第13話 ゴザル
[ケイがレベルアップしました!]
★名前 リース...(憑依:慶)
★種族 混沌の民 ★性別 男性
★職業 ロードLv25(18アップ)
★基礎ステータス
STR 7 (4アップ) VIT 5(3アップ)
AGI 11(5アップ) DEX 8(4アップ)
INT 4 (2アップ) MND 4(2アップ)
CHR 49(11アップ) LUK 1 (+1)
★所持スキル
★所持法術
カオスヒール(1)
★所持職業一覧
ロードLv25 動物使い見習いLv11 剥取士見習いLv5 格闘士見習いLv1 処刑人見習いLv1
憧れの美人ディーネと接吻中。
脳がすっかり蕩けていたため、レベルアップ情報は頭の中に入ってこなかった。
その一瞬後。
リースの身体がディーネに押し潰された。
空から降ってきたのだから、当然の帰結。
とりあえず、胸の感触もグッドだったとだけ。
「ななななななっ!?」
我に返り、ガバッと起き上がったディーネ。
その彼女の手の平が、光の速度で一閃。
『ぐはっ』
この戦闘で吹き飛ばされた人達の中に、1名様御案内。
リースがお星様になった。
『(不覚……見えなかったで御座る)』
そしてリースは力尽きた。
視界が霞み、意識が遠のいていく。
ゲームオーバー。
『(あ、あぶねぇ……三途の川が見えた)』
間一髪カオスヒールが間に合った。
味方からの一撃でお陀仏というのは流石に予想していなかった。
「ききききき、きさっ、きさ、きっ、きさ、まわわわた、わたっわたたたた、わたしっ、わたしっの、しのしの、しのくくくち、くちちちち、くちび……」
顔を真っ赤に染めて混乱するディーネが可愛い。
唇一つでここまで取り乱すとは。
良いダークエルフに出会った。
この縁は大事にしよう。
失いたくない。
ディーネに貸した借りは、絶対に返してもらわないように心に誓った瞬間だった。
「……はっ! が、ガッデム!? それに御前は!」
突然の出来事に、一緒に呆けていた山賊ジーザス。
我に返った山賊の行動は早かった。
「てめぇがやったのか、ダークエルフ!」
「ぐっ……きゃあっ!」
ジーザスの拳を、ディーネが咄嗟に防御。
しかし受け流しきれず、ディーネも俺達の仲間に。
悲鳴が可愛い。
『おっと』
吹き飛ばされたディーネの後ろにリースが回り込み、受け止める。
今、リースの身体を操っているの謎の第三者。
『これでまた貸し一つだな』
『(ぬ)』
折角の機会をみすみす逃す手はない。
身体の主導権を奪い、ディーネに新たな恩をきせるのに成功。
「許さねぇぞ、てめぇら!」
怒ったジーザスが蟹股で迫ってきた。
『(ゴザル、ヤツを倒せるか?)』
この際、ゴザルが誰なのかという事は置いておく。
今は目の前の問題を解決するのが先決。
この山賊は、恐らくディーネでも勝てない。
何しろ捕らわれていたぐらいだし。
『(さて、やってみなければ分からぬな)』
『(後一回なら回復出来る。その条件なら?)』
『(騙し討ちも可能なら、恐らくは大丈夫で御座ろう)』
『(なら、ここは御前に任せる)』
『(確実とは言えぬぞ?)』
『(可能性があるだけで十分だ。最悪、ディーネだけは逃がしたい)』
『(任されたで御座る)』
「(あの、僕を抜きにして勝手に話を進めないで欲しいんですけど……)」
『ディーネ、離れていろ。ヤツは俺が相手をする』
「……屈辱だ。貴様に何度も借りを作るとは」
「(しかもこの人とも知り合いだし! ねぇ、これ僕の身体なんだよね? 僕の人生なんだよね? 何で僕の知らないところで友達が出来てるの?!)」
外野を置き去りにして、ゴザルに身体の主導権を渡す。
ステータスを確認してみると、いつの間にかレベルが大きく上がっていた。
しかしスキルが見当たらない。
武器も持っていない。
となると、職業はあれが良いだろう。
多少ステータスは下がるが、もともとあって無いようなものだし影響は少ない筈だ。
★名前 リース...(憑依:慶)
★種族 混沌の民 ★性別 男性
★職業 格闘士見習いLv1
★基礎ステータス
STR 6 VIT 2
AGI 5 DEX 4
INT 1 MND 1
CHR 27 LUK 1 (+1)
★所持スキル
格闘術(10) 拳撃(1)
★所持法術
カオスヒール(1)
★所持職業一覧
ロードLv25 動物使い見習いLv11 剥取士見習いLv5 格闘士見習いLv1 処刑人見習いLv1
名前は慶と言うのか。
でもゴザルで良いな。
レベルアップ前のロードよりSTRが高い。
防御が低いが、そこは回避に期待。
ステータスよりも重要なのが、所持スキルの方。
予想通り、格闘系のスキルが反映されていた。
それほど効果があるとは思わないが、無いよりはマシだろう。
何度か憑依していて気付いた事がある。
それは、個人が持つ経験に伴う技術は、スキルには反映されないということ。
俺は剣道を習っていた。
なんちゃって剣道のレベルだが、それでも剣術には違いない。
なのに、スキルにはそれが現れていなかった。
そしてもう一つ。
格闘術に関しては素人同然。
にも関わらず。
昨日、モスキートナイトと拳で語り合った後。
俺は〝格闘士見習い〟という職業と、【格闘術】【拳撃】のスキルを覚えた。
これはつまるところ、何らかの条件を満たせば職業やスキルは手に入るという事を意味する。
わざわざボーナスポイントを振り分けなくても良いという事になる。
逆に、条件を満たしていない剣士や【剣術】などの職業/スキルは覚えていない。
しかしそれらがなくとも、個人が持つ経験に伴う技術は発揮出来る。
この世界の住人ならば、もしかしたらスキルはそのまま自身の力とも言えるのかもしれない。
だがこの世界の住人ではない俺や、俺と同じ様に幽霊?のゴザルにはイコールにはならない。
俺とゴザルにとってステータスとスキルは、いわば補正値。
「くっ、馬鹿な! こんなガキが俺とやりあえる訳がっ」
そこに意味があったかどうかは分からない。
だが、ゴザルはジーザスの動きについていっていた。
視界が目まぐるしく移り変わる。
リースの身体の動きに俺の心が追いついていけない。
気分は暗闇の中のジェットコースター。
リースの身体能力は、ジーザスとは比べものにならないぐらいに低い。
しかしそれを補って余りあるだけの技術と経験をゴザルは持ち合わせていた。
俊敏に動き回りながら攻撃を仕掛けるジーザス。
それをリースは……リースの身体を操っているゴザルは、ほぼ無駄のない動きで全て捌き続ける。
しかも、最初にいた位置からほとんど動いていない。
いや、移動する余裕がないだけか。
『むぅ、なかなか良い一撃が入らぬ。強いな、お主』
「ぬかせ! 防戦一方の癖に。最後に立っているのは俺だ!」
ゴザルの言う一撃は、ちょくちょくカウンターで入れていたゴザル自身の攻撃の事だろう。
それをジーザスは、彼自分の攻撃が入らない、という挑発として受け取っていた。
パワー、スピード、共にジーザスが上回っている。
故に、ゴザルは後手に回ざるをえない。
ゴザルは巧みな足捌きで細かく移動し、ジーザスの攻撃を躱すか両腕で受け流す。
その後に訪れる小さな好機を狙い、急所に向けて小攻撃を放つ。
しかし、ジーザスもまた格闘戦のプロフェッショナル。
自身の隙が何処にあるのか熟知している。
急所をずらしたり、隙を誘いに転じてカウンターを狙ったり。
読みあいにも強い。
控えめに言っても、ただの山賊とは到底思えなかった。
「まさかこれほどとは……」
『(ああ……)』
ディーネの呟きに俺も同意見だった。
ゴザルは、想像以上に強かった。
レベルだとか、ステータスだとか、スキルだとか。
そんなモノはただの飾り。
ゴザルの強さは、それをありありと物語っていた。
これが本物の武人。
本物の武人同士の戦い。
武人同士の、命を懸けた死合。
俺はスキルチートで浮かれていた。
すぐに何でも出来ると思い上がっていた。
しかし、今。
俺はこの領域にいる者達にはまだまだ遠いと思う。
それを眼と肌で感じていた。
感覚は共有している。
しかし、視界に映る景色を把握しきれない。
ゴザルの反応に、俺の反応がついていかない。
気が付けば身体に痛みが走っていた。
それを意識する前に、次の動きが始まる。
目の前を、ジーザスの放った拳が通り過ぎていく。
通り過ぎた拳が、その先にあった細木を砕き割る。
驚く暇もなく視界が移り変わり、リースの身体が次の攻撃に反応。
死角から迫った一撃を、受け流していた。
見えない場所からの攻撃を、見ないままゴザルは対処していた。
予想。
予感。
読み。
そんな言葉では言い表せない達人の技。
それを俺は今、肌でひしひしと感じていた。
剣道をちょっと囓った程度では、この感覚は味わえなかった。
俺も一時期は武人の道を志した者の一人。
もちろん、すぐに挫折したが。
しかし、ゴザルは……。
ゴザルは、間違いなくその先の世界へと進んでいる。
俺には辿り着けなかった領域へと足を踏み入れている。
何故、そんな人物がここにいるのか。
リースの中にいるのか。
今更ながら、ゴザルの事が気になった。
「ちっ、埒があかねぇな」
ジーザスが距離を取る。
その途端、疲れが襲い掛かってきた。
『(ああ、限界か。この身体ではここまで。これ以上は壊れてしまうで御座ろうて)』
リースが膝をついたのが分かった。
気が付けば、リースは肩で息をしていた。
戦っている最中は身体がそれを忘れていた。
だが、休憩を挟んだ事で身体が一斉に仕事をし始めた。
急激に体温があがる。
細胞がエネルギーを補給し、熱を発する。
老廃物を排出していく。
運動後に良く起こる現象。
馴染み深い感覚。
それが今、リースの身体を蝕んでいた。
「なんだ、やっぱりギリギリだったのか」
ジーザスがニヤリと笑う。
運動量だけで言えばジーザスの方が多いというのに。
ジーザスは少し汗を掻いているだけで、まだまだ戦える雰囲気だった。
俺の知る限り、ゴザルの動きは俺の世界で言う達人級。
にも関わらず、ジーザスはその上をいく。
その差は何か。
肉体のスペック――ステータスの差というのは当然あるだろう。
だが、この世界には別のものがある。
別のルールがある。
スキル。
法術。
アイテム。
ジーザスは格闘技の達人ではない。
それは何となく動きから分かった。
高いステータスと、スキルによるサポート。
それに頼った攻撃の数々。
法術でステータスを一時的に上昇している可能性。
装備アイテムでステータスが上昇している可能性。
スキルによる効果で体力が回復している可能性。
などなど。
ゲーム脳で考えるなら、いくらでも可能性が思い浮かぶ。
それがこの世界のルール。
俺の世界では絶対に辿り着けない高みに、山賊に身をやつした男が到達していた。
『さぁて、どうであろうな。実は見せかけかも知れぬぞ?』
それが口先だけだというのはすぐに分かった。
「おお、怖ぇな。怖ぇ、怖ぇ」
俺も同じ身体を共有している。
感覚3割だが、それでも十分辛い。
――いや、俺如きがゴザルの事を語れる訳が無い。
本当に見せかけかもしれない。
ゴザルが感じている感覚も3割なら、それは十分にありうる。
ゴザルが限界の先を知る者なら、3割という辛さは取るに足らないもの。
壊れる事を無視すれば、限界突破など容易い筈。
ちなみに、感覚10割全開のリースは虫の息。
いっそ殺して……とさっきから呟いていた。
気絶すれば楽になれるというのに……神様はそれを許してくれないらしかった。
南無。
「なら、奧の手をだすっきゃねぇだろうな。これやると暫く身体が重くなるからあまりやりたくねぇんだが……」
ジーザスがいきなりスーパーサイヤ人化した。
いや、どちらかというと海王拳。
赤い闘気がジーザスの身体から立ち上る。
「出し惜しみしてたら負けそうな気がするから全力全開だ。奥義、炎塵闘武」
ジーザスを中心に、熱の奔流が広がる。
『子供相手に大人気ないの』
「俺はガッデムと違って子供は好きじゃないんだ。だから、てめぇを殺すのに躊躇いはねぇ」
ジーザスの視線がリースの後ろへと向く。
「それに、わざわざ捕まりに戻ってきてくれた女もいるしな。よう、動くんじゃねぇぞ」
「くっ、しまった!」
ディーネの叫びが聞こえたが振り返る事は出来なかった。
振り返れば、その瞬間に殺される。
それが分かっているため、ゴザルは振り返らない。
ディーネの身にいったい何が起きたのか。
恐らく奴隷に関する制約。
危険を犯してまで俺を守ろうとしてくれたのか。
ますますディーネが好きになった。
『覚悟を決めるとしよう』
「潔い事だ。手加減はしねぇぞ」
『殺すもまた情け。死すべき時にはただ死すのみ。誤る事だけはせぬように』
「はっ、そんなヘマをするかよ」
リースが構える。
静よく剛を受け流さんとする流水の構え。
その先に活路を見出し、生への道筋を作る。
ジーザスが構える。
剛よく静を打ち砕かんとする激流の構え。
己の勝利を微塵も疑がっていない。
『いざ、尋常に』
『「勝負!」』
ジーザスが地を蹴った。
――それを俺が認識した時。
勝負は既についていた。
「俺の勝ちだな」
リースの身体にジーザスの拳が突き刺さっていた。
カ「実は狙ってただろ、ゴザル」
K「なかなか美味しかったで御座るな、ディーネ殿の唇は」
カ「ばっ……! そそそそっちじゃねぇよ!」
リ「(僕の人生が2分の1から3分の1に……もう他に居ませんよね? ね? ね?)」