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天涯の記憶  作者: カンキリ


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ネモ・レンレン 3

綾子の潜在意識が何かを思いだし暴走しているのか?と、すれば歌っているのは。

困惑のまま姫緒がたずねた。


「誰が?誰が歌っているの?歌っているのは、那由子さん?」


 綾子からの返事はない。限界の時間が迫っている。

 姫緒は、ほの暗い間接照明に照らしだされるレンレンの顔と綾子の顔を交互に見つめ、決断したように口を開いた。


「歌いなさい」


 姫緒がハッキリと強い口調で、命令するようにレンレンに向かって言った。


「貴女の聞いている『歌』を歌いなさい」


 一時の間。

 その後、レンレンが椅子の上で身をよじり胸の下で自分を抱くように腕を組むと、「うう――」と唸った。

 丁度同じタイミングで。

 歌。

 が、聞こえた。



とおりゃんせ、とおりゃんせ



 歌っているのは。


「綾子さん!」


 風小が驚愕の声を上げる。

 綾子が歌っている。



ここはどこのほそみちじゃ――



 あり得ないはずの状況が今、姫緒の目の前で起こっていた。

 封じられた魂が術者の呪縛を振り払い、己の肉体を操って姫緒の質問に答えたのだ。

 姫緒は自分の思考が白紙になっていくのを感じて軽い目眩を覚えた。



てんじんさまのほそみちじゃ


「姫さま。これって、いったい」


 最初に状況を把握しようとしたのは風小だった。

 彼女の声に姫緒がハッと我を取り戻す。

 と、そのとき――。


「いいゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 その場の空気を裂くような禍々しい叫びにギョっとして、姫緒と風小が声の方を向く。

 叫び声を上げたのはレンレンだった。



どうぞとおしてくだしゃんせ



 レンレンは意識を取り戻していた。

 ほんの一瞬前までは汗など全くかいていなかったのに、身体がずぶ濡れになるほどの汗をかいている。

 大きくヤツレた目を剥いて、何事かを伝えようと口を開け閉めする様はまるで溺れたカエルのようだ。



ごようのないものとうしゃせぬ



 姫緒と風小が驚いて見守る中、レンレンは椅子から立ち上がろうとして、体勢を崩し、這いつくばるように床に倒れた。


「うたを――。歌を止めて!綾子に歌うのを止めさせてー!」


 這いつくばり、苦しそうに身もだえしながら、辛うじて顔を上げ、レンレンが叫ぶ。

 悲痛な叫び。

 彼女のその状態から見て、精神か、肉体かのいずれか。もしくはその両方に大きなダメージを受けているようだった。苦悶の表情を見せ、立ち上がろうとするが再び崩れ落ちる。

 これが精神的なものだとすれば、レンレンの精神は発狂寸前のダメージを受けているに違いなかった。



このこのななつのおいわいに



 風小がレンレンに駆け寄り、抱き起こそうとするが、彼女はその手を払いのけて叫ぶ。


「いいから!わたしはいいから!綾子を!」


「どういうことなの!」


 立ちつくす姫緒が口をひらいた。


「綾子の意識が」


 そう言いかけて、レンレンが言葉に詰まる。

 そして再び苦しげに叫びだした。


「綾子の『心が溶ける』いいえ――、溶け始めてる!だから!はやく!早く!歌を!このうたを歌わせないで!やめさせテぇ!」



おふだをおさめにまいります



「綾子さん!起きて下さい!綾子さん!」


 姫緒が綾子の両肩を激しく揺さぶりながら、その名を呼ぶ。



いきはよいよいかえりはこわい



 まったく効果が無く、綾子は歌い続ける。


「ちぃッ」


 容赦なく、平手打ちを三発見舞う。



こわいながらも



「風小!暗幕を!光を部屋に入れなさい!」


 姫緒が窓を指さし指示すると、脱兎の如く風小が窓辺に駆けつけ、暗幕に手をかけた。


「早く!」



とおりゃんせ



 風小は、姫緒の声に呼応して自分の背丈の二倍はあろう暗幕を身体に巻きつけると、全体重をかけて一気に引きずり下ろした。

 カーテンレールの留め金が、ばちばちと音をたてて部屋中に飛び散り、暗幕は赤と黒のダンスを踊る雪崩のように床に崩れ落ちた。

 部屋の中が燦々たる太陽の光で満たされ、室内に色彩が戻る。


「とおりゃん――」


 ぼんやりとした口調で歌が止む。

 綾子は自分の両の頬に激痛が走るのを感じ、思わずうつむいて頬をさすりながら、目を開き辺りをきょろきょろと伺う。

 自分の前で、太股も露にカエルのように這いつくばりこちらを見ているレンレン。

 巨人のドレスのような暗幕を身に纏い、床にへたり込んで、中からちょこんと顔だけを出している風小。

 その光景の一つ一つを見るたび、ギクリとしながら綾子は最後に姫緒と目を合わせる。


「何か。あったんですか?」


「いいえ。なにも」


 姫緒が静かに答えた


「なにもありませんでしたよ綾子さん。すべてつつがなく完了しました。今日はこれで終わりにしましょう。シャワーを浴びてお帰り下さい」


 そういうと姫緒は優しく微笑んだ


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