死ねない魔女と最後の恋
初心者ですので誤字脱字があるかもしれませんがあらかじめご了承ください。
教えてくださると幸いです。
今日も日が昇り月が昇りまた日が昇る。
何度繰り返したのだろうか。もうわからない。自分が何歳なのかすらわからない。どうしてこうなったのか覚えていない。かつて、私も人だったはずなのに。
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今日もいつも通り活気にあふれている街、マレルトは商人が集まる街で知られている。この街はこの国の主要都市を結ぶため自然と人が集まる。私がそんな街に住めるわけもなく隣の村から食料を調達するためにやってきた。
「いらっしゃい、お嬢さん。今日は果物新鮮だよ。どうかい、村の者に買って行ってくれないか?」
「そうですね、では…林檎をいただきます。」
「おおきに〜!村のやつらによろしく言うといてな」
私が今暮らしている村では自給自足な生活をしているため、基本的に食料は調達する必要がない。だから、果物など畑にはないものをたまにしか買うことがない。
最後の買い物を済ませ、買い物リストを見直す。買い揃えられているかどうかをしっかり確認して、抜てるものがないことに安堵する。抜けがあれば人混みに逆戻りだからだ。それに、最近はどこもかしこも治安が良くない。人が多く集まるこの街も例外ではない。魔法により、物を取られたりする可能性は低いが、ないわけではないし、何より喧嘩など巻き込まれるのはごめんだ。
村に戻るための唯一の橋(無ければずぶ濡れになりながらも渡るだけ)を渡り始めた時、目の前に爆発音とともに何かが落ちて来た。
爆発の名残か、中央から出ていた煙を払うと騎士のような(ボロボロの)服を着た傷だらけの男がいた。橋はギリギリ耐えているようだがいつ落ちてもおかしくない。仕方ないので魔法を使い、ゆっくりと男を浮かせると橋を元の状態に戻した。
魔法を使うといいことが無い。いつもならこのまま男は放置するのだが、今回だけは何故かできなかった。大気の揺らめきを感じたからかもしれないし、ただのきまぐれかもしれない。ただ、何故だか全てがようやく終わる予感がした。治癒魔法を軽くかけ、男の傷を治した。
男が目を覚ますまで、私は男を観察した。服からどうやら地位の高いものだと伺えた。バッジも付いている。流石に正確なところはわからないが。
意外に10分ほどで目を覚ました。
「ようやく起きましたね。」
目を覚まし私を見るなり敵意をむき出しにして、「痛っ」といいながら起き上がった。
「あんたは誰だ」
「それはこちらのセリフよ。いきなり目の前が爆発して貴方が倒れていた。ほんと、訳がわからないわ。それに、あなた騎士なんでしょう?人に名を聞くときは自分から名のれってよく言うでしょ。」
最後の冗談も彼の睨みをいっそうきつくさせる言葉だったようだ。
「冗談よ。貴方がなぜ傷だらけだったかなんて聞かないわ。私、厄介ごとには首を突っ込まないタチなの。だからこれ以上関わらない。それでいいでしょ。それじゃあ。」
なんで手当てまでしたんだ。馬鹿らしい。殺意剥き出しで今にも噛み付いてきそうじゃない。まるで狼。そう言えば彼もそうだった。彼も初めは私に対してそうだったわ。…彼って誰かしら?
「ここはどこだ」
程よい高さの声が聞こえた。そこで我に帰った。その時にはさっきの思考はどこかに消えてしまっていた。初めはこの声の持ち主が誰なのか理解できなかった。ただ、眉間にしわを寄せ、再び同じ質問を男の口からされてしまうと理解せざるを得なかった。
「マレルトは知っているかしら?ここはマレルトの外れにある村に行く道の途中よ。マレルトに行くならあっちよ。」
親切に答えるなんて、どうかしているわ。今日の私は。
「傷」
「え?」
「傷はこんなもんじゃなかっただろう」
そろそろ帰ろうと思っていたところに続けられた質問に答えるため振り替えざるを得なかった。
「えぇ。確かに貴方は瀕死状態だったわ。」
「だったら、なz」
「何故、治すことが出来たかって?あら、私でないかもしれないわよ。貴方を治した人は。」
「それはない。この辺りで強い魔力はあんたからしか感じられない。」
魔力漏れ、それとも橋の修繕の時の魔力が残っていて、私のどこかに付いている?前者、いや、両方ね。久々に魔力を使ったからきっと、感覚が乱れてしまったのね。
「そうね、私よ。」
「今の技術でそんなことできるやつなんて…」
「確かになかなかいないわ。はい、これあげるから服でも買いな。それじゃあ目立って仕方ないでしょ。」
話はここで終わりとばかりに、身につけていたローブを渡し、平民にしたら少なくないお金を渡した。今度こそは振り返らず、村へ帰った。
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あれから数日たった。それはそろそろ次の村へ行くべきかなと考えている時だった。村の入り口が騒がしくなった。先日あった男が村に来ていた。村は排他的である為、私が受け入れられた時は奇跡に近かったのだが、その頃は人手不足で例え女だとしても労働力が欲しかったようだった。しかし、今はその必要はない。だから追い出そうとしているが、それでも彼は出ていかないのだろう。
「本当なんでいるのよぉ」
頭が痛くなってきた。王都に関わる人間とは基本的に交流を絶ってきた。出来るだけ関わらないようにしてきた。厄介なものを持ってくることはわかっていたから。
「リズ〜!今日は何を教えてくれるの?」
後ろから一人の女の子が抱きついてきた。その後からも今日は何をすんだよ。とか、私もう一回おままごとしたいとか色々言っている。そのはしゃぎ声で男はこちらに気づいたようだったので軽く会釈した。
「やはりここにいたんだな。」
「それでどうなさったんですか?」
用がないならとっとと帰れという気持ちで男を見た。服は商人のようであるが、軍人ならではの鍛えられた筋肉は隠せなかったようだ。
「なんだい、リズの知り合いかい?リズの名前だしてくれりゃあ、あたし達はリズを呼んだのにね〜。」
元気な声で笑いながら話す女は村長の娘のマリアで、私がこの村に受け入れて貰えるように尽くしてくれた人だった。
「知り合いっていうか…」
「積もる話もあるだろう。子供たちの面倒はあたしらでするからあんた達は色々と話すといいよ。」
そう言って私たちの反論は聞かずに家へと押し込んだ。
「後はごゆっくり」
そう言うと出て行ってしまった。残された私たちには気まづい雰囲気が流れていた。
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やはり気まづい雰囲気の中先に口を開いたのは私で、聞いたところ、彼の名前はフリードリヒというらしい。フリード(本人にそう呼んでくれと言われた)は自分のことを覚えていないようだった。つまり、行くあてもなくひとまず、私にお金を返そうと思ってきたようだった。行く当てがないって言われるとここにいたらいいわって言うところかもしれない。けど、私の場合は訳ありである。もうすぐ出て行く身であり、村に迷惑もかけられない。どうしたものだろうかと考えていると、ドアが開いた。
「リズ?」
村の子供の誰よりも好奇心旺盛なマリアの子供、ルークが顔を覗かせた。
「本当にいた!お母ちゃんが、強そうな兄ちゃんが来ているって言っていたから見に来たんだけど…」
すごくキラキラした目でフリードを見ていた。そして
「兄ちゃん、剣使えるんだろっ!俺に教えてくれよ!」
その瞬間、彼が村に住む事はほぼ確定となった。後から考えると、マリアがルークをこっちに寄越したのはそこが狙いだったのかもしれない。そろそろ村を出ようと思うと打ち明けた時、猛反対されたから。二人をくっつけて、落ち着いて欲しいのかもしれない。なんせ、彼女は私を妹のように可愛がってくれているのだから。
しかし、彼は記憶喪失なのに剣は使えるのだろうか。
そんな疑問は男の子たちと剣に見立てた木の棒を振っている姿を見ていらぬ心配だと気づく。剣の構え方。それを見ただけで記憶の底にいる彼を思い出す。ただ、眩しくどんどんと遠くへ離れていく彼。眩しすぎて姿がぼんやりとしか見えない。
「リズ〜?どうしたのさ。目を細めちゃって。フリード君がかっこよすぎて見とれちゃった?」
いつも唐突に思い出されるそれは限りなく頻度を増やし続けている。今の私にはまだ、彼が思い出されない。けど、心の底にある蓋を開いてしまったら流れるように出てくるのだろう。そして、蓋が開いてしまう日が着々と近づいている。そうしたらきっと………
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あれから1年近く経ったある日、それは突然にやって来た。なんともない平穏な空気に紛れ込んだ微かな違和感。時間だ経つにつれて少しずつ少しずつ大きさを増す。危ないと思いとっさに展開した魔法壁。どうやらなんと前触れもなく、魔獣が襲ってきたようだった。まるで仕組まれているかのように。
むらの人々は突然の事で驚き逃げるように走り回る。私の魔法壁から出ようとしても出れず、ますます混乱を招いてしまう。今出るのは自分から命を捨てるようなこと。そう気づくのには時間がかからなかった。どうやらフリードがみんなをまとめているようだった。いつからか、口数が少なかった彼と色々話すようになった。彼は村に受け入れられて頼られるようになっていった。私が居なくてももうやっていける。それは確信だった。
私は、魔物がたくさん集中しているところへ向かった。村の男たちが集まって何時でも戦える様にと警戒した様子だった。
私は何も言わず、彼らと魔獣の間に立つ。みんな驚いた顔をしていた。なんて滑稽なんだろうか。彼等からしたら一番滑稽なのは私だろうけど。
「皆は家に戻って。ここは私が片付けるわ。」
馬鹿なことは言うなとか、リズ一人にできるわけがないとか色々抗議する声が聞こえる。
「私ね、本当は魔女なの。」
そう言った瞬間静かになる。
「人を平気で騙す悪者なのよ。逆らうなら殺すかもしれないわ。だからとっととお家に帰りなさい?」
不敵に笑ってみせる。あぁ、ついに言っちゃったよ。最後まで穏便に過ごしたかったのに。
1人が冗談はやめろよ、こんな時に。と言って近づいて来る。その足元に鋭い風を向けて地面に深く鋭い傷跡を残す。こっちに向かおうとした1人は顔を真っ青にして後ずさる。私は笑みを深めたところで、ようやく彼らは家へと帰った。1人を残して。
「フリード、あなたは帰らないのかしら?」
「馬鹿な真似はやめろ」
それはここ最近聞いていなかった、低くて鋭い声だった。目を細めて睨んでいる。
「私は魔女よ。こんな魔獣には負けないわ。だって私の方が魔力が上だもの。」
「それでもだ。君一人で行く必要がないだろう。」
その言葉はいつしか聞いた言葉に似ていた。それは遠い昔のこと。
「私がしないと誰がするって言うの?気持ちだけで十分よ。」
気づいてしまった。貴方が次に言う言葉を。
気づいてしまった。私の気持ちに。
だからこそ譲れない、私一人で戦うんだ。
彼が口を開く前に魔法壁に向かって歩き出す。壁を破ろうとしている魔獣の目の前に出るなんてできず、少し離れたところに向かう。そして、貴方に届きますように。と小さな声で
「ありがとう。今まで。」
彼が息を呑むのが分かった。
「今も昔も大好きよ。」
最後の言葉は魔法壁を出た後の言葉だからきっと聞こえていないんだろうな。なんて。
私は魔獣を前に久しぶりの戦いだし大丈夫だろうかなんて思っていた。まあ、そんなに直ぐに魔法が出せないわけでもないし、長期戦が面倒くさそうだったため大きな魔術を展開した。それは、魔獣だけを一気に消滅させるという、高度で無茶なものでもあった。今までずっと温存していた魔術さえ一気に枯渇するようなものだった。思ったより魔獣が多かった。一体この一帯にこんなに集まることなんてあるんだろうか?そして考えたくない可能性にたどり着いた時、私は誰かがゆっくりと近づくのに気づいた。魔力切れで視界がぼやける中見えたのは薄気味悪い笑みを浮かべた悪魔だった。そして心臓を一気に貫かれた。
「そろそろ俺の魔力を返してもらうよ。」
最後に聞こえた悪魔の声。そして私は悪魔と同じ様に笑みを浮かべていたのかもしれない。
(ようやく死ねるんだ)
って。
ただ心残りは村の存在だった。ちゃんと守れただろうか今度こそは。
フリードは怒っているかもしれないな。私が勝手に一人で行ったから。彼も怒っていたわあの時。魔力と共に不老不死を手に入れて代償として彼を失ったあの時も。
今回はみんな守れた。きっと大丈夫だからおやすみ。
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この村には昔魔女が居たらしい。魔女といえば、忌み嫌われる存在である。しかしこの村の人は誰一人として魔女と過ごした日々を忌々しく話すことはない。ただ、楽しそうに懐かしそうに私に話してくれるんだ。
私はその魔女が消えた次の月に村にお世話になり始めたそうだ。だから、魔女のことを知らないのは私だけだった。ただわかるのは、その魔女は村のみんなに慕われていたんだなということだった。
私を拾ってくれた人は魔女のことを何も言わなかった。ただ少し悲しそうな顔をするのだ。
私は彼にお世話になった。私には知らないことが多すぎた。日常生活のほとんどのことが分からなかった。なぜ服を着るのかさえ分からなかった。唯一覚えていたのは、魔女が嫌われるものだということだった。しかし、それも間違いだと気付かされた。何もわからない私に一から教えてくれた彼に私が恋に落ちるのは必然的だったのかもしれない。でも、伝えられなかった。彼はきっと“魔女”を愛しているから。そばにいることができれば私はそれでいい。それでも、やっぱり彼からプロポーズされた時は戸惑ったし嬉しかった。たとえ自分は“魔女”の代わりでも。
この恋きっと記憶がなくなっても変わらないような気がする。私の最後の恋。
「フリード、いつもありがとう。大好きよ。」
あなたが目を細めて笑うから、私も今日も変わらずあなたの隣で微笑み続ける。