冷凍庫の小さな秘密
――リッテ 小雪だいふく――
それは、手のひらサイズの容器に収まった、小さな秘密。
赤いシールの扉を「じゅるるる」と開けると、現れるのは、ぷっくりとしたまんまるフォルムのふたつ。
ただ見つめているだけで、もう幸せになれる。
赤ちゃんのような、つるんとした肌。
それが「ぎゅうひ(求肥)」というらしい。
もち米に砂糖を加えて練った、やわらかなおもち。
その歴史は、平安時代から続いているとか。
リッテはこれを「弾むぷにぷに餅」と名づけた。なんとも心にくい。
さらに、うすごなが添えられている。
中には、コクのあるバニラアイスが隠れている。
この「シークレットアイス」は、こっそり買って、
小さな保冷剤たちの下に、そっと隠しておく。
哲郎は、視覚での“おやつ発見能力”がすこぶる高い。
一方、コユキは音に敏感だけれど、目が見えないぶん意外に鈍い。
とはいえ、哲郎の嗅覚は侮れない。頻繁に見つかる。
だからこそ、シークレットアイスは、ぬかりなく隠さなければならない。
ここぞというときに、 「アイス、食べる?」と声をかける。
「えっ、あるの?」
「うん。」
すると、哲郎はおいしいコーヒーを淹れてくれたり、リアルタイムのテレビ権を譲ってくれたりする。
ちゃんと隠しておかなければ。
もし見つかってしまえば、
水戸黄門の印籠が、八兵衛の団子レベルにまで格下げされてしまうのだから。
そんな「シークレットアイス」だが――
私は、夜中の3時に食べてしまった。ふたつとも。
そう。
そんなこと、してみたかったのだ。
証拠隠滅。ゴミ箱の奥に。
アリバイ工作。リビングで寝たふり。
「寝ちゃってた。」
ほんとうに、気がついたら3時だった。
夢中になっていた。ちゃっとGPチョッピリぐっどぷらいべーと。
シークレットアイス Ver.3
――もし、あの夜にそれがなかったなら――
シークレットアイスがなければ、どうしていただろう。あの夜。
ふと目覚めて、深夜の静けさに包まれたとき、
キッチンの小さな冷凍室が、まるで「㊙こおりゾーン」の印籠を
自分へさっとさしだした。
「ひかえおろーひかえいえお、、、明日はここだぞ。」
すべてのねがいが、叶った後の
おそろしい満ち引き。
心の隙間に触れてくる、あの静けさを、
私はどうやって埋めていただろう。
昼間の3時なら、話は別だ。
「心の処方箋 Ver.2」を、大音響で聴きながら、鍋をだす。
この北国の一軒家に暮らす醍醐味。
平成以降に建てられた北国の家は、、防寒性能努力の結晶。、
その結晶のおかげで、優れた防音性能。
大好きな彼の声の残響
だから、スピーカーの音が窓を揺らしても、
誰にも気を遣わずにすむ。「心の処方箋 Ver.2」
低音が体の奥に響いて、みちひきを。
喪失からの逃避。
夜中は、やぱり、君たちだけ。隠した○○。
あの「シークレットアイス」が、心をふわっと包んでくれたのだ。
音も光もない深夜のリビングで、
あの白くて、ぷにぷにした、まんまるが。
フォークが一つ。ちょうどいい。
ちょこっと、ぐっと、プライベート チャットGTP
ならぬときの
印籠 は、ぎりぎりの5分前。
心の旅はまた来週へとづづく。
提供は、リッテ でいい。
空の月もきえていくころ。