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ライトブルーファンド~億り人がVTuberでやり過ぎる  作者: 桐谷アキラ
仮面の向こう、託された真実
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第39話 夢の協力者

 地域創生プロジェクトの現地視察は、朝から丸一日かけて行われた。

 行政担当者や地元企業のリーダーたちと、次々と施設や新プロジェクト予定地を巡り歩く結衣とみやび。

 視察中の結衣は、表向きは「投資家で共同出資者」の顔、だが時折みやびの目を見て、小さくウィンクしてみせるなど、普段の女帝様らしい茶目っ気も忘れなかった。


 夕方、視察も終盤。

 行政担当者が「今日は本当にありがとうございました。また後日詳細を詰めましょう」と深々と頭を下げる。

 結衣もにこやかに「素晴らしい現場でした。ぜひ前向きに進めましょう」とだけ返した。

 

「今日も本当にお疲れさまでした」


 みやびが礼儀正しく頭を下げると、結衣はどこか柔らかく微笑んで、声をかける。

「このまま外で細かい話をするのも気が進まないし――

 もしよかったら、うちで少し作戦会議していかない?」


 みやびは一瞬だけ驚いた顔を見せた。


***

 タワーマンションのエントランスに足を踏み入れたみやびは、思わず周囲を見回した。

ここが、SNSでも写真一枚すら出回らない“伝説の部屋”。リアルでは初めての来訪――しかも、誰にも公開されたことのない特別な空間。


 エントランスの重厚な雰囲気や、ガラス張りのホール、白いグランドピアノ。どれも前情報で知ってはいたが、実際の静けさと緊張感は桁違いだった。


 専用エレベーターに乗り込むと、最新のセキュリティシステムにドキリとしつつ、天井まで続くパノラマ夜景に思わず息を呑む。


 (SNSでどれだけ噂されても、リアルは桁違い……)


 扉が開いた瞬間、みやびの目に飛び込んできたのは、アップデートされたリビングの光景。

 以前から広さや大理石のキッチンは伝説的だったが、今回は壁一面に大型の液晶ディスプレイが新設されていた。

 天井近くまで届く本棚はそのままに、アート作品や観葉植物が新たに加わり、洗練された雰囲気がさらに増している。


「えっ、ここ……テレビ局のスタジオ?」


 思わず声に出しそうになってしまう。


 キッチンには、さりげなくワインセラーが“壁”として鎮座し、備え付けのスマート家電がずらりと並ぶ。

 冷蔵庫も以前より大きなものに交換され、フルーツ専用の冷蔵引き出しまで追加されている。


「みやびちゃん、お腹すいたよね? なにか食べる?」


 エプロン姿の結衣が、明るく微笑みながらキッチンから顔を出す。


「最近、リビングのシアター設備を少しアップデートしてみたの。音響も新しくなったから、配信じゃなくても一緒に映画とかライブ映像見られるよ」


 彼女の声はどこか誇らしげで、でも友人への気配りも忘れない。


「わ、わ……ここ、本当に人が住んでるの……?」


 みやびは、すっかり自分の“自慢の部屋”が霞む感覚に圧倒される。


「飲み物、何がいい?ワインでも、お茶でも――冷蔵庫には今日入荷したばかりのフルーツもあるよ」


「な、なんでもって言われても……贅沢すぎて、逆に迷います……」


 リビング奥の一角には、配信用のブースが以前よりさらに機材で充実しており、PCのマルチモニタやカメラ類がプロ仕様に進化しているのが目を引く。


 そして、ベランダ側には新たに小さなガーデンスペースが設けられ、夜景とともにグリーンが心地よいアクセントを添えていた。


 みやびは、あらためて自分が“特別な空間”に招かれたのだと実感し、スマホを取り出しかけて――ふと手を止める。


(これ、SNSにアップしたら一発でバレるやつだ……!)


 結衣も、「ここは一応“非公開”だから、記念写真もオフレコで」とウインクを送る。


――これが、“女帝様”のリアルな城なのだ。


 みやびは驚きつつ、素直な感想を漏らす。


「なんか、すごすぎて想像が追いつかないです」


 結衣は気にしたふうもなく、柔らかく微笑む。


「本当は誰かを家に呼ぶの、ほとんど初めてなんだ。

 うちに来たのは家族と、昔からの親友、あとは……会社の信頼できる同僚くらい。

 みやびさんにだけは、“本当に大事な仲間”として、今日どうしても話したかったから」


 テーブルにはいつの間にか、見たこともない高級チーズやフルーツ、世界各地の焼き菓子が並ぶ。


「遠慮しないで。どうせ残ったら冷凍庫行きだから」


 結衣はあっさりと言うが、みやびにはそのスケールの感覚が少しずつズレて感じられて面白い。


(……この人、本当に“お金”の感覚がバグってるんだな)


 でも、不思議と居心地がいい。

 贅沢さが誇示ではなく、“大切な仲間に本当の自分を見せるための空間”に思えてくる。


 窓の外、ビル群の灯りが宝石のように瞬いている。


「じゃあ、そろそろ“ここでしか話せない作戦会議”を始めようか」


 結衣がワイングラスをみやびの前にそっと差し出す。


 みやびもグラスを手に、


「はい、全力で協力者やらせていただきます!」と


 自然と笑顔がこぼれる。

 二人だけの秘密基地で、新しい夜が静かに始まろうとしていた――。


***

 ワイングラスを傾けながら、高層リビングのテーブルに二人きり。

 窓の外には東京の夜景、そして卓上には“普通のVTuber宅”ではありえない高級オードブルの数々。


「……本当にここで、何でも相談していいんですか?」


 みやびはワクワクと戸惑いの入り混じった声を出す。


「何でも。むしろ、ここでしか話せないことを話すために呼んだんだから」


 結衣はさらりと答える。


 しばらくは行政イベントの実務的な打ち合わせ――

 現場での導線、ネット露出のリスク、SNS対策やマスコミの懸念など、真面目な議論が続く。


 だが、ふと結衣が小さく笑う。


「……でもさ、みやびさん。

 本当は、今まで“事務所の都合”とか“予算”とかで諦めてきた夢、いっぱいあるんじゃない?」


 みやびは、一瞬、息をのむ。


「そりゃ……ないと言ったらウソになるかも。

 海外ロケも、一日がかりの撮影も、事務所の後押しがあっても“さすがにこれは”って却下される企画ばっかりで……。

それに、コラボの現場でさえ、全部自腹だったりするんですよ?」


「MVも何本も自分で出したけど、正直一曲1000万超えると“さすがに”ってなるし。

 “夢は大きく!”って言われても、やっぱり数字で現実に引き戻される感じ」


 みやびはトップVTuberのプライドを隠さず、それでもどこか本気で“夢”を話している。


 結衣は静かにうなずき、


「実はね――それ、全部“やろう”と思えばできるよ」


 と、どこまでも軽やかに宣言した。

 みやびの目が、ぱちくりと瞬きを繰り返す。


「……え?」


「たとえば、海外で一週間がっつりMV撮るのもOK。

 地方の廃校を丸ごと借りて大型コラボ撮影もOK。

 リアル×バーチャルの配信ライブ、最新の3D技術全部乗せて、専門チームごと丸ごと雇って……。

 回収に何年かかっても、“やってみたい”なら全部支えるよ」


 その一言で、みやびの心に“現実”という壁がぱっと消えたような気がした。


「それ……本当に、いいんですか?

 でも、いくらなんでも“普通のスポンサー”の枠を超えてません?」


 結衣は、笑顔を崩さずに返す。


「私は、“投資家”だからね。エンタメやVTuber業界で本当に夢が形になるなら、何年かけても、回収まで付き合えるだけの資本力がある。

 そもそも、ここまで来たらお金は“夢を叶えるために使う道具”だよ」


 みやびは改めて、結衣がどれだけ“別次元”の存在なのかを実感する。


(自分もMVに1000万かけるくらいは気合でやってきたけど、“何年回収できなくても大丈夫”なんて……正直、何か大きなことをやったらしばらくは自転車操業......)


 ふいに、自分が今まで“業界のトップ”だと信じていた世界が、一気に広がる感覚があった。


「……私、ずっと“大きな夢”って、現実の数字で切り取ってたのかもしれない。

 でも、結衣さんとなら――本当に何でもできる気がしてきました」


 結衣は、ワイングラスを回しながら目を細める。


「正直、私自身はどんなに頑張っても“本物のエンタメ側”にはなれないんだよ。

 私は根っからの投資家で、どんなに配信やっても“スター”にはなれないって、ずっと分かってる。

 でも、そのぶん“夢に本気で賭ける”ことなら誰にも負けないつもり」


 みやびも笑った。


「それ、めちゃくちゃかっこいいですよ 


 少し間があいて、みやびは真剣な目で結衣を見た。


「もし今後、本当にこの路線でやるなら、事務所にもちゃんと話して、この出資のことも相談させてください。

“応援してくれる資本家”じゃなくて、“本当の意味で一緒に夢を作る仲間”として、全部“本気で”やりたいので」


 結衣は心からの笑顔で頷いた。


「もちろん。みやびさんの事務所も、もし必要なら全面的にバックアップするつもり。

 信じ合える仲間となら、いくらでも本気で夢を追えるから」


 ふたりの間に、確かな信頼と覚悟が生まれていた。


 夢を語る夜、高層マンションの窓の外には、東京の灯りがどこまでも広がっていた――。

予算の上限がなければどれだけ良いか思います

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