表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/82

第53話 鳴り響く鐘

 朝の東京・日本橋。証券取引所の正面には報道陣と招待者の列、SNSでも「女帝様上場」「推し企業の鐘」といったタグが朝からトレンド入りしていた。


ライトブルーホールディングス(ライトブルーHD)がついに日本市場のメインステージへ登場する瞬間だ。


【ライトブルーHD プライム市場への直接上場――公開価格は1000円】

 

ステージ最前列、黒と青のコーポレートカラーに身を包んだ「社長」小田桐浩一が、ひときわ落ち着いた表情で鐘の前に立つ。

壇上には柴田CFO、IR責任者、そして幹部・グループ代表ら。

スクリーンには世界中のバーチャル会場も映し出され、メタバース“ライトブルー宮殿”では、女帝様アバターとファンアバターたちが見守っていた。


「それでは、ただいまより――ライトブルーHD、東京証券取引所プライム市場への上場を記念して、鐘を鳴らします」

 

会場とネット双方が静まり返る。

鐘のロープを握った小田桐が、一拍だけ深呼吸して、ゆっくりと鐘を鳴らした。


――カァーン!


現実と仮想空間で、同時に響く鐘の音。

バーチャル会場も連動し、女帝様が微笑みながらアセットくんと一緒に鐘を“エモート”で再現する。


記者会見では、小田桐社長が落ち着いた口調でこう語る。


「公開価格は一株1000円です。

今回、市場で流通するのは全体のおよそ三分の一――主に外部ファンド、銀行、個人投資家の皆さまに、新たな仲間になっていただきます。

残りは創業者・経営陣・グループ各社で支え、責任ある経営と成長投資を守ります」 。


ネットニュース速報――

<ライトブルーHDがプライム上場、時価総額は1兆円!>

<公開価格1000円、史上最大級の需給>

<女帝様Vtuberが“資本の未来”を語る>


 大型のモニターに「ライトブルーホールディングス(LBHD)」の銘柄が大きく表示され、

 “公開価格:1,000円”の隣には、点滅する「買い気配」のランプ。


 結衣はややトーンを落として説明する。


「今日のIPO、気配値は買い注文が殺到していて、まだ売りが出てきません。

初値がつくまでは“買い気配”表示で、どんどん上値で買い注文が積み上がっています」


 リスナーの“投資勢”が即座に反応。


 ”板(注文状況)見てると1,500円超えてる!でもまだ寄らないw”

 ”初値予想スレで2,000円予想してた奴息してる?”

 ”個人はほとんど買えてないんじゃない?”


 結衣は配信スライドを切り替えて淡々と語る。


「今回、流動株は全体の30%。

 その中で機関投資家が約60%、個人投資家が10%ほど。

 要するに、皆さんが抽選やセカンダリー(初値買い)で狙えるのは、全体の3%くらいしかありません」


「残りの70%は経営陣、グループ、ベンチャーキャピタル(VC)などが持っていて、“ロックアップ”で売れないんです。

 VCは、ロックアップ明けに売り抜けることが多いので、その時にまた値動きが荒れる可能性もあります」


 チャットは一斉に反応する。


 ”やっぱり機関メインなんか……”

 ”女帝様IPOって言っても現実は厳しいね"

 ”抽選全落ちで草”

 ”この3%を勝ち取ったガチ勢こそ真のリスナー?”

 ”ロックアップ明けでVC売る時こそ、握力見せつけるフェーズや!”


 アセットくんが実況に割り込む。


「女帝様、初値ついたよ!1,800円でスタート、その後めちゃくちゃ板厚いです!」


 女帝様もほんのり驚きの表情。


「すごいですね。公開価格の1,000円から一気に1,800円、その後は上下に振れつつ、今は1,570円で落ち着いています。

 正直、これだけ注目されるとは思ってませんでした。

 でも、どんな株価より――“夢の鐘”をみんなで鳴らせた今日のほうが、私には大事なんです」


 リスナーたちの熱狂が、またコメント欄を埋め尽くす。


 ”ガチで記念日”

 ”記念で100株買った!すでに含み損たすけて”

 ”でも初日S高は夢見たかったw”

 ”スパチャ気分で買ったけど、よく考えたらなくなるわけじゃないのいいな”

 ”IPOの気配値実況助かる”

 ”おまえら現実みろw 機関投資家の本気に震えろw”

 ”板が全然崩れない、小口の買い圧力が凄まじいな”


 女帝様も苦笑しながらコメント。


「みなさん、本当に“推し”のことになると強いですね……

 ファンドでも、経営陣でも、個人の方でも、“夢を手放さない”って気持ちが数字になって現れるのは、ちょっと感動します」


 ”ファンの握力がゴリラ並だな"

 ”VCのロックアップ解けても負ける気しない"


 結衣は画面の向こうで静かにうなずく。


「どんなに大きな資本でも、“夢”と“仲間”を信じる力には敵わないのかもしれませんね」


 女帝様は少し微笑みながら、締めの言葉を送る。


「現実は厳しいところもあります。

 でも、個人でも機関でも、“未来”を一緒に作っていきましょう。

 これからも、私達と一緒に楽しんでくださいね」


***


 鐘の余韻がまだ残るなか、水谷リサはオフィスの片隅で自分のPC画面とにらめっこしていた。

(SOと創業株合わせて0.6%……1株1000円だから、60億円相当かぁ。うわ、数字だけで手が震える)


 そこに速報。

 <ライトブルーHD、初値1800円!>


 思わず椅子から立ち上がる。


「えっ……えっ……!?えっっ!?」


 画面の持株一覧が、リアルタイムで赤く跳ね上がる。


「これ、……1.8倍?じゃあ、わたしの分……」


 水谷は思わずスマホを取り出し、母親に電話をかける。


「もしもし、お母さん?――え、聞いて。60億って言ってたでしょ?

いま……108億円になってる……。ちょ、どうしよう、どうしたらいい?」


 母親も受話器越しに動揺している。


「ええっ、何それ?そんな急に増えちゃうの?」


「うん、初値が1,800円になっちゃって……計算、何度見ても合ってるみたい……」


 ふたりして妙に静かなパニック。


「とりあえず、体調崩さないようにね」としか返せない母の声に、ようやくリサも笑ってしまう。


 一方、配信のコメントでは“ガチの計算勢”リスナーが次々と数字を投下していた。


 ”公開価格1000円で発行株数10億株、予想時価総額1兆円。初値1800円なら1.8兆円か。やべえな”

 ”女帝様は個人名義で5%+2%で700億円、ファンド名義で30%なら3000億円超えw”

 ”株主総会開いたら“億り人”だらけの異世界になりそう”

 ”推しの資産額の桁が狂ってて草、800億ってなんだよ"

 ”多分これで全部じゃないからファンド資産合わせると個人で兆いってるんじゃ・・・?"


 女帝様(結衣)はやや困ったように微笑んでコメントする。


「ええと……会社やファンドの資産と、個人の資産はちゃんと分けて考えてくださいね。

 私自身も保有株はほとんど売る予定ないんですよ」


 経済メディアでは「個人発スタートアップが上場で時価総額1兆5000億円到達」などと報道される。


***


 その夜。

 配信ルームの結衣(女帝様)は、いつもより少し明るい表情で画面に現れる。


「みなさんこんばんは。――今日は本当に特別な日になりました。

 証券取引所での上場セレモニー、バーチャルでも“鐘”を鳴らす瞬間。みんなで迎えられて本当に幸せです」


 パワポ講義モードの女帝様アバターが、「IPOって何?公開価格は?」「なぜ今上場?」という質問に丁寧に答えていく 。


「公開価格は1株1000円終値は1612円。今回は“投資家のみなさん”が新しい仲間として加わりましたが、会社の“夢と責任”を守る構成も大切にしています」


 ”女帝様の株買えた!”

 ”だいぶ底の方で拾えた!”

 ”俺いきなり含み損なんだけどナンピン買いするべき?”


「これはゴールじゃない。新しい“未来”がここから始まります」


 結衣は静かに宣言した。

 

 ――深夜、自宅の一室。

 結衣はスマホを握りしめ、兄・拓真からの「無理だけはするなよ。お前らしい未来を」というLINEに 「ありがとう、これからも頑張るよ」とだけ返信する。


 そして、ライトブルーの物語は、ここからさらに新しい世界へと歩み出す。

数字の桁が大きすぎて計算を間違えて後であれ?と思いながら書いていました。

ブックマークと評価がランキングのポイントになっているため人の目に触れられるかどうかの瀬戸際なので、ブックマーク・評価など頂ければ大変うれしく思います。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ