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ライトブルーファンド~億り人がVTuberでやり過ぎる  作者: 桐谷アキラ
仮面の向こう、託された真実
37/82

第36話 VTuberフェス参戦準備

 ライトブルーファンド運営本部のスケジュール表には、びっしりと今週の予定が並んでいた。


 そんなある朝、窓口に一本のメールが届く。

 発信元は「バーチャルフェス運営委員会」。

 普段なら他のスタッフに任せてしまうような依頼だったが、

「女帝様にも今回はぜひ公式スポンサー枠でご出演を」と特別なリクエストが添えられていた。


 詳細を聞くためにWeb会議を開いたところ 

 画面の向こうで、イベント運営の担当者が少し緊張した声で話す。


「ライトブルーファンド様にはいつも本当にお世話になっております。

 今年のフェスは“業界全体の新しい一歩”として、

 社会的なスポンサーシップやリテラシー企画も大きな目玉でして……。

 是非、女帝様に“スポンサー代表ゲスト”としてお話いただければと思いまして!」


 そのまま詳細資料が送られてきた。

 全国の大手事務所や人気VTuber、IT企業、各種スポンサーが一堂に会する――

 オンライン開催とはいえ、まさに「お祭り」だ。


「やっぱり来たか……」


 と、結衣は苦笑した。


 ライトブルーファンドがスポンサー枠で関わることで、

 彼女のファンドやVTuber活動の「社会的な信頼感」も一層広がる。

 けれどその分、“女帝様”本人が公式アバターで前面に立つ機会も増えていく。


 すぐさま運営スタッフを集めてミーティング。

 広報の蒼井、法務の伊吹、マネジメント担当の柚希――

 それぞれが慣れた手つきで資料を整理し、参加条件やスケジュールの確認を始める。


「今年のフェス、かなり大規模ですね。

 女帝様として登壇依頼がされているのはスポンサー挨拶・未来トーク・クロストークパネル、あと人気V同士の“夢のコラボステージ”に特別出演、ですね」


 蒼井がメモを取りながら確認する。


「SNSキャンペーン枠や抽選プレゼントにもファンドから協賛を――

 あっ、みやびさん・ノアさん・るりさん達も、個別コーナーでご一緒できます!」


 柚希が明るく付け加えると、結衣の顔がふっと和らいだ。


「みやびさん達も参加するなら心強いですね。

 私はスポンサー側なので、裏方モード多めでお願いしたいです」


 スタッフたちが打ち合わせを進める間、

 結衣はアバターの設定を何度も見直す。

 「公式スポンサーイベント」となると、服装も髪型も、普段の“配信よりフォーマル寄り”が求められる。


 (スポンサー枠で前に出るの、本当はちょっと緊張するんだよな……)


 けれど、「業界を支える」ことの責任と、「夢の舞台」に立つワクワクと、両方の気持ちが静かに胸の中で踊っていた。


 夕方にはフェス運営側と公式リハーサルの打ち合わせも設定され、

 イベント日程・台本・技術面の最終確認が進む。


「今年はスポンサーPRコーナーも、すごく“楽しく”作りますので!」


 と主催チームのリーダーが力強く宣言し、社内はどこかお祭り前夜のようなソワソワ感に包まれる。


 帰り際、


「結衣さん、リアルの方の衣装の確認お願いします!」


 とスタッフに呼び止められ、


「えっ、ドレスコード? そんなにかっちりしなくても……」


 と苦笑いしながらも、結衣は静かに頷いた。


 (スポンサーだからこそ、“業界の未来の空気”も背負って立つんだ。

 それなら、しっかり堂々と――自分らしくいこう)


――こうして、バーチャルフェスの幕開けへと、女帝様サイドの準備が静かに始まった。


***

 イベント本番を数日後に控えた昼下がり。

 バーチャルフェスの専用スタジオサーバーには、全国から人気VTuberたちがぞくぞくとログインしていた。


 控室エリアのバーチャル空間は、まるで賑やかな学園祭の楽屋。

 豪華な背景にアバターが行き交い、

 お互いに「お久しぶりです!」「今日も衣装かわいい~!」と声をかけ合う。


 結衣の「女帝様」アバターも、スタッフに導かれて控室スペースに入った。


 すぐに見つけて手を振ってくれたのは、みやび。


「結衣さん!スポンサー枠なのに、いつも通りの安心感だよ~」


 ノアもすぐ横から手を振る。


「今日は運営スタッフも豪華だね。女帝様、マネージャー何人いるんですかって噂されてるよ!」


 るりがふわっと近寄り、


「結衣さん、衣装フォーマル寄りで大人っぽい!

 さすがスポンサー様って感じ~!」


 みやびたちと顔を合わせた瞬間、

 一気に緊張がほぐれていく結衣。


「ありがとう。みんなと同じ会場にいると、やっぱり楽しいな」

「スポンサー枠なんて、逆に緊張するよ。

 一応業界の“顔”ってことになっちゃうし……」


 ノアが肩をすくめる。


「大丈夫、スポンサーなのに一番ファン感出てる女帝様って有名だから!」


 控室の一角では、他事務所のVTuberも自撮りや衣装合わせに忙しそう。

「女帝様がリアルで現れる!?」と大げさに騒ぐ若手組や、

 裏方スタッフ同士の業界トーク、

「これSNS映えしすぎでしょ~」という記念撮影ラッシュまで。


 柚希(マネジメント担当)がひょっこり現れ、


「女帝様、本番台本最終チェックお願いします!

 あと差し入れの“スペシャルエナジードリンク”、皆さんでどうぞ!」


 と、バーチャルの差し入れセットを手渡す。

 みやびが瓶を開けて「うわ、本当に“スポンサーラベル”付きだ!これ、持ち帰っていい?」

と目を輝かせる。


 結衣は思わず笑ってしまう。


「フェスって、やっぱりバーチャルでも現場の空気があるよね。

 みんなで何かを作ってるって感じ、すごく好きだな」


 スタッフが舞台袖から呼びかける。


「女帝様、そろそろリハーサル入ります。みやびさん、ノアさん、るりさんもお願いします」


 舞台エリアに移動すると、

 大型ビジョンには「スポンサーPRコーナー」や「未来トークステージ」のタイトルが躍る。


 ノアが小声で耳打ちする。


「女帝様のPRタイム、ちょっとした“伝説”になりそうだよ。

 今日もバッチリ“投資啓発ワード”入れてくる?」


 結衣は苦笑しながらも、

「今日は控えめに……でも、みんなが前向きになれる話はしたいな」と真剣に答えた。


 リハーサルが進む中、るりがこっそり寄ってきて、


「ねえ、やっぱりスポンサー枠って緊張する?」

「……うん。でも、こうしてみんなが一緒にいてくれるから、心強いよ」


 舞台裏での短い会話、

 控室で交わす何気ない冗談、同じ空間を共有することで生まれる“仲間”の実感。


 そのすべてが、「スポンサー」としてだけでなく、一人のVTuber・配信者としての結衣に、

 また新しい勇気と誇りを与えていた。


 みんなで「本番も楽しもうね!」と笑い合い、リハーサルは無事終了。


 バーチャル会場の控室エリアも少しずつ静けさを取り戻しつつあった。

 画面越しのライトブルーファンド本部にも、スタッフたちのホッとした息づかいが漂う。


 モニターに映る女帝様のアバターは、どこか誇らしげで、

 それでいてほんのり緊張を残した微笑みを浮かべていた。


 みやび、ノア、るり、そして各事務所の仲間たち――

 「スポンサー枠」や「公式ゲスト」という肩書を越えて、同じ“ステージ”で何かを作り上げる仲間たちが、いま確かにここにいる。


 結衣は、控室の賑わいを思い出しながら、

 ふと心の中でつぶやいた。


「みんなが主役になれる一日になるといいな。

 スポンサー枠って、実は一番“支える役”なのかもしれない」


 そんな自分の気持ちが、明日への楽しみと少しの不安を、ふんわり包み込んでいく。


 みやびからも個人チャットで短いメッセージが届いた。


「明日も一緒にがんばろうね!」

「楽しみにしてるよ!」


 バーチャルな会場に広がる煌めきは、現実のどんな夜景よりも鮮やかだった。


 控室の片隅で、結衣はそっと息を整える。


 (スポンサーとして、仲間として、私なりのやり方で――みんなに“夢の続きを”届けたい)


 フェスの本番は、もうすぐそこだ。

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