第9話 処刑人王子の殺人英雄譚?
『とりあえず、身体を返すな』
「(え? あ、ちょっと……)痛っ! 物凄く痛いんですけど、カズキッ!?」
小屋にリターン。
リースの傷は予想以上に酷かった。
恐らく、HP1状態。
毒薬を呷れば苦しむ間もなく自殺出来る。
「(カズキ、実は虐めっ子でしょう……)」
『(可愛い子はつい虐めたくなるタイプだ)』
「(何の慰めにもなってません! あと、男の人に可愛いって言われても全然嬉しくありません。むしろちょっと怖いです……)」
『(俺は両刀使い)』
「(ちょっとどころか、本当に身の危険がっ?!)」
可愛いは正義。
最近、何かに目覚め始めている。
ついでに、リースに現在のステータスを強制的に見せてみる。
★名前 リース...
★種族 混沌の民 ★性別 男性
★職業 処刑人見習いLv1
★基礎ステータス
STR 6 VIT 1
AGI 3 DEX 5
INT 1 MND 1
CHR 25 LUK 1 (+1)
★所持スキル
???(?) 処刑(1)
★所持法術
★所持職業一覧
ロードLv7 動物使い見習いLv11 剥取士見習いLv5 格闘士見習いLv1 処刑人見習いLv1
何気にかなり偏ったステータスだった。
スキル【処刑】だけは職業とセット品だという事も発覚。
そうか。
【斬り捨て御免】は俺個人が覚えたスキルなのか。
少し残念。
「(全然残念じゃありませんって。むしろ変なスキルを覚えなくて良かったです……というか、元の職業に戻して下さい。なんて酷い職業にしてくれているんですか)」
『(処刑人王子の殺人英雄譚。良い話が書けそうだな。しかも意外と泣けそう)』
「(読者層が物凄く偏りそうな……涙もろい人はまず手に取らないと思います)」
全米が泣く前にリースが泣いていた。
ちなみに、身体を入れ替わると同時にリースは力尽き、床におねんねしている。
さっきから念話で話しているのは、口を開くのも億劫だからだろう。
このまま放っておくと、恐らくリースは出血多量で帰らぬ人に。
その前に輪廻転生の一手を打つとし……。
間違えた。
輪廻転生だと死んでしまう。
起死回生の一手の間違い。
ボーナスポイントを振るためには、一度リースに身体を返さないといけない。
怨んでくれるな、リース。
俺はリースが痛みで苦しむと分かっていて、泣く泣くチェンジしたんだ。
……さて。
ゆっくりとスキル選びに興じようか。
「(あ、だんだんと視界が霞んできました……)」
視界の共有は100%。
嘘を言ってはいけない。
嘘つきは泥棒の始まり。
リース、この剣はいったいどこから盗んだんだ?
「はぁ……助かりました」
回復魔法を覚えてみた。
表記は〝法術〟となっているが無視。
無事、魔法は発動しリースの体力が全回復。
ただ、テラテラテラっというエフェクトが無かったのが残念。
『(ありがとうがないな、リース。そんなんじゃ良い子に育たないぞ)』
「誰のせいですか、誰の。ああ、服がボロボロだ……帰ったら怒られるかなぁ」
『(謝るのは得意なリースだった)』
「そんな得意は持っていません」
リースの元気がない。
血を失いすぎたか。
「いえ、たぶん法術を使ったからでしょう」
MPの消費か。
魔力なのか、精神力なのか。
精神力であれば俺が消耗する筈。
となると、魔力の方向で考える。
「この疲れ具合は、聖力を消費したのでしょうか?」
『(精力?)』
「間違ってます、間違ってますよカズキ。聖なる力と書いて、聖力です」
精神的な力と書いて、精力と読む。
嫌な略し方だ。
「となると、覚えたのは聖術ですね。属性は何です?」
『(ふむ……説明するより見せた方が早いか。これだ)』
★所持法術
カオスヒール(1)
「混沌系!? いえ、まさかそんなっ!?」
幾つか候補があったが、名前で決めた。
一瞬でリースの傷が綺麗サッパリ消えたので、回復力は抜群。
カッコがあるのは、やはり熟練度か。
「カズキ、なんてものを覚えてくれたんですか……この法術、恐らくは禁術もしくは既に失われたものです」
混沌系第拾級、カオスヒール。
効果はHPの全回復。
傷も綺麗サッパリ消してしまう。
もしかしたら時間を巻き戻しているかもしれない。
成長を望んでいるリースには悪魔の呪いの様な法術。
消費魔力?と消費精力は、MAX値の半分、端数は切り上げ。
代償はきっと寿命半分。
「あの、勝手に法術の効果を捏造しないでください。それに、精力ではなく聖力です。あと、僕の寿命を返して下さい!」
俺の妄想なので、その代償が確定するのはまだまだ先の事であった。
『(リースをおちょくるのは楽しい)』
楽しいは正義。
「本当に、早く僕の中から出ていってくれません?」
傷は消えても血の跡は消えない。
小屋の中は結構スプラッタ。
リースの身体もゾンビ仕様。
「カズキ、水の法術を覚えて下さい」
動物使い見習いのレベルは、今回の戦闘で8から11になった。
手に入れたボーナスポイントは3。
さっき1ポイント使ったので、残りは2。
その貴重な2ポイントに対し、リースが我が儘を言ってくる。
身体が拭きたいそうだ。
水浴びしたいとか。
もしリースが女の子だったら、俺はその願いを聞き入れていたかもしれない。
つまり、却下。
目先の欲より、これからの事を考えよう。
「ふぁ……何だか眠く……」
リースは眠ってしまった。
さっきまでは痛みで起きていた。
HPは回復したが、体力と精神力はかなり消耗している。
痛みが無くなった今。
リースの眠りを妨げるモノは何もない。
お子様なリースに襲い掛かってくる睡魔の力はとてつもなく強かった。
寝る子は育つ。
寝てもなかなか育たないリースに、涙がホロリ。
『とりあえず、命の危険は去った。だが、当面の問題はまだ解決してないんだよな』
忘れないうちに、ミズキにもカオスヒールをかけておく。
その瞬間。
身体の中から何かがゴッソリと失われた。
つ、辛い……。
精神的に物凄く疲れた。
これはヤバイ。
カオスヒールを使用した時の消費MPは、本当にMAX値の半分かもしれない。
暫くは動けそうになかった。
ならば、その時間を使ってこれからの事を考えよう。
ボーナスポイントは残り2ポイント。
家に帰るまでが遠足。
夜は……長い。
★☆★☆★☆★☆★☆★
2時間ほど小屋で休憩した後。
意を決して出発した。
正直、勇気が必要だった。
リースの低LUK効果が半端ない。
一度、他の人のステータスをじっくりみて見たいと思う。
現在のステータスは、以下の通り。
★名前 リース...(憑依:滝川一騎)
★種族 混沌の民 ★性別 男性
★職業 動物使い見習いLv11
★基礎ステータス
STR 4 VIT 3
AGI 5 DEX 5
INT 2 MND 3
CHR 43 LUK 1 (+1)
★所持スキル
成長型: 鑑定(2) 自動剥取(2)
固定型: アニマルコマンド(10) 格闘術(10)
未分類: 取得経験値増加(1) 異次元収納BOX(1) 職業変更(1) 拳撃(1) クロウキラー(1) 処刑(1) 斬り捨て御免(1) 広域サーチ(1)New! 地図生成(1)New!
★所持法術
カオスヒール(1)
★所持職業一覧
ロードLv7 動物使い見習いLv11 剥取士見習いLv5 格闘士見習いLv1 処刑人見習いLv1
◆使役中の動物◆
ミズキ
ボーナスポイントを使用して覚えたのは、【地図生成】と【広域サーチ】。
地図系のスキルは幾つか候補があった。
最終的に、名前の感じからして【地図生成】を選択した。
予想は的中。
意識すると頭の中に地図が浮かび上がった。
脳内地図は、これまで俺が見た事のある場所が既に解放されていた。
熟練度がまだ低いためか、倍率の変更は不可能。
但し、ここまで来た事のあるエリアが開放されている。
つまり、その方向へ向かう事で、村まで帰ることが出来る。
ちなみに方角の表示無し。
そしてもう一つ覚えた【広域サーチ】。
このスキルは、実は【地図生成】よりも先に覚えた。
迷う必要がほとんどなかったからだ。
【気配察知】などのスキルもあったが、恐らく【広域サーチ】の方が上位。
気配以外にも色々とサーチ出来るとみている。
それで、この【広域サーチ】を小屋の中で使ってみたところ。
四方八方からおぞましい何かを大量に感知してしまった。
しかも分類不可能。
熟練度が低すぎた。
しかしその時は役に立たなかったが、【地図生成】と併用する事で問題が解決。
【地図生成】と【広域サーチ】をリンク。
というよりも、【広域サーチ】で感じた情報を【地図生成】に丸投げ。
すると、地図上に赤い点が表示されるようになった。
赤い点だけが表示された。
赤い点は動いていた。
動いていない点もあったが、暫く眺めているとその点も動いた。
何となく予想はついただろうが、この赤い点はモンスターの印。
確認のため小屋から出て、赤い点が表示されている方向へ移動。
エンカウント。
予想は的中。
今日の俺は冴えている。
そして今に至る。
小屋を出るには勇気が必要だった。
赤い点がビッシリ。
死地に飛び込むようなものだ。
現在、地図を見ながら森の中を歩いている。
リースの周囲にばかり集まっている赤い点を必至に避けながら。
時折、単体で戦えそうな敵と戦いつつ、基本方針は移動優先。
★フォレストクロウ
今度も都合良く、一匹でいるモンスターを見つけた。
赤い点の移動方向を確認し、背後から忍び寄る。
そして不意打ちをお見舞い。
[カズキは森鴉の羽根を手に入れた!]
鴉、即、斬。
一、撃、殺。
折角覚えた【クロウキラー】はほとんど役に立っていない。
一応、鴉系モンスターが怯んでくれるという効果はあると思うが、熟練度が低いので効果皆無。
きっと発動率1%ぐらいだろう。
小屋を出発してから倒したモンスターは、これで6匹。
動物使い見習いのレベルは上がらない。
ミズキのレベルも上がらない。
ここは他の職業のレベルを上げたいところ。
だが、動物使い見習い以外の職業に変えると【アニマルコマンド】が発動しない。
【アニマルコマンド】はボーナスポイントを消費して覚えたスキルではない。
動物使い見習いを覚えた時に付属していたスキル。
そのためか、動物使い見習い以外の職業では、ミズキを使役出来なかった。
梟のミズキとは今日出会ったばかり。
親密度が全然足りない。
使役を解除したら、ミズキは普通に何処かへと飛んでいこうとした。
瀕死の重傷を負っていたところを回復したのに。
物凄く疲れる思いをしてカオスヒールを使ったというのに。
ミズキのハートは俺にキュンキュンしていなかった。
まぁ、それも仕方ない。
ミズキが重傷を負ったのは俺が原因。
無理矢理に使役もした。
恋や愛が芽生える前に憎悪が成長してもおかしくない。
リースのCHRは高いが、一足飛びでは不可能。
屋敷から連れ出したミケの様に、人に懐っこかった訳では無い。
ミズキは野生の動物。
今後に期待。
地図に表示される赤い点を避けながら森を歩く。
結構な距離を歩いている。
あの時は夢中で逃げていた。
朝までに村へ辿り着けるかちょっと不安になる。
★モスキートナイト
巨大な蚊を発見。
今度は気付かれたが、雑魚なので問題なし。
一撃目は躱され、二撃目で命を断つ。
後には何も残らなかった。
自動剥取の効果で証拠が自動的に隠滅される。
暗殺者にとって喉から手が出るスキル。
死骸から漂う死臭によるモンスターの呼び寄せもない。
大変便利。
いつか人相手に使ってみたいと思うのは狂気の沙汰だろうか。
そんな危ない考えを吹き飛ばすかの様に、新しい情報が入ってきた。
地図上に、初めて黄色い点が。
新しい出会いの予感。
出会った事のないモンスターだったというオチはいらない。
少しワクワクしながら進む。
すると、洞窟を発見した。
見覚えはない。
きっと逃走に夢中で通り過ぎたのだろう。
周囲を確認すると、焚き火の跡があった。
それと、大量の血。
血の香りもした。
元はない。
ここで何があったかすぐに思い至る。
記憶を発見。
喰い殺されたか。
南無。
黄色い点は洞窟の中の方へと続いていた。
きっと生き残りが。
……。
いや、ここは楽観的に考える。
この場所で遭遇したのは、むさい男ばかりだった。
人里から離れたこんな場所に大量の男。
真実はいつも一つ。
きっと俺は良い事をした。
そして、洞窟には黄色い点が一つ。
もしかしたら、こいつらに捕らえられた村娘かもしれない。
男達は全滅。
牢屋内に閉じ込められていた村娘は、運良く助かった。
ナイスストーリー。
周りには誰もいない。
リースもお眠り中。
つまり、なかなかに美味しい展開。
悪人の血が騒ぐ。
そんなものは絶対に無いが。
よく見ると、黄色い点に隠れて赤い点が重なっていた。
重なっていた。
重なっていた。
重なっている!?
くっ……俺のナイスストーリーが。
考えられるのは2パターン。
両方とも悪いパターン。
一つは、現在進行形でモンスターに喰われているパターン。
洞窟内にいたのが山賊だったなら天誅。
しかし、捕らえられた村娘だった場合は、それを引き起こした俺に天誅。
もう一つは、こんな時にイチャイチャしているというパターン。
いや、こんな時だからか。
赤は山賊。
黄は村娘。
もしそうだったら、俺は今日初めて人をこの手で殺す事になる。
血に汚れるのはリースの手だが。
殺人を実行するのは、俺の心。
覚悟を決めて、洞窟の中に入る。
洞窟内は暗かった。
何も見えない。
リターン。
火を探す。
火打ち石っぽい石を発見。
焚き火の近くにあった。
しかし、松明がない。
――いや、手持ち用の燭台が地面に転がっていた。
カチッ、カチッ。
燭台に火が灯る。
★フォレストクロウ
★フォレストクロウ
音と光に誘われて敵が出現。
手早く経験値の糧とする。
レベルはまだ上がらない。
洞窟探索にリトライ。
丁が出るか。
半が出るか。
鬼が出るか。
邪が出るか。
燭台の光を頼りに、洞窟内を慎重に進む。
そして俺は賭けに勝った。
賭けをしていた訳では無いが、それを見た瞬間に俺は勝利を確信した。
「……くぅ……んっ、んんぅ! …………ぁ、はぁ……っ!!」
エロスライムに弄ばれている褐色美女、発見。
S「プルプルプル(やっほー、出張してきました~)」
カ「このスライム、デキる!?」