第58話 オフコラボで1時間イタリア語チャレンジ
多言語配信から数日後。
結衣はみやびにDiscordでアポをとってから通話をつないだ。
「ねぇ、みやびちゃん――ちょっと一緒に面白いことやってみない?」
「ん?なになに、また結衣さんの無茶ぶり?」
「実はさ、最近リスナーさんから“配信中に新しい言語を覚えてみて!”ってリクエストがすごく多くて――
ちょうどオフコラボできるし、二人で“ゼロから一時間でどこまで話せるか”って配信やってみたいんだ」
「え、それ本気でやるの……!?私、英語以外はほぼ“挨拶”レベルだよ!?
隣で結衣ちゃんが爆速で覚えるの見せられるの、逆にトラウマになりそう……!」
「大丈夫だよ!あやかちゃんもサポートしてくれるし、“わからない”って悩む過程も配信の醍醐味だと思うんだ。
リアルタイムでリスナーさんのコメント頼りに修正していく感じ――みやびちゃんの“がんばり”をみんなにも見せたいし」
ここで結衣は、ちょっとだけ苦笑いを含んだ声で続ける。
「――あ、ちなみに。真壁さんからも言われたんだけどね、
『このAIサポート企画、結衣さんは参考にならないから!』って。
“処理速度がバグりすぎて、AIあやかちゃんの有用性アピールにならない”んだって」
「それ、分かる気がする……いや、笑えないレベルで(笑)」
「それで今回は“あやかちゃん案件”として、ちゃんと事務所さんに依頼を出すことにしたの。
みやびちゃんの“リアルな成長”とAIサポートの掛け算、これが一番わかりやすいって。
私も横で一緒にやるけど、“ふつうの人がどこまで伸びるか”って視点でやってみたいんだ」
「うわあ、それ、逆にプレッシャーじゃん!でも、やるからには全力で頑張るね!」
あやかちゃんもグループチャットに加わり、
「AIサポートの使い方講習」や「現地リスナーを巻き込む案」など、即席企画会議が盛り上がる。
「じゃあ、準備も万端にしておいて――今週末、本番ね!」
「わかった、がんばる!」
◆公式SNS告知文
【お知らせ】
✨南野結衣×みやび “オフコラボ新企画”決定✨
『ゼロから挑戦!配信で未知の言語をどこまで覚えられるか!?』
今回のチャレンジ言語は……【イタリア語】!
・女帝様&みやびの“ガチの生トライ”
・AIあやかちゃんが即時サポート
・リアルタイムで世界のリスナーさんに修正&ヒントをもらいながら成長!
・同じ部屋で苦しみも歓喜もガチ体験!
配信日は今週末予定。
みんなの応援&コメントで、私たちの成長をぜひ見守ってください!
#女帝様オフコラボ #多言語チャレンジ #イタリア語でGo
***
配信告知から本番までの数日間、SNSや配信タグにはリスナーから事前の質問や期待が次々と寄せられていた。
”AIサポートの“ここがすごい”ポイントも詳しく見たい!”
”みやびちゃんは“地球人代表”として勇気を持って!”
”失敗してもぜんぜんOK!リアルな学びの過程を見せて!”
”できれば、イタリア人リスナーにも本気で突っ込んでほしいw”
「みんなの期待値、けっこう高いね……」
「いやむしろ“人間とAIでどこまで伸びるか観察したい”って空気すらあるよこれ」
「私もしかして地球人じゃない認定されてるのかな?」
事前に送られてきたコメントや要望を軽くチェックしつつ、
AIあやかちゃんも「現地イタリアのSNSコミュニティと連携完了」と心強い報告を出していた。
***
そして、ついに本番――。
配信スタートと同時に、チャット欄は日本語・英語・イタリア語が入り混じるお祭り騒ぎに。
「こんばんは、南野結衣と――」
「みやびでーす!今日はほんとに、結衣ちゃんの家で配信中です!」
”オフコラボってテンション上がる!”
”女帝様の生活感…気になる!”
”みやび実況もっと頼む”
みやびが結衣の方を見つめてまずは一言。
「そういえばさっき、冷蔵庫開けて“どこにヨーグルトあるんだろ”って迷ってたよね結衣ちゃん」
「ちょ、みやびちゃん!配信でそういうこと言うのやめてぇ……」
リスナーは即座に反応。
”庶民派!”
”冷蔵庫迷子かわいい”
”親近感わく女帝様”
さらにみやびは、キッチンの棚を指さして呟く。
「お菓子のストックがやたら多い気がする……いや、これ絶対買いすぎじゃない?」
「や、やめて~……今日はなんだか生活がバレていく……」
みやびは構わず続け感想を重ねる。
「さっきバスルームもちょっと見たけど、タオルが全部ふわふわだった!バスローブもすごかった!」
「……もう、今日はダメだ……」
”ふわふわ派多いな”
”刺繍入りローブ気になる”
”女帝様の“ふつう感”出てる”
”みやびの暴露が有能すぎる”
AIあやかちゃんはイタリア語で「Buonasera, benvenuti alla nostra live!」と挨拶するが、
最初はやや日本語アクセント。すかさずイタリア人リスナーがコメント。
”ちょっと日本語っぽいw”
”rの巻き方が可愛い”
”これから直すよね?”
あやかちゃんが《ご指摘ありがとうございます。発音パターンを即時修正します》と、
みるみるうちに“イタリア人そのもの”の発音へと進化。
みやびは興味津々で、感心する。
「すごい、さっきと全然違う! あやかちゃん、さすがAIだね~」
その自然な空気感のなかで、
結衣の素顔、生活感、ちょっとした抜け感まで――
みやびが照れもなく“結衣のふつう”を引き出してくれた。
***
あやかがさぁ、はじめますよ、まずは初級フレーズからと仕切る。
「Buonasera, mi chiamo Yui.(こんばんは、結衣です)」
「Mi chiamo Miyabi.(みやびです)」
みやびは単語や文法に詰まりながらも、あやかちゃんの発音サポートやリスナーの「ここ違うよ!」というリアルタイム指摘で、一文ずつ着実に“自分のペース”で身につけていく。
”みやび、がんばれ!”
”人類代表枠!”
”ミスっても全然いい!リアルな成長ってこうだよね”
”発音よくなってきた!”
”あやかちゃんのサポートわかりやすい”
”先生役がAIって未来だな”
あやかちゃんは、みやびが詰まるたびに「音声データ再生」や「イントネーションの波形表示」を即時提供。
失敗しても「大丈夫です、みやびさんの伸びは順調です」と励ましつつ、
難単語や例文を“人間視点で段階的に”追加してくれる。
一方、結衣は――。
最初はみやびと同じように辞書と例文に目を通していたが、
10分、20分と経つうちに、フレーズの吸収と変換が「尋常じゃないスピード」に。
イタリア人リスナーが「この場面は“sono contenta”が自然だよ」と指摘すれば、
結衣は1回で正しい発音に修正、さらに応用例まで自分で作り始める。
「Cosa hai mangiato oggi?(今日何食べた?)」
「Ho mangiato una pizza. E tu?(ピザを食べました。あなたは?)」
会話のキャッチボールが成立し、文脈や言い回しも10分ごとにネイティブに近づいていく。
リスナー騒然。
”え、速すぎる”
”人間じゃない吸収力”
”なんで1時間でそんな喋れるの!?”
”負けるな<人類の代表>”
”女帝様、やっぱAI疑惑”
”みやびちゃん隣に本当に女帝様実在してるの?”
「結衣ちゃん、速すぎ!待って!
私まだ“ピザ”の次くらいなのに……!」
みやびは汗をぬぐいながらも、
リアルな焦りと素直な笑いで場を和ませる。
「だって、みんながどんどんフィードバックくれるから!」
結衣は飄々と返しながらイタリア人リスナーのアドバイスをほぼリアルタイムで自分の語彙・発音に反映していく。
自然にみやびの“成長のリアリティ”と結衣の“異次元の才能”を並列で応援するムードに包まれる。
そしてAIあやかちゃんからも突っ込みが入る。
《現在、みやびさんの学習速度は“人類平均の3.7倍”で推移しています》
《結衣さんは“外れ値”のためデータ参照不能です》
とさりげなく発表し、リスナーから
”AIが匙を投げるなw”
”外れ値wwww”
”みやびの成長だけで充分やばい”
”人間がんばれ!”
など、笑いと熱気と応援が入り混じる。
この夜、
みやびの「人間代表」としての成長と、結衣の“人外”な最適化が、
世界中に配信される伝説の配信回となった――。