七
# 静かな海上自衛隊第一護衛隊群司令部。
0400時。
「海上警備行動、発令」
通信機を通じて伝えられる命令に、護衛隊群司令の山下大佐は即座に対応を開始した。
「第二護衛隊、前方展開」山下の声は冷静そのものだった。「第三護衛隊は那覇方面へ。速力28ノット」
作戦室の大型スクリーンには、既に展開を開始している護衛艦の位置が表示されている。海上保安庁の巡視船位置も、リアルタイムで共有されていた。
***
技術研究本部、第三実験室。
0420時。
「海底装置からの信号、変化あり」田村美咲が報告する。「通常の観測データに加えて、艦船の動静に関する詳細な情報を送信中」
佐々木課長が画面を見つめる。「送信先は?」
「追跡を試みていますが...」田村の指が素早くキーボードを叩く。「水中音響通信を使用しているため、直接の受信先の特定は困難です」
その時、システムエンジニアが緊急の報告を入れた。
「不審船の一部が、コンテナらしき物体を甲板に展開」
監視カメラの映像が切り替わる。不審船の甲板上で、作業員たちが何かの装置を設置している。
「あれは...」田村が画面に食い込むように見る。「電子戦装置の可能性が...」
警報音が鳴り響く。
***
巡視船「はまゆき」艦橋。
0425時。
「通信に異常あり」通信士が報告する。「妨害電波を確認。発信源は...不審船の位置と一致」
山本当直司令は状況を素早く判断する。「予備通信システムに切り替え」
「了解。しかし...」通信士が続ける。「妨害の強度が増加中。複数の周波数帯で...」
古賀航海士が新たな報告を入れる。「小型ボートの一部が、離島の高台方向へ進路を変更。何らかの機材を携行しています」
山本は状況を即座に理解した。彼らは通信妨害の中継点を確保しようとしているのだ。
***
首相官邸地下、緊急事態対処室。
0430時。
「状況報告を」
防衛大臣が前に進み出る。「不審船による組織的な電子戦が展開されています。艦船間通信、離島との通信に対する妨害が始まりました」
「具体的に」
「不審船に搭載された電子戦装置、および離島周辺への中継装置の展開を確認。海底装置は我々の動きを監視し、その情報を水中通信で送信している模様です」
官房長官が資料に目を落とす。「目的は?」
「離島の孤立化です」安全保障局長が答える。「通信を遮断し、我々の対応を遅らせることで...」
突然、新たな報告が入る。
「警察無線も妨害を受け始めました。離島の警察署との通信が...」
首相の表情が険しくなる。事態は、想定以上に組織的な展開を見せ始めていた。
(続く)