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ライトブルーファンド~億り人がVTuberでやり過ぎる  作者: 桐谷アキラ
仮面の向こう、託された真実
34/82

第33話 地方ロケ みやびと仲間たち

 オンライン配信のスケジュールは、ふと気づけば「女帝様」と「みやび」のコラボで埋まりつつあった。

 きっかけは何気ないゲーム配信だった。


「結衣さん、今日も解説ありがとう。やっぱり話わかりやすい!」


 みやびは笑顔でそう声をかける。リスナーも「この組み合わせ最高」「またやって!」とコメントが溢れる。


 次は、トークテーマを変えての深夜配信。

 ノア、るり、メルらが加わり、各事務所の垣根を超えた「座談会」企画が続く。


「自分が苦手なジャンルって…やっぱり怖いと思う人多いよね」

「私、正直めっちゃビビりだから、結衣さんが隣にいてくれると安心しちゃう」

「いや、るりちゃん、それ甘えすぎ(笑)」


 メルの茶化しに、場が和む。

 結衣はあくまで笑顔で受け流しつつ、ときどき核心を突くコメントを差し挟む。


 とあるコラボ企画終わり。配信裏の通話では、普段のキャラクターを脱ぎ捨てて素の自分に戻った声が響く。


「…ねえ結衣さん、この前話してた、このメンバーでのロケみたいな企画やるとしたら、どんな感じになるのかな」


 みやびがふと切り出す。


「VTuberって、普通はそういうの全部自腹なんだよ。機材も交通費も…正直、経費だけで胃が痛くなるときある(笑)」

「ライトブルーファンド案件として、そのへんは全部私が出せるので安心していいよ。実際、今回の企画は“経済教育と地域創生”で、むしろ本気で“投資”する場面だから」


 結衣は柔らかく、しかしブレない口調で答える。


「うれしいけど…やっぱりちょっと申し訳ない気持ちもあるな。私も業界トップ勢で稼いでると思うのに、結衣さんにそこまでしてもらって…」

「みやびさんが案件で最高のパフォーマンスをしてくれること、それ自体が投資効果だよ。仲間の挑戦にお金を出すのは、信頼へのリターンでもあるんだから」

「結衣さんって、ほんとに“女帝様”だよね。なんか、私の尺度じゃ測れないや」


 みやびは少し照れたように笑い、


「でも…ありがたく甘えちゃいます!」


 そう言って、場の空気が明るくなる。


 ノアがすかさず「じゃあ、ロケは私が段取り担当するから!現地交渉も任せて」

 るりは「グルメ取材パートやりたい~!」と無邪気に手を挙げ、

 灯は「全体の進行と台本まとめは私が仕切るね」とまとめ役に回る。

 結衣はスタッフに各メンバーのサポートをして連絡先を共有する。


「みんなで現地行ったら楽しそうだね」


 しずくが癒し系の微笑みでつぶやき、和やかな雰囲気に。


 配信が終わるころには、


「私たちの“次の一歩”って、すごいことになるかも」


 そんな高揚感と、どこか心地よい緊張感が仲間の間に生まれていた。


 彼女たちの友情と信頼は、バーチャルの壁を超えて現実に広がりつつあった。

 そして、それはやがて地方を舞台にした本格的なコラボ――

 結衣にしか作れない「資本と夢の現場」へと繋がっていく。


***


 地方都市――澄んだ空気と、まだ残る山桜の花びらが舞う、静かな駅前広場。

 朝早くから集まったのは、みやび、ノア、るり、メル、灯、しずくの六人。みんなバーチャルではおなじみの顔ぶれだが、今日は“本当に”同じ場所に立っている。


 スーツケースや大きな機材バッグを抱え、みやびは周囲を見回す。

 ノアが大きく伸びをして「集合写真、あとで撮ろうね!」と笑う。


「いつもは画面の向こうの皆が、今日は一緒にいるって……ちょっと不思議」

「えへへ、私、実はロケ初めてかも……。こうやってみんなで移動するのって、遠足みたいだね」


 と小声でるりがつぶやく。


「メル、スーツケースでかくない? 何入ってるの?」

「いやー、衣装と小道具でパンパン。みやびちゃん、グルメレポ頼むからね!」


 みんなのやりとりが自然と弾む。


 灯が全体を見渡し、


「結衣さんはアバターでビデオ通話だったよね」

「うん、現場中継みたいに繋ぐって。さっきから待機してくれてるって連絡きてた」


 改札を出てすぐのカフェ。

 タブレット端末の画面には「女帝様」――青髪ショートボブのアバターが、笑みを浮かべて待っていた。


「皆さん、お疲れさまです。長旅、本当にお疲れ様」


 モニター越しの結衣の声は、アバター特有の加工をかけつつも、どこか柔らかく温かい。

 みやびは画面に向かって手を振る。


「結衣さん、今日は遠隔だけど一緒にロケ頑張ろうね!」

「もちろん。現地のみんなに任せる部分が多いけど、何かあればすぐ連絡して。

 ライトブルーホールディングスが全力でサポートしますから」


 ノアはマイク付きのピンバッジを確認しつつ、


「こういう形で地方回るの、業界でもすごく珍しいよね。

 正直、ここまで手厚いサポートは初めて。――結衣さん、すごいよ」


 アバターの結衣が少しだけ照れたように微笑む。


「大事な現地案件ですから。皆さんを信じて任せます。

みやびさん、今日の主役よろしくね」


 みやびは小さく頷いた。


 駅前から歩いて5分ほどの古い商店街。

 このまちのロケ地は「地域の魅力再発見」をコンセプトに選ばれた。

 昔ながらの和菓子屋や、洒落たカフェ、空き家リノベ施設――

 歩きながら、配信用のカメラがみんなを追う。


 灯が進行表を片手に声をかける。


「次のパートはしずくちゃんのグルメレポート。るりちゃんは商店街のお店取材。ノアとメルは“体験”系コーナーね」

「みやびさん、どこ行きたい?」

「うーん、あの古い銭湯とかどうかな?女将さんと話してみたい」

「OK!そしたら、結衣さん、現地の資料まとめお願いできます?」

「すぐ用意します。女将さんにも事前に連絡済みです。

 ――皆さん、遠慮せず楽しんでくださいね。今回の経費も全部プロジェクト負担。遠慮は無用です」


 みやびは、どこか複雑な表情で画面を見る。


「……ありがたいけど、本当にいいのかな。結衣さん、私たちのためにここまでしてもらって」


 結衣は優しく微笑む。


「必要経費って言ったでしょ。

 みやびさん達が全力を出せることで次に繋げる、それがプロジェクトの価値ですから」


 ノアが「かっこよ!」とちゃかして、みんなで笑う。


 数時間後。

 各パートの収録が終わり、みやびたちは現地の公園で軽くランチタイム。

 遠隔で結衣も交えて、反省会を兼ねた作戦会議となる。


「ねえ、今日の配信、どこが一番“推し”だった?」

「しずくちゃんの食レポ、最高だった!」

「るりのイラスト企画、地元の子どもたちも喜んでた」

「ノアの街歩き、まじでプロリポーター!」


 みんなの話題が尽きない。


 ふと、みやびが画面越しの結衣にそっと言う。


「結衣さん、今日は本当にありがとう。


 私は現地で走り回るだけだけど、こうやってサポートしてくれる人がいるから頑張れるんだなって……。

 経費も、本当にありがたい。でもそれ以上に、結衣さんの“信じて任せてくれる感じ”、すごく心強いよ」


 結衣は少しだけ言葉に詰まり、


「……現実の私はこういう場面でなかなか外に出られない。だからこそ、信頼できる仲間に動いてもらうのはすごく大事なんです」

「私、もっと頑張ろうって思う!

だって結衣さんが“私たちなら大丈夫”って信じてくれてるんだもん」


 画面の向こうの結衣が、静かに、嬉しそうに頷いた。


 これから各自のパートや夜の座談会配信も待っている。

 それぞれがバーチャルとリアルの“壁”を越え、

 友情とプロの誇り、そして資本と夢の可能性を胸に、

 新たな一歩を踏み出していく――。

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