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冷蔵庫の少女

作者: 入梅木馬

 午前2時過ぎ。咽が渇いたので、布団からはい出して台所に行き、冷蔵庫を開けた。そうしたら、暗く黄色い灯りの中でリカちゃん人形のような美少女が身を縮めて震えていた。


 俺は寝ぼけているのだろう。そう思って、そっと冷蔵庫を扉を閉じた。ゆっくり深呼吸を2回繰り返して、もう一度冷蔵庫の扉を開けた。すると、リカちゃん人形のような美少女が今度は半べそをかいて、こちらの目をじっと見つめていた。涙目の美少女と、男子高校生が見つめあう場面なんて、そうそうお目にかかれるものではない。しかも、相手は人形サイズで冷蔵庫の中だ。



「あの、どちら様でしょうか?」

 しばらく見つめあっていたのだが、その奇妙な間に耐えられなくなって、なんとなく言葉をかけてみた。

「わ、わたしは、リナといいます。ちょっと道を間違えまして……」

しゃべった。こちらから声をかけておいて、なんとも間の抜けた話しだが、このリカちゃん人形のような美少女はしゃべれるらしい。


「ええと、それでしたら交番まで案内しましょうか?」

 困ったときはお巡りさんに押し付けたら、だいたいのことはうまくいく。

「いえ、お巡りさんに助けてもらうには及びません。こうしてちゃんとあなたにお会いできましたから」

「俺に?」

「はい。あなたにお願いしたいことがあり、私はここに来ました」

「お願いって?」

「実は……私たちの国を救っていただきたいのです!」

「え?それは、あれですか?あなたは別の世界の住人で、そこで起きた問題を解決するために、俺が選ばれてここに来たという、そういう話しですか?」

「そうです!」

 リナは大きくうなずいた。とうとうこの俺も本気を出すときが来たのか。そう考えると悪い気もしない。しかし、その前に確かめないといけないことがある。


「ひとつ、いいかな?」

「なんでしょうか?」

「君が来たのは、こことは全く別の世界なんだよね?」

「そうです」

「その世界にも交番が、あるの?」

「……あ、ありますよぉ」

 リナの目が泳ぎ始めた。怪しい。うさん臭い。このまま問い詰めてもいいが、しかし、開き直られて大声とか出されたらたまったものではない。では、どうしようか?

「リナ」

「は、はい」

「おやすみ」

そう言って、おれは冷蔵庫の扉を閉めようとした。臭いものにはフタをするのだ。


「ちょ、ちょっと待ってください!そんなことしたら、この幸栄庵のウニの塩辛空けちゃいますよ!」

「なんだとっ?!」

幸栄庵のウニの塩辛はなかなか手に入らない貴重品で、少しずつ楽しんできたのだ。それを一気に空けられてはたまったものではない。それにだ、


「どうやったら別の世界からきた美少女が、他の食材に目もくれず、ピンポイントで幸栄庵のウニの塩辛に目をつけられるんだよ!」

「ふっふっふー、まあいいじゃないですか、そんな細かいことは」

確かに細かいことだが、しかし、どうでもいいことではない。少なくとも別の世界から来たというのは嘘だろう。


「なあ、お前は一体なにものなんだよ?」

「まあそれは追々。それはそうと光一さん」

 すでに俺の名前も知ってやがるのか。しかしそんなこと突っ込む気もしない。俺は大きくため息をつきながら返事をした。

「なんだよ?」

「冷酒はないですか?」

こいつ、いったい何歳なんだ?

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