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憑きモノ王子とダークな騎士団  作者: 漆之黒褐
第1章 『憑きモノ王子の旅立ち』
13/19

第11話 痛恨の一撃

 朝日が昇ろうとしている頃。

 ようやく村に辿り着いた。


 抜き足。

 差し足。

 忍び足。

 正面には宿屋の主人がいたので、裏へ回る。


 抜き足。

 差し足。

 忍び足。

 ドアの前にレオンがいた。

 こっちからも帰れそうにない。


 仕方なく、少し無茶をして窓から部屋に入った。

 侵入したとも言う。


『ニャー』


 ミケが出迎えてくれた。

 鳴いたのは俺。


 ミケを抱いて、ベッドにイン。

 さぁ眠ろう。

 すぐ眠ろう。

 眼を閉じる。

 身体もリースに返却。

 ちなみにミズキは夜型なので、既に夢の中。


 コンコン。


「リース様、お早う御座います。入っても宜しいでしょうか?」


 ゴソゴソしていたのが外に伝わったのか。

 ドアの向こうからレオンの声が。


「ん……」


 都合良くリースの目が覚めた。

 ナイスタイミング。

 ならば、後はリースに任せよう。


 お休みリース。

 お休みミケ。

 お休みミズキ。

 ああ、楽しかった。




★☆★☆★☆★☆★☆★




「昨日は分からなかったけど、意外と人が多いんだね」


「この村には特産物があるからな。いつもは畑に出てたり昼まで寝てたり。だが、この時間帯にこれだけの人が集まるのは俺も初めて見るぜ」


 無事に誤魔化せた、10時のオヤツ時。

 4人で朝食を取った後、リースはナハトの案内でカザスの村を見回っていた。


 今日は、この地を治めているシルバーパール伯爵が訪れる。

 村人のほとんどが仕事や朝寝坊をほっぽり出して、朝から宴の準備に勤しんでいた。

 ちなみに、朝寝坊が日常化している理由は教えてくれなかった。

 大人になったらとは、どういう意味だろうか。


「ナハトは手伝わなくて良いの?」


「俺の今の仕事はリース様の護衛」


 3人はこの村の人間ではない。

 だが、この一年間、3人はこの村にとてもお世話になっていたらしい。

 元々、3人はこの日に訪れる予定を組んでいた。

 たまたまそのタイミングで眠り姫(リース)が目を覚ました。

 今更、手伝わないという選択肢は無かった。


「ほとんど祭りだよね」


「伯爵の歓迎会をダシにして一緒に楽しむ。一石二丁だ」


 祭り名目にしておけば、伯爵からのカンパもあるとか。

 歓迎会の費用をカンパで相殺。

 ついでに村の活気も上がり、お金も回る。

 良く考えられていた。


「騒ぎ始めるのは夕方からだが、酒なら昼から飲めるってのも良いよな」


「お酒も特産なんだっけ」


「おう、タダ酒飲み放題だ」


 もちろん、準備を手伝えばの話。

 リースは手伝っても酒は飲めない。

 お酒は大人になってから。

 しかしリースは既に成人。

 見た目で却下。


「子供の数、凄く多くない?」


 猫耳を生やした子供達が大勢駆け抜けていく。

 猫がいっぱい。

 やっぱ猫は良い。

 癒される。


「おーおー、屋台いっぱいだな。リース様、何か食うか?」


「え?」


「うぉ……」


 振り返ったナハトの瞳が驚きに開かれた。

 リースの腕には既に大量の戦利品。

 別に欲しいとは言っていないのに、ただ目の前を歩いているだけで屋台のおっちゃん達がリースに次から次へと押し付けてきた。

 リースの可愛さは反則級。


 まだ午前中という事で、客もまばら。

 まずは試し焼きや腕慣らしに作ってみたという商品を、厄介払いしたといった所だろう。

 おっちゃん達は、子供達が通るたびに餌をばらまいていた。


 屋台を開いているのは、外から来た商人達。

 猫耳ではないのがその証拠。

 獣人がほとんどだが、中には人も混じっている。

 昨夜見たエルフの様な種族はいない。


 猫に餌をああげているのは、主に人だった。

 この世界では《混沌の民(ヒューム)》という亜人族。


 人なのに、亜人族。

 その理由は、純血ではないから。

 同族以外とも積極的に子作りに励んできた人という種は、もはや純粋な血筋をしていない。

 だから亜人。


 混血の民。

 何でも御座れの混沌の民。

 モンスターの血も入っているらしい。

 どれだけ節操がないのか。

 同じ人間として、理解に苦し……むような事はなく。

 理解者になれた。

 納得の現在。


「本当、色々なお店があるよね」


「だな。領都の近くってのが良いんだろう。午後になると一気に人が増えるんだぜ」


「同じ食べ物を売ってる店が一つとして無いのも良いよね」


 事前申請がないと即撤去。

 勝手に屋台を開けないように目を光らせている猫親父がチラホラと。

 告げ口しているのは、屋台の周りを走り回っている子供達。

 しっかり戦利品を頂いた後、容赦なく報告して店を潰していた。

 逞しいぞ、子供達。


「まぁ、欠点が無い訳でもないがな」


「美味しい店は売り切れるのが早そうだよね」


 しかし救済策もあった。

 申請が無くて潰した店が、売れ切れになった食べ物と同じ物を扱っていた場合。

 空いた場所へ店を出す事を許される。


 つまり、今こうして潰されている店達は、申請が通らなかったが敗者復活戦に臨む店だったりする訳だ。

 潰されると分かっていて強引に店を出しているのはそれが理由。

 わざと店を出す事で、敗者復活戦に参加する権利を得る。

 これは、そういう儀式。

 儲けが十分見込めるからこそ、彼等は失敗を恐れない。


 ちなみにもう一つの救済策として、敗者復活にもあぶれた人はタダ酒が飲める。

 転んでもタダでは終わらないようになっていた。


「レオン達の手伝いはいつ頃終わりそう?」


「ん~、ちょくちょく仕事が回されるからなぁ。祭りが終わる明日の日の出までは無理だろうな」


「あ、そうなんだ。忙しいんだね」


「ちなみにリース様の世話は、午後からはレオンが、夜はアレックだ。変更は受け付けない」


「うん、ありがとう。あー、でも……僕に決定権が無いのがアレだね。一人にはしてくれないのかな?」


 王子様だけど、籠の鳥。


「リース様を一人にすると、あっと言う間に浚われそうだし」


「……ああ、そうだよね。うん、ちょっと聞いてみただけ」


 自国内でもそういう事件には事欠かなかったリース。

 犯人の7割は女性。

 今もリースの事を抱きたそうにしている方々が。

 リース達の後ろに続いている村長の娘が牽制している。

 最有力候補でもあったが。


 余談だが、俺がリースの身体を乗っ取っている間は大丈夫そうだった。

 スキル【???】が激しく気になる。

 いったい何なんだろうな、コレは。


「ちょっと話したい事があるんだけど、みんなと一緒の時間ってどこかで取れるかな? 出来れば夕方までに」


「話? 大事な話か?」


「うん、そうだね。今後に関わる大事な話かな」


「あ~……なら昼飯の後あたりか。引き継ぎもあるし、事前に言っておけばたぶん大丈夫だろう」


 そして、あっと言う間にお昼がやってきた。

 祭りは準備中でも眺めているだけで楽しい。

 楽しいと時間が流れるのは早い。


 昼食。

 だけどリースは何も食べない。

 屋台のおっちゃん達に色々もらったので、既にお腹いっぱい。


 余り物を3人が片付けた後。

 宿屋にあるリースの部屋に4人が集まる。


「色々考えたんだけどね、みんなの意見も聞いておきたいんだ。実は……」


 リースの話は俺にとっても初耳だった。




★☆★☆★☆★☆★☆★




 宿主(リース)居候(おれ)に遠慮しなかった。

 どうやら昨晩の件で腹は決まってしまったらしい。

 ウカウカしていると俺に何を起こされるか分かった物ではない。

 そういう危惧からの決断だった。


 それは、リースの人生に関わる事。

 そして、シルバーパール伯爵家にも関わる事だった。


「お初にお目に掛かります、伯爵。〈イシュタリス連合国〉、元フランヴェル王国の王太子、現当主、リースウェルト・オーズ・H=フランヴェルと申します」


「〈フォールセティ連邦〉、シルバーパール地方領主、ルドル・ヒェン=シルバーパールだ」


 3時のオヤツ時に村へ到着したルドル伯爵一行。

 早速、リースは3人の家来を伴って挨拶に出向いた。


「まずはおぬしの目が覚めた事を祝うとしよう。身体の方は問題無いのか?」


「はい、御陰様で問題無く。伯爵には随分とご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません」


「迷惑などと思った事など……それに、おぬしの部下達にはこちらも色々と世話になっている」


 そんな堅苦しい挨拶が両者の間で暫く続いた。


 栗鼠の獣人であるルドル伯爵の容姿は、おざなりに言っても栗鼠には似ても似付かなかった。

 どちらかというと獅子を思わせる相貌。

 一見しただけで武人という言葉が脳裏に過ぎる。


 そのルドル伯爵だが。

 この村の村長と話している時には笑顔だった。

 しかしリースの顔を見た瞬間。

 その表情は、何故か険しいモノへと変わってしまった。


 微妙に重たい空気の中。

 全く弾まない会話が続く。


「これは口止めされていた事だがな。実はバルトフェトから多額の金を受け取っている」


「バル爺からですか? それはどの様な?」


「おぬしの生活費5年分と、迷惑料だ」


 ここから遠く離れたフランヴェル王家と、この地にあるシルパーパール伯爵家との間には、当然ながら何の繋がりもなかった。

 繋がりを持っていたのはバルトフェトという老騎士のみ。

 ルドル伯爵とは本当に個人的な繋がり。


 それは数年前のこと。

 旅に出ていたバルトフェトがフラッとこの地を訪れた事から始まる。

 バルトフェトはこの地にある高難易度のダンジョンに挑むため、野良でパーティーメンバーを募った。

 その際に、素姓を隠したルドル伯爵が参加。

 そこから出来た繋がりなのだとか。


「人は見掛けによらぬな。最初はただのエロ爺だと思っていたのだが……実はそれなりに名を馳せた御人だったとは思わなかった」


 どうやらルドル伯爵が声をかけるまで、バルトフェトは若い女冒険者達の尻を追いかけまわしていたらしかった。

 それを見かねたルドル伯爵が、腕に覚えのある部下達と共にバルトフェトのメンバー募集に志願。

 一度痛い目に合わせてやれば大人しくなるだろうという魂胆だった。


 メンバーが揃った一行は、バルトフェトが最初に宣言していた通り、早速、高難易度のダンジョンへと潜った。

 そして伯爵達は驚かされる事になる。

 エロ爺が自分達よりも強かった事に。


「そうですか。バル爺はこんな場所にまで足を伸ばしていたんですね。道理で連絡がなかなか付かなかった訳です」


 バルトフェトは引退したとはいえ、凄腕の将。

 敵国に仕えられても困るため、フランヴェル王国もバルトフェトの所在を出来る限り把握しようとしていた。

 しかし、すぐに行方不明に。

 近場なら兎も角、一つ国を越えた先にまで行かれると、流石に消息を追い続けるのは難しかった。


「バル爺が今どこにいるか、伯爵は知りませんか?」


「知らんな。奴は人に面倒事を押し付けて自分は遊び呆けている様な奴だからな。あれで元は一国の将だったというのだから驚きだ」


「昔から自分の目で見て回る人でしたから。部下達に混じって訓練を受けていた時には流石に僕も驚きましたが」


 フランヴェル王国では滅多にない事だったが、新人に女性が入ってきた時には高確率でその近くにバルトフェトはいたという。

 兜で顔を隠し、何食わぬ顔で女性兵士に近づき、優しく手解きする。

 そんなお茶目な性格も、部下達に人気があった理由でもあった。


 距離が近いというか、近すぎるというか。

 兵士達一人一人の特徴を良く知っているため人事面でも滅法強く、部隊指揮も巧い。

 平民出身なので、部下達も言う事を聞きやすい。

 反面、貴族出身の指揮官クラスの者達には煙たがられていたが。

 色々な意味で有名な老人だった。


 尚、結婚経験は無し。

 理由は言うまでもない。


「エロ爺の話より今の話をするとしよう。まずは、先に述べた金の件だ」


「はい」


 リースの顔が緊張で強ばる。


「残りは迷惑料として頂く。というよりも、既に手元にはない」


「はい?」


 ぶっちゃけられた。

 リースの顔が驚きの顔へと変わっていた。

 俺の耳にだけ「(えっと……聞き間違いかな?)」という言葉が響く。


「貴様達は分かるな?」


「「「……はい」」」


 リースの後ろに控えていた3人が声を揃えて同意した。


「この一年間……どれだけこの日を待ったことか」


 伯爵が拳を握りしめていた。

 その背中には、ユラユラ~っと立ち上っている謎の闘気。


「え、あの……?」


 リースは狼狽した。

 だが、後ろにいる3人は全く動じない。

 俺も動じない。

 何故なら、俺は既に聞いていたから。


「俺が何故怒っているか、其奴等から聞いているのだろう? わざわざ俺に殴られにくるとは思わなかったが、その心意気に免じてほんっっっっっっの少しだけ手加減はしてやろう」


「はっ!? え、ちょっと……っ?!」


 間違ってもリースが避けないように、レオン達がリースの身体をしっかり固定。

 部下達が謀反?

 いや、予定通り。


「(まさか、カズキっ!)」


『(悪い。この話もすっかり忘れていた)』


 本当は助けてやろうと思ったが――実際には助けられないので、伝えるだけなのだが――昼にした話の件でその気もなくなった。

 しかし、これはリースのため。

 怯えて過ごすよりも、直前に知った方が良い事もある。

 今回の件の様に、逃れられないのならば尚更だろう。


 レオン達はリースの部下。

 しかし、この1年間ずっと寝ていただけのリースに、彼等の信頼は得られない。

 可愛い顔した眠り姫が稼げるのは、儚い好意のみ。


 その点、ルドル伯爵は居候のレオン達を邪険に扱わなかった。

 バルトフェトから受け取ったお金の件は俺も今知ったばかりだが、それでも受け取ったのはリース一人分の代金。

 レオン達の分は欠片も含まれていない。

 仕えている主君(リース)の側を離れたくないというレオン達の思いを汲み、亡命してきた多くの騎士達をルドル伯爵は屋敷に迎え入れた。

 例え財政がカツカツになろうとも。


 レオン達も日々を無為に過ごしていた訳ではない。

 が、余りにも微妙な立場だったため、最初はかなり苦労したと聞いている。

 ルドル伯爵にとっても、レオン達は自分の部下ではないため扱いには苦心していた。

 その苦労は、消えていくお金という形に変換される。


 そんなルドル伯爵の苦労を間近で見ていたからだろう。

 一人、また一人と、リースの元を騎士達は自ら去っていく。

 そして最後に残ったのがレオン達。

 彼等の信頼がルドル伯爵に傾いているのは仕方が無かった


「娘を思う親の拳は重いぞ。さぁ、歯を食いしばれ糞ガキ!」


 ――というのは、実は関係無く。

 ルドル伯爵が怒っていたのはまた別の事だった。


『(ルドル伯爵の娘……確か、エミちゃんだったか。リースも大変な御転婆娘に好かれてしまったな。リースが寝ている間に色々と散財してくれたみたいだぞ)』


「(それ、僕の所為なの!?)」


「死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 娘を溺愛する父親が放った必殺の拳が――まさに、必ず殺す!という気合いの籠もった一撃がリースに大炸裂。


 再びリースのHPが1になった。

 ゲーム画面なら真っ赤っか。


 可愛いは正義。

 でも時には罪にもなる事を、この日リースは知る事となる。


 3割共有でも物凄く痛かった。





猫「ニャ~……(じゅるっ)」

梟「ホゥ……ホゥ……(キラーン)」

カ「おお、どっちもが相手を得物だと思っている。良いライバル関係になりそうだな」

リ「仲良くさせてください、カズキ。被害にあうのは僕なんですから」



ナ「リース様、なんで朝っぱらからボロボロなんだ?」

リ「ちょっとね……(本当に被害にあった!)」

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