表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/82

第46話 ホラーゲームがリアルすぎるのは心臓に良くないと思います

 ゾンビに占拠された宮殿領域の一角


 廊下の非常灯が、赤い影を床に長く伸ばしている。


 女帝様(結衣)は、みやび・ノア・レオンたちVTuberサバイバーと合流し、混乱と緊張で心臓の鼓動が高鳴っていた。


 みやびが手を振って、女帝様に駆け寄る。


「女帝様、無事!? 一人で王座ルームに閉じ込められて大丈夫だった?」

 

 結衣は、思わず叫ぶ。


「こ、こわい!ほんとに怖い……!みんな、もう私ここから動きたくないです……!」


 ノアが息を切らしながら振り向く。


「女帝様、私も帰りたいです……。ここ絶対安全じゃない……」

 

 レオンは冷静を装いながらも、眉間にしわを寄せている。


「とりあえず全員揃った。MAPを見る限り、左の廊下から非常階段に行けるはずだ。なるべく音を立てずに進もう」


 みやびが肩をポンと叩いて励ます。


「大丈夫!女帝様の絶叫配信、見てるリスナーさんたちもみんな応援してるから!」


 結衣は呼吸を整えながら、小声でつぶやく。


「ほぁ……ほんとに、リアルすぎて……あー、こわい、帰りたい……」


 ノアも不安げに首をすくめる。


「このドアの向こう、絶対ゾンビいるよね? 足音が増えてる……」


 みやびが笑いながらも警戒を怠らない。


「行くしかない!レオン、ドアお願い!」


 レオンが手際よくドアノブを回し、廊下の奥を確認する。


「……クリアだ。ただ、奥の曲がり角に人影がある。おそらくゾンビだな」


 結衣は無意識にみんなの背中に隠れるように立つ。


「うぅぅ……みんな、私、ここで待っててもいいですか?」


 みやびが笑いながら首を振る。


「女帝様、全員一緒じゃないと進めないよ!」

 

 ノアが必死で手を引く。


「女帝様、絶対離れないでください……私、置いていかれたら叫びますから!」


 結衣はおずおずと一歩踏み出し、掛け声を上げる。


「よ、よし……がんばりましょう、みんな……ほぁー、怖いなー、かえりたいなー!」


「大丈夫、大丈夫、たぶん大丈夫……きっと大丈夫……」


「こ、ここ、リアルのお化け屋敷より怖い……やっぱり帰りたい……」


 リスナー欄は爆笑と応援コメントで大賑わいだ。

 

 ”女帝様、声になってないw”

 ”ノアと女帝様の“帰りたい”合唱”

 ”みやびが頼もしすぎる!”

 ”レオンの冷静さでギリギリ成り立ってるパーティ”

 

 レオンがみんなを促す。


「進もう。足音をできるだけ抑えて、ゾンビをやりすごす。次の角は俺が先行する」


 結衣はドキドキしながら、それでも勇気を出してみやびの後ろについていく。


「お願い、みんな、絶対、絶対置いていかないでください……! もしゾンビ来たら、私先に……じゃなくて、みんなで守って……!」

 

 みやびが振り返って親指を立てる。


「大丈夫!絶叫はまかせたよ!」


 ノアは小さくガッツポーズ。


「怖いけど、女帝様と一緒ならがんばれる気がします……!」


 結衣も小声で何度もつぶやく。


「ほぁー……こわい……うー……でも、がんばる……がんばる……!」


 こうして、四人の“サバイバー”は廊下の闇に一歩ずつ足を踏み出した。

 リアルすぎる恐怖と、笑いと、仲間の絆――リスナーも全力で彼女たちを見守っていた。


***

 突然、曲がり角の向こうから重い足音が響いた。

 みやびが身構える。


「来る! あれ、普通のゾンビじゃない――動きが、早い!」


 ノアが悲鳴を上げる。


「いやだぁぁ! なんか、人間っぽい動きしてるって!」


 レオンが即座に銃を構えてメタ的なことを叫ぶ。


「全員、後退しろ! これはAIじゃない、多分誰かが中にいる!」

 

 結衣も慌てて叫ぶ。


「ほぁっ、ほぁっ、う、撃っていいんですか!?ほんとに……怖い、ほんとに無理……!」

 

 みやびは手早くナイフを抜き、横に跳んだ。


「行くしかない、女帝様、ノア、下がって!」

 

 銃声と、ナイフが空を切る音。

 だがゾンビは、明らかに他のAIとは違う、異常なほど素早い身のこなしで迫ってくる。

 時折、VTuberたちの動きに合わせてフェイントをかけたり、進路をふさいだり――

 リスナーのコメント欄にも戦慄が走った。


 "今の動き、完全に人間だろ……”

 ”ゾンビが避けた!?”

 ”運営やりすぎじゃない?w”

 ”リアルすぎて引いてきた”


 結衣は仲間の背中越しに、必死で呼びかけた。


「み、みやびさん、ノアさん、レオンさん、下がって、下がって!誰か助けて……もう、やだ……!」


 ノアは涙声で叫ぶ。


「こっち来ないでぇぇぇ!銃、当たってる?当たってるこれ!?」


 みやびが必死に前に出て、ナイフでゾンビの腕を弾いた。


「女帝様、ノア、逃げて!レオン、援護お願い!」


 レオンは銃を連射するが、高性能ゾンビは俊敏に左右にステップしながら距離を詰めてくる。


「おかしい、これAIの反応速度じゃない。運営、さすがに悪ノリが過ぎるぞ!」


 画面越し、開発室の真壁慎一はモニターの前で大爆笑していた。


「最高だな……!これぞリアル・サバイバル配信!」


 水谷リサが苦笑しつつ横でつぶやく。


「やりすぎ……いや、でもみんなめちゃくちゃ必死でリアルな絵が撮れてる……」

 

 西園寺隼人も目を輝かせて呟く。


「やっぱり“有人ゾンビ”投入は正解ですね。反応が全然違う!」


 リスナー欄もヒートアップする。


 ”撃っても全然怯まない!”

 ”ゾンビの“演技”がガチすぎ”

 ”女帝様の絶叫、ガチで心配になってきた”

 ”これ、18禁ホラー映画じゃ……”


 結衣は半泣きで叫ぶ。


「もうやめて、ほんとに無理、私もう……帰る、絶対帰る……!」

 

 だが、みやびが笑い混じりに力強く声を上げた。


「大丈夫、女帝様!絶対に守るから、みんなで生き残ろう!」

 

 ノアは怯えながらも結衣の手を取る。


「うう……女帝様、お願い、置いてかないでください……!」


 レオンがラストショットを撃ち込み、ついに高性能ゾンビは派手に倒れこむ。

 その様子も、どこか“演技”にしか見えないほどリアルだった。


 みやびは大きく息を吐き、本音を漏らす。


「っはー……これ、普通にやりすぎじゃない……?」


 結衣はその場にへたり込み、力なく呟いた。


「も、もう無理、やばい、心臓止まるかと思った……」


 リスナーのコメント欄にも安堵と戦慄、そして“運営やりすぎ”の文字が並んでいた。


***


 そうしてしばらく進むと

 廊下の奥――薄暗い非常灯の下で、震える小さな影が壁に身を寄せていた。


「……誰か、いますか……?」


 その声はあまりにも生々しく、どこか哀しげだった。


 みやびが警戒しつつも一歩前へ出る。「大丈夫、怖くないよ。私たちも今、逃げてるところなんだ」


 ノアも恐る恐る、「こっちおいで、一緒に行こう?」と手を伸ばす。


 少女はおそるおそる近づき、結衣の前で立ち止まった。

 制服姿に、不安そうな瞳――中学生くらいだろうか。


 

 結衣はそっとしゃがみこみ、優しく声をかける。


「……大丈夫だよ、もう怖くないから。みんなで出口を目指そう?」


 

 少女は、結衣の袖をきゅっとつかんだ。


「……ありがとう、お姉さん。あの、私……あやかっていいます」



 みやびが思わずほっとしたように微笑む。


「えらいね、あやかちゃん。ここ、暗くて怖かったでしょう」


 レオンはMAPを確認しながら、警戒は崩さずに言った。


「まずはセーフエリアに向かおう。ゾンビの再配置に備えて、全員で動くべきだ」


 みやびが小声で言う。


「女帝様、この娘NPCですよね? やたらリアルだけど」


 結衣はどこか誇らしげに仲間とリスナーに説明した。

 

「すごいですよね。最近のメタバース用AIは会話も自然で……。私はこういう分野の研究もしていて……。この子は“お助けNPC”として用意されてるはずなんです」


 ”え、この娘、中にスタッフがいるわけじゃないの?すごすぎ”

 ”泣きそうな声リアル”

 ”守護らねば……!”


 歩きながら、あやかはパーティの中心に溶け込んでいった。


「こっちの廊下、たぶん近道です」

 

 みやびが驚く。


「ほんとだ、セキュリティパネルがある……。あやかちゃん、詳しいね!」


 あやかは迷いなくパネルに手を伸ばし、数回タッチする。


「こういうの、学校のパソコン授業で練習したの。お姉さんたち、後ろ見てて!」

 

 ガチャリ、とドアが開く。廊下には敵影がなく、次の安全地帯が広がっていた。

 ノアが感嘆の声を上げる。


「すごい、完全に“お助けキャラ”だ……。女帝様より頼りになる……」


 結衣は苦笑しながら、「そ、そんなこと……」と小声で言う。


「でも、ほんとにすごい……。AIの進歩って、人を守ったり、導いてくれたりする力にもなるんですね」


 その後も、暗号パズル、センサー回避、時間制限のあるギミック――

 どの場面でも、あやかは冷静沈着にみんなを助けた。

 結衣がパニックで「う、うわぁ、無理、怖い、どっち!?」と迷っていると、

 「あっちです、お姉さん!」と手を引っ張ってくれる。

 みやびも「ほんとに頼りにならないなあ」と苦笑するばかり。


 そんな時間が続くうちに、結衣達の中で不思議な感情が芽生えていった。


 ――この子を、絶対に守りたい。

 そう強く思うようになっていた。


「ありがとう、あやかちゃん。君のおかげで、みんな無事に進めてるよ」


 あやかは少しだけはにかみ、「私も、お姉さんたちと一緒だと安心するの」と言った。


 そのやりとりに、リスナーもほっこりする。


 ”あやかちゃん守護回”

 ”女帝様がデレてて可愛い”

 ”みんな忘れるな、女帝様がサポートするはずだったんだぞ”

 ”運営……”


 結衣は、本気であやかに心を許しはじめていた。


予想はできると思いますが運営に人の心は期待しないでください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ