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天涯の記憶  作者: カンキリ


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前宵戦2

返事?誰が?

 一触即発だった事を思い出し、視線を金猿に移す。

 金猿達は、何事かに非常に驚いた様子で、威嚇するように大騒ぎをしており、今すぐには飛びかかってこようとする気配は無い。

 風小は自分の後ろに気配を感じた。

 あやかしの持つ殺気や、姫緒の持つ敬意ある気配とは違うもの。

 今まで戦いの中では感じたことの無い気配。


 何かがいる。


 危険を承知で後ろを振り向くと、そこには。

 ネクタイを外した青いよれよれのワイシャツに身を包んだ男が、肩で大きく息をしながらたたずんでいた。

 階段を駆け上がってきたらしく、上部のない銀縁眼鏡はだらしなくずれていたが、その奥の目はいとおしげに風小を見つめている。


「北條さん!」


 風小が驚きの声を上げる。そう、そこにたたずむのは紛れも無く。

 多少薄汚れて、不精髭を生やしてはいたが、あの北條隆郎その人だった。


「北條さんがなぜここに?」


 風小が尋ねると、北條は身を引いて「うっ」と唸った。


「い、いや、学校の昇降口まで来たらな、二階の窓に風水銃の光弾が見えたんでな。ほら、風水銃が有るなら、風小がいるはずだし、戦ってんだろうし」


「いえいえ、そうではなくて。お帰りになったのでは無かったのデスか?」


 そう、式神との契約儀式のあと、北條は姿を消した。

 だから、帰ったはずだった。少なくとも風小はそう思っていたし、そう思わない者はいなかっただろう。


「俺――」


 震える声で北條が語りだした。


「俺は、何も出来なかった。綾子を守ってやることも、自分を守ることさえ出来なかった。そのうえ、影とはいえ、お前を見殺しにした」


「でも、それは」


「知らなかった」


「えっ?」


「生きててあんなに辛い事があるなんて」


 北條の視線が過去を泳ぐ。

 黒影に焼かれ消滅していく風小。

 絶望。よりつらい悲しみ。


「オレハ、俺は!俺は!あんな辛い思い、もう絶対したくねぇんだ!」


 真直ぐに北條の視線が風小をみつめた。


「俺にお前を守らせてくれ!俺は全力で風小を守るぞ!」


 そう言うと、今度は意を決したと言うように、騒ぐ金猿を睨めつける。


「よく聞け、あやかしども!お前らに持ってかれた大切なもの!北條隆郎が取り返しに来たぞ!」


 ざわめく金猿達。にらみ合う北條。

 ふと、ワイシャツの裾を風小が引っ張っているのに気づき視線を移す。


「北條さん。今のは、ちょっと、ときめきましたデスよ」


 風小はそう言うと小さく背伸びして、北條の頬にキスをした。


「助けに来てくれた御礼デスよ」


 微笑む風小。

 呆ける北條、はっ、と我に帰る。


「よっしゃあ!」


 正気を取り戻した北條は、雄たけびとともに胸ポケットより携帯を取り出して掲げた。


「タマ!俺をおとこにしてくれぇ!」


 北條の叫びに答えるように輝きだす携帯電話。


「タマ!召還!」


 辺りを真昼のように照らし出す閃光、驚き飛び退く金猿達。

 閃光が晴れたとき、そこには、プリント配線のような模様を、赤くゆっくりと明滅させながらそびえ立つ、タマが出現していた。


「カオォォォォォン」


 風の巻くような叫びを上げ、身体を震わすと、大きな一つ目を瞬く。

 風水銃に異変が起きた。


「風水盤が」


 ゆっくりと、だが、確実に速度を増して、回転を始めていたのだ。


「なぜ」


 そう言って、風小は傍に立つタマを見上げた。


「そうか!」


 風水銃は今、金猿の相殺属性『火の波動』の収集モードに入っていた。

 属性石を使い風小の中で練られた火の属性を波動に換え、それを収集していたのだ。

 北條の式神、タマの属性は『火』。

 風水銃はタマから直接、相殺の波動を収集。

 いや、溢れるほど存在する火の波動が、半ば強制的に、風水銃に流れ込んでいる、と、表現するのが正しいのかも知れない。


「いける!」


 風小が手応えを感じ、呟いたとき。


「汝、召還師、北條」


 タマが、しゃべりだした。


「汝、我ト共ニ在レ」


「なんでもする!俺と一緒に戦ってくれ!どうすればいいんだ!」


 北條が応える。


「汝、我ト共ニ戦エ」


 次の瞬間、タマの身体が観音開きに開く。

 扉のように開いた身体の内側には無数の猫のような目が漂っていたが、扉が開ききると、中央に集まり、溶け合ってひとつの大きな目に変わった。

 呆気に取られる北條を、無数の触手がからめ取って内部へと引き入れる。

 そして扉が閉じ、タマの容姿は何事も無かったようにもとの形体へと戻った。

 風小は、いや、金猿さえも、その光景を茫然自失といった風に見守っていた。

 タマの内部で、北條は浮かんでいた。だがそれは、手応えの無い不安定な浮遊感覚ではなく、むしろ包まれるような感覚に近いものだった。

 人のものとは違う言葉で、沢山の知識が流れ込む。それをひとつ残らず瞬時に理解出来ると言う事は、自分はあやかしに近くなっていくのだとも教えられた。

 人とは違う身体の動かし方。いっぺんに百あまりの触手を操る方法とか、蛇のように地面を進む方法とか――を理解した。

 北條は自分が目を閉じていたことに気づく、いや、まぶたは開いている。

 だが、まだ、何か、開くべき何か。


「我、汝ト共ニ」


 あやかしの声。

 いや、自分の声かもしれないと北條は思った。

 そして、『目』が開いた。

 黒かった北條の瞳孔は黄金の輝きに染まった。

 額の紋章がグリリとえぐれ、脈打つ無数の太い血管が走る醜い眼球がせり出した。


「いくぞ。風小!」


 北條が、『触手を動かし』風小を抱え上げた。


「ほ、北條さんなのデスか?」


 『タマの触手』に抱え上げられ、風小が驚愕の声を上げる。


 事態を把握できず、竦んだままになっている金猿の一団を、タマの触手の一撃が襲撃する。

 その一振りは、下り口に固まっていた金猿達を廊下の中央まで弾き飛ばした。

 次いで、宙を滑るような素早さでタマが廊下に踊り出し、喚きたつ金猿と対峙する。


『「どうする?タマ?」(汝ノ思ウママニ。我、汝ト共ニ)』


 タマの目の下の部分が、まるで竜のあぎとのように、バクンと音を立て大きく開いた。


「いくぞ!」


 北條の叫びと共に、激しい振動が顎から発せられる。

 振動は大音響となって金猿達を襲う!その音響は力を持っており、受けた金猿達をズタズタに引き裂いていった。

 が、風水銃の波動による相殺と違い、この攻撃は、金猿達にのみ有効と言うものではなく、振動は校舎そのものをも揺るがし、サッシ窓のガラスを粉々に砕いて外にはじけ飛ばしてしまった。


「やべぇ、これはやめだ、やめ、やめ!」


 振動は止まり、顎がバクッと音を立てて閉じた。


「北條さん!」


 風小が蹴散らされた金猿達を睨みながら叫んだ。


「北條さん!降ろしてください!私も!行けます!」


 そう言って、風小が掲げて見せた風水銃は、風水盤を猛烈な速度で回転させ、火花を巻き上げていた。


「援護します!」


「何いってやがる」


 風小を自分の前に降ろし、北條が言った。


「お前が主役だ!」


 風小は床に降り立ち、ちらりとタマを振り返る。


「ならば」


 前に向き直り、風水銃を構えた。


「お守りします!」


 そのとたん、数十と言う金猿が、大鎌を振り上げて風小目がけて飛びかかる。

 だが、そのすべての金猿達は、飛びかからんと大きく手足を開いた姿のまま、空中で絶命した。

 無数の触手。何重にも張り巡らされるくもの巣の如く繰り出されたタマの触手が、無数の槍となって金猿達の身体を貫き、闇に縫い付けるようにして命を絶やしていた。


「風小に触るな」


 怒りのこもった北條の声。


「いけ!風小!最後は決めてくれ!」


「よーし!」


 風小が風水銃を構える。

 今までに無いほどの波動がタマから風水銃に流れ込んで来るのが判る。

 回転盤の速度は益々加速して行き、風水銃が耐え切れぬほどの波動が練られていく。

 思うところはひとつだった、北條と風小の叫びが重なる。


「まわれぇー!!風水銃!!!」


 百・花・繚・乱!


 金猿達に逃れる術は最早無かった。

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