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ライトブルーファンド~億り人がVTuberでやり過ぎる  作者: 桐谷アキラ
仮面の向こう、託された真実
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第40話 夢と現実、その先へ

 高層リビングの静けさ。

 ワイングラスの中で赤い液体がゆっくり揺れる。

 夜景を背にして並ぶふたり――

 夢を語る時間は、不思議とあっという間に流れていた。


「ねえ、結衣さん。

 どうしてそこまで“いける”って思えるんですか?

 正直、どんなにお金があっても、大きなリスクは怖くないですか?」


 みやびは率直に尋ねた。

 自分も大胆な決断をしてきた方だが、いま目の前にいるこの人の「余裕」には、別の重みがある。


 結衣はしばらく黙って、夜景の彼方を見つめていた。

 そして、やわらかく、でもどこか凛とした声音で話し始める。


「……全部がうまくいくとは思ってないよ。

 でも、私は資本の流れと人の熱量――

 “本物の夢”がある場所に“本気の資金”が入れば、必ず何かが生まれると信じてる」


「今のVTuber業界やエンタメって、ひとつ成功事例が出れば、その“波”が何年も業界全体を押し上げる。

 自分が大きなプロジェクトにお金を投じれば、現場だけじゃなく、周りの関係者・市場全体の期待値も底上げできる。

 そこに“二次波”“三次波”が生まれて、

たとえ初動が赤字でも、最終的にはどこかで回収できる計算が立ってるんだ」


 みやびは、思わず感嘆の息を漏らした。

 “回収”の視野が違う――

 それはきっと、事務所や個人レベルでは一生到達できない高さだ。


 結衣は優しい笑みを浮かべながらも、言葉の端々には「冷静な資本家」の顔が混じる。


「ただね。

 どんなに夢があっても、どうしても“潮目が変わる”ことはある。

 そうなった時は――必ず、損切りして“撤退”する」


「夢は大事。

 でも、資本家として一番大事なのは“続ける体力”なんだ。

 全てにしがみついていたら、いずれ全部を失うことになるから――

 “手を引くべき時”は絶対に見誤らない。

 それが、どれだけ好きなプロジェクトでも、必ず“判断”するのが私の役目」


 みやびは、そこに“優しさ”と“厳しさ”が同居しているのを感じた。


「なんだか、ちょっと寂しいけど……

 でも、それが本物の“支える”ってことなんですね」


 結衣は少しだけ目を細めて、


「みやびさんの“本気”を信じてるからこそ、私も本気で資本を投じる。

 でも同時に、いつか“この道は違う”と判断したら、きちんと伝える。

 夢を見るだけじゃなく、“現実”も一緒に見てほしいんだ」


 ふたりの間に、あたたかな静寂が流れる。

 夜景の光は、遠くどこまでも続いていた。


「それでも……やってみたいことがあれば、全力で支えるから」


 結衣の声は、誰よりも優しく、そして静かに強かった。


 みやびは、その言葉にまっすぐうなずいた。


 この夜、夢も現実も語り合える相手と、本当に新しい“未来”が動き出す。


***

 高層マンションの窓の外、夜景は深みを増していく。

 ワイングラスの中身も残りわずかになり、さっきまで“夢と現実”を語り合っていた空気が、少しずつ柔らかく、あたたかなものへと変わっていく。


 結衣がふと笑いながら、


「こうやって誰かとお酒飲みながら、仕事の話も夢の話もできるの、ちょっと新鮮。

 会社の人たちとはこうはいかないし、配信仲間ともこういう“素の自分”で話す機会はなかなかないんだよね」


 みやびも肩の力が抜けたように微笑む。


「たしかに。普段の打ち合わせだと、どうしても“女帝様”とか“先輩V”って感じが抜けないですし。

 でも結衣さんとなら、もうどんな話でもできる気がする」


 二人の会話は、徐々に“本番の夢トーク”から、ごく普通の雑談へと溶けていく。


「ノアちゃん、最近また料理配信に凝ってますよね。

 この間、手作りピザで大失敗して“リアル炎上”しかけてたんですよ」


「見た見た!チャット欄が“火災保険入って!”で埋まってて大爆笑だった。

 そういう時に真っ先に駆けつけてくれるのがるりちゃんなんだよね」


 結衣も楽しそうに返す。


「るりちゃんは、もう完全に“お姉さん”枠ですよね。

 トラブルメーカーたちをいつも温かく見守ってるっていうか……私も結構お世話になってます」


 みやびは、くすっと笑ってから続ける。


「でも、こうやってみんなでいる時の空気と、今みたいに結衣さんと二人で話してる時って、全然違う。

 ……なんか、すごく安心するんです」


 結衣はグラスを軽く傾け、夜景を見上げながら、静かに言葉を返した。


「私もだよ。

 みやびさんとは、仲間であり友達であり――

 みんなも大切な“お友達”だけど、

 こうして“今の本当の自分”で向き合えるのは、みやびさんが初めてだから」


 みやびは少し照れたように笑い、


「そんな風に言われると照れますね。

 これからも、いろんな悩みとか、くだらない話も、なんでも話してくださいね」


「もちろん。それこそ――“推し”の話でも、恋バナでも、どんなことでも大歓迎」


 結衣が茶目っ気たっぷりに返す。

 ゆったりとした夜の空気の中、二人は気負うことなく、他の仲間たちの話や、最近ハマっているドラマやゲームのこと、そして“次はみんなでホームパーティーしよう”なんて冗談まで――

 

 自然な笑顔で語り合い続けた。


 きらめく夜景と、ほんのり甘いワインの香り。

 “特別な親友”が隣にいるだけで、結衣はどこか、何もかもがうまくいきそうな気がした。


 ――この夜は、ふたりの友情の記念日みたいなものだった。


***

 夜はすっかり更けていた。

 窓の外の都市の灯りは、ゆっくりと青みを帯びはじめ、リビングの時計はもう日付をまたごうとしている。


 グラスを置きながら、みやびが小さな声で呟いた。


「なんだか、本当に不思議な夜でした。

 こうして結衣さんと――親友として、こんな風に並んで座ってるなんて、ちょっと前まで想像もできなかったな」


 結衣は、静かに微笑んだ。


「うん。でもこれからは、こういう夜がきっと増えていく気がするよ。

 だって、もう秘密もないから――」


「……これからも、いっぱい話そうね。夢のことも、悩みも、どうでもいいことも」


「もちろん。みやびさんがそばにいてくれるなら、私はなんでも乗り越えられる気がするから」


 ほんの少し眠気を帯びたまま、

 それでも二人は帰り際まで名残惜しそうに、笑いながらこれからの計画を語り合う。


 玄関の前で、みやびは振り返って言った。


「また絶対、ここでおしゃべりしましょうね。


 今日のこと、ずっと忘れません」


「私も。今日は――ありがとう」


 結衣は、優しく答えた。

 ドアが静かに閉まる音のあと、結衣はしばらくリビングに立ち尽くしていた。


(私、今までの人生でいちばん“心が満たされた夜”だったかもしれない)


 そんな思いを、誰にも聞こえない声で心に刻む。

 そして、ふたりの秘密と約束がこれからの毎日を、きっと少しずつ――

 でも確かに、変えていくのだと思った。


 広い部屋の窓越しに、また新しい朝が近づいてくる。

泊まっていくべきな気もします

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