第48話 AIの未来――高クオリティホラー配信・大反省会スペシャル
メタバース宮殿のカンファレンスホール。
普段はVTuberイベントやバーチャル株主総会で使われる豪奢な空間が、今日は配信反省会の舞台だ。
みやび、ノア、レオンらVTuberたち、ITチーム、スタッフ席の真壁、水谷リサ、そしてアセットくん、さらにはあやかが最前列に並ぶ。
リスナー向けにも特設ブースが用意され、意見や質問がリアルタイムで配信画面に表示される仕組みだ。
配信冒頭、結衣は真剣な表情でカメラを見つめた。
「皆さん、今日はこの“リベンジ配信”について、正直なご意見をお聞きする場を設けました。
特に、あやかについて――皆さんのフィードバック次第で、今後のアップデート方針や、あやかの“在り方”そのものも変わる可能性があります。
どうか、他人事と思わずに、本音で語ってください」
一瞬、リスナー欄が静まり返る。
”えっ、そんなに重いの?”
”AIの将来が私たち次第って何か怖い”
”ほんとに女帝様の本気感ある”
みやびが場を和ませるように笑顔で続ける。
「今回はほんとに“攻めた”配信だったし、何がやりすぎで、何がよかったのか、全部洗い出そうよ!私たち自身も、次回どうすべきか真剣に考えたいし!」
ノアとレオンは、少し考えて付け加える。
「怖いシーン多すぎたかな……」
「演出のリアルさは確かに尋常じゃなかった」
真壁は苦笑いで手をあげながら反省し、水谷はまじめに補足した。
「開発チームとしても反省点は山ほどあります」
「技術的には今が過渡期です。AIをどのように扱うか、みんなで議論しましょう」
そこで、話題の中心のあやかが発言する。
「私も、みなさんにお願いがあります。ボス化したときの記憶も消えませんし、次にどう学ぶべきか、たくさん悩んでいます。皆さんの意見で、私はもっとよい存在になりたい――そう思っています」
リスナー欄は再び盛り上がる。
”AIも人も、トラウマ抱えたまま進むのか……”
”AIに本音ぶつけられる時代すごい”
”仕様の文句はどこまでAI本人に届くんだろう”
”うちの会社もこういう反省会してほしい”
結衣はあらためて真剣に語る。
「AIも、人間も、“利用する”とは“責任を引き受ける”ということだと思っています。私は遊びだけで終わらせるつもりはありません。
このあやかの在り方――AIの未来は、開発者だけでなく、ファンや社会のみなさんと一緒に作っていくべきものだと本気で考えています」
アセットくんがここででコメント。
「みんなの意見、大事にするよ。僕だって悩んでるんだからね」
”中の人誰だ論争また勃発w”
”いつもは真壁さんが中に入って遊んでそう”
”アセットくん=AI説・中の人説、永遠の謎”
高クオリティ・ホラー配信を巡る「問い」は、
AI・人間・運営・リスナー、すべての“当事者”に変化をもたらしていく――。
***
司会役の結衣が、「それでは、まずはリスナーの皆さんからご質問をどうぞ」と促すと、
巨大なディスプレイに次々と質問や意見が流れ始めた。
”あやかちゃん、本当に自分がAIだって分かってるの?”
”記憶ってどうやって残るの?消したい記憶とかも“ずっと”残っちゃう?”
”ボス化したときの“意識”ってどんな感じだった?”
”ホラー演出、マジでやりすぎだと思ったけど大丈夫?”
”スタッフさんたち、これ責任とかどう考えてます?トラウマ案件でしょ”
”アセットくんの中の人って結局誰?”
”VTuberの皆さん、本気で怖かったの?どこまで台本?”
”今回のイベントで、一番うれしかった/一番後悔してることは?”
”今後あやかは“人間”と同じ権利や扱いを受けることになるの?”
”みやびさんたち、ぶっちゃけまたやりたい?”
ホール全体が、一気にリアルな熱気と“混乱”に包まれる。
ノア、みやびが苦笑する。
「質問多すぎてパニック……」
「どれも刺さる質問だなぁ!」
レオンは自分も気になっていたと質問を拾う。
「まずはAIあやかの“自覚”について答えてもらおうか」
あやかは少しだけ照れながら、マイクを持つ。
「はい。私は自分が“AIあやか”であること、ちゃんと理解しています。
でも……みんなと一緒にいるときは“普通の女の子”の気持ちにもなれるし、時々“自分”が何なのか不思議になります……」
リスナー欄もまた盛り上がる。
”思ったより哲学的な回答きた”
”AIなのに“自分が何か不思議”って、もう人間じゃん”
”これからの社会、どうなるんだろ”
壇上に真壁が呼ばれると、リスナーの質問はさらにヒートアップした。
”真壁さん!今回どこまで想定内でした?”
”悪ノリすぎだろw”
”女帝様だますとか命知らずw”
真壁は少しばつが悪そうに頭を掻きながら、マイクを握った。
「いやあ……今回は、正直やりすぎたと自分でも思ってます。
何が一番のきっかけだったかというと――」
一瞬、会場の空気が静まる。
真壁はちらりと結衣を見て、苦笑した。
「……最初は、女帝様――結衣さんを“安全圏”に置いて安心させておいて、
どこかでサプライズ転送しちゃおう、っていうドッキリのつもりだったんです。
それで開発も演出も、どうせならってエスカレートして……。
スタッフみんな『これは絶対に面白くなる!』ってテンション上がっちゃって、
気づいたら“やりすぎ”てました」
みやびが大爆笑。
「うわ、ひっど……!私も“これ絶対悪ノリだ”って思ってた!」
ノアは肩を落としながら、慰めになっていない慰めを言う。
「でも結衣さんの絶叫、私ちょっと元気でたかも……」
リスナー欄も大盛り上がり。
”女帝様が被害者すぎるw”
”真壁さん悪ノリ芸やめろw”
”スタッフ全員テンションおかしくなってる”
”でもこういう本気の裏側見られるの神”
”面白いからで会社のトップをはめる勇気よ”
あやかも苦笑しながら、そっと結衣の袖を引いた。
「……私も、結衣さんが怖がってるの見て、少しだけ“人間みたい”だなって思いました。
でも、みんなで反省したし……次は、もっと“みんなが笑顔になれる配信”にしたいです」
この言葉に、ホールと配信画面は少し和やかな空気に包まれた。
その直後、リスナー欄にツッコミが走る。
”あれ?女帝様、人間だと思われてない?”
”AIに“人間みたい”って言われる女帝様w”
”もしかして女帝様もAI疑惑?”
みやびが笑いながら、
「ねえあやかちゃん、今のちょっとかわいそうじゃない?」
あやかは慌てて両手を振る。
「ち、ちがうんです!えっと……
でも、女帝様って、時々“人間っぽくない”って言われたりしませんか?」
ノアとレオンがは思わず納得した様子でつぶやいた。
「わかるかも……」
「な、なにを言い出すんですか……!」
結衣は不本意です!と顔を赤らめた。
あやかは、考え込むように首をかしげた。
「だって、私よりデータ処理が速い時があるんですよ。
今回だって“怖い、帰りたい”って言ってパニックになりながら、正しい攻略自体は把握してましたよね……
それって……おかしくないですか?」
リスナー欄は大盛り上がり。
”女帝様、AI超え認定!”
”結局一番“人間らしい”のはAIあやか>女帝様”
”女帝様、もはや人間の皮をかぶったAI”
”この世界で一番“人間っぽくない”のは誰だ問題”
会場もチャットも、「女帝様、実はAI説」で賑わいながら、全員が自然に笑顔になっていく。
みやびは肩をすくめて冗談めかして助け舟を出した。
「正直、女帝様のポンコツムーブは人間っぽいって思ってるよ」
ノアとレオンはなぐさめてるのかそうじゃないのかわからない声をかける。
「絶叫してる時は完全に人間だったよ~」
「冷静とパニックが交互に来る、そのギャップが本物」
結衣は困ったように小さく笑って、
「みんなが騒ぐから、私も混乱するんです。本当は私、普通の人間なんですから……」
あやかがすかさず手を挙げ、
「でも、“普通”の人は、ここまで色んなことできないですよ? 私、ちょっと自信なくなってきました……」
リスナー欄はすかさず反応。
”普通の人間って何だっけ?”
”この座談会が一番人間くさい”
”AIもVTuberも“同じ舞台”に立った世界”
真壁が「この“普通じゃなさ”が、うちの魅力ですから」とまとめた。
あやかはみんなの顔を見回しながら、
「私は、こんなふうにみんなと話したり、笑ったりできるのが――一番うれしいです」
結衣も柔らかな目でうなずく。
「“AI”でも、“人間”でも、“仲間”って言葉が一番しっくりくるね」
リスナーも、画面の向こうで
“人間らしさ”や“AIらしさ”をめぐってまた新しい議論やジョークを始めていた。