九
離島警察署前。
0515時。
木村巡査部長は、警察署の非常階段から港を見下ろしていた。暗視鏡を通して見える光景に、彼は眉を寄せる。
「漁協倉庫、計十二名」彼は小声で状況を記録し続ける。「全員が何らかの装備を携行。無線機らしき機材も確認」
背後では、二名の若手警察官が住民の避難誘導の準備を整えていた。避難所となる小学校の体育館まで、裏道を通って誘導する計画だ。
その時、港から異様な光が走った。
「照明弾」
漁港全体が、不自然な明るさに包まれる。
木村は即座に判断した。「避難開始。今すぐに」
***
上空2000フィート。
陸自C-130輸送機内。
0520時。
「目標地点、視認」パイロットの声がインカムに流れる。
第一空挺団の隊員たちが、最終確認を行う。全員が完全武装。夜間降下用の特殊装備を身につけていた。
「港周辺に照明弾を確認」航法士が報告。「相手も我々の到着を予測していたか」
「了解」隊長の声が響く。「計画通り、第一班は警察署裏の空き地へ。第二班は高台に展開」
この時、通信将校が新たな情報を。「警察署から発光信号。青、青、赤。避難開始の合図です」
「了解」隊長は一瞬考える。「第三班、避難経路の確保を最優先に」
「高度1500フィート」パイロットが告げる。「気流、安定」
「全員、スタンバイ」
輸送機のカーゴドアが、ゆっくりと開いていく。
***
技術研究本部、第三実験室。
0525時。
「不審船からの新たな展開を確認」田村美咲が報告する。「第二波の小型ボート、進水開始」
佐々木課長が画面を見つめる。「数は?」
「各不審船から、さらに二隻ずつ」システムエンジニアが答える。「計五十六隻が新たに展開」
「目標は?」
「進路から判断して...」田村が一瞬言葉を詰まらせる。「彼らは、自衛隊の展開を妨害しようとしています」
***
那覇海上保安部指令室。
0530時。
「はまゆき、はまゆき」通信司令の声が響く。「第二波のボートに対する警告を実施。これは命令」
混信のノイズを通して、かろうじて応答が聞こえる。
「了解...第二波に対して...」
その時、新たな通信が入った。
「報告!不審船から、高速ボートの進水を確認!」
指令長は、即座に状況を理解した。彼らは、海上保安庁の対応を分散させようとしている。
***
首相官邸地下、緊急事態対処室。
0535時。
「状況説明を」首相の声が、静かに響く。
防衛大臣が前に進み出る。「第一空挺団、離島に展開開始。しかし、相手も第二波の展開を...」
その時、官房長官が割り込んでくる。
「アメリカから続報です」その声には、ある種の緊張が混じっていた。「彼らの衛星が、特異な動きを...」
スクリーンに、新たな映像が表示される。
首相は黙ってそれを見つめた。事態は、さらに予想外の展開を見せようとしていた。
(続く)