第3話 気分はVR
「(……あれ? ここは?)」
『(お、起きたかリース。おはよう)』
エミちゃんの爆弾発言で気絶していたリースがようやくお目覚めになった。
「(あ、カズキ。おはよう……って、僕の身体が勝手に動いてる!?)」
『(ちょっと借りている。いや、やってみるもんだな。気分はまさにVRだ)』
気絶している間にリースの身体を乗っ取った。
乗っ取れてしまった。
リースの身体を動かしてる感覚は、VRにかなり似ていた。
感覚は一部カットされたまま。
但し行動の制限はなし。
ズボンや下着を降ろしても、警告メッセージなし。
やっぱりこの世界はリアルだと痛感。
ただ、問題も。
リースが小さすぎて、ちょっと動かしにくい。
生前の感覚がまだ残っているからだろう。
つまり、早くこの感覚に慣れなければ。
という訳で、散歩に出かけていた。
勿論、宿主の許可無く。
屋敷の中をウロウロ。
ついでに、廊下で出会った屋敷の人達に次々と声を掛けていった。
そしたら何故か、ほぼ全員から頭を撫でられたり抱擁を受けた。
出会う人達はほとんどケモケモ。
なのに、リースの方が愛玩動物扱い。
モフりたいのに、モフらせてくれない。
それもこれも、全てリースが可愛い過ぎるのが原因。
嬉しいような、悲しいような。
ちなみに現在進行形。
「(カズキ、僕の身体を返して下さい!)」
『(もうちょっとだけ使わせてくれ。部屋に着くまでが遠足遠足)』
そう言いつつ、屋敷をもう一回り。
リースに屋敷を案内すると見せかけて、モフれそうなケモケモを探す。
部屋に連れ込めそうなケモケモを探す。
「ありがとう、と言えば良いのかな?」
『(どういたしまして、と言っておく。あと、心の声で喋ろうな? 噂になってたぞ、一人芝居の王子様)』
帰りの道中で猫と栗鼠を捕まえる事に成功。
部屋に連れ込む事にも成功。
モフモフ。
モフモフ。
ん?
ケモっ娘メイドさん達を部屋に連れ込まないのは何故かだと?
いや、それは犯罪。
「(他人に自分の身体を動かされるのって、とても変な感覚ですね)」
満足したので、身体の主導権をリースに返却。
但し、腕だけは引き続きレンタル中。
目的は勿論、モフモフ。
「(カズキ、何かイケナイ事してないよね?)」
何だかリースの口調が堅い。
疑心暗鬼になっている。
俺は何も悪い事はしていないのだが。
リースの信頼が見えない。
『(基本、聞く側に徹してただけだ。何もしなくても向こうの方から話かけてくるからな。モフってくるからな。いや、子供属性をなめていた。俺にもあんな時期があったんだよな。あの時は迷惑だなって思ってたが、実は天国?)』
「(本当に何もしてないよね!?)」
リースの疑心がレベルアップ。
見知らぬ土地にいるとはいえ、リースも一応王族の端くれ。
なのに、持ち前の可愛らしい容姿と背の低さが災いして、皆がリースを小動物を見るような目をしていた。
屋敷の人達は、リーフをモフりたそうな目で見ていた。
でも相手は王族。
皆、ぐっと我慢していた。
俺もモフリストの端くれ。
その気持ちは海よりも深く分かる。
分かってしまう。
流石にいたたまれなくなったので許可してみた。
そしたら僅か数分でその発言が屋敷中に拡散。
あとはモフモフされ祭り。
王子としてのケジメの一線が無くなってしまいましたとさ。
『(あ、レオン達の話も一通り聞いておいたぞ。詳細は後でな。それよりもリース、これって見えるか?)』
「(カズキ、それは流石に踏み込みすぎです……え、何です、これ?)」
★名前 リースウェルト・オーズ・H=フランヴェル
★種族 混沌の民
★性別 男性
★職業 ロードLv2
★能力値
STR 3
VIT 2
AGI 5
DEX 3
INT 2
MND 2
CHR 34
LUK 1
★所持スキル
???(?)
★所持法術
★所持職業一覧
ロードLv2
「(あの、これって……僕の情報を可視化したもの、ですか……?)」
『(やはり見えるか)』
リースが気絶している間、俺もただモフられていただけではない。
色々試してみた。
そしたら、ステータスが見えた。
「(最初の4つは分かります。カズキのいた世界ではどうだったのかは知りませんが、こっちでは自分自身の情報は誰でも見る事が出来ますので……レベルまでは表示されませんが)」
この世界の住人は、自分の名前、種族、性別、職業の4つを自由に見る事が出来るらしい。
所持しているスキル、法術、職業も見えるとのこと。
しかし、レベルは見えない。
能力値も見えない。
それは俺も確認した。
普通の人は、次の様に見える。
★名前 リースウェルト・オーズ・H=フランヴェル
★種族 混沌の民
★性別 男性
★職業 ロード
★所持スキル
???(?)
★所持法術
★所持職業一覧
ロード
しかし、今の俺には次の様に見える。
その情報は、視界を共有しているリースにも見えている。
★名前 リースウェルト・オーズ・H=フランヴェル
★種族 混沌の民
★性別 男性
★職業 ロードLv2
★能力値
STR 3
VIT 2
AGI 5
DEX 3
INT 2
MND 2
CHR 34
LUK 1
★所持スキル
???(?)
★所持法術
★所持職業一覧
ロードLv2
その理由はまだ秘密だ。
「(このアルファベットは何でしょう?)」
『(流石に馴染みがないか。こいつはな……)』
一つ一つ丁寧に説明していった。
色々とツッコミたいところだが、ここは棒読み気味に。
数値が随分と低い。
だがリースはほとんど驚いてくれなかった。
リース自身、能力が低いのは自覚があるとのこと。
AGI――敏捷度が高いのは、やはり小さいから?
禁句だ。
CHR――魅力値が異常に突出しているのも華麗にスルー。
人徳値だと思えば、王族として考えればむしろ歓迎すべき数値。
あのモフられ様だし、俺の方も納得。
「(ちょっ!? いくらなんでも低すぎません!?)」
しかし、LUKが雀の涙しかないのは流石のリースも無視する事が出来なかった。
リースが泣いた。
俺も泣いた。
但し、対策は可能。
その理由はまだ秘密だ。
「(あの、カズキ……この情報は……)」
『(リースのステータス情報だな)』
「(いえ、それは分かるのですが……)」
★名前 ミケ
「(あれ? 今度はこの子の名前ですか?)」
『(正解)』
リースの情報を消して、その代わりに膝上でモフモフしている猫の情報を表示してみた。
但し今度は詳細なステータスは表示されない。
名前だけ。
「(カズキ、もしかして【人物鑑定】のスキルを持っているんですか?
いや、でも情報が詳細すぎるし……熟練度がかなり高い?
でも、この猫の情報は名前だけしか分からないのは……)」
『(ふむ、その分だとこれはそれほど驚くような事ではないということか。
ちなみに、持ってるのは【人物鑑定】ではなく【鑑定】だ。
取ったとも言うが)』
「(はい?)」
『(見せた方が早そうだな。これが俺のステータス情報だ……空欄多いが)』
★名前 滝川一騎
★種族
★性別
★職業 ロードLv2
★ボーナスポイント 1
★基礎ステータス
STR
VIT
AGI
DEX
INT
MND
CHR
LUK
★所持スキル
鑑定(1)
★所持法術
★所持職業一覧
ロードLv2
「(――すみません。理解が追いつきません。【鑑定】って何ですか?)」
『(いや、そのままだが? むしろ食い付くところはそこなのか?)』
俺にあって、リースにない項目がある。
敢えて何かは言わない。
一目瞭然。
「(【道具鑑定】や【人物鑑定】というスキルなら僕も聞いた事があります。
でも、ただ【鑑定】という名前のスキルは知りません。
えっと、聞くのが怖いのですが、このスキルの効果対象ってどこまでなのでしょうか?)」
『(とりあえず、見えるもの全てだな)』
「……」
リースが絶句した。
これが絶句。
リースの感情に引きずれて俺の思考も約3割が緊急停止。
これは……意外と苦しい。
呼吸が。
呼吸が止まっている。
息をしていない。
またリースが死ぬ。
死んでしまう。
何とかしなければ。
★名前 ティキ
もう一匹のモフモフ要員、栗鼠の名前を表示してみた。
呼吸再開。
リースが生き返った。
流石モフモフ。
伊達にモフモフっていない。
モフモフ最強伝説は健在だ。
「(ありえません)」
この世界に鑑定系スキルは存在する。
但しそのスキルは、ある程度限られた範囲の情報しか暴けないそうだ。
定番【武器鑑定】【防具鑑定】【道具鑑定】などの物品鑑定スキルならば、専門職が使用可能。
有り触れている。
【人物鑑定】【動物鑑定】【魔物鑑定】【精霊鑑定】といった生物情報を鑑定出来るスキルは檄レア。
むしろこれらのスキルは持っているとヤバイ。
プライバシーの侵害になる。
争いには事欠かないだろう。
国が密かにそれらのスキルを所持している者を抱え込む事もあるが、バレた時には即戦争もあり得るという。
オープンもクローズも危険だらけ。
ならば、オールOKのこの【鑑定】スキルは?
『(まだ見えるのは名前ぐらいだけだけどな。
メイド達の下着の色が何色かまでは流石に分からなかった。
熟練度をあげれば見える様になるのか?
それとも透視スキルとかが必要なのか?)』
「(僕に聞かないで下さい!)」
怒られた。
凄く怒られた。
尚、スキル名の後にあるカッコ内の数値はレベルではなく熟練度。
レベルとどう違うのかは不明。
『(もう一つ確認しておきたい。この【鑑定】スキルをリースの意志で使用出来るか?)』
「(……使えないみたいですね。ミケとティキの名前を見ようとしてみたのですが、何も見えませんでした)」
リースがほっとしたのが分かった。
『(そうか。それは残念だ。お互いが持ってるスキルを自由自在に使えたら便利だったんだがな。流石にそこまで甘くないか)』
リースが持ってる謎スキル【???(?)】はいらないが。
見えないのはどうでもいい。
マイナス効果しかないスキルなど欲しいとは思わない。
この世界には脆弱系スキルも盛り沢山。
全然嬉しくない。
「(カズキ、出来ればずっと僕の中で大人しくしてくれると嬉しいのですが。あと、そろそろ僕の腕を返して下さい)」
『(断る。俺はもっとモフモフしたい)』
元いた世界では、何故か俺は動物達に激しく嫌われいた。
特に、一番大好きな猫との相性は最悪。
モフるどころか、近づくことすらままならなかった。
俺はモフモフをこよなく愛しているモフリスト。
だがリアルでのモフモフ経験値はゼロまっしぐら。
いつもぬいぐるみやゲーム内で自分を慰めていた。
それに対して、どうやらリースは動物に愛される体質の模様。
何もしなくても動物達の方から勝手に寄ってくる。
ミケもティキも、庭に出たらすぐに近寄ってきた。
巨大な犬も一緒に駆けてきて押し倒されたが。
身動き取れなくなるぐらい愛された。
ベロベロされた。
モフモフ仕返した。
そしたらもっとベロベロされた。
現在、リーズが着ている服は3着目。
尚、その犬は流石に大きすぎて、屋敷の中には連れ込めなかった。
『(フシャーーーッ!)』
おっと。
リースが強引に腕を取り返そうとしてきたので、つい獣化してしまった。
「(それで、カズキの職業が僕と同じなのはどうしてなのでしょうか?)」
身体の所有権をリースからまた奪ってしまった。
現在、ミケとティキを抱いたままベッドにゴロゴロと転がって満喫中。
『(さてな。それは俺にも分からない。最初から俺もロードだった)』
但し推測はある。
ステータスを見たのはリースの身体を乗っ取った後。
「(では、ボーナスポイントというのは? 先程、カズキはスキルを取ったとも言ってましたが)」
ようやく確信に。
『(そっちも詳細はサッパリだな。
最初は2ポイントだった。
意識を集中させるとスキル一覧っぽいものが出てきたので、とりあえず持ってて困らないスキルを試しに取ってみた。
現在に至る)』
俺にとって、それはゲームでお馴染みの光景。
すぐにピンときた。
「(はぁ……)」
しかしリースには馴染みが無いうえに、思い当たる節もないそうだ。
『(色々と言いたい事はあるだろうが、今はあまり深く考えるな。リースは先に自分が置かれている状況に集中した方が良い)』
「(そう、ですね……)」
『(あと、俺という居候にリースはこれからいっぱい悩まされるのが確定してるのだから、少しぐらいメリットがあっても良いだろう。無双は任せろ)』
「(確定しないで下さいよ!? というか、早く僕の中から出ていって下さい!)」
『(出来たら苦労しない。その気も120%ない)』
「(厄介な人に取り憑かれた……僕の人生、これからどうなるんだろう?)」
既に波瀾万丈。
リースのLUKが1下がった。
「え、まさかのゼロですか!?」