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天涯の記憶  作者: カンキリ


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反撃2

 数時間後。

 教室には夕暮れが迫っていた。


 散らばっていた展示物はすべて風小によって片付けられ、棚や床はきれいに掃除されて、机は整然と並べられている。

 ついさっきまで授業が行われていたかの様な、今にも生徒達が休み時間を終えて入ってきそうな。

 そんな整った教室の中だったが、ひとつの異常な要因が有った。

 レンレンが、辺り一面に貼り付けて回っている符術用の呪文を朱書きした沢山の札。

 その札がこの空間を異形な雰囲気に貶めていた。

 やがて、レンレンが最後の札を張り終える。


「入って来てもいいわよーん」


 レンレンが呼ぶと、姫緒と風小の後に続き、綾子と和子、北條が神妙な面持ちで教室へ入って来て、あちこちに張ってある奇妙な札を眺め回しギョッとする。


「綾子さんの事故の記事を、インターネットで古い新聞の記録から探し、さらに、地元警察で事故の記録を確認しました」


 姫緒が話し出す。


「綾子さんが亡くなったのは1985年の8月27日午後5時ごろのことだそうです。」


「この教室はねぇ」


 私の番と言うようにレンレンが口を出す。


「時間軸による空間の歪、月や磁場の影響なんかまでぇ、その時と同じ因果律になるよう符術が施してあるのよん」


「綾子さん、そして、和子さん」


 二人の視線が姫緒に集まる。


「この空間は、一連の出来事の中で、ななつさまと一番強い接点をもった日の因果律を再現しました。媒体となる因果も、和子さん、綾子さん、そして、那由子さんとほぼ当時のままにそろっています。この日に『ななつさま』を行ったこともななつさまの企てだとするならば、この状態がななつさまのいる空間と非常に繋がりやすくなっている――」


 姫緒は少し考えるようにして続けた。


「或いは、こちらに干渉しやすくなっているものと思われます。この『時』ならば、完全な推測でしかありませんが。ひょっとしたら『もうひとつの作為』を行ったものにこちらの意思を伝えられるかもしれないと考えたのです」


「『もうひとつの作為』。ひょっとして、姫緒さん、それは――」


 綾子が尋ねる。


「それは、お姉さん」


「そうであるかもしれません。或いはまったく違う、別の悪意を持ったモノかも知れません。しかし、いずれにせよ、何かが動き出す期待は充分にあります」


「でも、どうやって?」


 北條がそうつぶやくと、レンレンが唐突に彼に近づき顔を覗き込んだ。


「察しの悪い召還師ねぇ。ここまでやったのよん」


「もちろん、これを使いますデスよ!」


 風小がそう言って懐から記号や文字の書かれた半紙を取り出した。


「あっ!それは!」


 和子が、小さく震える叫び声を上げる。


「ななつさま!」


「あらあら」


 始末に終えないというように首を振りながらレンレンが言った。


「これ以外にどんな方法があるって言うのよん」


 そう言うと風小の手から半紙をひったくるように取り、そのまま机の上に広げた。


「それとぉ」


 そう言って再び北條に近づく。


「あんた達には、これ!」


 言うが早いか短冊状の札を空中に出現させ、北條と風小の額に、次々にバシバシと貼り付ける。


「おあぁぁぁぁぁぁ!」


 北條の悲鳴。


「何騒いでんのよん。痛くも痒くもないでしょう?」


 なるほど、確かに言われてみれば、視界が見難くなっただけで、身体には何の障りも無い。

 風小に至っては少々気に入っているらしくニコニコと笑っている。


「はずしちゃだめよん!」


 札に手をかけようとした北條を見て、レンレンが声高く叱った。


「ふざけんな!何だこの札は!見てみろ!」


 北條がそう言って風小を指差す。


「風小なんざ『キョンシー』見たいになって――、か――、かわいいじゃないか――」


「何言ってのよん」


 レンレンは軽蔑の眼差しを北條に送った。


「その札はね、折角整えた因果律にあなた達の存在が影響しないようにするものなのよん。しょうがないでしょ、私と姫緒は結界を張れるけど、あなたと風小はその手の結界が作れないんだからぁ」


「北條さん」


 綾子が進み出る。


「いろいろな意味で本当に申し訳ないと思っています。でも、あと少しの間、我慢していただけないでしょうか」


「あ、いや。何なら俺、外に出てようか?」


「それはだめです」


 と、姫緒。


「この行いによって、何が起こるのか。それとも何も起こらないのか。正直私にも判らないのです」


 そう言うと、ズイと進み出る。


「先の闘いで、ななつさまはあなたも敵として認識したと思われます。あなたが完全に自分の身を守れると言うのならば別ですが、そうでないなら、私の目の届く所に居てください。これは、あなたのためであると同時に、我々にも不測の事態による危険が及ばないようにするために最低限必要なことなのです」


「うう――」


 北條が唸り、まわりを見渡す。そこに居る全員の視線が北條に集中しており、自分が物凄いわがまま者で、それを攻められているような空気にたじろぐ。


「あー!解った!解った!理解したってば!」


 そう言って床にあぐらをかいて座り込んだ。


「さっさと始めてくれ!」


 ふて気味の北條を尻目に、綾子が用意された机へと進み出る。

 だが――。

 和子は最初の位置から動こうとはしなかった。

 心なしか震えているようにも見える。


「和子おねぇちゃん。お願い」


 祈るように切なげな声で、綾子が和子に呼びかける。

 皆が見守る中、それでも和子は動こうとしなかった。

 見かねた姫緒が近づこうとしたその時、突然、和子が姫緒を見つめ、口を開いた。


「姫緒さん。お願いがあります!」


 突然の和子の大きな声に姫緒が面食らう。


「何か私に出来ることが?」


「はい、私を励ましてください!『大丈夫だから』と声を掛けて欲しいんです」


「励ます?」


「はい!」


 そう言って一途に姫緒を見つめる和子を見て、レンレンと風小がたじろいだ。


「げっ、和子ちゃん、あんた百合だったのぉ!」


 レンレンが思わず退く。


「わたしは――」


 和子が静かに語りだした。


「怖かった。那由子とななつさまをやったあの日以来。ずっとずっとおびえて暮らしていた」


 遠い眼をする。


「ななつさまの後、不幸が続く那由子の事を、みんなは呪われているんだって言った。でも、だとしたら、次は私の番かもしれないってずっと怯えていた。怖かった。毎日、毎日、毎日――。ただ、なんとなく忍び寄る不安に苦しめられていた。でも、なぜか解らないけど、きっと誰かが助けに来てくれるって言う希望があった。本当に都合のいい希望だけど。何故、何時、誰がどうやって助けてくれるかも解らなかったけど。何故かそれだけは信じられた」


 そう言うと、和子は姫緒を見つめなおした。


「インターホンから姫緒さんの声が流れたとき、私、絶対この人が救ってくれるって!そう感じたんです。やっと『その時』が来たんだって!」


 和子の話を聞きながら姫緒は彼女と初めて会ったときの事を思い出していた。

 セミロングの前髪を振り乱し、かなり慌てて玄関に現れた和子。

 今にして思えば尋常ならぬ狼狽えぶりだった。


「何を今更とお思いでしょうね」


 和子が自嘲気味にそう言って笑う。


「でも、私は信じていたんです。私はこのときを待っていたのかも知れない。でも。怖いです。姫緒さん。わたしを、励ましてください」


 姫緒は静かに和子を抱きしめると、そっと呟いた。


「大丈夫『もう』大丈夫。何があっても私が守ってあげる」


 和子は幼子のようにこくんと頷くと、綾子の下へと歩んでいった。

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