第15話 4人目の真実
『(まいったの。上手く隠れられておると思ってたのじゃが。いつ儂の存在に気が付いたのじゃ?)』
第四の人物は、意外にもアッサリと正体を現した。
「(え? ええっ!? ま、まだいたんですか!?)」
『(いたんだな、これが。俺も気が付いたのは偶然だが)』
『(拙者も気が付かなかったで御座る)』
おっと。
ゴザルも気が付いていなかったのか。
共犯だと思っていたのだが。
気が付いたのはこの瞬間。
回想スタート。
★☆★☆★☆★☆★☆★
空から降ってきたダークエルフが目標を見失い……。
「「『『『っ!?』』』」」
空中で驚きに固まった彼女の唇が、真下にあったリースの唇と重なった。
★☆★☆★☆★☆★☆★
回想終了。
「」2つはリースとディーネ。
ならば『』3つは誰と誰と誰か。
「」『』の話云々は兎も角。
あの瞬間。
俺の中に流れ込んでいた感情は3つあった。
それが、俺が第四の人物に気付いた理由。
『(拙者殿の事は儂も気付かなかったゆえ、仕方ないであろ)』
『(というか、女?)』
『(うむ。儂は見ての通りのうら若き乙女じゃ。存分に拝むが良い)』
「(あの、カズキもそうですが、僕には姿が見えないんですけど……)」
俺も見えないが。
『(おお、そうじゃったな。済まぬ済まぬ)』
『(なんまいだぶ、なんまいだぶ)』
『(……その言葉にどういう意味があるのかは知らぬが、儂をおちょくっておる事だけはわかるのじゃ。やめよ、カズキ)』
『(何だか急に賑やかになってきたで御座るな。しかも一人はおなごとか。ああ、酒が飲みたくなってきたぞ)』
全員が全員、好き勝手に喋り続けた。
リース内会議は早速明後日の方向へ。
ゴザルの言う様にお酒が欲しくなるような騒ぎ。
未成年なので俺は飲めないが。
そんな俺よりも年下のリースは成人。
おっと、飲んでも問題無いな。
『(ま、一献)』
村でコッソリ仕入れていた酒を四次元ポケットから取り出す。
『(おお!? 忝ない!)』
「(また僕の身体が奪われた!)」
何気にこの身体の持ち主であるリースが一番劣勢。
『(ほぅ……口当たりが良く、香りも良いの。なるほど、猫どもが好きそうな酒じゃ)』
ゴザルが感想を言う前に、紅一点が感想を零す。
自称うら若き乙女が、酒通の予感。
年齢詐称疑惑勃発。
『(お嬢ちゃん、名前は?)』
『(これ、年下扱いするでない。これでもぬしより遙かに長く生きておるのじゃ。長く死んでおったとも言うがの)』
言葉使いから簡単に予想出来たので驚きなど無い。
『(……なるほど。名は分からぬが、拙者にはだいだい事情が読めたで御座る)』
『(やはりそうかや。拙者殿は、カズキの……)』
『(うむ)』
『(当事者の俺を抜きにして勝手に納得しあわないでくれ)』
「(当事者、僕……)」
被害者とも言う。
『(なに、簡単な話じゃ。カズキ、ぬしがリースの中に入った時に、2人の側にいた儂等も一緒にリースの中に入っただけのこと)』
『(俺達の側にいた? それはつまり……)』
『(うむ)』
その答えはすぐに思い付いた。
すぐ側にいたとなれば、これしかないだろう。
大変不幸なリースの側にいたのは……。
『(悪霊か!)』
イビルスピリットが現れた。
『(違うわ馬鹿者! 守護霊じゃ!)』
リースの手がリースの頭をスパンと叩いた。
この守護霊様は意外とお茶目な性格をしているらしい。
★☆★☆★☆★☆★☆★
『(……という訳なのじゃよ)』
『(なるほど。よく分かった)』
「(僕にはよく分かりません……)」
まぁそうだろう。
何しろ、別に何も説明していないのに『という訳じゃのじゃよ』と言われただけなのだから。
名前も未だに分からずじまい。
むしろ意図的に焦らしている気がする。
好い加減、焦れてきたので必殺【鑑定】発動。
★名前 シルフィーネ・オーズ・A=フランヴェル
★種族 ★性別
★職業
★基礎ステータス
STR VIT
AGI DEX
INT MND
CHR LUK
★所持スキル
★所持法術
★所持職業一覧
おっと。
意外な事実が判明。
『(あ、こら。乙女の秘密を勝手に見るでない)』
どこかで見た事のある名前だった。
「(え? もしかして、初代国王様ですか?)」
そう。
オーズ・A=フランヴェルという名前は、それを意味していた。
フランヴェル家の血筋に連なる者。
アルファベットのAは、一番目の当主を意味する。
オーズは、リースの故郷〈イシュタリス連合国〉では、王族のみが名乗る事を許されている名。
『(国王か。そう呼ばれた頃もあったのぉ。とても短い間じゃったが)』
リースが遠い目をした。
何気にリースの身体を支配している初代国王様。
しかも、リースの意識が話の方に集中している事を良い事に、リースの身体を物色していた。
現在はぺったんこの胸を堪能中。
次の標的は、すらりと伸びた細い太腿と予想。
「(在位期間は3日だったとか。この話は本当ですか?)」
短い。
三日天下か。
明智光秀のように下克上?
『(本当じゃよ。長く無理をし過ぎたからじゃろうの。ようやく王位を手に入れて一息吐いたら、そのままポックリ死んでしまったわ。恐らく過労死じゃ)』
「(僕もそう聞いています。とても有名な話ですから)」
予想は外れた。
リースの手は、現在、肩を触っている。
妙に手つきがイヤらしいと思うのは、きっと俺の気のせい。
――あ、二の腕にキスした。
『(本当に、これからじゃったというのに。《混沌の民》どもを根絶やしにする準備がようやく整ったところでこのざまじゃ。人生ままならぬのぉ)』
まさかの魔王発言。
過労死ではなく、毒殺の可能性が濃厚に。
「(初代様は確か《森の民》でしたね。失礼を承知で、幾つの時に亡くなられたのですか?)」
『(315歳の時じゃ。人生最後の年じゃな。カッカッカッ)』
全然これっぽっちもうら若くなかった。
というか、リースはエルフの血を引いていたのか。
意外な事実が発覚。
『(……クスッ)』
ゴザルがコッソリ受けていた。
お腹を押さえて必至に耐えている感覚が。
「(それで、シルフィーネ様)」
『(そのような堅苦しい名で呼んでくれるな、リースよ。儂の事は可愛らしくシーネちゃんと呼ぶがよい)』
『(……死ね?)』
『(シーネじゃ! あと、シルでもシルフィーでも良いぞ)』
『(……っっ!)』
またゴザルのツボに。
リースの身体がその余波を受けてプルプル震えていた。
まるでお手洗いを我慢している女の子の様に。
「(では、失礼して。シルフィ―、ずっと気になっていた事があるのですが、聞いても良いですか?)」
〝ちゃん〟が無い。
教育的指導をするべきか。
『(儂に答えられる事であればの。流石に《森の民》の秘密は教えられぬぞ)』
「(いえ、僕が聞きたいのは別の事です。フランヴェル家にはシルフィーの血が入っているというのは間違いありませんか?)」
そもそも〈イシュタリス連合国〉は《混沌の民》が治める土地。
それ以外の種族はほとんどが奴隷だとリースから聞いていた。
そんな土地でエルフが王位に着く。
普通に考えれば、下克上どころの騒ぎではないだろう。
『(入っておるぞ。先程、儂の年齢は315歳じゃと言ったじゃろう? その頃には孫の孫の孫の……と、儂の血がかなり薄まっておる血族もおった。儂は後継者を指定する前に死んでしまったから分からぬが、二代目に選ばれたのは《混沌の民》じゃろう?)』
「(はい。そう聞いています)」
『(なんじゃ、リースはそんな事を気にしていたのか。血などどうでも良いじゃろうに。現に、儂は《森の民》でありながら《混沌の民》ばかりの〈イシュタリス連合国〉で王位をもぎ取ったしの。ま、若気の至りじゃ)』
315歳は全然若くない。
いや、長寿のエルフなら、あるいは。
「(やはり、僕の中にもエルフの血が入っていましたか。なるほど、きっとそれが原因なのですね)」
『(うん?)』
リースが気にしていたのはまた別の事だった。
「(僕の背が小さいのは、やはりエルフの血の所為なんですね!)」
飽く迄も小っちゃい事に大きなコンプレックスを持っているリース。
確かにエルフは小さい者が多いと聞く。
小柄な者が多いと聞く。
胸が小さい者が多いと聞く。
だから、自分の背が低いのは、全てエルフの血が悪いとリースは言う。
この世界には小っちゃいことで有名な《鍛治の民》もいるらしいが、そっちの事は考えない。
リースは《混沌の民》なので《鍛治の民》の血が混じっていてもおかしくないのだが。
分からない血筋よりも、分かっている血筋の方に原因を求めていた。
尚、エルフとダークエルフは別種族。
《森の民》と《昏森の民》。
エルフがスレンダーな体型に対し、ダークエルフはナイスバディが多い。
リースとディーネを見比べれば一目瞭然。
リースは別にエルフではないが、参考資料的に。
『(あー、これこれ、早まるでない、リース。その件はまた別口じゃ)』
リースの身体を物色し終えたシーネが――最後の一線も突破済――おもむろに顎を触り始める。
むさいオッサンの身体ならそこでジョリジョリという髭の感触が楽しめたのだが。
そこはツルツルのリース。
秘密の花園もツルツルのリース。
顎をさわさわしている指が良く滑る。
「(ですが、そうでも考えないと、フランヴェル家の血筋には男児が非常に生まれにくい件や、男性は全員背が低い件などの説明がつきません)」
エルフは長寿。
しかし子供は出来にくい。
エルフ自身が淡泊だという説もあった。
しかし、エルフは異種族との間にも子供が出来にくい。
そして、総じて生まれてくる子供には女の子が多い。
自分の背にコンプレックスを持っているリースが熱弁してくれた情報から抜粋。
この世界の初日、屋敷にいる時に誤って叩いた鬼門から出てきた情報。
まぁ御陰で、物凄く気になっていたエルフの情報を仕入れる事が出来たので良し。
まさか愚痴だけで徹夜させられるとは思ってもみなかったが。
直前に愛妻発言してきた伯爵の娘さんの話は欠片も無かった。
見た目はあんなに可愛かったのに。
完全に眼中に無し。
「(他に何か理由があるのですか?)」
『(う、むぅ……話しても良いのじゃがの。それはまた別の機会にしてはくれぬか? 儂等はまだ出会ったばかり。より親密にお互いを乳繰り合うのは、もう少し時を置く方が良いじゃろうて)』
そう言いつつ、シーネの手は容赦なくリースの身体を乳繰っていたが。
俺でも遠慮していた部分まで進軍、無双、蹂躙。
性別の差なのか。
それとも年の功なのか。
迷いがなかった。
『(男の身体は御免で御座る……)』
まったくその気を持ち合わせていないゴザルの精神が枯渇寸前。
この後、ゴザルにはもう少し活躍してもらおうと思っていたのだが。
これでは無理そうだ。
『(……場も動かないみたいだし、剣を回収しに行くか)』
『(そうじゃの)』
「(?)」
暫く話し合った後。
主に無駄話しまくった後。
休憩を終わらせ、行動を開始する。
『(さて、あの剣はどっちに飛ばされたんじゃったか)』
「(僕の身体……)」
現在の使用者はシーネ。
女の子の様な容姿をしているリースなので、ある意味マッチングしている。
細かい部分で動きに女性らしさが現れていた。
315歳。
自称うら若き乙女。
たまに『なのじゃー』とかボソッと呟いて欲しい。
俺の密かな願望。
『(ああ、それなら宛がある。ちょっと口を借りるぞ)』
『(うむ)』
「(僕の身体……)」
外野は無視。
『あ~……俺の剣、どっちの方角に飛ばされたんだったかな』
と、わざとらしく呟いてみる。
すると暫くして、左の方の木からガサガサという音が聞こえてきた。
『まずはこっちの方を探してみるか』
と呟きつつ。
まるで先程の音に気付かなかった様に、その逆方向へとリースの身体が向かう。
自然な動作。
リースの身体を、シーネは自分の身体の様に動かしていた。
流石血族。
生前のシーネは、きっとリースと瓜二つ。
『ないな。なら反対か?』
踵を返し、何食わぬ顔で反対側に。
『お、あったあった』
そして、剣を発見。
ディーネはきっと優しさで出来ている。
さっきのは借りを返そうとした訳では無い。
あれはディーネの優しさ。
貸し借りは関係無い。
頭上から急に虫が落ちてきた。
シーネがひょいっと避ける。
きっとこれは偶然。
ディーネの天罰デハナイ。
武器を手に元の場所へと戻る。
『(変わり無しじゃの)』
『(その様だ)』
戦闘開始から小一時間は過ぎていた。
しかし、レオン達の意識はまだ戻らない。
息がある事は【広域サーチ】で分かっている。
青い点3つは未だに薄いまま。
そして、モンスターなどの敵を表す赤い点は、全て通常表示。
『念の為、トドメを刺しておくか』
試しに、そんな事をボソッと呟いてみた。
「ちっ……逃げるぞ、ジーザス!」
「くそっ! てめぇ、覚えていろよ!」
「(!?)」
山賊2人がガバッと起き上がり、逃走。
シーネは何をするでもなく、彼等を見送った。
「(彼等を殺していなかったのですか!?)」
やはりリースは気が付いていなかった。
これ見よがしにずっと脳内地図を表示させていたというのに。
そこから得られる情報を、リースは吟味していなかった。
『(正確には殺せなかった、だ。だろう?)』
『(で、御座る。拙者の力、及ばず)』
ゴザルは、別に手加減をした訳では無かった。
適確に急所を攻撃していた。
えぐい攻撃を容赦なく繰り出していた。
間違いなくクリティカルヒット。
俺のいた世界ならば、必殺。
だが、この世界には別のルールが存在する。
彼等はどうにかしてゴザルの攻撃に耐えきった。
即死回避やガッツなどのスキルか。
装備アイテムの効果か。
それとも、カオスヒールのような法術を使ったのか。
奧の手を彼等は持っていた。
「(いつから彼等は死んだふりを?)」
どうしてもリースは死んだものとして扱いたいらしい。
普通、こういう時は気絶という言葉が先に来る筈だが。
『(ガッデムの方は戦闘が終わってすぐだな。ジーザスの方は最初から意識があった)』
答えは【地図生成】と【広域サーチ】
脳内地図上に表示されていた彼等の赤い点を見れば一目瞭然。
気絶したレオン達の点が薄くなったのに対し、ジーザスの点の色はずっとそのままだった。
その事は、ゴザルもシーネもすぐに気が付いてくれた。
シーネはリースの身体を操り、監視できる場所に移動。
更に全身マッサージを行い、筋肉の疲労回復に努めた。
ゴザルはただひたすらに監視。
もしもの場合はすぐにリースの身体の主導権を奪い対処する予定だった。
途中、笑いのツボに入ってしまった時には少し焦ったが。
何も起こらなくて良かった。
ならば、俺を何をしていたのか。
『(おーおー、随分ともみくちゃにされておるようじゃの)』
『(必至に集めた甲斐があったというもの。ま、彼奴等の実力じゃ、嫌がらせにしかならないけどな)』
『(カズキ殿はえげつない事をするで御座る)』
『(褒め言葉として受け取っておこう)』
「(これは……カズキが?)」
視界に表示させている脳内地図。
そこでは、中心から遠ざかろうとしている2つの赤い点が、その進行方向に密集していた赤い点に突っ込み、もみくちゃにされていた。
『(彼奴等との戦闘が終わったのに、モンスターに襲われていないのは何故か)』
答えは、俺が片っ端から操っているから。
不思議な事に、戦闘中は別の敵は現れない。
勿論、逃走すればその限りではない。
戦闘が終われば、移動しなくとも敵はそのうち現れる。
普通は違うのかもしれないが、そこはリース補正。
エンカウント率が並ではない。
山賊達との戦闘は結構前に終わっていた。
そこからリースは動いていない。
だが、次の戦闘には突入していない。
いや、ちょくちょくモンスターは襲い掛かってきている。
だが、襲われる前に俺が操っていた。
そして、『あっち行け』と命令。
【広域サーチ】があるので、実に簡単なお仕事だった。
「(何故、彼等をすぐに殺さなかったのですか? いくらなんでも剣で刺せば死ぬと思いますが)」
それは、そうする前に殺される可能性が高かったから。
奴等は不意打ちを企んでいた。
近づけば間違いなく攻撃を仕掛けてくる。
要心している相手にトドメを刺すのは難しい。
それに、もう一度、奴等と戦闘になるのは悪手でしかない。
何故なら、こちらにはもう切り札がない。
勝てる方法がない。
まともに闘えば負けるというのも分かっていた。
1対1でもゴザルは押し切られた。
2対1なら尚更勝つ見込みはない。
もしかしたらシーネが……などと思うのは、あまりにも都合が良すぎるだろう。
ゴザルという達人がいただけでも奇跡だというのに。
『(ちなみに、儂は運動音痴じゃ。期待してくれるな)』
流石、リースの御先祖様。
その辺りもリースに似ていた。
いや、リースに継承していた。
リースの剣の腕がなまくらなのは御先祖様譲りで確定。
『(では、そろそろ皆を起こして村に帰るかの)』
『(この場合、討伐出来なかったから依頼失敗か。証拠も無い)』
『(問題無いで御座ろう。昼の話が本当なら、どのみち関係無きこと)』
『(タダ酒は……駄目じゃろうか?)』
『(駄目で御座ろう)』
『(ああ、残念じゃ。真に残念じゃ。楽しみにしておったというのに)』
『(くっ、俺の【異次元収納BOX】にコッソリ溜め置く計画が……)』
『(本当に残念じゃな!? まさかその様な計画をカズキがしておったとは)』
『(泥棒は駄目で御座る)』
『(タダだから泥棒には該当しない)』
『(むむむ)』
「レオン達を介抱して、村まで移動するのは僕の役目なんですね……」
都合の良い時だけリースに頼り切る居候達だった。
シ「真のヒロイン登場じゃ!」
カ「(ロリバ○ァ属性か……いや、エルフだからセーフか?)」