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憑きモノ王子とダークな騎士団  作者: 漆之黒褐
第1章 『憑きモノ王子の旅立ち』
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第16話 父、愛ゆえに

 眼を覚ましたレオン達の行動は早かった。


「もう此処には用が無いっすね。すぐに帰るっす!」


 特にアレック。

 愛用の盾が壊れていたとか、そっちのけ。

 洞窟の中に突入したと思ったら、あっと言う間に内部を探索。

 そして非常に分かり易い報告。

 そんなに祭りのタダ酒が恋しいか。


 ものの十数分で山賊のアジトを出発。


「おらぁ、どけどけ! 俺の行く手を遮るんじゃねぇ!」


 帰りはナハトが猛威を振るっていた。

 ハルバードの一閃で次々と森鴉達を屠る、もしくは殴り飛ばしていく。

 ここだけ見れば、実に頼りになる光景。


 彼等の前にタダ酒を拒むものはもう何も無かった。


 リースが山賊退治に赴くと決まった時。

 彼等は、心の中では少し諦めの気持ちを持っていた。


 3人はまだ若い。

 リースよりも年上だが、それでもレオンとナハトは16歳。

 アレックに至っては14歳。

 己の腕を誇れる程、実力も経験も伴っていない。


 この世界には同じ年齢でも化け物じみた者は存在する。

 しかし彼等はそうではなかった。

 親が騎士であり、ただ普通に騎士の道へと入った者達。

 腕はそれなり。

 年相応の範疇。


 それ故に、この山賊退治に失敗する可能性をまるで否定出来なかった。

 最悪、殺される事を覚悟していた。


 だから、彼等は山賊のアジトを探している時、きっとこう考えていただろう。

 このまま見つからなければ良い、と。

 タダ酒は諦める必要があったが、命には代えられない。

 リースがいる手前、そんな素振りはほとんど見えなかったが。

 きっとあの時、3人は空元気だった。


「リース様、しっかり掴まっていて下さいね」


 真面目だと思っていたレオンまでが、早く村に帰る為にお荷物のリースを背負った時、俺は確信する。


『(良い部下を持ったな、リース)』


「(……いつか自慢の部下に育ててみせます)」


 俺の嫌味にリースは挫けなかった。




★☆★☆★☆★☆★☆★




「酒が不味くなる顔が帰ってきたな。おめおめと逃げ帰ってきおったか」


「いえ……」


 村に帰って早速向かったのは、ルドル伯爵のいる広場だった。

 しかも、リース一人。

 レオン達は途中まで着いてきていたが、広場に入った時には既にいなくなっていた。

 今頃、タダ酒をこれでもかと飲んでいるのだろう。


「では何だ? まさか休憩などと言うつもりは無かろう」


「山賊達をあの森から追い払う事に成功しましたので、そのご報告に」


「ほぅ……儂は殺せと言ったのだがな」


 そう言った後。

 ルドル伯爵が手に持つ杯がパリンっといって握り潰された。


 小麦色の毛並みに包まれた拳に血が滲む。

 すぐに側にいた側付きの騎士が手当をしようと近寄る。

 が、その騎士は腕の一振りで吹き飛ばされ、地面に転がった。


「見逃したのか」


「いえ。その逆です」


「なに?」


「我々は山賊達を討伐すべく戦いを挑んだのですが、力及ばず。返り討ちにあいました」


「ならば何故、生きている」


「勿論、我々もその時ばかりは死を覚悟しました。しかし、彼等は伯爵の怨みを買うのを恐れ、我々を解放。我々に知られてしまったアジトも放棄し、二度とこの地には足を踏み入れないと言って去っていきました」


「……」


 予想を外れるリースの言葉に、ルドル伯爵は周りの眼を気にする事無く、誰にでも分かる不満気な表情を示していた。

 山賊討伐という依頼は失敗。

 しかし、結果から言えば討伐したのとほとんど変わらない結末。

 逃げた山賊がどこに向かうかは分からないが、それは少なくともこのシルバーパール領ではない。

 村の者達の目があるこの場で、伯爵は個人的な裁量を振るう訳にはいかなかった。


 この話は、リースが考えたものではない。

 俺が考えたものでもない。

 発案者はシーネ。


『(いくら親馬鹿でも、体裁を無視する訳にはいかぬであろう?)』


 最初にリースと伯爵が面を合わせたのは個室だった。

 あの場には伯爵と護衛数名、そしてリース達しかいなかった。

 リース以外、全員が伯爵寄りの者達。

 それ故に、伯爵も気兼ねなくリースをぶん殴る事が出来た。


 だが、今は祭りの真っ最中。

 名目は、村を訪れた伯爵の歓迎会。

 主賓とも言える人物が……この地を治めている領主が、個人の都合だけで嫌いな人物を好きな様に裁ける場面ではない。


 この考えがサッと思い付く辺り、シーネもやはり貴族の端くれか。


「ふん、運が良かった様だな」


「はい、本当に」


「だが、儂の依頼に失敗したのは事実。娘をぬしの嫁にやるには功績が足りぬ故、まずは簡単なものを見繕ってやったというのに。このざまか」


「格別のご配慮、ありがとうございます。それで、実はその件なのですが……」


「おお、そうだ。ならばこういうのはどうだ? この祭りを盛り上げるため、この場で試合するというのは。もし打ち負かす事が出来れば己の武を指し示す事が出来るので、ぬしの株もあがろう。よし、そうしよう」


「え? あの……」


 リースの言葉など端から聞く耳も持たない伯爵が、手をパンと叩く。

 すると、まるで示し合わせていたかのように、伯爵の部下達が広場を整理し始めた。

 広場にいた者達が後ろに下げられ、人のいないエリアが作られる。

 そしてそのエリアを丸く囲う様に、武器を持った兵士達が立つ。


「さぁ、今宵は祭り! 存分に楽しむ時! 儂からも一つ、その楽しみを提供しよう! 我こそはと思う者は前に出よ! ここにいる若き勇者に勝利した者には褒美を出す! 希望するなら兵士にも取り立ててやろう! 生死は問わぬ! これは祭り! さぁ、皆で楽しもうではないか!」


「え、ええっ!?」


 リースの腕が掴まれ、即席の舞台に放り投げられた。

 祭りの生贄として捧げられた。

 何気に「生死は問わぬ」とか。

 こっそり伯爵の本音が台詞の中に含まれていた。


「よっしゃあ! なら俺からだ!」


 間髪入れず、対戦者現る。

 当然、リースの頭はまるで追いついていなかった。

 対戦者が目の前に来ても、伯爵の方を呆然と見ている。


 ――って。

 おいおい、トップバッターはナハト、貴様か。

 しかも、別れてからほんの少ししか経っていないのに、もう顔が真っ赤。

 ナハトはベロンベロンに酔っぱらっていた。


「てめぇが誰だか知らねぇが、悪く思うなよ。今、すっげー機嫌が悪いんだ。一発殴らせろ」


「え、ちょ……っ?!」


 しかも前後不覚。

 今から殴ろうとしている相手が、主君であるリースだと気付いていない。

 殴ると言いつつ、思い切りハルバードを構えていた。

 そんなもので殴られたら余裕で死ねる。


『(カッカッカッ。面白くなってきたのぉ)』


『(……ゴザル、頼む)』


 乗り切れると思っていたのだが、伯爵の方が一枚上手だったか。

 ここはワイルドカードを切るしかない場面。


『(拙者は既に死した身。出来れば、余程の事が無い限り手は貸せぬ)』


『(……殺されそうになっているのにか?)』


『(死すべき時にはただ死すのみ。それに、死に者の拙者にはリース殿の生には関わるべきではない)』


『(なら、何で昨夜は助けた?)』


『(……余程の事があった故に)』


 男と交わるのはゴザルにとって余程の事だった。

 まさか生前に何かあったのだろうか?

 確か、昔はそういう事も盛んだったとか何とか。

 戦場には男しかいないしな。

 好色一代男とかいう有名な本も出ているぐらいだし。


『(ふむ……出来れば儂はもう少しこの生を楽しみたいのじゃがな)』


 シーネは賛成派だった。

 これで3対1。

 多数決で勝利。

 とはいえ、まともに戦えるのは反対しているゴザルなので、この場合はあまり意味ない。


『伯爵殿よ。ちと良いかの?』


「ん、うん?」


 リースの身体をハイジャックしたシーネが伯爵の方を見る。

 急に貫禄を見せたリースに、一瞬伯爵がたじろいだのが分かった。

 打つ手無しのリースはほとんど魂の抜け殻。

 また傍観者席に落ち着き始めている。


『儂からも一つ、この場を盛り上げるための提案をしたい。儂が一戦勝つごとに、儂と伯爵殿で酒の飲み比べをせぬか?』


「ほぅ……面白い。成人になったばかりの小僧が、この儂に酒の勝負を挑むか。しかも、一戦勝つごとにだと?」


 ここで初めてリースに興味を覚えたのか。

 伯爵の瞳が、リースを一人の男性として真っ直ぐ睨め付けた。


「その勝負、乗ってやろう!」


『(その勝負、乗ったで御座る!)』


 ついでにゴザルも釣れた。

 どうやら〝余程の事〟の中に酒も含まれているらしい。

 扱い、チョロそうだな。


『(よくやった、シーネ)』


『(我にとっては雑作無きこと。もっと褒めるがよい)』


 実はシーネもただ酒が飲みたかっただけかも知れないが。


 兎に角。

 そうしてリースの窮地は再び回避される事となった。








ル「リース……ワシ……コロス!」

カ「(冗談、だよな……?)」

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