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憑きモノ王子とダークな騎士団  作者: 漆之黒褐
第1章 『憑きモノ王子の旅立ち』
5/19

第4話 レベルアップ

 リースはレオン達と共に4人でカザスの村まで歩いていた。


「(馬、無いんですね……)」


『(生活の足しにするため全部売り払ったって言ってたな)』


 プラス1居候。


「(それ、早く言って下さい)」


 この世界、貴族は自らの足で歩かない。

 何処に行くにしても馬車に乗るか、もしくは自分で馬に乗って移動する。

 しかしリース一行は誰も馬に乗っていなかった。


「リース様、もう少し行くと大きな木があります。そこで一端休憩致します」


「うん、そうだね。僕はまだ大丈夫だけど、アレックが辛そうだしね」


「だ、大丈夫っす……何とか頑張れるっす」


 そう言うアレックだったが、彼は今にも倒れそうだった。

 青色の全身鎧を着込んでいるアレックは、4人の中で最も重装備。

 壁役という名に相応しい鎧騎士だった。

 その背中には大きな金属盾、ナイトシールド。

 リースなら頭まで隠れそうだった。


 そんなアレックが今苦労している理由。

 それはリースが事前に、何かあった時の事を考えてフル装備で向かうと通達していたからだった。

 いつものように馬があるものと思い込んでいたリースは、重装備でも問題無いと考えていたようだ。

 しかし蓋を開けてみれば馬がない。


 カザスの村に行くという話を聞いていたのは俺。

 つまり真の原因はそれを伝え忘れた俺にあった。

 その罰は今、受けている。

 リースと共に。


 休憩場所に到着すると同時にアレックは倒れた。

 リースも倒れた。

 一年間も寝たきり生活だった子供が――「(カズキ!)」――怒られた――まともに1日中歩ける訳がない。


 リースが着ていた軽鎧はアレックが背負っていた。

 持っているのは腰に差している小型の小剣(レイピア)のみ。

 勿論、リースの体格に合わせた特注品。

 子供のリースに――「(カズキ!)」――また怒られた――良く似合っていた。


「ところでリース様、一つ聞いても良いか……良いですか?」


 最も涼しい木陰をアレックに譲り、これからの事を考えていたリースにナハトが話し掛けてきた。

 ナハトはヤンチャ坊主が絵に描かれた様な好青年。

 友達にしておきたいと思うのは俺だけではないだろう。


「あまり畏まらなくても良いよ、ナハト。今の僕は一般人だからね。それに堅苦しいのはあまり好きじゃないんだ」


「お、話が分かるね。んじゃ、遠慮なく」


「ナハト!」


 3人の中で最も礼節を重んじているレオンがナハトを諫める。

 が、リース自身がそれを止めたため渋々レオンは引き下がった。

 レオンは苦労人の称号が似合う。

 欲を言えば眼鏡も欲しいぐらいだ。


「それで、何を聞きたいの?」


「……リース様、分かってて聞いてるだろ?」


「うん、まぁ」


 3人の視線は、リースの膝の上に向かっていた。

 その場所では、猫がリースの手によって優しく撫でられていた。




★名前 ミケ




「ミケ、だよな?」


「屋敷にいたミケですね」


「うん、ミケだね」


 ミケは幸せそうな表情を浮かべてリースの膝上で寛いでいた。

 モフモフが止まらない。


「何で連れてきたんだ? いや、とても癒されるんで大歓迎なんだが」


 リース達のいるシルバーパール領は獣人族が多く暮らしている。

 その影響で動物達も多かった。

 領主自身も栗鼠の獣人であり、屋敷には多くの動物達を飼っている。

 いや、獣人族にとって動物は家族なので、飼うというのは不適切な表現か。


 しかしそんな獣人達でも、旅に動物達を同伴させるという行為はあまり一般的では無かった。

 特に、戦闘には向かない動物ならば尚更だろう。


 この世界にはモンスターがいた。

 しかも非常に多かった。

 だから襲われる危険も高い。

 旅に出てモンスターに襲われない事はまずないぐらいに。


 弱い動物達は真っ先に狙われる存在。

 モンスター達は基本的に弱い存在から虐めようとする。

 殺そうとする。

 理由は不明。

 それは本能みたいなものだった。


 それ故に、ペットを連れ歩くというのは一般的ではなかった。


「この街道にはあまり強いモンスターは出ませんが、数が多いとリース様も戦わざるをえません」


 リース達はこれまで何度もモンスターに襲われていた。

 街道を進んでいるのに、驚くほどエンカウント率が高かった。

 30分に一度は襲われている。


 敵が現れるたびにレオンとナハトが走り出し、戦う。

 彼等も鎧を着込んでいるというのに、まるで苦にしていなかった。

 流石、現役の騎士様は違う。


 アレックはリースを守る為、盾を持って防御体勢。

 リースはその場で待機。

 2人とも休んでいたとも言う。


 今の所、リース自身は戦っていなかった。


「特に夜は出現するモンスターは強くなります。そうなった場合、リース様はミケを守りきれますか?」


 カザスの村は、シルバーパール伯爵邸のある都市から南に徒歩で約1日。

 途中で一晩をあかす必要があった。


 レオンの言うように、夜になるとモンスターは活発になる。

 危険なモンスターも出現しやすくなる。

 定番だ。


 これまで見学している限り、日中に出現するモンスターならば問題無さそうだった。

 恐らく俺でも倒せるだろう。

 流石にサクッという訳にはいかないが、間違いなく勝てる。

 俺は剣道を囓っている。

 それ以上に囓っていたVRMMORPGが役に立つ予感。


 但し、レオン達が心配している夜の方は不明。

 反対にサクッと殺されるものと考えておく。


 リースは――いや、俺はミケを個人的な都合で連れ回していた。

 旅にモフモフ要員は必需品。

 しかしミケは俺のペットではない。

 シルバーパール伯爵の大事な家族。

 だからミケを死なせてしまうというのは、間違ってもやってはいけない事だ。


 もし仮にそんな事態となれば、最悪、伯爵に殺される可能性も否定出来なかった。

 そんな雰囲気をレオンから感じた。


 ナハトの方は、まぁなるようになるだろうという軽い感じ。

 俺と同じ。


「えっと、それなんだけどね……」


 リースはその理由を知っている。

 居候している俺の我が儘だと。

 しかし、それを正直に言う事は出来ない。

 色々な意味で。


 誰にも気付かれる事無く、俺はミケを連れ出した。

 どうやってか?

 別に隠していた訳じゃない。

 旅の荷物をリースは持っていないので――可哀想な事に荷物要員はアレック。このメンバーの中で一番の力持ちだった。実は何気に凄い奴――ミケを隠す場所は無かった。


 服の中に入れて隠すなど不可能。

 小柄なリースに――「(カズキ!)」――また怒られた。どうもリースは〝小さい〟とか〝子供〟とかいう言葉に対して妙に勘高い。心の口に出していないのにすぐ気付かれる――ミケを隠す場所は無い。

 巨乳を通り越して爆乳になる。

 胸回り腰回りが倍の大きさになる。


 ならばどうやってか?

 それは秘密です。


『(別にばらしても問題無いと思うが?)』


「(いくら何でも、昨日今日で変わったと言うのは申し訳無くて……レオン達は一年間ずっと僕に仕えてくれてたんだし。カズキ、出来れば事前に相談して欲しかったかな)」


『(それは済まなかった。後悔はしていないが)』


「(反省はしてくださいね!?)」


 言い淀んだリースに、とりあえずレオン達は引き下がってくれた。

 王子の身勝手な我が儘だと理解してくれた。


 父親と国を失ったリースにメンタルケアは必要。

 行方不明の母と姉妹を心配しているリースは、常に精神ダメージを受けている。

 あと、一年間という成長期間も失った。

 リースの悩みは深い。


 モフモフで癒されようとするのは至極当然。

 レオン達はそう思ってくれた。


「む、またモンスターか!」


 木陰で鋭気を養っていると、モンスター出現。

 ゲームの様に、動いていなければエンカウントしないというのはなかった。


 ミケが耳をピンと立て、ニャーと鳴いた。

 教えてくれたらしい。

 お礼にモフモフ。

 ――っと。

 リースに腕を返さなければ。


「アレック!」


「っす!」


 3人が瞬時に立ち上がり、武器を手に取った。


 レオンは槍。

 ナイトスピア。

 片手でも両手でも扱える武器。

 レオンは両利きだった。


 ナハトは斧槍。

 ハルバード。

 両手で振り回すが、片手でもいけるらしい。

 重そうなのに。


 アレックは剣と盾を構える。

 ナイトソードとナイトシールド。

 剣は盾の裏に収納されていた。

 腰にも剣を差しているが、こちらは緊急時に使用される。


「ちっ、数が多い。出るぞレオン!」


 彼等が守るべき対象はリースただ一人。

 残念な事に、ミケは対象外だった。


「アレックは守りを頼む!」


「っす!」


 瞳に映ったのは巨大な鼠の群。

 プレインマウスという、この近辺の街道によく現れるモンスターだった。

 別名、猫の遊び相手。

 ミケが疼いてます。

 モンスターの方が大きいのに。

 狩人の目になっている。


 数は10匹。

 1対1ならレオンとナハトにとって取るに足らない相手。

 しかし2匹同時に相手するとなれば仕留めるのに少し時間がかかる。

 3匹同時となると暫く身動きが取れなくなる。

 プレインマウスは雑魚だったが、油断して良い相手ではない。

 微妙に狡猾だからだ。


 もし数匹を相手にしている間に回り込まれた場合、リースを守るアレックまでもが複数を相手にしなければならない。

 乱戦になればリースも剣をとらざるを得ないだろう。


『(リース、変わろう)』


 提案。

 要望とも言う。


「(いや、カズキはそのままでお願い。たぶん、カズキが僕の身体を動かしても変わらないと思うから)」


『(一応、剣の心得ぐらいはある。相手を斬り殺す剣ではないが)』


 剣道は活殺の剣。

 ゲームはただ相手を倒すだけの剣。

 殺人の位には程遠い。


「(剣の心得なら僕もある。これでも子供の頃からみっちり鍛えられてるからね。腕は全く上がらなかったけど。モンスターを殺した事は何度もある)」


『(それがレベル2の理由か)』


 リースは剣を構えた。

 プレインマウスはすぐ側まで迫っていた。


 レオンとナハトが7匹を受け持ち、既にそれぞれ1匹ずつ仕留めていた。

 残る3匹を、リースの目の前でアレックが何とか押しとどめようと頑張っている。

 が、数と機動力の差はうめられない。


 モンスター達は最初からリースを目指していた。

 彼等の本能が、リースを一番弱そうな相手だと見切ったのだろう。


 遂に1匹がアレックの横を抜ける。


 ――ん?

 木の上に待避させたミケは?


「こい!」


 リースがプレインマウスを迎え撃つ。


 リースが持っているのはレイピアのみ。

 鎧は脱ぎ捨ててしまっている。

 上等な服のみが装備品。

 攻撃力、防御力、共に低かった。

 但しその分、身軽。

 手数で攻めるのが吉。


「たぁっ!」


 牽制の一閃。

 プレインマウスは余裕を持って飛び退き、リースの攻撃を躱す。


 逃げるプレインマウスを追って、更にリースは剣を振る。


『(驚くほど当たらないな)』


 しかし、リースの攻撃は全て空振りに終わっていた。

 ぶんぶんという風を斬る音が、気持ち良いぐらいに鳴る。

 プレインマウスは避け続ける。


 アレックは守りに徹していた。

 レオンかナハトが戻ってくるのを待っていた。

 しかしいつの間にかリースの姿がアレックの視界に入っていた。


「リース様、前に出過ぎっす!」


 プレインマウスの一匹を盾で殴り付けたアレックが叫ぶ。

 守るべき対象が前に出ては、守勢に徹していても意味が無い。

 アレックも攻撃に転ずる。

 が、その剣はなかなかプレインマウスをとらえられなかった。


「ぐっ」


 攻撃に転じた事で、アレックは攻撃を受けてしまう。

 守りに徹しているならば2匹でも3匹でも相手に出来るのだろう。

 アレックも攻撃が苦手だった。


「しまった!」


 重心が不安定なところで更に強烈な一撃を受けてしまい、アレックが倒れる。

 鎧の御陰でほとんどダメージは見受けられない。

 しかし、プレインマウス達は倒れたアレックには構わず、リースの方へと向かう。

 先にリースを仕留めるために。


 その事にリースはまるで気付いていなかった。

 視界に映っていたが、目の前の敵に集中していて気が付いていない。


『(リース)』


「しまっ……!?」


『(援護は任せろ)』


 ミケが頭上より舞い降りた。

 向かってきたプレインマウス達の間にミケが入り込む。

 そしてあっと言う間にプレインマウスの一匹を仕留めてしまった。


 強いな、おい。

 天敵補正でも入っているのか?




[ミケがレベルアップしました!]




 しかもレベルアップしてしまった。

 戦闘中なのに。

 戦闘終了後に精算というスタイルではないらしい。


『(リース、援護は任せろ。御前は目の前の敵に集中だ)』


「(ありがとう、カズキ)――たぁっ!」


 またリースのレイピアが空振った。

 命中率が低すぎる。

 リースのDEXは3。

 これが問題なのか?


 いや、武器があっていないという可能性もある。

 身の丈に合わない武器を装備すればペナルティを受けるというのは良くある設定。

 リースは元王子様。

 お金に物を言わせて良い武器を持っていても何ら不思議ではない。


「リース様をやらせはしないっす!」


 アレックのシールドタックルがプレインマウスに炸裂。

 結局、アレックが助けに入るまでリースは攻撃を当てる事が出来なかった。


 ミケがもう一匹のプレインマウスを仕留める。




[カズキがレベルアップしました!]




 そしたら俺のレベルが上がった。

 リースのレベルは上がらない。

 別腹。


 プレインマウスの残りは4匹。

 レオンとナハトが3匹を相手にし、アレックがタイマン。

 もはやリースに出番はない。


 リースは悔しそうにしていた。


「リース様、ご無事ですか?」


 戦闘終了。

 リースのレベルはやっぱり上がらなかった。


「すまねぇ。流石に全部は無理だった」


 七匹抑えただけでも十分凄いと思う。


「僕は大丈夫だよ。それよりアレックが……」


「……っす」


 戦闘が終わると同時に、アレックはまた倒れた。

 体力の限界だった。

 ご苦労様。


「ところで、ミケが戦闘に加わってた様に見えたんだが、ありゃ気のせいか?」


「私も見ました。ミケも戦えるのですね」


 リース様よりも強いのですね、とは言わない。


『(リースよりも強いんだな)』


「(……)」


 代わりに俺が言ってやる。

 リースが思い切りへこんだ。


「流石、シルバーパール伯爵の子飼いの猫です。リース様はこの事を知ってらしたのですか?」


「俺は一年もあの屋敷にいるのに、全然気付かなかったぜ。流石リース様」


 へこんでいる所に2人が持ち上げる。

 リースはますますへこんだ。


『屋敷の人達から色々と聞いてたからね。エイミー嬢に許可も取ってある』


 隙だらけだったので乗っ取ってみた。

 そしてリースの代わりに発言する。


 そしたらリースが驚いた。

 ――そう言えば、言ってなかった気がする。


「そうですか」


 安心したのか、レオンの表情が柔らかくなった。


『ミケ、おいで』


 当面の問題が解決したので、モフモフ再開。

 リースは暫く放っておこう。


 ――ああ、そうそう。




★名前 滝川一騎

★種族

★性別

★職業 動物使い見習いアマチュア・アニマルテイマーLv2


★ボーナスポイント 0


★基礎ステータス

 STR

 VIT

 AGI

 DEX

 INT

 MND

 CHR

 LUK


★所持スキル

 鑑定(1)  アニマルコマンド(10)


★所持法術


★所持職業一覧

 ロードLv2  動物使い見習いLv2


◆使役中の動物◆

 ミケ




 実は残っていたボーナスポイントを注ぎ込んで職業『動物使い見習い』を取得していた。

 さっきレベルがあがったので、レベルは2。

 スキルは最初から職業とセットになっていた。


 これが秘密の正体。


「(まさか猫に守られる羽目になるなんて……)」


 リーフはミケより弱かった。





アレックはこの世の果てで叫んだ。

「鎧さえ着てなければ俺の方が強いっす!」

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