1.トーコの過去。
ここから第1章
「まさか、女の子と同棲することになるとは……幽霊、だけど」
俺は壁に背をもたれながら、ふとキッチンにいるシャツ姿の女の子を見た。
いうまでもなく、トーコのことなのだが。彼女は楽しげに鼻歌などを口遊みながら、余りものの総菜で朝食を作ってくれていた。
偏見は良くないのだろうが、昨日の塩むすびや味噌汁といい、彼女は料理が得意らしい。いいや、得意というよりも好き、というべきか。
「ソータくん、苦手なものってある?」
「いや、基本的にはないよ」
「そかそか」
時々に、こちらを振り返って声をかけてくる。
そのたびに笑顔を向けてくれるのだが、改めて思わされた。カワイイ、と。
もし生きていたなら、こんな美少女は芸能界入り間違いなしだろう。そうでなくても雑誌のモデルなんかにはなってるだろうし、周囲が放って置くわけがない。
それほどの美少女が、どうして若くして命を落とすことになったのか。
訊くべきか迷いはしたのだけど、俺は勇気を振り絞って言った。
「トーコは、さ。どうして死んだ、とか覚えてるのか?」
「いんや、まったく?」
「……まったく?」
そんな気合いとは裏腹に、トーコはさらっとした口調で返してくる。
しかし、自身の死の瞬間とかは記憶しないものなのだろうか。その可能性はあるかもしれないが、それにしても――。
「じゃあ、どうして幽霊に……? 未練とか、あるのか?」
「さー……? なんでだろね。アタシにはわかんないや」
「分かんないや、って……」
まさかと思い訊いてみると、そちらの問いにも曖昧な答えが返ってきた。
俺がついつい苦笑して頬を掻いていると、トーコは何の気なしにこう言うのだ。
「だって、記憶ないもん。アタシ」
「え……?」
軽々と口にするには、あまりに重大な事実。
思わず唖然としていると、彼女は朝食を運びながら語った。
「なんかねー……気付いたら、ずっとあの海を眺めてたんだよね。ボンヤリとだけど、悲しいなぁ、誰かこないかなぁ、とか考えてた気はするけど」
「そう、なの……か」
「やだなー! なんでソータくんが暗い顔してんのー?」
「いや、だって――」
思いもしない重い境遇に、俺が声を詰まらせると。
トーコはコロコロといつものように笑いながら、俺の唇に人差し指をあてがった。霊体特有のひんやりとした感触に自然、こちらが黙ると、少女は満面の笑みでこう言うのだ。
「いまのアタシはね、居場所も貰えて幸せなの! だから、気にしない!!」
まるで世界中のあらゆる悲劇が過去であるかのように。
トーコはいまが良ければ、それで良いと語った。
その姿は陰キャボッチの自分には眩しくて、思わず憧れてしまう輝き。
俺が黙っていると、彼女は――。
「ほら、口開けて? はい、あーん!」
「あ、あーん……あむっ」
「美味し?」
「うん」
アレンジした総菜を箸で掴み、こちらに食べさせて――。
「やった!」
無邪気に笑う。
その笑顔に俺はひとまず、色々なことがどうでも良くなるのだった。
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※次回更新、13時ごろ予定(予約投稿




