雨
雨はあまり好きじゃない。
服は濡れるし、トラは雨の日はあまり動かない。
もう9歳だし、きっと体が冷えてしんどいんだろう。
玄関を開けると、トラがいつもよりゆっくりとこちらに歩いてくる。
その姿を見るたび、春か秋の晴れた日がずっと続けばいいのにと思う。
トラを抱き上げて、そっと肉球を揉んだ。
「大丈夫? トラ」
返事はないけど、膝の上でじっとしているトラは耳だけこちらを向けている。
「雨の日は獲物が隠れちゃうから、あんまり動かないみたいだよ」
おじさんがお茶を運びながら言った。
「獲物って?」
「ネズミとか小鳥のことさ。
雨だと見つけにくいから、休むことが多いんだろうね。
でも本当はトラにしかわからないけど」
膝の上のトラはまどろんで、体を預けてくる。
「トラはごはんがいつも自動で出てくるでしょ」
「でも僕は、雨でも学校に行かされるんだぞ」
肉球を揉みながらそう言うけど、トラは耳だけを僕に向けていた。