第15話 千の扉、その先へ――バーチャル宮殿、夢の群像
バーチャル宮殿の配信で発表された「#ライトブルー宮殿」一般開放――
その速報は、瞬く間にネット中を駆け巡った。
”推しとあの空間で遊べる?”
”一般人でも参加できるの?”
”これは“時代の転換点”では?”
SNSはお祭り騒ぎ、ニュースサイトも速報を打ち、Vtuber業界やオタク界隈はざわめきっぱなし。
けれど、その詳細はまだ誰も知らない。”抽選?どこから申し込む?””3Dモデルが要る?”
――期待と混乱が渦巻く数日が流れた。
***
そして、ついにライトブルー宮殿の公式アカウントが“重大告知”をリリースしたのは、そんな熱狂がピークを迎えたころだった。
《【重大告知】
「#ライトブルー宮殿」バーチャルワールド
一般参加者(抽選1000名)は、髪型や衣装、アクセサリーまで多彩にカスタム可能な“汎用3Dモデル”を無償レンタル!
Vtuber活動者(個人・法人問わず)は、活動実績を審査のうえ、既存3Dモデル持ち込みOK。
Live2Dしか持たない方には、宮殿内限定の専用3Dモデル(機能・衣装一部制限あり)も特別貸与――
個人・法人・活動規模問わず、基本無料。》
“夢の舞台”が本当に誰にでも開かれる――その知らせが広がった朝、ネットも現場も爆発した。
”これ……一般人なのに、アバターのカスタム項目多すぎて意味わからん!”
”組み合わせパターン、何百通りどころじゃないよ”
”デフォルトなのにクオリティ高すぎ”
”汎用3Dモデルって名乗ってるのに“推しの顔”作れちゃいそう”
SNSには、当選した一般参加者たちの驚きと歓喜の声があふれた。
”初めて自分の分身作ったけど、これ自画像より盛れてる!”
”一般枠でここまで自由に遊べるとか、サービス精神エグい”
”家族分のカスタムパターンを並べて自慢したら、TLが“うちの子自慢大会”みたいになってて草”
一方、Vtuber活動者側は緊張と期待と騒然。
”モデル持ち込み申請、通ったぞ!”
”Live2Dしかなかったけど、3Dデビューきた!”
”女帝様、界隈の壁ごとぶっ壊しにきてない?”
大手事務所のマネージャーは「業界水準を一気に底上げされた」と頭を抱え、
個人勢や新人Vは「資本主義の暴力、ありがたく受け取ります!」と、現実味のないお祭り気分に包まれていた。
一方で、”自作3Dモデルは不可らしい” ”宮殿限定3Dのカスタム自由度、今までの無料配布を余裕で超えてる”といった噂話も次々に流れ、”これ、他界隈より圧倒的じゃない?”という声も広がった。
***
その裏側で、技術・開発界隈も動き始める。
”一般向けモデルでこの自由度、普通のオンラインサービスじゃ絶対やらない”
”同時接続と通信量、どんな仕組みだこれ”
”物理演算、限界突破してない?”
”裏でスパコン回してる説”
”最低でもエクサ級リソース使ってるに違いない”
と、都市伝説めいたツイートも瞬く間に拡散。
海外フォーラムでは「日本発・非公式で世界最大級メタバースイベント開幕!」と話題になり、現場ギークは「普通にやったらランニングコスト億単位」「商用でここまでやるとか正気か」と半分呆れていた。
さらには一部大手IT企業で、「社内の協力会社リストに自社の名が……これ何担当してたんだ!?」と担当者が慌てて確認に走る場面も。
***
新しい“夢の舞台”の門が開いた朝――
一般もプロも、業界も技術者も、「これが資本と技術の本気か」と、誰もが半信半疑で驚きながら、
けれど確かに“新しい物語の始まり”を感じていた。
街もメディアも、何か新しい“時代のドア”が開いたような浮き足立ち方をしていた。
その夜、ゴールデン帯の特番が「女帝ファンドの宮殿革命」を大々的に取り上げた。
普段は経済面の隅で語られる“女帝様”が、バラエティのMCや人気俳優たちに囲まれている。
「これ、芸能界にも新しい嵐が来てますよ!」
ゲストの芸人が興奮気味にコメントすれば、女優は「私もアバターで宮殿に出てみたい」と目を輝かせる。
視聴者のSNSには「女帝ファンドがゴールデンジャック」「Vtuberと芸能人が同じ土俵に!?」のタグが並ぶ。
芸能事務所も慌ただしい。
「V部門の社内会議、急遽開催!」「女帝案件で出遅れるな!」
廊下では、バーチャル専属の新チームを立ち上げたばかりの広報とマネージャーが
「うちのタレントにも“宮殿デビュー”組が増えるかも」と資料作りに追われていた。
テレビ局や広告代理店も色めき立つ。
スポンサーを説得する営業、従来のTV広告からバーチャル内PRに一気に予算をシフトする部署、
「次のCMは宮殿で!」
「新しい番組作るより“女帝案件まとめ資料”がページ数伸びてる」
アイドルやタレントたちはSNSで「#宮殿デビュー宣言」を次々投稿、バーチャル空間で新しいファン層を一気に獲得し始める。
アナログ色の強い伝統芸能界にも波が伝わる。
「舞台俳優の自分でもバーチャル出演できるのか?」
「演歌歌手だけど、宮殿で歌ってみたいわ」
年齢もジャンルも問わず、「新しい時代」の空気に胸を高鳴らせている。
***
そして、経済界・マーケティング業界も大騒ぎだ。
「仮想経済圏誕生!」と日経・WSJなどの経済紙が大見出しで特集。
「宮殿内の不動産転売」「仮想アイテムの市場価格」「投資ファンド新商機」
証券会社は「仮想土地・仮想通貨連動証券」の新商品開発会議を緊急開催。
会計士・税理士は「バーチャル宮殿での取引、帳簿にどう記載する?」「税務署に聞いたら逆に“解説してくれ”と言われた」
とお手上げ気味。
広告代理店も戦々恐々。
「TV広告枠よりも、宮殿内“ネイティブ広告”の方が反応いいらしい」「うちのクライアント、全員バーチャル内CM希望になった」
マーケティングのスタートアップ勢は「宮殿マーケ専用ツール開発チーム」立ち上げで即日求人、PR界隈も「推し活経済」がリアルを超える瞬間だと分析しつつ、「毎月開催される“女帝案件研究会”」があっという間に定員オーバー。
「宮殿で会社説明会やってみた」「商談ブースをバーチャルに移転」
企業広報の現場からも、「とにかくスピード勝負」と悲鳴と笑いが混じる。
***
一方、社会学や教育界も静かな熱を帯びていた。
「資本が夢の平等を演出するのは、果たして正義なのか?」
TV討論で社会学者が問いを投げかけると、
「巨大プラットフォームが全部を握ると、多様性が失われかねない」
「でも、今まで届かなかった層まで“夢”が行き渡るメリットもある」
と、賛否が入り混じる。
教育界からは絶賛の嵐。
「歴史や科学もバーチャル体験できる時代」「授業や校外学習を宮殿で開催したい」
小学校の先生が「アバターで出席する日が本当に来た」と驚き、教育系Vtuberは「生徒が自分の分身で学び合う空間がついに実現」と感涙気味に配信。
その裏で「自治体・学校から“教育連携”の相談が殺到してます」と運営はてんてこ舞い。
しかし、心配の声も消えない。
「バーチャル不登校問題」「プラットフォーム依存で教育格差が再燃するのでは」
新しい平等が、逆に新しい格差の火種になる――そんな論点もSNSをにぎわせていた。
***
夜になると、SNSのタイムラインには「#バーチャル会場レポ」「#宮殿経済圏」「#新しい学び」など新しいトレンドが生まれていく。
「母校がバーチャルで全校集会やるって!」「新人アイドルが宮殿でデビューライブ」「仮想土地の転売話でもうけた人が出たらしい」
みんなが半分冗談、半分本気で「現実よりバーチャルがリアル」だと語り合う。
けれど、どの界隈でも共通していたのは――
“時代が一気に動く音”を、みんなが息を呑んで聞いている、そんな新しい夜明けだった。
***
運良く抽選を引き当てた幸運な1000人はログインした瞬間、想像していた以上のクオリティに驚愕した。
バーチャル宮殿――。
これまでにも「同じ空間に立てる」サービスは確かに存在したけれど、この夜の“圧倒的な臨場感”には、誰もが心底驚かされていた。
”なあ、俺のVRグラス、安物なのに普通に動いてるんだけど!?”
”スマホ直差し型なのに“宮殿”だけはやたらスムーズ!なんで?”
”本当に同じ舞台に立ててる。手を伸ばしたら推しのドレスの裾が揺れるのが見えるとか、ヤバすぎ”
と、TLには感動と困惑と、ちょっとした不安の入り混じった声が絶え間なく溢れていた。
”3Dチャットだってそれなりに感動したけど、これは桁違い”
”家のWi-Fiでこんなに滑らかに動いてるんだけど”
”多分うちのグラス、壊れちゃったこんにちわ異世界”
誰もが最初は“現実の延長”を想像していたのに、その体験は思っていたよりもずっと遠く、そしてずっと鮮やかな“夢”として現れた。
親子で参加した一般ファンが、「お母さんのグラスも映ったよ!」「二人でバーチャル舞踏会デビュー」
弱小Vtuberは、「俺のノートパソコンで普通に“同じ時空”に立てるって、どんな魔法?」
新規ファンやライト層ほど「自分の生活がバーチャルに溶け込んでいく違和感と快感」にうろたえていた。
そして、みんながSNSでつぶやく。
”正直ここまでだとは思わなかった、なんかARと勘違いしそう”
”これは現実じゃなくてファンタジー”
***
一方で、熱狂の裏には冷静な懸念や論争も渦巻いていた。
”資本の力がなきゃ、この世界は絶対実現しない”
”こんなの、もはや夢をお金で買う時代?”
小さなプラットフォーム運営や古参Vtuberたちの「独占論争」は朝まで続き、
”多様性が消えちゃうのはやだな”
”小さな夢も守れる仕組み作ってくれ”
といった声も絶えなかった。
女帝ファンドは「誰でも主役になれる“場”を守る」と何度も発信し、FAQやポリシーを即日で更新。
それでも“桁違いの現実離れ”が新たな光と影を生み出していくのは、新しい時代の宿命なのかもしれない。
***
夜明け、南野結衣は静かな部屋の片隅で、
無数のユーザーや配信者、批判者や夢見る者たちの声に耳を澄ませていた。
“俺のグラスでも宮殿動いた”
“現実より夢がリアルだった”
そんな、ほんの数年前なら信じられないつぶやきの波。
社会が大きくうねる音を、誰より静かに見つめている。
(これが、“現実を変えるインフラ”の重み――
本気の遊び心が、資本と技術の力を借りて、とうとう“世界の法則”まで、ちょっとだけ飛び越えてしまったみたいだ)
――ちなみに、「安物VRグラスでバーチャル宮殿がサクサク動く」
ここは、さすがにちょっとファンタジーです、できたらいいなを詰め込んでみました。
VTuberさんの環境だけでも歩き回れる床デバイスとかも考えたんですが煩雑だったので尺の都合であきらめました