前編
乙女ゲーム転生の話ばっかり読み漁っていたら自分も書きたくなった結果、これって言う。
「あたし、乙女ゲームに転生したってさっき気づいたの!」
「ふーん。そういう時って何科に行けばいいの?内科や外科じゃないよね?脳的な?」
「待って!病気じゃないから!信じてよ~親友でしょ?」
「親友をまともな道に戻すのもまた親友たる私の使命。」
「いやいや、とりあえず話を聞いてよ。」
突然親友のみちるがおかしなことを言いだした。頭の心配をするのは仕方ないことだろう。
「みちるの話って長いんだよ。今の私にそんな気力はない。」
「ひどい、奏ちゃん。あたし、こんな話できるの奏ちゃんだけなのに。」
「どっちが酷いんだ。みちるが授業中に居眠りした罰でこうして裏庭掃除をすることになったんでしょ。一人じゃ無理だって泣きつくから私が手伝ってるのに。みちるも手を動かせ!帰るぞ。」
「帰らないで~ごめんなさい。あたしが悪うございました。」
「わかればいい。」
「でね、その乙女ゲームが・・」
「話すんかい!!」
結局掃除をしつつ話を聞く羽目になった。みちる曰く、この学校で繰り広げられる男女のイチャコラがゲームになってるそうで。攻略対象に生徒会長、陸上部のエース、手芸部部長、学年1位の秀才君、保健室の先生がいるそうだ。
「で、この世界が乙女ゲームの世界だったとして、どうするの?」
「え?・・あ、特に考えてなかった。ゲームしてたのを夢で見て、思い出した!!って思って。」
「まさか、さっき授業中にいきなり『思い出した~!』って立ち上がったのって。」
「そうそう。起きたらいきなり先生に怒られちゃって、びっくりしちゃった。」
「いきなりでびっくりしたのはクラスメートと先生だと思う。」
「あはは。そっか。」
笑い事じゃない。
「ねえ、奏ちゃん、信じてくれる?」
「まあ、さっきよりはね。2組の美少女が生徒会長と陸上部のエース、二股かけてるって噂が流れてたし、そんな噂の美少女が学年1位の男の子と仲良く歩いてるの見たし。つまりその子がヒロインなんでしょ?」
「多分?何せゲーム上ヒロインの顔は出てこないからね。」
ま、私たちには関係ないか。そこでその話は終わった・・・はずだった。掃除が終わってファミレスでみちるにドリンクをおごってもらってる時にまた話が戻るとは思ってなかった。
「奏ちゃん、あたし、乙女ゲームに転生したのには意味があると思うの。記憶を取り戻したこともきっと、あたしに攻略対象を攻略しろってことなんだと思う。」
「それはない。」
「何でよ~。」
「だって、みちるの言う攻略ってもうヒロインが始めちゃってるでしょ?そこに突っ込んでいくなんてできるの?」
「・・・できない。」
「でしょ?またなんで話が戻ったかわからないけど。」
「さっき奏ちゃんがどうするのって聞いたから。」
私か、余計なことを言ったのは。
「でもでも、まだ手芸部部長と保健室の先生が残ってるし。あ!そうだ!!隠しキャラもいたんだよ。」
「隠しキャラって何?」
「うーんとね、ある一定の条件を満たすと攻略対象者が増えるんだよ、それが隠しキャラ。」
「一定の条件って?」
「わかんない。あたし、ゲームしてて隠しキャラ出せなかったんだよね。なんか『図書館の君』って呼ばれてたから、図書館に行けば会えるんじゃない?」
大雑把だ。とりあえず、みちるに現実を見てもらおう。
「ねえ、みちる。そのゲームって4月始まり?」
「うん、そうだよ。で、1年かけてイベントとかこなして、3月にエンディングを迎えるの。」
「みちる、今何月?」
「ええ~奏ちゃんボケちゃったの?今は9月だよ。」
「ボケてないよ。みちるこそ現実を見ろ。もう半分終わっちゃってるじゃん。今更参戦してどうする。」
「そっかぁ。せっかく思い出したのになぁ。」
「一応、言っておくけど、みちるは手芸なんてこれっぽっちも興味がないでしょ?手芸部部長と話が続くとは思わないよ。あと、保健室の先生ね、健康優良児のみちるちゃん、保健室のお世話になったことなんてないでしょ?それと図書館の君なんて聞いたことない。それ以上の情報がない限り探すのは無理だね。」
「う。完璧な会話封じだよ、奏ちゃん。」
やっぱりまだあがこうとしてたか。そんなことより差し迫った問題があるじゃないか。
「みちる、テスト」
「その話は聞きたくない!!」
「聞きたくなくてもあるからね、テスト。どうするの?私は英語なら教えられるけど、数学は厳しいよ。」
「聞きたくないって言ったのにぃ。」
テーブルに突っ伏したみちるに助け船を出す。
「私の従兄弟が教えてくれると思うけど、どうする?」
「奏ちゃんのいとこ?し、知らない人に教わるのはハードルが高い。」
「みちるは人見知りする癖に、何で攻略対象を攻略とか言い出したかなあ。」
「画面越しには知ってる人なんだよ。」
「まあ、いいや。じゃ、明日市立図書館で教えてもらうことにしたから。」
「え!?ちょ、ちょっと待って」
「もう了承のメール返ってきたから。」
「奏ちゃ~~ん。」
翌日、放課後に図書館へみちるを引っ張っていく。
「奏ちゃん、あたし、なんか頭が痛い。」
「お腹押さえてるのはギャグなの?ツッコミ待ちなの?天然なの?」
「そうそう、お腹が痛かったのかもしれない。」
「そう、じゃあ、もう痛くないかもしれないよね?」
「あ、そうだ。あたし今日用事があったんだよ。」
「あったでしょう?図書館で勉強を教わる用事ね、大事大事。」
「奏ちゃ~ん。」
「はい、到着。」
図書館の中に入ると従兄弟の真也君が待っていた。
「ほ、本日はよろしくお願い申し上げます。」
「みちる、挨拶をするのに、私を盾にしない。目も開ける。」
「久しぶり、みちるちゃん。」
「あれ?真也君?何だ~奏ちゃんのいとこって真也君か。よろしくお願いします。」
みちると真也君はもう私の家で何度も顔を合わせてる。みちるが初対面の人に勉強を教われるわけがない。ガッチガチに緊張しちゃって話なんて素通りしてっちゃうでしょ。それくらい親友としてわかってるので、真也君にお願いしたのも理由の一つだ。わざと真也君の名前を出さなかったのはただ単にみちるをからかいたかっただけである。
「奏ちゃん言ってくれないんだもん。」
「そうだったの?奏はみちるちゃんが慌てる姿を楽しんでたな。奏や僕はあまり表情が変わらないから、感情によって表情の変わるみちるちゃんが可愛くて仕方ないんだよね。」
「どうせすぐ顔に出ちゃいますよ~だ。」
「違う違う。みちるちゃんが可愛いっていう話だよ。」
「褒め言葉?」
「もちろん褒め言葉。」
「えへへ。よし、持ち上げられてやる気出てきた。勉強頑張ろ。」
この見事な鈍感さで攻略とかよく言い出せたと思う。真也君がみちるに会いたいってしつこく言うから、この勉強会になったのが二つ目の理由だ。三つめは真也君が本当に教えるのがうまいので、みちるのためになるという理由。
しばらく勉強を進めているといきなり女の子の声がした。
「ああ。そこ、そういう風に解くんだ。」
見上げると噂の美少女、ヒロインがそこにいた。
読んでいただきありがとうございました。