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憑きモノ王子とダークな騎士団  作者: 漆之黒褐
第1章 『憑きモノ王子の旅立ち』
14/19

第12話 初めての○○

 ある日。

 森の中。

 ダークエルフさんに。

 出会った。


 その次の日。

 村の中。

 伯爵さんに。

 殺されかけた。


 そして、その日の夕刻。


「さ、急いで下さいリース様。早く山賊を倒して村に帰りますよ」


 リース一行は、再び森の中にいた。

 あのあと、ルドル伯爵に無理難題を押し付けられたからだ。

 もう99発殴られたくなければ、森の奧にいるという山賊を倒してこい、と。

 有無を言う暇無く、村から叩き出された。


 軽いリースの身体を持ち上げ、ポイッと捨てるように。

 村から追い出された。

 ルドル伯爵はリースに厳しい。

 瀕死のリースに情け容赦なし。

 それだけ、娘がリースに首っ丈なのが気に入らないらしい。

 いっそ死ねと言ってる様なものだった。


「あーあ。こりゃ今日中には帰れないだろうな」


「っす。俺もこの仕打ちは酷いと思うっす」


「過ぎた事は忘れましょう。それに、リース様を屋敷から連れ出したのは私達です。リース様だけが悪い訳ではありません」


「……」


 部下の心、ここにあらず。

 3人は祭りでハッスルする事が目的だった。

 リースはオマケ。

 とはいえ、こうしてリースに付きあっているのだから、一応はリースに忠誠を捧げているのは確かだろう。

 ペラっペラに薄っぺらかったが。

 リースが一年ぶりに目覚めた時に感じたあの感動は、実は紛い物だった。


「(うるさいですよ、カズキ)」


 なまじリースが復活してしまったのがいけなかったか。

 伯爵はリースを村から叩き出したが、再び村に入る事は禁止していない。


 リースがあのまま瀕死の状態で転がっていれば、きっとレオン達は村に運び込んでいた。

 そしてベッドに縛りつけて、3人は予定通りハッスル。

 しかし現実は、俺がリースをカオスヒールで全快させてしまった。


 不死身の如く復活したリースの姿を伯爵は見ていた。

 レオン達の選択肢は、そうして封じられてしまった。

 あの時の顔が忘れられない。

 してやったり。


「リース様、足取りに迷いがないのはどうしてでしょうか?」


「……レオン達も山賊の居場所を知らないだよね? だったら、どっちに進んでも同じだと思って」


「ああ、なるほど」


「リース様の勘便りって訳か。頼むぜ神様、お酒様」


 実際には、俺の指示に従ってリースは進んでいた。

 つまり、お酒様とは俺の事。


 遭遇するモンスターは全てレオン達が倒していく。

 バッタバッタと倒していく。

 アレックも守勢を捨て、積極敵に攻撃に参加。

 意外と強い。


 今回は急だった事で、ミケもミズキも連れてこれなかった。

 流石に3人の前でモンスターを操るのは問題。

 故に、俺の動物サポートはない。

 経験値も手に入らない。

 熊でも虎でも良いから遭遇して欲しいと思う今日この頃。


 尚、広域サーチは非表示中。

 森の中に入った時にチョコッとだけONにしたら、真後ろにあの方が。

 今のリースと会わせるのはちょっと問題が大きく、対処がし辛い。

 故に秘密。

 それに、危なくなったら勝手に助けてくれるだろう。

 借りを返すという名目で。

 そんな事は絶対にさせないが。

 この縁は永遠に不滅なり

 切らすなんて勿体ない。


「リース様、洞窟です」


「流石リース様っす!」


 アレックがハイテンションになった。

 まだここが山賊のアジトだと確定した訳でもないのに。

 よほど酒が恋しいとみえる。


 この洞窟は山賊のアジトで間違いない。

 しかし、肝心の山賊がいなかった場合にはどうするのか。


 何か証拠でもあれば良かったのだが。

 山賊達の首でも残っていれば証明出来たのだが。

 残念ながら、山賊達の骸は全て動物達によって処分されている。

 骨まで無くなっている。

 血の跡はあるが、この世界には写真がない。

 証拠写真も撮れない。

 現物(したい)が必要だった。


 尚、山賊と言っても、彼等は別にシルバーパール領で悪さをしている訳では無かった。

 彼等が仕事場としているのは、お隣にある〈カーウェル皇国〉。

 そこで奴隷を浚ってきては、お隣の領主達に売り捌いているという。

 しかも長年に渡って。


 これまで放置されてきたのは、国際問題や領主間の利害が関係しているためだった。


 〈カーウェル皇国〉は、自領でない場所に山賊達の本拠があるため、直接手が出せない。

 お得意様の領主達は、むしろ山賊保護派。

 シルバーパール伯爵は自領での被害が特になく、隣の領主達からそれとなく袖の下を受け取っている(確認した訳では無いが)。


 また、山賊達が浚うのは奴隷だというのも問題だった。

 奴隷を商品として扱っている奴隷商を、〈カーウェル皇国〉は表立って認めている訳では無い。

 奴隷は認めても、奴隷に墜とす事を〈カーウェル皇国〉は認めていない。

 そのグレーゾーンを山賊達はついていた。


 闇で奴隷を量産している奴隷商から、この森の山賊達は奴隷を浚ってくる。

 非合法なので、奴隷商は表立って騒げない。

 奴隷商は武力を持っているが、隣国に武装集団を送る事は出来ない。

 もしそんな事をすれば、両国から合法的に成敗される可能性が高かった。


 それに対し、〈フォールセティ連邦〉は細かい部分の法は各領主に委ねられている国。

 シルバーパール領では人身売買は認められていないが、人足奴隷は認められている。

 しかし、お隣の領主達は人身売買を認めている。


 山賊達は、何らかの方法を使って奴隷を〈カーウェル皇国〉から仕入れる。

 その際、仕入れの手段が合法かどうかなどは無視出来た。

 仕入れた奴隷は、一端シルバーパール領のアジトに運び込み、商品としてしっかりメンテ。

 そして、お隣の領主達に人足奴隷として合法的に売り捌く。


 売った後の事は、山賊達には関係無い。

 買い取った奴隷達を領主達が裏でどの様に扱っているかなど、詮索しない。


 つまり。

 シルバーパール伯爵は、目の前にいる山賊達を討伐する理由を持ち合わせていなかった。


 ならば、何故リースに討伐命令を出したのか。


 伯爵は表立って山賊を討伐出来ない。

 その理由がない。

 むしろ、伯爵が動くと隣の領主達との関係が悪化する。

 それ故、伯爵はリースという外部の人間を使う事にした。


 しかし、リースは伯爵の命令を聞く必要がない。

 リースは伯爵の部下では無く、客人だからだ。

 そのため、これは伯爵からのお願いとなる。

 だが、きっと伯爵は後で問い詰めても白を切り徹すだろう。


 伯爵の企みは以下の通り。


 1.リースが山賊討伐に成功した場合。

 伯爵は、リースが勝手にやった事だと言い張る。

 そして、責任の所在を全てリースに押し付け、この領地から追い出す。

 愛する娘とも引き離せて万々歳。


 リースが山賊討伐に失敗した場合。

 これは更に2パターンに別れる。


 2.リースが山賊に殺された場合。

 これは間違いなく伯爵が思い描く一番の理想系だろう。

 まず厄介払いが出来る。

 愛する娘も諦めがつく。

 そして新しい愛を見つけるだろう。

 レオン達がもし生き残れば、(しがらみ)無く召し抱える事も出来る。

 リース以外がハッピーエンド。


 3.リースが山賊討伐に失敗し、生き延びて帰ってきた場合。

 リースを好いているのは娘の方だが、娘と引き離す理由としてその失敗を利用する。

 この程度の事も出来ない男に、娘は絶対にやれないと。

 そして、討伐に成功した時と同様に、この領地から追い出す。


『(という訳だから、覚悟しておけよリース)』


 俺の中の名探偵が冴えた。


「(碌でもない推理をありがとうございます、カズキ)」


 リースは口元をひくつかせていた。

 閑話休題。


「おう、帰ってきたか、てめぇら……って。何だ貴様等は」


 洞窟の周囲を慎重に調べていたら――もちろんレオン達が――洞窟の中からいかにもな男が現れた。

 どうやらまだ山賊が生き残っていたらしい。


「よっ。あんたがこの森に住み着いているっていう山賊か?」


「山賊だと? 違うな、俺達は義賊だぜ」


 〈カーウェル皇国〉より〈フォールセティ連邦〉の方が奴隷の扱いは良い。

 より良い労働環境への斡旋を、果たして義賊と言っていいものか。


「おう、にぃちゃん達。まさか俺達と一戦交えるって訳じゃねぇよな?」


 洞窟の中からもう一人出てきた。

 外の騒ぎを聞きつけたのだろう。


 男の手には禍々しい巨大な斧が握られていた。

 既に殺る気満々といった雰囲気。


「おいおい、挑発すんなよジーザス。俺は平和主義者なんだ」


「おいおい、俺の名前を呼ぶんじゃねぇよガッデム。今後の仕事に差し支えるじゃねぇか」


 本当にやる気満々。

 二人の脳裏に見逃すという選択肢は無さそうだった。

 このやりとりは、例のあれだろう。

 知られたからには生かしてはおけない、と。


「話し合いは無理そうだな」


「私達も端からその気はありませんが」


 アレックが大盾を構えて前に出る。

 アレックが動いた事で、山賊達はようやくリースの存在に気が付いた。


「ん? なんだ、もう一人ちっこいのもいたのか」


 リースの眉間がピクッと。

 戦闘開前に怒りゲージが溜まった。

 もしかしたら、開幕から必殺技が使用出来るかも。


「おいおい、子連れかよ……って。あ、てめぇ! この野郎! あん時の奴か!」


「……え?」


 と思ったら、敵さんの怒りゲージが先にMAXになった。


『(リース。俺の知らないところでいったい何をやらかしたんだ?)』


「(それは僕の台詞です! 絶対にカズキでしょう!)」


『(記憶にないな)』


 この山賊達に見覚えはない。

 ま、心当たりはあるが。

 MPKしたあの時だろう。


「ますます逃がす訳にはいかなくなったな。つーか、絶対殺す!」


「死ねやぁ、糞ガキ!」


「!?」


「アレック、リース様を!」


「っす!」


 山賊達が襲い掛かってきた。

 小細工を捨てていきなり突貫してきた。

 先手を取られた形となったレオン達が慌てて迎撃する。


「邪魔だ!」


 そしていきなり必殺技が炸裂。

 全力で叩き付けられた斧を受け止めきれず、アレックが吹き飛ばされた。

 山賊とリースの間に道が出来る。


「ちぃっ、させるかよ!」


「させません!」


 すかさずレオンとナハトが間に入った。


 レオンが持つナイトスピアと、ナハトが持つハルバード。

 その二つが、突出してきた山賊――ガッデムを討つべく左右から弧を描く。

 見事な連係攻撃。


「おせぇ!」


 高速で薙ぎ払われたナイトスピアが、より早い速度で切り上げられたガッデムの斧によって斬り弾かれる。


「てめぇの相手は俺がしてやるよ」


 同時に、ジーザスの拳がハルバードの柄を殴った。

 手ぶらだと思っていたら、ジーザスは格闘家か何からしい。

 いつの間にか両手にメリケンサックっぽい武器を装備していた。


「はっ、まだまだ青いな。そんなトロイ攻撃じゃ、2人がかりでも俺一人殺れねぇぜ」


 レオンとナハトの連携も良かったが、この2人の息はそれ以上か。

 3対2の戦いの筈が、あっと言う間に一人が倒され、更に個人戦へと持ち込まれた。

 経験、実力ともに明らかに山賊達の方が上。


「やべぇ、こいつら俺達より強ぇ!」


 ジーザスと交戦し始めたナハトが叫ぶ。

 が、こっちはもうそれどころではなかった。


「おらぁっ!」


「ぐぁっ!」


「レオン!」


 レオンもまたアレック同様、一撃で吹き飛ばされた。

 今度こそ本当に、山賊とリースの間に道が出来る。


「さぁ、てめぇを守ってくれる騎士様はもういねぇぜ」


「くっ、ここまでか……」


 リースが剣を構える。

 この剣が当たれば、もしかしたら……などという甘い考えはまるで浮かんでこなかった。


 リースが死にかけるのは、これで3度目。

 どこで死亡フラグを拾ってきたのか。

 昨日今日と、やたら窮地が多い様に思う。

 ただ、先の2回は何とか潜り抜けたが、今回ばかりはどうしようもなかった。


 例えここで俺が前に出たとしても、勝てる算段がまるでつかない。

 2回までならカオスヒールで命を取り留められる事は出来る。

 それを利用して、倒したと思わせて隙を付く事は出来るだろう。

 但しそれは1回まで。

 敵は二人。

 二度目はきっと通じない。

 それに、そもそも即死させられたら、この策は無意味だった。


『(短い人生だったな。楽しかったぜ、リース)』


「(カズキの疫病神)」


 否定出来なかった。

 ――ああ、もしかしてこの死亡フラグを呼び込んだのは俺か。


「観念するんだな、糞ガ……なんだ? 意外と可愛い顔してるんだな。こりゃ、先にじっくり楽しませてもらってからか」


 と思ったら、何やら雲行きが怪しくなった。

 怒りの形相が、急にゲス顔へ。

 リースの背筋にゾクゾクっという悪寒が走る。


「へっへっへっ。ちょっくら溜まってたところだったんだよ。商品には手を付けられねぇしな。憂さ晴らしさせてもらうぜ。悪く思うなよ、坊主(ヽヽ)


「ひっ!?」


『(ひぃっ!?)』


 リースと俺の悲鳴が重なった。

 ヤバイ。

 コイツ、どっちもいける口だ。

 明らかにリースが男だと分かっていて、そういう事をしようとしている。


「こ、こないでください!」


 リースが必至に剣を振り回す。

 が、男が一閃しただけで剣は遠くへ飛んでいった。


「なぁに、安心しろ。痛いのは最初だけだ」


 斧が背中に仕舞われる。

 その背後では、丁度ナハトが吹き飛ばされた所だった。

 そしてガックリと力尽きる。

 レオンもアレックも気を失っているのか、動く素振りがなかった。


「それに、じきに良くなる」


「い、いやぁ……」


 あまりの恐怖でリースが足の力を失い、尻餅をつく。

 ちょっと悲鳴が女の子っぽいのは何でだろうか。


「(か、カズキ! 何とかして下さい! 全てあなたのせいですよ!)」


『(何とかしたいが、俺には無理だ。天の助けに期待してくれ)』


「(そんな都合の良い事が起きる訳ないでしょう! 僕の運の無さをなめないで下さい!)」


 なんだ、不幸を呼んでいたのは俺ではなくリースだったか。

 しかも自覚ありとは泣ける。


 しかし。

 そういう事ならば、俺は疫病神では無いと言える。

 何故ならば、まだ俺には保険がある。

 天の助け――それに宛がある。


 乙女の様に後退りするリースの背中が何かに行き着いた。

 もしかしなくても、木。

 念の為、脳内地図を確認。

 青い点と赤い点が地図の中心で重なっていた。


「いっただっきま~す」


「いやぁっ!」


 男がリースの上に覆い被さった。

 つまり上は完全に死角。


『(やれやれ、流石にこれは拙者も黙ってはおられぬな。男の相手は御免で御座る)』


「借りを返すぞ、リース」


 ――刹那。


「ぶげぇごっ!」


 男の顔面に拳がメキャっと入り、男が吹き飛んだ。


「え?」


「(え?)」


『(え?)』


 その一瞬後。

 空から降ってきたダークエルフが目標を見失い……。


「「『『『っ!?』』』」」


 空中で驚きに固まった彼女の唇が、真下にあったリースの唇と重なった。








カ「(ほわ~ん)」

リ「カズキは僕より年上なので経験豊富だと思っていたのですが、あれで意外に奥手だったのですね。まさか初めてでした?」

カ「(ふにゅ~ん)」

リ「キス一つで何をそんなに……」

?「(折角、拙者が格好良く決めたというのに……一気に持って行かれたで御座る。しくしく)」

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