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憑きモノ王子とダークな騎士団  作者: 漆之黒褐
第1章 『憑きモノ王子の旅立ち』
10/19

第8話 余裕の代償

 フォレストクロウリーダーとの戦闘は苛烈を極めた。

 兎に角、攻撃が当たらない。

 まるで強敵補正でも発生しているかの様だった。


 剣を振ってもサッと躱される。

 こちらの攻撃を完全に見切っているのか、とても滑らかな動きで躱す。

 時には、攻撃する前から回避動作を取っている。

 刃筋を無視して飽和攻撃を仕掛けても全部回避される。

 終いには振り抜いた剣の上に止まりやがった。

 いったいどこの剣豪だ。


 現れたのはリーダー一匹だったが、むしろそれで良かったと思う。

 1対1の戦いだからこそ、まだ余裕があった。

 敵の集団と戦う羽目になっていたらと思うとゾッとする。

 回避無視の全体魔法攻撃が欲しいと、この時初めて思った。


『ミズキっ! くそ、この野郎』


 そして狡猾。

 俺よりもミズキの方が弱いと悟ったのか、敵の攻撃はミズキに集中していた。

 何度も敵の注意を俺に向けようとしたが無理だった。


 フォレストクロウリーダーの攻撃を何度も受けたミズキが遂に力尽き、地面に落ちる。

 ミズキは血塗れになっていた。

 まだ息はあるが、これ以上攻撃を受ければ命に関わる。

 そうなる前に、ミズキを抱いて小屋へと逃げ込んだ。


 ドアを閉め……る前に、フォレストクロウリーダーが小屋へと入り込んできた。

 逃がすつもりは無いらしい。

 安全地帯が一転、修羅場と化す。

 狭い小屋内でフォレストクロウリーダーも動き辛そうだったが、俺も剣を自由に振るえない。

 状況は五分。

 つまり、攻撃を当てられない俺の方が一方的にダメージを受け続けた。


 リースが傷物になっていく。

 服が避け、玉の肌に爪傷や嘴傷が付いていく。

 血が流れ出る。

 責任どころの話ではなかった。


 HPがガリガリと削られていく感覚。

 【鑑定】してもHPやMPといったパラメーターは見えないが、絶対に0にはしていけない何かが減っているという感覚を感じていた。

 モンスターとの戦いは命のやりとり。

 まともに攻撃を受け続けると、いつか死ぬ。

 それなのに、誰の助けも借りられない場所へ一人でノコノコ出かけていった自分。

 どれほど馬鹿な事をしていたのか、身を以て知る事となった。


 ミズキを懐に抱えながら、それでも必至に剣を振るう。

 剣を振るより拳で殴れば当たりそうな気もする。

 が、拳では到底仕留められないのは分かっていたので、今はこの剣の攻撃力に頼り続ける。

 一撃。

 一撃さえ当たれば、この状況はひっくり返る。

 そう信じ、ひたすら剣を振るう。

 だが、そのたった一撃が当たらない。


 神に見放された様に、攻撃がまるで当たらない。

 この絶望的な命中率にLUKが関わっているとは思わない。

 が、このモンスターに出会ってしまったのは、間違いなくリースの運だろう。

 しかし、そうと分かっていて死地に飛び込んだのは紛れもなく俺自身。

 ミズキが死に瀕しているのも、使役した俺が原因。

 ちょっと猛省。


 本格的に反省するのは後回し。

 今は生き延びる事を優先。

 この窮地を脱しなければ。


 小屋の中で戦っていても戦況はまるで良くならなかった。

 となれば、取る手は一つ。

 安全地帯がないなら、また逃げるしかない。


 剣を大振りし、フォレストクロウリーダーが大きく回避行動を取ったタイミングを見計らい、小屋から飛び出す。




★フォレストクロウ

★フォレストクロウ

★フォレストクロウ

★フォレストクロウ

★フォレストクロウ

★フォレストクロウ




 しかし、外ではモンスター達が待ち構えていた。

 しかも6匹。

 まるで逃がさないといった風に、モンスター達は小屋の入口を囲むように飛んでいた。


 これまで同時に出現したモンスターの数の最大値は4匹。

 いきなり記録を1.5倍に更新するのはいかがなものか。


 いや、そういえば、逃走行動を取った時に限り、敵の増援が現れていた様な気がする。

 となると、こいつらは俺の逃走を引き金にして出現した敵。

 小屋に逃げ込んだ時を1回目としてカウントするなら、今は2回目。

 つまり、2回分の敵が目の前に出現したとも考えられる。

 そんな足し算はいらない。

 そんなRPGルールはいらない。


 とりあえず、万事休す。

 否。

 こいつらなら攻撃が当たる。

 例え攻撃を受けても、リーダーの攻撃ほどダメージを受ける訳じゃない。

 ダメージ覚悟で強引にぶつかれば突破するのは余裕。


 小屋を飛びだした勢いを殺す事無く、突撃を敢行。

 通り抜ける際に一匹殺傷。




[ミズキがレベルアップしました!]

[カズキがレベルアップしました!]


★名前 リース...(憑依:滝川一騎)

★種族 混沌の民  ★性別 男性

★職業 動物使い見習いLv9(1アップ)


★基礎ステータス

 STR 3         VIT 3(1アップ)

 AGI 5         DEX 4

 INT 2         MND 3

 CHR 41        LUK 1 (+1)


★所持スキル

 鑑定(2)  アニマルコマンド(10)  取得経験値増加(1)  異次元収納BOX(1)  自動剥取(1) 職業変更(1) 格闘術(10)  拳撃(1)


★所持法術


★所持職業一覧

 ロードLv7  動物使い見習いLv9  剥取士見習いLv5  格闘士見習いLv1


◆使役中の動物◆

 ミズキ




 嬉しいような。

 悲しいような。

 リーダーが現れたのは、レベルアップ直前だったのか。

 ミズキのレベルも上がったが、動けない今となっては何の慰めにもならない。


 そして、事態は好転しない。

 強引に包囲網を突破したまでは良かった。

 しかし次の瞬間。

 フォレストクロウリーダーが真横からぶつかってきて、俺は弾き飛ばされた。

 ノーマルの奴等なら逃げ切れるが、どうやらリーダー相手では無理らしい。


 倒れた俺の目の前を、リーダーが余裕綽々の表情でバッサバッサと飛ぶ。

 その左右にノーマルな鴉どもが。

 今度こそ万事休す。


 ここまでか。

 俺の二度目の人生は、これで終わり。

 リースを巻き添えにして俺は死ぬ。


 済まないリース。

 さようならリース。

 短い間だったか楽しかったぞ。

 成仏してくれ。

 生まれ変わったら、今度は女の子として生まれてこい。

 今度は間違うなよ。


 ……。

 …………。

 ………………。


 ――くそっ。

 胸くそ悪い。

 やはり嫌だ。

 俺が死ぬのは良い。

 だが、リースを死なせるのは絶対に嫌だ。


 何か手は無いのか。

 何でも良い。

 出来る事は……。


 異次元収納BOXに敵を収納……は、無理か。

 当たり前だな。

 生き物が入らないのは確認済。

 ミケは収納出来なかった。


 必至に剣を振り回して時間を稼ぐ。

 しかし多勢に無勢。

 次々と攻撃がリースの身体にヒットする。

 俺の攻撃は雑魚には当たっても、肝心のリーダーには当たらない。


 敵の職業変更……弾かれた。

 モンスターに職業は無いという事か。

 それとも、熟練度不足。

 Lv1に出来れば弱体化すると思ったんだが。

 兎に角、失敗。


 不用意に剣の間合いに入ってきた雑魚を倒す。

 煙となって敵が消える。

 自動剥取が発動してもアイテムは残らない。

 素材に出来る部位が少ないのか、それとも倒し方が悪くて剥取箇所が駄目になっているのか。


 フォレストクロウリーダーからの攻撃が少し減った。

 この剣の威力を目の当たりにしたからだろう。

 一撃で仲間の命を奪った。

 警戒している。

 いや、恐怖しているのか。

 慎重になった。


 チャンス到来。

 アニマルコマンドで、操る……ああ、やっぱり成功してしまったか。

 分かっていた。

 世の中そんなに甘くない。

 そうそう都合の良い事なんて起きやしない。

 リースが女の子だったらどれほど良かったか。

 それと一緒だ。


 フォレストクロウリーダーから感じていた焦りが消えた。

 俺の正面で、奴は優雅に羽を羽ばたかせている。

 そろそろ決めるつもりなのだろう。

 リースのHPは瀕死状態。

 血が瞳に入って少し見えにくい。

 今度こそ本当に、この世とおさらば。


 しかし、俺もただでは死なない。

 最後の最後ぐらい、堂々としていよう。

 立ち上がり、剣を構える。

 覚悟は出来た。

 せめて一太刀。

 相打ち覚悟で、その時を待つ。


 その時を待つ。

 ……その時を待つ。

 …………その時を待つ。


 ……。

 うん?


 攻撃してこない。

 いつまで経ってもフォレストクロウリーダーは攻撃してこなかった。

 ただバッサバッサと羽ばたいているだけ。

 その瞳は真っ直ぐ俺の方へと向いている。

 茫洋とした、焦点の定まっていない瞳だった。


 周囲にいるフォレストクロウ達は……戸惑っている?

 いったい何が……。


「(カズキ、アニマルコマンドの使役が成功してますよ)」


 幻聴が聞こえた。

 永遠の眠りに就いている筈のリースの声が聞こえた。

 そんな筈がない。

 ……いや、もしかして既に俺は死んでいた?

 ああ、それならば納得。


 俺は死人。

 幽体。

 幽霊なら、立っていても敵に気付かれない。

 俺は立ったつもりになっていただけ。

 実はもう力尽きて倒れている。


 きっと振り返ればそこにリースの死体が……。


『リースの死体が、無い?』


「(勝手に殺さないで下さい。僕はまだ生きてます)」


『やばい、幻聴がまた聞こえる……そうか、疲れているんだな、俺』


「(憑かれているのは僕の方です。カズキ、夜更けにいったい何をしてるんですか……しかも僕の許可を取らずに、勝手に)」


 おっと。

 どうやら本当にまだ生きている様だ。

 早合点、早合点。


『おはよう、リース。いつ起きたんだ?』


「(ついさっきです。流石にこれだけ痛みを感じたら目が覚めますよ)」


 そういえば、痛覚も共有しているんだったか。

 何度も攻撃を受けているが、大して痛みは感じていない。

 血がこんなに出ているのに。

 見た目、重傷者。


「(僕は物凄く痛いんですけど……)」


『その割には余裕そうにも聞こえるんだが』


 声に震えや苦しみが感じられない。

 心の声だからか。


「(それより、カズキ。目の前のモンスターをまず何とかしてください。僕、死にかけてるんですけど……)」


 そうだった。

 瀕死の状態だった。

 ゲームで言うと、画面真っ赤状態。


 改めて、目の前にいるモンスターを鑑定してみる。




★フォレストクロウリーダー




 何も変わっていなかった。

 そっちでは分からないか。

 ならば、俺自身のステータスを確認。




◆使役中の動物◆

 フォレストクロウリーダー(解除まで444秒)




 見事に死が並んでいた。

 よくあるよくある。

 時限爆弾。


「(カズキ、随分と余裕ですね……)」


『他人事だからな』


「(僕の身体ですよっ!?)」


 冗談は兎も角。

 実はモンスターも操れるらしい。

 きっと動物型だからだろう。


 さて、どうするか。


「(もう、カズキには任せておけません。身体を返して貰いますね)」


 リースに身体を乗っ取られた。


「クカーッ!」


「あっ」


 そしたら、フォレストクロウリーダーの使役が強制的に解除された。

 怒った鴉がリースにトドメを刺すべく、怒濤の攻撃。


「ちょっ! な、ならもう一度!」


 リースはフォレストクロウリーダーに【アニマルコマンド】を使用!

 リースはフォレストクロウリーダーを使役しようとした!

 フォレストクロウリーダーはレジスト!


 ちょっと予想通り。

 リースが持っている謎スキル【???】の影響か。

 もしくは、使役したばかりのモンスターはすぐには使役出来ないという縛りでもあるのか。

 尚、さっきのナレーションは俺の心の声。


 ――などと悠長な事を考えている間に、マジでリースは死にかける。


『真打ち登場! 貴様、御主人様に逆らうつもりか?』


 もちろん、リースに言った訳ではない。


 カズキはフォレストクロウリーダーに【アニマルコマンド】を使用!

 カズキはフォレストクロウリーダーを使役しようとした!

 カズキはフォレストクロウリーダーを使役した!


 ちょっと予想通り。

 リースはCHRが高い。

 謎スキル【???】を持たない俺が行えば、ご覧の通り。


「(納得がいきません……)」


 そろそろ疲れてきたので、終わりにしよう。

 まずは調子にのっていた周りの雑魚どもをフォレストクロウリーダーと一緒にサクッと片付けて。

 ドロップアイテム無し。

 しけている。


 最後に『待て!』をさせたフォレストクロウリーダーを斬る。


 心を鬼にして。

 容赦なく斬り捨てる。


「(あ、あくまです……)」


 悪魔の如く、斬り捨てた。

 一撃だった。

 リーダーも一撃か。

 こんな最強武器を最初から持っているリースの方が俺は怖い。




[カズキがレベルアップしました!]


★名前 リース...(憑依:滝川一騎)

★種族 混沌の民  ★性別 男性

★職業 動物使い見習いLv11(2アップ)


★基礎ステータス

 STR 4(1アップ)   VIT 3

 AGI 5         DEX 5(1アップ)

 INT 2         MND 3

 CHR 43(2アップ)  LUK 1 (+1)


★所持スキル

 鑑定(2)  アニマルコマンド(10)  取得経験値増加(1)  異次元収納BOX(1)  自動剥取(2) 職業変更(1) 格闘術(10)  拳撃(1)  クロウキラー(1)New!  処刑(1)New!  斬り捨て御免(1)New!


★所持法術


★所持職業一覧

 ロードLv7  動物使い見習いLv11  剥取士見習いLv5  格闘士見習いLv1  処刑人見習いLv1New!


◆使役中の動物◆

 なし




[カズキは森鴉の羽根を手に入れた!]

[カズキは森鴉の黒翼を手に入れた!]

[カズキは森鴉の黒嘴を手に入れた!]




 リースが成長した。

 ちょっとヤバイ方向に。



 





カ『成長しても、身長はそのまま』

リ「なんだか殺意の波動に目覚めそうです、カズキ」

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