はアイテム取得ログが流れた。
異次元収納BOXから取り出してみると、黒い羽根が。
矢を作る時にでも使うのだろう。
★フォレストクロウ
★フォレストクロウ
またすぐにバサバサという音が聞こえた。
今度は2羽か。
やたらとエンカウント率が高いのは気のせいだろうか?
森鴉の羽根を異次元収納BOXに戻し、すぐに剣を構える。
一直線に向かってきたフォレストクロウを前ダッシュで躱し、次いでサイドステップ。
着地と同時に先程のフォレストクロウへと近づき、一閃。
銀光が弧を描き終わった時、また一つモンスターの命が失われた。
また詰まらぬモノを斬ってしまった……などと感慨に更けていると、後頭部に衝撃が。
忘れていた。
もう1匹いたんだったか。
こら、つつくな。
これは借り物の身体。
傷物にしてしまったら俺はどう責任を取れば良いというのか。
お返しに、つつき返した。
[リースがレベルアップしました!]
★名前 リース...(憑依:滝川一騎)
★種族 混沌の民 ★性別 男性
★職業 剥取士見習いLv3(1アップ!)
★基礎ステータス
STR 2 VIT 2
AGI 4 DEX 5(1アップ!)
INT 2 MND 2
CHR 31(1アップ!) LUK 1 (+1)
★所持スキル
鑑定(1) アニマルコマンド(10) 取得経験値増加(1) 異次元収納BOX(1) 自動剥取(1) 職業変更(1)
★所持法術
★所持職業一覧
ロードLv7 動物使い見習いLv8 剥取士見習いLv3
[カズキは森鴉の羽根を手に入れた!]
がむしゃらに剣を突きあげたら、うまい具合にザクッと。
すぐに煙になって消えてくれたが、あのまま残っていたらきっとかなりグロテスクな状況になっていただろう。
★フォレストクロウ
★フォレストクロウ
★モスキートナイト
★モスキートナイト
少し待て!
いくらなんでも連戦し過ぎだ。
夜はエンカウント率が上がるというのは聞いていたが、流石に多すぎる!
まさかリースの魅力と不運が招いているのか?
敵は考える暇など与えてくれなかった。
幸い、一方向からの襲撃だったので、落ち着いて対処すればどうにかなった。
何しろ、全て一撃。
リースが持っていた剣が業物で本当に良かったと思う。
[カズキは森鴉の羽根を手に入れた!]
相変わらずにモスキーナイトは何も残してくれない。
今度はレベルアップもしなかった。
★モスキートナイト
そう思っている間に、また新手が。
今度は一匹。
そろそろ敵の動きに慣れてきたので、思い切って素手で闘ってみた。
タイミングを合わせて拳を振るう。
ボクシングでいうと、フック。
まるでゴム弾を殴ったような手応えと共に、モスキートナイトの軌道が変わった。
ほんの1メートルほど。
それだけ。
モスキートナイトはピンピンしていた。
もう一度殴る。
ジャブ。
モスキートナイトが少しだけ後退した。
もちろん、空中で。
すぐにまた加速し、俺の方へと向かってくる。
今度は腰を入れて思いっきり殴ってみる。
ストレート。
3メートルぐらい吹っ飛んだ。
結構な手応えがあった。
ちょっと腕がヒリヒリする。
だがしかし。
モスキートナイトは何事も無かったかの様にまた飛び向かってきた。
ダメージを受けている気配が感じられない。
っと、悠長な事を考えている暇は無かった。
大振りしたため、次の攻撃に移る前に敵の攻撃の方が早い。
注射針の口が迫る。
うぉぉ……。
危ない。
何とか避けた。
あれで心臓をブスッと刺されたら、血を抜かれるどころでは済まない。
これは命の遣り取りだという事を忘れていた。
忘れていたのだが。
ちょっとムカついたので、ムキになってしまった。
そのモスキートナイトと拳で語り合ってしまった。
何度も殴る。
時には蹴る。
注射針の口を掴んで地面に叩き付けもした。
反撃で何度か体当たりを食らってしまう事も。
途中、邪魔してきた奴等は容赦なく斬り捨てた。
そしてようやく。
モスキートナイトが煙となって消え去った。
『はぁ……はぁ……』
肩で息をしながら汗を拭う。
実に良い死合だった。
まさかこれほど大変だとは思わなかった。
そして改めてこの剣の凄さを実感。
[リースがレベルアップしました!]
★名前 リース...(憑依:滝川一騎)
★種族 混沌の民 ★性別 男性
★職業 剥取士見習いLv5(2アップ!)
★基礎ステータス
STR 3 (1アップ!) VIT 3(1アップ!)
AGI 5 (1アップ!) DEX 5
INT 2 MND 2
CHR 32(1アップ!) LUK 1 (+1)
★所持スキル
鑑定(1) アニマルコマンド(10) 取得経験値増加(1) 異次元収納BOX(1) 自動剥取(1) 職業変更(1) 格闘術(10)New! 拳撃(1)New!
★所持法術
★所持職業一覧
ロードLv7 動物使い見習いLv8 剥取士見習いLv5 格闘士見習いLv1 new!
[カズキは森鴉の羽根を手に入れた!]
[カズキは森鴉の羽根を手に入れた!]
[カズキは森鴉の羽根を手に入れた!]
[カズキは森鴉の羽根を手に入れた!]
[カズキは森鴉の羽根を手に入れた!]
[カズキはストローを手に入れた!]
そして、予想外に色々と実入りがあった。
特にボーナスポイントを注ぎ込まなくてもスキルや職業を手に入れたのは大きい。
ステータスの方も若干伸びが良い気がする。
未だに【剣術】を覚えていないのは少し不満だが。
★フォレストクロウ
★フォレストクロウ
★フォレストクロウ
と、余韻に浸っている間もなく、次の団体さんか。
流石に辛い。
逃げよう。
★フォレストクロウ
★フォレストクロウ
しかし回り込まれてしまった。
だが俺は逃げる。
★フォレストクロウ
★フォレストクロウ
更に追加オーダーが入った。
流石リース。
運の悪さは伊達ではない。
夜の追いかけっこが始まった。
レ「アレック。分かっているだろうが……」
ア「っす。リース様の部屋には誰も入れさせないっす」
★☆★☆★☆★☆★
カ『お勤めご苦労様。ちょっとでかけてくるね』
ア「っす。行ってらっしゃいっす」
カ『(それでいいのか、護衛……)』