冷めたポテトが好きなんだ。
ぜひ、一読くださった皆さまのご感想をお待ちしております!
違う違う。
ポテトは冷めても美味しいってことじゃなくて、冷めたポテトが好きなんだ。
揚げたての方が美味いって? いいや、冷めたポテトと揚げたてのポテトは、もはや別の食べ物だよ。
ピザもステーキも、温度と美味さはイコールだって? 当然だ、それはそうだよ。君は僕のことをバカ舌だって思っているね。
分かったよ。そこまで言うなら、僕がなぜ冷めたポテトが好きなのかを具体的に説明する。
別に聞いてない? まぁそう言うなよ。
皆まで話そうとするとあまりに長くなるから、3つの理由に厳選して話すね。
まずは出会いから。
あれは確か……なんて、ごめんごめん。そんな語り口調はやめるよ。
兄貴が余ったポテトを冷蔵庫に入れていたことがあって、小腹が空いたから拝借したんだ。その時、冷めたポテトを初めて食べた。
冷蔵庫に入っていた時間は5分程度だったから、冷えているというより冷めた感覚だった。
あぁ全く分かってない。冷えているポテトと冷めたポテトは別物なんだ。かき氷とアイスくらい違うよ。
話を戻すけど、冷めたポテトには何とも言えない美味しさがあったんだ。それこそ、ピザのコルニチョーネの美味しさを知った感覚だよ。あ、耳のことね。
だからそれは、ポテトは冷めても美味しいって話だって?
まぁ落ち着いてよ。まだ出会ったばかりなんだから。
出会いの次は、何だと思う? ポテトを女の子だと思って想像してみて。
そう、デートだよ。意味がわからない? 大丈夫、安心して。僕も手探りで話しているから。
君はさ、デートをする目的って何だと思う?
相手のことを知るため。そうだね。
より親密になるため。それもそうだ。
ワンナイト? まぁそれも、目的と言えばそうだね。
それで? だから僕も冷めたポテトのことを知るために、より親密になるために、ワンナイトするために、あらゆるファストフード店へ足を運んでポテトをテイクアウトしたんだよ。つまりデートさ。
うん、一旦聞いてほしい。ありがとう。
それと、ワンナイトとテイクアウトをかけたんだけど……くだらないとか言うなよ。ごめん、本題に戻そう。
買い揃えたポテトを冷まして食べ比べをしたんだ。
カリカリっとしたポテト。
細いポテト。
太いポテト。
皮付きのポテト。
半月型のポテト。
でこぼこに形成したポテト。
どれも、見せてくれる表情は違った。ひとつ確かだったのは、細さが重要ということ。
冷めたポテトのポテンシャルを最大限に引き出してくれるのは、その細さにあったんだ。
それこそ君が主張するように、細くないポテトはボサボサしていて、冷めていることに価値はなかった。
そうだな、これを女の子に例えると……それはいい? いや、言わせてほしい。
そう、細いポテトは微乳なんだよ。貧乳なんて言い方は下劣だ。やめてくれ。
つまりだ、微乳を引き立ててくれるのは、クールな印象だったり、知的な雰囲気だろ?
逆を言えば、爆乳にクールな印象は必要ある? 知的な必要はある? いいや、無い。爆乳に求めているのは、愛嬌、あざとさ、笑顔だ。
そうだろ? うん、そこは共感してくれるんだね。
まとめるとだ。細くて(微乳で)冷めた(知的な)ポテトって(女の子って)美味しいだろ? (そそられるだろ?)という話。
さて、それを踏まえた上で3つ目の理由なんだけど、ちょっと耳貸して。いいから、ここではあまり大きな声で言えない。
ほら……
ちょ、やめろ! 声がでかい! 絶対誰にも言うなよ。君だから話したんだ。
そう、僕は隣のクラスの芦屋乃彩が好きなんだ。
関係ないだろって、いや彼女も、冷めたポテトが好きなんだ。
どこの情報? たまたま聞こえたんだ。いつも一緒にいる、藤田香里さんと彼女が、好きな異性のタイプについて話していた。
違う! 誓って盗み聞きなどしていない! ただ、たまたま僕の前を二人が歩いていて、聞こえたただけだ。
そう、彼女は確かに断言していた。
私のタイプは、冷めたポテトが好きな人。
それだけは譲れないという口調だった。
そうだよ、分かってる。彼女はモテる。それに、僕は関東から転校してきた身で、彼女の関西弁に壁を感じている。
冷めたポテトが好きという条件はクリアしている。
次は、関西弁だ。
なぜこんなことを君に話しているか、もう察しがついているだろ? そうだよ、僕に関西弁を教えて欲しい。頼むよ。冷めたポテトを好きになることはできても、方言は無理だ。むり、ムリヤネン。
イントネーションだろ。自覚しているよ。
とにかく、僕は絶対に、芦屋乃彩を振り向かせる。
マクドナルドの略称? ふっ。マクド、だろ。